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ズルいけど最強!

ー/ー



「エストレイラ」

「はっ、はい!」


 突如、ホームルームを終え、身支度をしているモニカにアステシアが話しかけてきた。


「今から寮を案内する。他の寮生も連れてこい」

「わ、わかりました!」


 元気よく受け入れたモニカだったが、1つ問題があった。それは、誰しも一度は経験があることだろう。爛漫と桜が咲く春の季節。顔ぶれは新しく、接点はない。まったく新しい環境である。この現状に、モニカは頭を悩ませる。それは一体なぜなのか。答えは簡単であった。


(……どうやって話しかけよう!)


 モニカは『ド』がつくほどの人見知りを発動していた。世間的に言えばモニカは、コミュニケーション能力に劣っている。いわゆるというやつだった。と言っても、それは初対面の相手に限った話であり、掴みさえあればモニカは誰とでも仲良くなれる。
 なぜ、そんな比較的人付き合いの良いモニカがコミュ障になってしまったのか、すべてはこの女のせいである。


「あれ、モニカまだ帰んないの?」


 パーシー・クラウディア。コミュニケーションの鬼。ひょっこりと扉から顔を覗かせてモニカに声をかける。


「パーシーって寮なんだっけ」

「ううん、私は寮希望じゃないよ」

「そっかぁ……」

「今度は何で困ってるの?」


 そう、正しく原因はこれである。甘々にモニカに手を貸してしまうパーシー。すべての原因はここにある。


「アステシア先生に頼まれちゃって。寮希望の生徒を集めてこい〜って」

「あ〜、私もそこまでは知らないかな。一緒に探そっか」


 パーシーはモニカのコミュ障を把握している。自分から声をかけることはまだしも、誰かから不意に声をかけられるだけで緊張して声も出せないほどの重症。この弱点を、パーシーが見逃すはずがない。すべては計算通り。コミュニケーション能力の値が終わっているモニカはパーシーの手を取らざるを得ない。
 と、なるはずであった。だが、パーシーの予想と反して、モニカの口から出たのは、計算外の言葉だった。


「いや、私一人でやるよ。私が頼まれた仕事だし、ちゃんとやりたい」

「……そっか。じゃあ私、先に帰るね!」

「うん、また明日」


 そう言ってパーシーは教室を走り去っていく。こうして、パーシーの『モニカ甘やかし作戦』は失敗に終わった。そんなことも知らず、モニカは寮希望の生徒リストに目を通した。


「9人か……結構多いかも……うん、頑張ろう!」


 駆け足でモニカは教室を出る。ここから、モニカの壮絶な戦いが始まる。


 *


 6階。2階にあるクラス・アステシアから歩いて5分。走って3分。既にモニカの息は切れていた。『寮生を集めてこい』、とは言われたものの、どこにいるのかなど検討がつかない。モニカが出した結論は、『端から端まで探し回る』だった。
 廊下を早歩きでスタスタと歩き周囲を見渡す。コミュ力は皆無だが礼儀はあるモニカは通り過ぎる先輩には必ず30度の角度で礼をしていく。


(あ、あれって)

「ん?」

「えっ、と。宮本さん!」


 公衆の場で堂々と刃物、しかも日本刀を持っている男はさぞ見つけやすかっただろう。鞘に納められているとはいえ危機感は感じる。背がそこそこ高い上に、制服の上から和服を羽織っているためすぐに見つかった。


「何か用かな?」

「アステシア先生から、寮の説明があるので、18時までに寮へ向かって下さい、との事です!」

「あぁ、わざわざ伝えにきてくれたんだね。ありがとう」


 自然な流れでモニカの髪を触ろうとする手を何者かが鷲掴みにする。


「許可なく女性の髪を触るのは失礼じゃないくて?」

「……い、いたた。ギブ、ギブ……」


 その正体が誰なのかは、あまりに特徴的なその髪型ですぐに分かった。耳が隠れるほど長く伸びた小麦色のサラサラの長髪。ふわりと自然を感じさせる爽やかな匂いが鼻腔をくすぐる。


「ヴェローニカさん!」

「……何?」


 少しイラついたような口調でヴェローニカは返事をする。


「えっと、寮の説明をするので……」

「さっきそこで聞いた。話はそれだけですか?」

「う、うん……」

「じゃあいいです」


 パッと国綱の腕を離し、廊下の向こう側へヴェローニカは歩いていく。逃げるように、モニカよりも少し大きな歩幅で姿勢よく歩くヴェローニカを、小さな歩幅でテトテトとモニカは追いかける。小走りになりつつも追いかけてくるモニカをヴェローニカが気にしないはずもなく、苛立ちは限界を超えて声を荒らげた。


