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第22話 校長の嫁と自分に嘘をつく教頭

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 運がいい私は、最高の駒を手に入れた。
 金の融通がきき、しかも私にぞっこんな女。この、ぞっこんというのが大事なポイントだ。
 しかもその駒は、あの校長の嫁だ。
 保護者の母親と一度きりの肉体関係を楽しむ校長には、自分の嫁に対する愛情などないと思う。
 昔はどうだったか知らないが。
 嫁の方は、ただひたすらに愛されたいという思いが強い。
 私達の関係はもう五年も続いているが、会うたびにそれを確信している。
 なんて素晴らしいのだろう。
 私は信じてもいない神に感謝する。
 校長の嫁が突きつけてくる、その強い欲求を満たし続けてさえいれば、この女の後ろ盾である実家の所有物はすべて私の思うままなのだ。
 私はその甘い現実が、いつまでも続くものだと、そう思っていた。

 不審な女から校長の嫁宛に、手紙と写真が送られてきた。
『あなたがそういうつもりなら、私にも考えがあります』
 メールと共に送信されてきた、手紙の文面と写真に写った女を見て、私は愕然とした。
 校長の嫁以外の女と関係を持つなど、私にはまったく身に覚えがなかった。
 私が好きなのは、女じゃなくてギャンブルのスリルと興奮なのだから。
 写真に写る男は、確かに私だった。
 だが、その隣でにこりと微笑む、二十代後半と思しき女は見た記憶すらない。
 緩やかなパーマがかかった、ふわりとしたボブヘアは明るい茶色。少し垂れたぱっちり二重瞼の瞳と厚ぼったい下唇が、いかにも幸せそうな笑みを刻んでいる。
 しかも、この背景……どこのラブホだ……
 よくできた合成写真に、苛立ちと焦りが浮かんでくる。
『教頭があなたと会っているのを知っている』
 このイタズラの主が、私と校長の嫁との仲を知っているのは間違いないだろう。
 ゆすられているのだ、私は。いったいなにが望みだというのか……まあ、どうせ金だろう、十中八九そんなもんだ。
 しかし、私に直接コンタクトをとるのではなく、校長の嫁を使ってくるところがいやらしいところだ。
『モウゲンカイダコトワル』
 不意にカタカナの羅列が頭に浮かんだ。
 それは、去年の九月にあった文化祭で、何者かから受け取ったメモにあったものだ。
 現物は、校長が持っている。
 まさか……あのメモを作った奴と、同一人物なのか?
 私は慌てて、校長の嫁から送信されてきた手紙の文面を拡大する。
 文化祭の時のメモの文字は、手書きではなかった。だが、この手紙の文字は手書きのように見える。
 くせのない、堂々としたきれいな文字だ。
 その特徴ある文字には、見覚えがない。
 イタズラの主は、同じ職場で働いている教員なのではないかと思ったが、違うのか……いや、まだそうと決まってはいない。
 今までも警戒はしてきたが、それを強化しなければ。
 ちくしょう……ここまできて、私の幸せを邪魔されてたまるか!
 また次になにか仕掛けてくるようなら、今度こそ尻尾を掴んでやる!
 私は顔の見えない相手に苛立ち、スマートフォンをソファに投げつけた。
 ボスンと音をたてたそれをしばらく眺めていると、頭の熱が冷めてくる。
 そうだ。今は、こんなくだらないことに苛ついている場合ではない。
 私がまずやるべきことは、取り乱しているだろう校長の嫁を安心させることだ。
 私はスマートフォンを手にとり、ソファに座り込んだ。
『私が心から信頼し、愛しているのはあなただけです』
『私の秘密を他に漏らしてしまえば、あなたもあなたの大事な家族も巻き添えになります』
『どうか冷静になってください。そんなふざけた嘘ではなく、私の言う言葉を信じてください』
 私は素早くメッセージを打ち込むと、深いため息を吐きながら送信ボタンを押した。
 私が心から愛しているのは、校長の嫁ではない。ギャンブルだけだ。
 金は、それを楽しむための手段として必要なだけである。
 脳裏に浮かんだ校長の嫁が、ほんの少しだけ哀れに思えた。
 こんなクズな私にも、まだ良心の欠片が残っていたのか。
 それがなんだか滑稽で、私は一人笑ってしまったのだった。




