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友人関係

ー/ー



 学校が嫌だからといって、ギリギリまで家を出ないような性格ではなかった。テキパキとした動きが身に染み付いて、いつも通りの時間に家を出てしまう。

 教室に着いたらスタスタと自分の机に向かい、途中で挨拶されたら適当に返す。
 そして教科書やノートを引き出しに入れたら貴重品は鍵付きのロッカーに入れる。これらを済ませてからやっと友達との雑談に加わることができる。

 遅刻常習犯の雪田や朝霧は当然この時間の教室にいない。海堀は時々遅刻するけどいつもギリギリの時間に来るからいない。

 窪田と一井は他の三人がいない状態で手出ししてこないから、SHL前のこの時間が一番安全だ。

「三河ちゃん、宿題やった?」

 私が近づいて来たのを見て声をかけるのは、咲洲。気さくなオタクキャラで、このグループのまとめ役。

 漫画やゲームの話題で盛り上がることが多いこのグループだけど、あまり詳しくない私でもわかるように説明してくれたり、他の話題も提供してくれる。

 咲洲の向かい側にいるのが、とにかく無口で見えない壁を張り巡らせているような子、坂田。

 教室に入ってきた段階ではスマホに没頭していたけど、今私がそばに着くと無表情で会釈してきた。
 今日も量の多い黒髪がばさりと顔にかかっている。

「あーガチャ爆死〜!もうやだ、何度この悲しみを覚えればいいの〜!」

 私たちが取り囲んでいる絢瀬は、音を立ててスマホの画面を机に伏せた。頭を抱えて大げさに仰け反り、嘆きの声を教室に響かせる。

 重度のゲームオタクで三次元には全く興味がなく、周囲からどう思われているかは気にしないようだ。
 明るい髪色にパチリと開かれた大きな目で、容姿だけなら陽キャと呼ばれる人の中に入れそうなのにね……

 今は四人で集まっているけど地味なグループはもう一つあり、時と場合によってくっついたり離れたりしている。

 ただ向こうのグループとくっついた時は、あまり居心地が良くない。

 今日は向こうのグループが来ることなくチャイムが鳴った。
 自分の席に戻り、いつのまにか来ていた海堀の姿が目に入る。休んでくれたらよかったのに、とはむこうも同じことを思っているだろう。

 先生が今日のことを話す間、海堀はペンポーチで隠しながらスマホを触っている。そして先生が自分の方を向くタイミングに視線を上げる。先生の視線の配り方がワンパターンだから対策を練られているのだ。

 SHLが終わり先生がいなくなった途端、あいつらが待ってましたとばかりに迫ってくる。

「三河、いいこと教えてあげる」

「いらない。クラス順位十一位のあなたから教わることなんてない」

「そんなこと言わないでよ〜。そのクラス順位は調子が悪かった時のじゃん」

 朝霧の赤く塗った唇からからかいの言葉が放たれた。
 つれない態度の私を見下しながら、長い黒髪を細い指で挟んで遊ぶ。ただそれだけのことなのに、朝霧がすると整った容姿を見せびらかしているように感じる。

 美容用品におこづかいの半分をかけて、生まれ持った美しさにつぎ込んでいるのだ。容姿だけならクラス一、学年でも五本の指に入るだろう。

 離れていても届くような甘ったるい香水の匂いや、いじめという醜悪な行為を楽しむ澄んだ笑い声……毒と砂糖を混ぜ合わせたような人間で、近くにいると胸焼けがしてくる。

「あんたはいつも人の話を否定してばかりだよね。うちにだけじゃなくて、いつも話している子にも。友達の悩みくらい真剣に聞いてあげなよ〜」

「余計なお世話ね」

「そんな風に跳ね除けてると本当に一人ぼっちになるよ? 現に三河がいると空気が悪くなるって思う子がいてる」

 名前は出さないけどわかっていて言っているだろう。

 この前の弁当の時間、二つのグループがくっついて食べていたときのことだ。
 さっきの授業の話題で盛り上がっていたんだけれど、いつのまにか葛田の彼氏の話題になっていた。ただの惚気なら聞き流すのに、延々と愚痴をこぼしてきた。

 どうしようと言いながらただひたすら同意だけを求めてくるのが面倒で、私は試しに具体的な意見を言ってみた。すると少し固まった後、そんなこと求めてないしと機嫌を損ねた。

 そして私の前で、三河って本当話辛いと友達に言っていた。それには話を振られた友達も困惑し、当然私も呆れた。

 前から子供っぽい子とは思っていたけど、本人の前では言わないという配慮もできないとは思わなかった。

 ずっと機嫌を悪くされても困るからすぐに謝ったけど、葛田はそれからずっと私に話を振ってこなくなった。

「私も人間だから言い過ぎることはある。けれども気をつけているわ。これでも最善を尽くしてる。わかっているでしょうけど、こんなこと言ってくるあなたも空気を悪くしているわよ」

