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第49話 誰だって苦しんで嘆いている

ー/ー



「分かるって言っても大槻のしたことは良くないことだろうとは思う。実際佐恵泣いてたんでしょ。そういう肯定の意味じゃなくて気持ちの部分としての話。同情に近いかも」

「同情……」

「うん、まぁまだ話を聞いてないから本当のところは分からないけどね。それでも一年も一緒に部活やったんだもん。想像することぐらいはできるよ」

 分からないと言いつつ、増倉からは絶対的な自信を感じた。
 それは経験からくる彼女なりの強い意志だ。

 すごいな。
 俺は素直に尊敬を覚えた。
 その自信と意志は彼女がこの一年間を懸命にしてきた証拠に他ならない。

「あ、ここでいい? ここのパスタ一度食べてみたかったんだ」

「ああ、いいよ」

 いつの間にか飲食店エリアに来ていた。
 増倉の提案で、その中のパスタ屋に入る。
 それなりに人がいたが、落ち着いた雰囲気の静かなお店だった。

 メニューを見て増倉は和風パスタ、俺はシーフード系のパスタを頼んだ。
 少しだけ会話が止まった。
 お互いに何かを計るように静かになる。
 そして、増倉が沈黙を破った。

「ねぇ。杉野はあの議論の時トイレの前で話したこと覚えてる?」

「…………部活動紹介のときのあれか?」

 増倉は小さく頷いた。
 部活動紹介の話をした以上に今は思い出せる。
 その言葉が、喉に刺さった魚の骨みたいに、気になっていた。

「ちゃんと二年生になれるかってやつだろ」

「そう! すごいね杉野」

「すごかねぇーよ。俺は今更考えているぐらいだ。増倉の方がすごいだろ」

 本心だった。少なくとも三月のあのとき、俺は先輩になるということを分かっていなかった。
 対して、増倉は分かっていたからそういった疑問を持てたのだろう。

「……すごくないよ。考えてたけど、答えなんてないし現状はこうだし」

「現状は仕方ないだろう。大槻の問題だろ」

「違う、違うよ杉野。これは部活の問題だよ」

 真っ直ぐに俺見て、強い意志をぶつける増倉。
 その強さから目が離せなかった。

「私思うんだ。これはきっと私たちが去年真剣に向き合ってこなかったから起きたんじゃないかって。杉野は大槻の気持ち分からなかったかもだけど、たぶんみんな知ってたよ。そして、それが実らないだろうことも」

「それは……」

「みんな懸念があって、不安もあって、でもそのままにしていた。恋愛は部活の問題じゃないから個人の自由だからって先送りにした結果が今なんだよ」

 ああ、これは悔しさだ。
 分かっていて何もできなかった自分への悔恨。
 一歩間違えれば歓迎会が台無しになっていた。知っていたのに対策を講じなかった。
 そんな自分たちに対する嘆き。