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 運がいい私は、最高の駒を手に入れた。
 金の融通がきき、しかも私にぞっこんな女。この、ぞっこんというのが大事なポイントだ。
 しかもその駒は、あの校長の嫁だ。
 保護者の母親と一度きりの肉体関係を楽しむ校長には、自分の嫁に対する愛情などないと思う。
 昔はどうだったか知らないが。
 嫁の方は、ただひたすらに愛されたいという思いが強い。
 私達の関係はもう五年も続いているが、会うたびにそれを確信している。
 なんて素晴らしいのだろう。
 私は信じてもいない神に感謝する。
 校長の嫁が突きつけてくる、その強い欲求を満たし続けてさえいれば、この女の後ろ盾である実家の所有物はすべて私の思うままなのだ。
 私はその甘い現実が、いつまでも続くものだと、そう思っていた。
 不審な女から校長の嫁宛に、手紙と写真が送られてきた。
『あなたがそういうつもりなら、私にも考えがあります』
 メールと共に送信されてきた、手紙の文面と写真に写った女を見て、私は愕然とした。
 校長の嫁以外の女と関係を持つなど、私にはまったく身に覚えがなかった。
 私が好きなのは、女じゃなくてギャンブルのスリルと興奮なのだから。
 写真に写る男は、確かに私だった。
 だが、その隣でにこりと微笑む、二十代後半と思しき女は見た記憶すらない。
 緩やかなパーマがかかった、ふわりとしたボブヘアは明るい茶色。少し垂れたぱっちり二重瞼の瞳と厚ぼったい下唇が、いかにも幸せそうな笑みを刻んでいる。
 しかも、この背景……どこのラブホだ……
 よくできた合成写真に、苛立ちと焦りが浮かんでくる。
『教頭があなたと会っているのを知っている』
 このイタズラの主が、私と校長の嫁との仲を知っているのは間違いないだろう。
 ゆすられているのだ、私は。いったいなにが望みだというのか……まあ、どうせ金だろう、十中八九そんなもんだ。
 しかし、私に直接コンタクトをとるのではなく、校長の嫁を使ってくるところがいやらしいところだ。
『モウゲンカイダコトワル』
 不意にカタカナの羅列が頭に浮かんだ。
 それは、去年の九月にあった文化祭で、何者かから受け取ったメモにあったものだ。
 現物は、校長が持っている。
 まさか……あのメモを作った奴と、同一人物なのか?
 私は慌てて、校長の嫁から送信されてきた手紙の文面を拡大する。
 文化祭の時のメモの文字は、手書きではなかった。だが、この手紙の文字は手書きのように見える。
 くせのない、堂々としたきれいな文字だ。
 その特徴ある文字には、見覚えがない。
 イタズラの主は、同じ職場で働いている教員なのではないかと思ったが、違うのか……いや、まだそうと決まってはいない。
 今までも警戒はしてきたが、それを強化しなければ。
 ちくしょう……ここまできて、私の幸せを邪魔されてたまるか!
 また次になにか仕掛けてくるようなら、今度こそ尻尾を掴んでやる!
 私は顔の見えない相手に苛立ち、スマートフォンをソファに投げつけた。
 ボスンと音をたてたそれをしばらく眺めていると、頭の熱が冷めてくる。
 そうだ。今は、こんなくだらないことに苛ついている場合ではない。
 私がまずやるべきことは、取り乱しているだろう校長の嫁を安心させることだ。
 私はスマートフォンを手にとり、ソファに座り込んだ。
『私が心から信頼し、愛しているのはあなただけです』
『私の秘密を他に漏らしてしまえば、あなたもあなたの大事な家族も巻き添えになります』
『どうか冷静になってください。そんなふざけた嘘ではなく、私の言う言葉を信じてください』
 私は素早くメッセージを打ち込むと、深いため息を吐きながら送信ボタンを押した。
 私が心から愛しているのは、校長の嫁ではない。ギャンブルだけだ。
 金は、それを楽しむための手段として必要なだけである。
 脳裏に浮かんだ校長の嫁が、ほんの少しだけ哀れに思えた。
 こんなクズな私にも、まだ良心の欠片が残っていたのか。
 それがなんだか滑稽で、私は一人笑ってしまったのだった。