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【1】②

ー/ー



 健は決して学校でも孤立しているわけではなかった。

 通い始めた小学校には、幼稚園から一緒のメンバーも含めて親しい友人もきちんといる。
 日々繰り返される「みんな仲良くしましょうね」という教師の言葉通り、クラスメイトとは楽しい日々を送っていた。
 勉強も、心配していたほど大変ではない。
 クラスには授業中じっと座っていること自体が苦痛だという友人もいたようだが、健は幼稚園でも座学の時間はあったので特に困りはしなかった。

 ただ、入学後しばらくの集団下校期間が終わると、学校を一斉に出たとしても曲がり角を経るごとに仲間は少しずつ減って行く。
 それが寂しいわけではないが、帰宅後に遊ぼうにもクラスメイトには習い事をしているものも多く時間の都合がつかなかった。
 学区はたいして広くないにも拘らず、少子化の影響もあってか健の家のすぐ近くに同学年の子どもはいない。
 ご時勢なのか、自宅に他所の子どもを呼ぶのを嫌がる家庭も珍しくなかった。

 健は校外で遊ぶとしたら近所の上級生や未就学児になってしまうため、遊ぶというより「遊んでもらう」「遊んであげる」形になりがちだった。

 そこへ現れた、みゆき。
 彼女は自分のことを話さないので、実際に同じ一年生かは不明だ。しかし、健は同級生と何ら変わらず気軽にみゆきと遊ぶことができた。
 初めて顔を合わせた際、「女とふたりになんか」と自ら口にしたことさえ意識にも上らない。
 驚くほど自然に打ち解けて夢中で彼女と遊んでいる自分にも、健は気づいていなかった。

「あ、たける」
 学校帰り、ちょうど健が一人になったタイミングで待ち構えていたみゆきにも、もう驚くことはなかった。
 おそらくは、と予想していた通りに姿を見せた彼女にむしろ安心さえする。

「わたしのこと思い出した?」
「ううん、知らないって」
 同じ会話。
 健の返事に頷きはするものの、みゆきが何事もなかったかのように話題を変えるのも、白い服もまた、同じ。

「ね、たける。こうえん行こう」
「いいよ」
 これも同じく、昨日遊んだ公園に連れ立って向かう。

「たける、ブランコのろうよ」
 このこぢんまりとした児童公園には、遊具と呼べるものは二連のブランコと滑り台に四角い砂場位のものだった。
 砂場遊びは子どもっぽ過ぎる気がするし、道具もない。滑り台も、幼稚園児やそれ以下の幼児専用というイメージが強かった。
 それに比べればブランコは、たまに大人が休憩がてらか腰掛けているのを目にすることもあり、小学生の自分でも大丈夫、と思えたのだ。

「二つあるから、きょうはどっちが高くこげるかきょうそうしようよ!」
 健の提案に、彼女はふと視線を落とした。

「……やだ。となりどうしじゃいっしょに遊んでないもん。きのうみたいにいっしょがいい。じゅんばんに背中おすの」
「えー? そうかなぁ、きょうそうだって、──まぁいいや」
 静かな声だがはっきりと主張するみゆきに結局は折れて、健は先にブランコに座った彼女の背後に回った。

    ◇  ◇  ◇
「たけちゃん、最近ちょっとゆっくりね。お友達と遊んでるの?」
 帰宅した健を迎えた母に訊かれ、咄嗟にどう答えていいか迷ってしまった。

「……うん。公園、でね、ブランコとかぁ」
 嘘は吐きたくない。
 両親にも学校でも「嘘だけはだめだ」と教えられているし、健自身が友人に嘘を吐かれて嫌な思いをした経験もある。
 しかしみゆきのことはなぜか話す気にはなれなかった。
 もし相手を問われたらどうしよう、と内心動揺した健に、母はそれ以上何を言うでもなかった。

「ブランコ? いいわね、楽しそう。たけちゃん、小学校でお友達いっぱいできたんでしょ? よかったわ」
 詮索ではなく、ただ健の友人関係を気にしていただけなのだろう。
 母の笑顔に、とりあえず胸を撫で下ろす。

「うん。ママ、ぼくごはんのまえにしゅくだいするから」
「あら、えらいわ。ママがなにも言わなくても自分でちゃんとできるのね」
 感心しながらリビングルームへ戻って行く母を見送り、健は玄関を上がってすぐの自室に入った。



