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妖の証明

ー/ー



「小福ちゃん!」

「あ、モニカさん。おかえりなさい」


 いつも通り、モニカは授業を終えて寮に帰る。今日帰路を共にしたのはソフィアとヨナの2人。女子会にてモニカは自身の『眼』の秘密を明かした。もちろん、女子会に参加していたソフィアとヨナもそのことを知っている。だが、目の前の光景は異端としか言い表す言葉が見つからないようなものだった。


「えっ、と……モニカちゃん、今何してるの?」

「……何をしているんでしょう」


 ソフィアたちには空気の塊を抱きしめて頬ずりするモニカの姿しか見えていない。当然、妖、座敷わらしである『小福』の姿など見えるはずもなく、まだモニカが虚空を愛でているようにしか見えていないのだ。


「こ、こちらの方たちには見えていないのですよね」

「うん……小福ちゃん、こんなに可愛いのに見せてあげられなくて残念……」

「あ、これ煽られてるやつ?」

「抑えてくださいソフィアさん」


 無自覚にマウントを取るモニカに襲いかかろうとするソフィアをヨナが押さえつける。その様子を見て、小福は目を丸くして驚いた。


「お、驚かないんですね。モニカさんのように妖が見える人は中々いないはずですが……」

「優しいんだよ。正直に話してみたら、案外みんな受け入れてくれてさ」

「……なら、()()を試してみましょう」

「あれって?」


 上目遣いで可愛く自慢げな表情で小福が短い手足でてとてとと物置の方へ走り出す。微笑ましい後ろ姿を見て満足気なモニカとは正反対に、ソフィアたちの表情は青ざめて冷や汗を垂らしているようだった。


「……今、足音しなかった?」

「ひ、非科学的です! 幽霊……心霊現象?!」

「落ち着いて……さっきのは今紹介した小福ちゃんだよ」

「ならよかった〜……」


 よくはないだろうと言いたげなヨナを差し置いて、ソフィアがモニカに迫る。


「でも〜、私たちはまだ妖の姿を見てないなぁ」


 ソフィアが煽るようにモニカの目を至近距離で指さす。これこそが、今日モニカが小福に会いに来た理由なのだ。


「しょ、証明って言っても……私もまだわかんないことばっかりで……」

「でも現に、ビアス先輩と旭は妖が見れたんでしょ?」

「そうだけどぉ……」


 妖の存在証明。それはモニカを疑っているのでは決してなく、好奇心か、はたまた悪戯心かの何か。ソフィアがモニカに持ちかけたのは妖が存在することの証明をして欲しい、という話だった。もちろん、相応の報酬もありとのことで。


「悪魔の証明は好きじゃない。いない証明をしてって言ってるわけじゃないよ?」

「う〜ん……」

「でも、さっきの物音は妖のせいなのでしょう?」

「姿は見えてないじゃん。何かの魔法で誤魔化してるかもしれない」

「ほんっっとに面倒臭いですね」

「結構溜めたねぇ……」


 出会って数日、モニカは女子会を通してクラスメイトの女子たちとかなり仲を深めることに成功していた。今みたいに、どうでもいい話で盛り上がれるくらいの、いわゆる『友達』になれたのだ。そんな他愛のない会話を続けていると、次第にモニカたちは本来の目的を見失っていく。
 だが、小福はそんなことを知る由もなく、ウキウキでモニカたちに近づいていく。人前での初めての()()()()。一体どんな反応をしてくれるかとワクワクしながら、廊下を早歩き進む。


「モニカさ〜ん! できました!」

「あ、小福ちゃ……ん……?」

「…………あれが『小福ちゃん』?」


 大きく手を振り、小福はモニカたちを見上げる。肩ほどまで伸びたおかっぱ、赤い着物。小さな体格。極東人らしい黒髪に、優しい笑顔。そして、カタカタと音を立てて動く形代。


「……私にはどう見ても市松人形にしか見えません。しかも、かなり年季の入った」

「私、市松人形って本でしか見たことなかったんだよね。なんだか新鮮」

「こ、小福ちゃん!? どうなってるの、それ!」

「これは形代(かたしろ)と言って、妖の魂を宿すお家みたいなものです。私は普段この『盤星寮』に住み憑いているのですが、こういうこともできるんですよ!」


 小福は自慢げに語ってくれているが、モニカたちは空いた口が塞がらないといった風だった。カタカタと口を不気味に動かし、見た目とは相反する可愛らしい声で喋る市松人形が目の前にあるのだ。困惑しないわけがない。


「……モニカちゃん、合格!」

「えっ!?」

「小福さん……今度ちゃんとした形代? を作ってあげますから、今日はこの辺で……」


 残念そうに市松人形の形代から出てきて、小福は受付で一息ついた。そうして、モニカの妖の証明は見事完了した。そしてこれ以降ソフィアが積極的に妖を見たいという事は少なくなったらしい。
 次の日から、受付の上にはモニカたちの記憶に新しい市松人形が飾られてあった。ソフィアとヨナはその人形を見る度に何かを思い出して、にっこりと笑って学園へと足を運ぶのだった。


