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焔の記憶 ―3―

ー/ー



夢を見ていた。先程まで見せられていた記憶旅行とはまた違う感覚。夢である、ということだけは確かに理解できる、不思議な夢。だが、旭の見た夢は、決して素敵な美しい夢では断じてなかった。


(……なんだ、これ)


 星の見えない夜だった。月明かりすらないというのに、辺りは光に満ち溢れていた。これが夢であってよかったと、旭は安堵したと同時に、この光景は今もどこかで起きているのだろうという想像もしてしまう。


(燃えている……)


 森が焼け、黒煙が立ち上る。何の影響か、大地は溶けて翻り、地殻を尽く破壊する。そこら中から阿鼻叫喚が響き渡る。耳を塞ぎ、目を閉じてしまうほどの惨劇だった。


(これも……あの女の仕業か?)


 記憶旅行だと言われても、この光景に心当たりはなく、夢にしては鮮明すぎる。例えるなら、を見ているような、そんな感覚だった。


(信じたくはないな。これが現実になるなんて)


 空を見上げると、そこには星はおろか、月すら浮かんでいなかった。その光景から、やはりこれは夢なのだと再度認識させられる。


(ノーチェスからは星が見えないんだよな……)


 旭には、星が見えていた。ノーチェスを護る結界によって隠された空には、星の光は届かず、朧な月だけがただ浮かんでいる。それが当たり前の光景だ。空が蒼く澄み渡ることは絶対にない。深い藍色が空を包み、ぽつんと孤独に月が見下ろす。それ以外の空を、ノーチェスに生きるものたちは見たことがない。キラキラと輝き、空を照らし、人々に希望と奇跡を与える星を見ることはない。
 だが、ごく稀に、そのノーチェスの空にを見る者が生まれることがある。なぜ見えるのか、それになんの意味があるのか、それは未だに分かっていない。


(つまんねぇな、星がない空なんて)


 そうして、夢は終わった。あの光景が何を暗示していたのか、旭はそれを考えようとはしなかった。考えたところで意味はないと思っていたのもあるが、1番は、あの光景を覚えていると、いつか現実になってしまうかもしれないと考えたからだ。余計な心配かもしれないが、旭は夢の中の出来事をかき消した。
 意識が覚醒する。目を開けると、辺りは真っ暗だった。いきなり夢が現実になる、なんてことにはならず、旭はほっとした。


「んぅ……むにゃ……」

「ん?」


 横になって眠っていた旭の懐で、丸くなってもぞもぞと身体を動かしているソラがいた。どうやらあれから旭と一緒に眠っていたようで、気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らして満面の笑みで安眠している。


「なにしてやがる、このクソチビ……」


 悪態をつく旭だったが、ソラを起こそうとはしなかった。体勢を変えるわけでもなく、ただじっとして時間を食いつぶす。幸せそうにすやすやと眠るソラにつられてしまいそうになる。


(ずっとこのままってわけにもいかねぇか)


 ソラを起こさないようにゆっくりと身体を動かし、物音を立てないように慎重に立ち上がる。温もりを失ったからか、心做しか寒そうにしているソラに、旭はそっと上着を被せる。
 音を出さずに空を飛び、メインストリートへ向かう。空腹を知らせるように小さく腹が鳴る。常に金欠状態の旭は寮への入寮を拒否した。次席合格ということで、学園側から多少の支援もあるとこのことだったが、旭は頑なに寮を拒んだ。
 空を飛んで数分、目的地には直ぐに到着した。早朝だというのにもう人の気配がする。それも数人ではない。扉の向こうからは大勢の人の気配がしてくる。ガチャりと扉を開き、旭は決して活発ではない声で挨拶をした。


「ちわーす」

「おう! 今日も来たか、旭君! 飯食ってくだろ!」

「はい」


 旭がやってきたのは『冒険者ギルド』。ノーチェスに限らず、あらゆる国からやってくる冒険者を手助けし、時には商人の護衛や魔獣の退治などの仕事を斡旋するような団体だ。
 しかし、冒険者ではないものが依頼を受けてはならない、というルールは存在しない。ある一定レベルまでなら、誰でも依頼を受けることができる。旭は冒険者ギルドで依頼を見つけては引き受け、その報酬で日々生活している。


「毎日助かります。この時間だと、どの店も開店前なんで」

「そんなこと気にすんな! 旭君のおかげで何とかこのギルドもやってけるんだから!」


 旭よりも二回りほど身長のデカい巨体のギルドマスターは旭を快く受け入れてくれている。旭が常連だからか、元の性格からか、毎日やってくる旭に朝食まで用意してくれている。


「旭君、まだ冒険者になる気はないのか?」

「俺はまだ学生ですよ。卒業したら考えてあげてもいいです」

「とはいっても、あのバウディアムスだろう? 卒業したら魔法使いになるんじゃないのか」

「必ずしもそうとは限りませんよ」


 いつも通り、冒険者に誘ってくるギルドマスターからの言葉を軽く受け流し、旭は朝食を詰め込む。すると、いつもの表情とは違う、神妙な面持ちでギルドマスターは旭に言った。


