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【Daddy~圭亮~】②

ー/ー



「圭亮! 子ども、って」
「お、俺にもまだよくわからないんだよ。今日子、あ、以前に付き合ってた人が、俺の子がいるって手紙くれて、行ってみたら今日子は死んでて、この子、が」
 病室の小さなベッド。点滴の管に繋がれて、天井を見つめて横たわっている
 意識はあるものの、彼女はまったく言葉を発することはない。目線さえ寄越さない。まるで、生きている人形の如く。
 圭亮は、自分の隣に立ってベッドの少女を覗き込んでいた母に腕を引かれた。何も考えられずに抵抗する気も起きないまま、狭い個室の隅に連れて行かれる。

「圭亮。今こんなこと言うのは、ちょっとそのあれなんだけど。……亡くなった方、を疑うわけじゃないけど、本当にあなたの子かどうかわからないでしょう。その、ディーなんたら鑑定? とかいうのやった方が──」
「母さん! 止めてくれよ、真理愛に聞こえる!」
 良枝の台詞に、圭亮は思わず反論していた。
 己の中に確かにあった疑惑を、母によって白日の下に晒された後ろめたさを無意識に誤魔化すかのように。
 ハッとしたように口を噤む母に、まるで理不尽な八つ当たりをした気分になる。

「圭亮、お母さん。この子、誰かに似てないか?」
 一人ベッドの横に残っていた父の政男の、場違いなくらい落ち着いた声に、母子は毒気を抜かれたようにそちらに顔を向けた。

「お父さん、いったい何なの? 圭亮、場所を考えなかったのはお母さんが悪かったわ、でも」
 おろおろしている母から離れ、圭亮はベッドの脇に戻って来た。

「何だって? 父さん」
「だからこの子の顔。よく見てみろ」
「顔、って──」
 まったく動かない、生気のない瞳。ぱっちりと見開かれた、大きな……。
 
「かあさ、ん?」
「……何? 圭亮」
「ち、がう。この子、……真理愛。母さんに、似てる」
 圭亮の絞り出すような声に、良枝は半信半疑の様子でフラフラと歩いて来た。

「何を言ってるの? 似てるって、どこが?」
「ああ、自分ではわからないものなのか。……目元がそっくりだ。ほら、この瞼とか。圭亮はお前とは似てないのに、不思議なもんだな」
 政男の言葉通り、くっきり刻み付けたような特徴的な二重瞼は、良枝から受け継いだものだと一目でわかる。

「俺、小さい頃から母さんに似てない似てないって言われたもんなぁ。親戚にも『お母さんは目が大きくてえらい別嬪(べっぴん)さんなのに、圭ちゃんはお父さんに似たねえ』なんてよく揶揄われてさ。父さんも俺も二重だけど、母さんのは特別凄いよね」
「私は嫌だったのよ、こんな目。田舎だったから変に目立ったし。……でも、本当にそう、なの? 私に?」
 圭亮は、母方の親族とは一人を除いて没交渉だ。母の弟にあたる叔父以外、存在さえ知らされたことはなかった。
 子ども心にも美しいと感じていた母。母に似た顔立ちの叔父。二人は、母が二十歳そこそこの頃に田舎から逃げるように東京に出て来たらしい。
 今の反応でも自明の通り、母は己の外国人風と言えなくもない顔立ち、特にくっきりした目元についてできる限り触れて欲しくなかったようだ。
 だから圭亮も大まかなところしか知らされてはいないが、生家では血筋を疑われて相当苦労したという。

「この子は、圭亮の子だよ。つまり、俺とお前の孫だ」
 事態を飲み込めていない様子の良枝に、政男がきっぱりと言い渡した。



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「圭亮! 子ども、って」
「お、俺にもまだよくわからないんだよ。今日子、あ、以前に付き合ってた人が、俺の子がいるって手紙くれて、行ってみたら今日子は死んでて、この子、が」
 病室の小さなベッド。点滴の管に繋がれて、天井を見つめて横たわっている《《娘》》。
 意識はあるものの、彼女はまったく言葉を発することはない。目線さえ寄越さない。まるで、生きている人形の如く。
 圭亮は、自分の隣に立ってベッドの少女を覗き込んでいた母に腕を引かれた。何も考えられずに抵抗する気も起きないまま、狭い個室の隅に連れて行かれる。
「圭亮。今こんなこと言うのは、ちょっとそのあれなんだけど。……亡くなった方、を疑うわけじゃないけど、本当にあなたの子かどうかわからないでしょう。その、ディーなんたら鑑定? とかいうのやった方が──」
「母さん! 止めてくれよ、真理愛に聞こえる!」
 良枝の台詞に、圭亮は思わず反論していた。
 己の中に確かにあった疑惑を、母によって白日の下に晒された後ろめたさを無意識に誤魔化すかのように。
 ハッとしたように口を噤む母に、まるで理不尽な八つ当たりをした気分になる。
「圭亮、お母さん。この子、誰かに似てないか?」
 一人ベッドの横に残っていた父の政男の、場違いなくらい落ち着いた声に、母子は毒気を抜かれたようにそちらに顔を向けた。
「お父さん、いったい何なの? 圭亮、場所を考えなかったのはお母さんが悪かったわ、でも」
 おろおろしている母から離れ、圭亮はベッドの脇に戻って来た。
「何だって? 父さん」
「だからこの子の顔。よく見てみろ」
「顔、って──」
 まったく動かない、生気のない瞳。ぱっちりと見開かれた、大きな……。
「かあさ、ん?」
「……何? 圭亮」
「ち、がう。この子、……真理愛。母さんに、似てる」
 圭亮の絞り出すような声に、良枝は半信半疑の様子でフラフラと歩いて来た。
「何を言ってるの? 似てるって、どこが?」
「ああ、自分ではわからないものなのか。……目元がそっくりだ。ほら、この瞼とか。圭亮はお前とは似てないのに、不思議なもんだな」
 政男の言葉通り、くっきり刻み付けたような特徴的な二重瞼は、良枝から受け継いだものだと一目でわかる。
「俺、小さい頃から母さんに似てない似てないって言われたもんなぁ。親戚にも『お母さんは目が大きくてえらい|別嬪《べっぴん》さんなのに、圭ちゃんはお父さんに似たねえ』なんてよく揶揄われてさ。父さんも俺も二重だけど、母さんのは特別凄いよね」
「私は嫌だったのよ、こんな目。田舎だったから変に目立ったし。……でも、本当にそう、なの? 私に?」
 圭亮は、母方の親族とは一人を除いて没交渉だ。母の弟にあたる叔父以外、存在さえ知らされたことはなかった。
 子ども心にも美しいと感じていた母。母に似た顔立ちの叔父。二人は、母が二十歳そこそこの頃に田舎から逃げるように東京に出て来たらしい。
 今の反応でも自明の通り、母は己の外国人風と言えなくもない顔立ち、特にくっきりした目元についてできる限り触れて欲しくなかったようだ。
 だから圭亮も大まかなところしか知らされてはいないが、生家では血筋を疑われて相当苦労したという。
「この子は、圭亮の子だよ。つまり、俺とお前の孫だ」
 事態を飲み込めていない様子の良枝に、政男がきっぱりと言い渡した。