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「小福ちゃん!」
「あ、モニカさん。おかえりなさい」
 いつも通り、モニカは授業を終えて寮に帰る。今日帰路を共にしたのはソフィアとヨナの2人。女子会にてモニカは自身の『眼』の秘密を明かした。もちろん、女子会に参加していたソフィアとヨナもそのことを知っている。だが、目の前の光景は異端としか言い表す言葉が見つからないようなものだった。
「えっ、と……モニカちゃん、今何してるの?」
「……何をしているんでしょう」
 ソフィアたちには空気の塊を抱きしめて頬ずりするモニカの姿しか見えていない。当然、妖、座敷わらしである『小福』の姿など見えるはずもなく、まだモニカが虚空を愛でているようにしか見えていないのだ。
「こ、こちらの方たちには見えていないのですよね」
「うん……小福ちゃん、こんなに可愛いのに見せてあげられなくて残念……」
「あ、これ煽られてるやつ?」
「抑えてくださいソフィアさん」
 無自覚にマウントを取るモニカに襲いかかろうとするソフィアをヨナが押さえつける。その様子を見て、小福は目を丸くして驚いた。
「お、驚かないんですね。モニカさんのように妖が見える人は中々いないはずですが……」
「優しいんだよ。正直に話してみたら、案外みんな受け入れてくれてさ」
「……なら、|あ《・》|れ《・》を試してみましょう」
「あれって?」
 上目遣いで可愛く自慢げな表情で小福が短い手足でてとてとと物置の方へ走り出す。微笑ましい後ろ姿を見て満足気なモニカとは正反対に、ソフィアたちの表情は青ざめて冷や汗を垂らしているようだった。
「……今、足音しなかった?」
「ひ、非科学的です! 幽霊……心霊現象?!」
「落ち着いて……さっきのは今紹介した小福ちゃんだよ」
「ならよかった〜……」
 よくはないだろうと言いたげなヨナを差し置いて、ソフィアがモニカに迫る。
「でも〜、私たちはまだ妖の姿を見てないなぁ」
 ソフィアが煽るようにモニカの目を至近距離で指さす。これこそが、今日モニカが小福に会いに来た理由なのだ。
「しょ、証明って言っても……私もまだわかんないことばっかりで……」
「でも現に、ビアス先輩と旭は妖が見れたんでしょ?」
「そうだけどぉ……」
 妖の存在証明。それはモニカを疑っているのでは決してなく、好奇心か、はたまた悪戯心かの何か。ソフィアがモニカに持ちかけたのは妖が存在することの証明をして欲しい、という話だった。もちろん、相応の報酬もありとのことで。
「悪魔の証明は好きじゃない。いない証明をしてって言ってるわけじゃないよ?」
「う〜ん……」
「でも、さっきの物音は妖のせいなのでしょう?」
「姿は見えてないじゃん。何かの魔法で誤魔化してるかもしれない」
「ほんっっとに面倒臭いですね」
「結構溜めたねぇ……」
 出会って数日、モニカは女子会を通してクラスメイトの女子たちとかなり仲を深めることに成功していた。今みたいに、どうでもいい話で盛り上がれるくらいの、いわゆる『友達』になれたのだ。そんな他愛のない会話を続けていると、次第にモニカたちは本来の目的を見失っていく。
 だが、小福はそんなことを知る由もなく、ウキウキでモニカたちに近づいていく。人前での初めての|お《・》|披《・》|露《・》|目《・》。一体どんな反応をしてくれるかとワクワクしながら、廊下を早歩き進む。
「モニカさ〜ん! できました!」
「あ、小福ちゃ……ん……?」
「…………あれが『小福ちゃん』?」
 大きく手を振り、小福はモニカたちを見上げる。肩ほどまで伸びたおかっぱ、赤い着物。小さな体格。極東人らしい黒髪に、優しい笑顔。そして、カタカタと音を立てて動く形代。
「……私にはどう見ても市松人形にしか見えません。しかも、かなり年季の入った」
「私、市松人形って本でしか見たことなかったんだよね。なんだか新鮮」
「こ、小福ちゃん!? どうなってるの、それ!」
「これは|形代《かたしろ》と言って、妖の魂を宿すお家みたいなものです。私は普段この『盤星寮』に住み憑いているのですが、こういうこともできるんですよ!」
 小福は自慢げに語ってくれているが、モニカたちは空いた口が塞がらないといった風だった。カタカタと口を不気味に動かし、見た目とは相反する可愛らしい声で喋る市松人形が目の前にあるのだ。困惑しないわけがない。
「……モニカちゃん、合格!」
「えっ!?」
「小福さん……今度ちゃんとした形代? を作ってあげますから、今日はこの辺で……」
 残念そうに市松人形の形代から出てきて、小福は受付で一息ついた。そうして、モニカの妖の証明は見事完了した。そしてこれ以降ソフィアが積極的に妖を見たいという事は少なくなったらしい。
 次の日から、受付の上にはモニカたちの記憶に新しい市松人形が飾られてあった。ソフィアとヨナはその人形を見る度に何かを思い出して、にっこりと笑って学園へと足を運ぶのだった。