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 健は決して学校でも孤立しているわけではなかった。
 通い始めた小学校には、幼稚園から一緒のメンバーも含めて親しい友人もきちんといる。
 日々繰り返される「みんな仲良くしましょうね」という教師の言葉通り、クラスメイトとは楽しい日々を送っていた。
 勉強も、心配していたほど大変ではない。
 クラスには授業中じっと座っていること自体が苦痛だという友人もいたようだが、健は幼稚園でも座学の時間はあったので特に困りはしなかった。
 ただ、入学後しばらくの集団下校期間が終わると、学校を一斉に出たとしても曲がり角を経るごとに仲間は少しずつ減って行く。
 それが寂しいわけではないが、帰宅後に遊ぼうにもクラスメイトには習い事をしているものも多く時間の都合がつかなかった。
 学区はたいして広くないにも拘らず、少子化の影響もあってか健の家のすぐ近くに同学年の子どもはいない。
 ご時勢なのか、自宅に他所の子どもを呼ぶのを嫌がる家庭も珍しくなかった。
 健は校外で遊ぶとしたら近所の上級生や未就学児になってしまうため、遊ぶというより「遊んでもらう」「遊んであげる」形になりがちだった。
 そこへ現れた、みゆき。
 彼女は自分のことを話さないので、実際に同じ一年生かは不明だ。しかし、健は同級生と何ら変わらず気軽にみゆきと遊ぶことができた。
 初めて顔を合わせた際、「女とふたりになんか」と自ら口にしたことさえ意識にも上らない。
 驚くほど自然に打ち解けて夢中で彼女と遊んでいる自分にも、健は気づいていなかった。
「あ、たける」
 学校帰り、ちょうど健が一人になったタイミングで待ち構えていたみゆきにも、もう驚くことはなかった。
 おそらくは、と予想していた通りに姿を見せた彼女にむしろ安心さえする。
「わたしのこと思い出した?」
「ううん、知らないって」
 同じ会話。
 健の返事に頷きはするものの、みゆきが何事もなかったかのように話題を変えるのも、白い服もまた、同じ。
「ね、たける。こうえん行こう」
「いいよ」
 これも同じく、昨日遊んだ公園に連れ立って向かう。
「たける、ブランコのろうよ」
 このこぢんまりとした児童公園には、遊具と呼べるものは二連のブランコと滑り台に四角い砂場位のものだった。
 砂場遊びは子どもっぽ過ぎる気がするし、道具もない。滑り台も、幼稚園児やそれ以下の幼児専用というイメージが強かった。
 それに比べればブランコは、たまに大人が休憩がてらか腰掛けているのを目にすることもあり、《《もう》》小学生の自分でも大丈夫、と思えたのだ。
「二つあるから、きょうはどっちが高くこげるかきょうそうしようよ!」
 健の提案に、彼女はふと視線を落とした。
「……やだ。となりどうしじゃいっしょに遊んでないもん。きのうみたいにいっしょがいい。じゅんばんに背中おすの」
「えー? そうかなぁ、きょうそうだって、──まぁいいや」
 静かな声だがはっきりと主張するみゆきに結局は折れて、健は先にブランコに座った彼女の背後に回った。
    ◇  ◇  ◇
「たけちゃん、最近ちょっとゆっくりね。お友達と遊んでるの?」
 帰宅した健を迎えた母に訊かれ、咄嗟にどう答えていいか迷ってしまった。
「……うん。公園、でね、ブランコとかぁ」
 嘘は吐きたくない。
 両親にも学校でも「嘘だけはだめだ」と教えられているし、健自身が友人に嘘を吐かれて嫌な思いをした経験もある。
 しかしみゆきのことはなぜか話す気にはなれなかった。
 もし相手を問われたらどうしよう、と内心動揺した健に、母はそれ以上何を言うでもなかった。
「ブランコ? いいわね、楽しそう。たけちゃん、小学校でお友達いっぱいできたんでしょ? よかったわ」
 詮索ではなく、ただ健の友人関係を気にしていただけなのだろう。
 母の笑顔に、とりあえず胸を撫で下ろす。
「うん。ママ、ぼくごはんのまえにしゅくだいするから」
「あら、えらいわ。ママがなにも言わなくても自分でちゃんとできるのね」
 感心しながらリビングルームへ戻って行く母を見送り、健は玄関を上がってすぐの自室に入った。