「そういえば、昨日ここで変な噂を耳にしたんだがね」

「へ〜、噂って?」

「最近、新入りの魔法使いたちが何者かによって暗殺される事件が多く起こってるらしくてな。なんでも……えーっと、なんだったかな。八……いや、七ナントカだったかな」

「聞いたことないな」

「まぁ、とにかく。旭君も気をつけてくれよ」

「ん、ご馳走様。これお代ね」


 受け取ろうとしないギルドマスターに無理やりお金を押し付けて、旭は冒険者ギルドを飛び出た。


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次のエピソードへ進む 恩讐の炎 ―2―


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夢を見ていた。先程まで見せられていた記憶旅行とはまた違う感覚。夢である、ということだけは確かに理解できる、不思議な夢。だが、旭の見た夢は、決して素敵な美しい夢では断じてなかった。
(……なんだ、これ)
 星の見えない夜だった。月明かりすらないというのに、辺りは光に満ち溢れていた。これが夢であってよかったと、旭は安堵したと同時に、この光景は今もどこかで起きているのだろうという想像もしてしまう。
(燃えている……)
 森が焼け、黒煙が立ち上る。何の影響か、大地は溶けて翻り、地殻を尽く破壊する。そこら中から阿鼻叫喚が響き渡る。耳を塞ぎ、目を閉じてしまうほどの惨劇だった。
(これも……あの女の仕業か?)
 記憶旅行だと言われても、この光景に心当たりはなく、夢にしては鮮明すぎる。例えるなら、《《少し先の未来》》を見ているような、そんな感覚だった。
(信じたくはないな。これが現実になるなんて)
 空を見上げると、そこには星はおろか、月すら浮かんでいなかった。その光景から、やはりこれは夢なのだと再度認識させられる。
(ノーチェスからは星が見えないんだよな……)
 旭には、星が見えていた。ノーチェスを護る結界によって隠された空には、星の光は届かず、朧な月だけがただ浮かんでいる。それが当たり前の光景だ。空が蒼く澄み渡ることは絶対にない。深い藍色が空を包み、ぽつんと孤独に月が見下ろす。それ以外の空を、ノーチェスに生きるものたちは見たことがない。キラキラと輝き、空を照らし、人々に希望と奇跡を与える星を見ることはない。
 だが、ごく稀に、そのノーチェスの空に《《星》》を見る者が生まれることがある。なぜ見えるのか、それになんの意味があるのか、それは未だに分かっていない。
(つまんねぇな、星がない空なんて)
 そうして、夢は終わった。あの光景が何を暗示していたのか、旭はそれを考えようとはしなかった。考えたところで意味はないと思っていたのもあるが、1番は、あの光景を覚えていると、いつか現実になってしまうかもしれないと考えたからだ。余計な心配かもしれないが、旭は夢の中の出来事をかき消した。
 意識が覚醒する。目を開けると、辺りは真っ暗だった。いきなり夢が現実になる、なんてことにはならず、旭はほっとした。
「んぅ……むにゃ……」
「ん?」
 横になって眠っていた旭の懐で、丸くなってもぞもぞと身体を動かしているソラがいた。どうやらあれから旭と一緒に眠っていたようで、気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らして満面の笑みで安眠している。
「なにしてやがる、このクソチビ……」
 悪態をつく旭だったが、ソラを起こそうとはしなかった。体勢を変えるわけでもなく、ただじっとして時間を食いつぶす。幸せそうにすやすやと眠るソラにつられてしまいそうになる。
(ずっとこのままってわけにもいかねぇか)
 ソラを起こさないようにゆっくりと身体を動かし、物音を立てないように慎重に立ち上がる。温もりを失ったからか、心做しか寒そうにしているソラに、旭はそっと上着を被せる。
 音を出さずに空を飛び、メインストリートへ向かう。空腹を知らせるように小さく腹が鳴る。常に金欠状態の旭は寮への入寮を拒否した。次席合格ということで、学園側から多少の支援もあるとこのことだったが、旭は頑なに寮を拒んだ。
 空を飛んで数分、目的地には直ぐに到着した。早朝だというのにもう人の気配がする。それも数人ではない。扉の向こうからは大勢の人の気配がしてくる。ガチャりと扉を開き、旭は決して活発ではない声で挨拶をした。
「ちわーす」
「おう! 今日も来たか、旭君! 飯食ってくだろ!」
「はい」
 旭がやってきたのは『冒険者ギルド』。ノーチェスに限らず、あらゆる国からやってくる冒険者を手助けし、時には商人の護衛や魔獣の退治などの仕事を斡旋するような団体だ。
 しかし、冒険者ではないものが依頼を受けてはならない、というルールは存在しない。ある一定レベルまでなら、誰でも依頼を受けることができる。旭は冒険者ギルドで依頼を見つけては引き受け、その報酬で日々生活している。
「毎日助かります。この時間だと、どの店も開店前なんで」
「そんなこと気にすんな! 旭君のおかげで何とかこのギルドもやってけるんだから!」
 旭よりも二回りほど身長のデカい巨体のギルドマスターは旭を快く受け入れてくれている。旭が常連だからか、元の性格からか、毎日やってくる旭に朝食まで用意してくれている。
「旭君、まだ冒険者になる気はないのか?」
「俺はまだ学生ですよ。卒業したら考えてあげてもいいです」
「とはいっても、あのバウディアムスだろう? 卒業したら魔法使いになるんじゃないのか」
「必ずしもそうとは限りませんよ」
 いつも通り、冒険者に誘ってくるギルドマスターからの言葉を軽く受け流し、旭は朝食を詰め込む。すると、いつもの表情とは違う、神妙な面持ちでギルドマスターは旭に言った。
「そういえば、昨日ここで変な噂を耳にしたんだがね」
「へ〜、噂って?」
「最近、新入りの魔法使いたちが何者かによって暗殺される事件が多く起こってるらしくてな。なんでも……えーっと、なんだったかな。八……いや、七ナントカだったかな」
「聞いたことないな」
「まぁ、とにかく。旭君も気をつけてくれよ」
「ん、ご馳走様。これお代ね」
 受け取ろうとしないギルドマスターに無理やりお金を押し付けて、旭は冒険者ギルドを飛び出た。