「杉野だって自分のせいって苦しんだから、苛立っているんでしょ?」

「ああ、そうだな。すまん」

「ううん。こっちこそごめん」

 俺は自分を恥じた。
 増倉がどう思っているか? そんなの簡単じゃないか。

 そんなの同じ思いに決まっている。

 この悔しさも苦しさも今何にもできない自分への無力感も、みんな感じているに決まっているじゃないか。
 なら、俺は――。

「なぁ増倉。さっき大槻の気持ちが分かるって言ったよな」

「え? うん。想像だけどね」

「想像でいいから話してくれないか?」

 俺がそう言うと増倉は驚いた様子だった。
 無理もない。今までの俺ならきっと必要以上には深く聞かなかったから。

「俺は鈍感だから、そういうの予想がつかないんだ。だから聞かせてほしい」

「私の憶測だよ?」

「いいさ。俺は一緒に一年部活をした増倉の経験を信じるよ」

「余計な情報かもよ?」

「そん時は…………あれだ。この後のみんなとの話し合いで俺がいつもみたいに見当外れなこと言うだけだ」

「ふふ、分かった。私の想像で良ければ」

 自信満々に俺が言うと、増倉はどこか嬉しそうに笑った。
 その時、丁度料理が運ばれてきた。
 どうしたものかと思ったが、フォークを俺に渡しながら増倉が言った。

「じゃあ、食べながらゆっくり話そっか」

「ああ、そうするか」

 フォークを受け取り、一口パスタを食べる。
 お、美味いな。
 シーフードの深みのある旨さを感じた。

「杉野は、大槻がいつ夏村を好きになったか知ってる?」

「いや知らんな。俺が知ったのは結構最近」

「そっか。私はね、たぶん去年の春大会らへんだと思うんだ」

「春大会? なんかあったのか?」

「う~ん。何があったかって言われると説明が難しいんだけど。その時期から大槻の佐恵を見る目が変わった」

「女の勘ってやつか」

「まぁ、わりとそんな感じ。で、もしそうなら一年間思い続けていたわけでしょ?」

「そうだな」

「よっぽど好きなんだと思う佐恵のこと」

「あー、こないだ聞いたときもそうだったな」

 俺の何気ない一言で会話が止まる。
 ん?