 想像と違う答えだったのか、面食らったように突っ立っている。

「行こう朝霧。こいつ聞く耳持たないってわかってたじゃん」

 励ますように背中を叩く海堀。
 あなたたちの言うことなんか鵜呑みにはしないけど、耳は傾けてあげている。


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 学校が嫌だからといって、ギリギリまで家を出ないような性格ではなかった。テキパキとした動きが身に染み付いて、いつも通りの時間に家を出てしまう。
 教室に着いたらスタスタと自分の机に向かい、途中で挨拶されたら適当に返す。
 そして教科書やノートを引き出しに入れたら貴重品は鍵付きのロッカーに入れる。これらを済ませてからやっと友達との雑談に加わることができる。
 遅刻常習犯の雪田や朝霧は当然この時間の教室にいない。海堀は時々遅刻するけどいつもギリギリの時間に来るからいない。
 窪田と一井は他の三人がいない状態で手出ししてこないから、SHL前のこの時間が一番安全だ。
「三河ちゃん、宿題やった?」
 私が近づいて来たのを見て声をかけるのは、咲洲。気さくなオタクキャラで、このグループのまとめ役。
 漫画やゲームの話題で盛り上がることが多いこのグループだけど、あまり詳しくない私でもわかるように説明してくれたり、他の話題も提供してくれる。
 咲洲の向かい側にいるのが、とにかく無口で見えない壁を張り巡らせているような子、坂田。
 教室に入ってきた段階ではスマホに没頭していたけど、今私がそばに着くと無表情で会釈してきた。
 今日も量の多い黒髪がばさりと顔にかかっている。
「あーガチャ爆死〜!もうやだ、何度この悲しみを覚えればいいの〜!」
 私たちが取り囲んでいる絢瀬は、音を立ててスマホの画面を机に伏せた。頭を抱えて大げさに仰け反り、嘆きの声を教室に響かせる。
 重度のゲームオタクで三次元には全く興味がなく、周囲からどう思われているかは気にしないようだ。
 明るい髪色にパチリと開かれた大きな目で、容姿だけなら陽キャと呼ばれる人の中に入れそうなのにね……
 今は四人で集まっているけど地味なグループはもう一つあり、時と場合によってくっついたり離れたりしている。
 ただ向こうのグループとくっついた時は、あまり居心地が良くない。
 今日は向こうのグループが来ることなくチャイムが鳴った。
 自分の席に戻り、いつのまにか来ていた海堀の姿が目に入る。休んでくれたらよかったのに、とはむこうも同じことを思っているだろう。
 先生が今日のことを話す間、海堀はペンポーチで隠しながらスマホを触っている。そして先生が自分の方を向くタイミングに視線を上げる。先生の視線の配り方がワンパターンだから対策を練られているのだ。
 SHLが終わり先生がいなくなった途端、あいつらが待ってましたとばかりに迫ってくる。
「三河、いいこと教えてあげる」
「いらない。クラス順位十一位のあなたから教わることなんてない」
「そんなこと言わないでよ〜。そのクラス順位は調子が悪かった時のじゃん」
 朝霧の赤く塗った唇からからかいの言葉が放たれた。
 つれない態度の私を見下しながら、長い黒髪を細い指で挟んで遊ぶ。ただそれだけのことなのに、朝霧がすると整った容姿を見せびらかしているように感じる。
 美容用品におこづかいの半分をかけて、生まれ持った美しさにつぎ込んでいるのだ。容姿だけならクラス一、学年でも五本の指に入るだろう。
 離れていても届くような甘ったるい香水の匂いや、いじめという醜悪な行為を楽しむ澄んだ笑い声……毒と砂糖を混ぜ合わせたような人間で、近くにいると胸焼けがしてくる。
「あんたはいつも人の話を否定してばかりだよね。うちにだけじゃなくて、いつも話している子にも。友達の悩みくらい真剣に聞いてあげなよ〜」
「余計なお世話ね」
「そんな風に跳ね除けてると本当に一人ぼっちになるよ? 現に三河がいると空気が悪くなるって思う子がいてる」
 名前は出さないけどわかっていて言っているだろう。
 この前の弁当の時間、二つのグループがくっついて食べていたときのことだ。
 さっきの授業の話題で盛り上がっていたんだけれど、いつのまにか葛田の彼氏の話題になっていた。ただの惚気なら聞き流すのに、延々と愚痴をこぼしてきた。
 どうしようと言いながらただひたすら同意だけを求めてくるのが面倒で、私は試しに具体的な意見を言ってみた。すると少し固まった後、そんなこと求めてないしと機嫌を損ねた。
 そして私の前で、三河って本当話辛いと友達に言っていた。それには話を振られた友達も困惑し、当然私も呆れた。
 前から子供っぽい子とは思っていたけど、本人の前では言わないという配慮もできないとは思わなかった。
 ずっと機嫌を悪くされても困るからすぐに謝ったけど、葛田はそれからずっと私に話を振ってこなくなった。
「私も人間だから言い過ぎることはある。けれども気をつけているわ。これでも最善を尽くしてる。わかっているでしょうけど、こんなこと言ってくるあなたも空気を悪くしているわよ」
 想像と違う答えだったのか、面食らったように突っ立っている。
「行こう朝霧。こいつ聞く耳持たないってわかってたじゃん」
 励ますように背中を叩く海堀。
 あなたたちの言うことなんか鵜呑みにはしないけど、耳は傾けてあげている。