「……こないだ聞いてって大槻本人から聞いたの?」

「え、ああ」

「その話、詳しく」

 あー、これって女子に言っていいのか? と今更の疑問を抱いたが、じっと見つめてくる増倉を前に俺はすぐに、大槻が男子を集めて告白宣言したことを話した。

「…………そう。そんなことがあったんだ」

 覚えている範囲で詳細に説明して、話し終わることにはパスタを食べ終わっていた。
 そして考え込む増倉。
 これがそんなに重要なことだろうか。

「……嫌だったのかな」

 呟くようなその一言。
 何が? と聞く前に増倉の方が俺に聞いてきた。

「杉野は演劇部好き?」

「お、おう」

 質問の意図が分からないが、純粋に言葉通りに受け取り答える。

「たぶん、大槻はそんなに好きじゃないかもね」

「…………」

 達観したような何かの先を見透かした様子だった。
 それと同時にその言葉をなんとなく分かってしまう俺がいた。

「じゃあ、大槻にとって部活ってのは――」

 俺が言い終わる前に、増倉は首を横に振った。
 つまり、同じことを思ったということだ。

「それはここでは結論出さない方がいいかも。この後みんなで話すしさ」

「……ああ、そうだな」

 そう言いながらも俺の中には、大槻に対する疑念が生まれていた。

 この疑念がそうだとするなら、俺は――。



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「分かるって言っても大槻のしたことは良くないことだろうとは思う。実際佐恵泣いてたんでしょ。そういう肯定の意味じゃなくて気持ちの部分としての話。同情に近いかも」
「同情……」
「うん、まぁまだ話を聞いてないから本当のところは分からないけどね。それでも一年も一緒に部活やったんだもん。想像することぐらいはできるよ」
 分からないと言いつつ、増倉からは絶対的な自信を感じた。
 それは経験からくる彼女なりの強い意志だ。
 すごいな。
 俺は素直に尊敬を覚えた。
 その自信と意志は彼女がこの一年間を懸命にしてきた証拠に他ならない。
「あ、ここでいい? ここのパスタ一度食べてみたかったんだ」
「ああ、いいよ」
 いつの間にか飲食店エリアに来ていた。
 増倉の提案で、その中のパスタ屋に入る。
 それなりに人がいたが、落ち着いた雰囲気の静かなお店だった。
 メニューを見て増倉は和風パスタ、俺はシーフード系のパスタを頼んだ。
 少しだけ会話が止まった。
 お互いに何かを計るように静かになる。
 そして、増倉が沈黙を破った。
「ねぇ。杉野はあの議論の時トイレの前で話したこと覚えてる?」
「…………部活動紹介のときのあれか?」
 増倉は小さく頷いた。
 部活動紹介の話をした以上に今は思い出せる。
 その言葉が、喉に刺さった魚の骨みたいに、気になっていた。
「ちゃんと二年生になれるかってやつだろ」
「そう! すごいね杉野」
「すごかねぇーよ。俺は今更考えているぐらいだ。増倉の方がすごいだろ」
 本心だった。少なくとも三月のあのとき、俺は先輩になるということを分かっていなかった。
 対して、増倉は分かっていたからそういった疑問を持てたのだろう。
「……すごくないよ。考えてたけど、答えなんてないし現状はこうだし」
「現状は仕方ないだろう。大槻の問題だろ」
「違う、違うよ杉野。これは部活の問題だよ」
 真っ直ぐに俺見て、強い意志をぶつける増倉。
 その強さから目が離せなかった。
「私思うんだ。これはきっと私たちが去年真剣に向き合ってこなかったから起きたんじゃないかって。杉野は大槻の気持ち分からなかったかもだけど、たぶんみんな知ってたよ。そして、それが実らないだろうことも」
「それは……」
「みんな懸念があって、不安もあって、でもそのままにしていた。恋愛は部活の問題じゃないから個人の自由だからって先送りにした結果が今なんだよ」
 ああ、これは悔しさだ。
 分かっていて何もできなかった自分への悔恨。
 一歩間違えれば歓迎会が台無しになっていた。知っていたのに対策を講じなかった。
 そんな自分たちに対する嘆き。
「杉野だって自分のせいって苦しんだから、苛立っているんでしょ?」
「ああ、そうだな。すまん」
「ううん。こっちこそごめん」
 俺は自分を恥じた。
 増倉がどう思っているか? そんなの簡単じゃないか。
 そんなの同じ思いに決まっている。
 この悔しさも苦しさも今何にもできない自分への無力感も、みんな感じているに決まっているじゃないか。
 なら、俺は――。
「なぁ増倉。さっき大槻の気持ちが分かるって言ったよな」
「え? うん。想像だけどね」
「想像でいいから話してくれないか?」
 俺がそう言うと増倉は驚いた様子だった。
 無理もない。今までの俺ならきっと必要以上には深く聞かなかったから。
「俺は鈍感だから、そういうの予想がつかないんだ。だから聞かせてほしい」
「私の憶測だよ?」
「いいさ。俺は一緒に一年部活をした増倉の経験を信じるよ」
「余計な情報かもよ?」
「そん時は…………あれだ。この後のみんなとの話し合いで俺がいつもみたいに見当外れなこと言うだけだ」
「ふふ、分かった。私の想像で良ければ」
 自信満々に俺が言うと、増倉はどこか嬉しそうに笑った。
 その時、丁度料理が運ばれてきた。
 どうしたものかと思ったが、フォークを俺に渡しながら増倉が言った。
「じゃあ、食べながらゆっくり話そっか」
「ああ、そうするか」
 フォークを受け取り、一口パスタを食べる。
 お、美味いな。
 シーフードの深みのある旨さを感じた。
「杉野は、大槻がいつ夏村を好きになったか知ってる?」
「いや知らんな。俺が知ったのは結構最近」
「そっか。私はね、たぶん去年の春大会らへんだと思うんだ」
「春大会? なんかあったのか?」
「う~ん。何があったかって言われると説明が難しいんだけど。その時期から大槻の佐恵を見る目が変わった」
「女の勘ってやつか」
「まぁ、わりとそんな感じ。で、もしそうなら一年間思い続けていたわけでしょ?」
「そうだな」
「よっぽど好きなんだと思う佐恵のこと」
「あー、こないだ聞いたときもそうだったな」
 俺の何気ない一言で会話が止まる。
 ん?
「……こないだ聞いてって大槻本人から聞いたの?」
「え、ああ」
「その話、詳しく」
 あー、これって女子に言っていいのか? と今更の疑問を抱いたが、じっと見つめてくる増倉を前に俺はすぐに、大槻が男子を集めて告白宣言したことを話した。
「…………そう。そんなことがあったんだ」
 覚えている範囲で詳細に説明して、話し終わることにはパスタを食べ終わっていた。
 そして考え込む増倉。
 これがそんなに重要なことだろうか。
「……嫌だったのかな」
 呟くようなその一言。
 何が? と聞く前に増倉の方が俺に聞いてきた。
「杉野は演劇部好き?」
「お、おう」
 質問の意図が分からないが、純粋に言葉通りに受け取り答える。
「たぶん、大槻はそんなに好きじゃないかもね」
「…………」
 達観したような何かの先を見透かした様子だった。
 それと同時にその言葉をなんとなく分かってしまう俺がいた。
「じゃあ、大槻にとって部活ってのは――」
 俺が言い終わる前に、増倉は首を横に振った。
 つまり、同じことを思ったということだ。
「それはここでは結論出さない方がいいかも。この後みんなで話すしさ」
「……ああ、そうだな」
 そう言いながらも俺の中には、大槻に対する疑念が生まれていた。
 この疑念がそうだとするなら、俺は――。