「……なんで追いかけてくるんですか!」

「え……!? えっと、その……」

「もう用は済んだのでしょう?」

「う、うん! でも……」


 モニカはコミュニケーション能力に欠けている。だが、時として欠点というものは短所ではなく、長所になりうるものだ。


「私、ヴェローニカさんと仲良くなりたくて……」

「……はぁ?」

「で、でもね?! ヴェローニカさんのこと何にも知らないし、声かけたのも今日が初めてだから、どうすればいいのかわかんなくて……」

「……そんなことで、わざわざ追いかけてきたんですか?」

「う、うん。ごめんね……私、反対側行くから」

「待って」


 回りくどく共通点を探したり、遠回しに仲良くなろうとすると、かえって失敗するものだ。モニカは極度のコミュ障ではあるが、新しい環境になってから、友達作りに出遅れたことは1度もない。


「……連絡先、くらいは交換してあげます」

「い、いいの!?」

「べ、別にこれくらい、誰でもやってることでしょう?」


 たまには、直接相手に想いを伝えてみるのも、いいのかもしれないと、モニカは満面の笑みを浮かべた。


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「エストレイラ」
「はっ、はい!」
 突如、ホームルームを終え、身支度をしているモニカにアステシアが話しかけてきた。
「今から寮を案内する。他の寮生も連れてこい」
「わ、わかりました!」
 元気よく受け入れたモニカだったが、1つ問題があった。それは、誰しも一度は経験があることだろう。爛漫と桜が咲く春の季節。顔ぶれは新しく、接点はない。まったく新しい環境である。この現状に、モニカは頭を悩ませる。それは一体なぜなのか。答えは簡単であった。
(……どうやって話しかけよう!)
 モニカは『ド』がつくほどの人見知りを発動していた。世間的に言えばモニカは、コミュニケーション能力に劣っている。いわゆる《《コミュ障》》というやつだった。と言っても、それは初対面の相手に限った話であり、掴みさえあればモニカは誰とでも仲良くなれる。
 なぜ、そんな比較的人付き合いの良いモニカがコミュ障になってしまったのか、すべてはこの女のせいである。
「あれ、モニカまだ帰んないの?」
 パーシー・クラウディア。コミュニケーションの鬼。ひょっこりと扉から顔を覗かせてモニカに声をかける。
「パーシーって寮なんだっけ」
「ううん、私は寮希望じゃないよ」
「そっかぁ……」
「今度は何で困ってるの?」
 そう、正しく原因はこれである。甘々にモニカに手を貸してしまうパーシー。すべての原因はここにある。
「アステシア先生に頼まれちゃって。寮希望の生徒を集めてこい〜って」
「あ〜、私もそこまでは知らないかな。一緒に探そっか」
 パーシーはモニカのコミュ障を把握している。自分から声をかけることはまだしも、誰かから不意に声をかけられるだけで緊張して声も出せないほどの重症。この弱点を、パーシーが見逃すはずがない。すべては計算通り。コミュニケーション能力の値が終わっているモニカはパーシーの手を取らざるを得ない。
 と、なるはずであった。だが、パーシーの予想と反して、モニカの口から出たのは、計算外の言葉だった。
「いや、私一人でやるよ。私が頼まれた仕事だし、ちゃんとやりたい」
「……そっか。じゃあ私、先に帰るね!」
「うん、また明日」
 そう言ってパーシーは教室を走り去っていく。こうして、パーシーの『モニカ甘やかし作戦』は失敗に終わった。そんなことも知らず、モニカは寮希望の生徒リストに目を通した。
「9人か……結構多いかも……うん、頑張ろう!」
 駆け足でモニカは教室を出る。ここから、モニカの壮絶な戦いが始まる。
 *
 6階。2階にあるクラス・アステシアから歩いて5分。走って3分。既にモニカの息は切れていた。『寮生を集めてこい』、とは言われたものの、どこにいるのかなど検討がつかない。モニカが出した結論は、『端から端まで探し回る』だった。
 廊下を早歩きでスタスタと歩き周囲を見渡す。コミュ力は皆無だが礼儀はあるモニカは通り過ぎる先輩には必ず30度の角度で礼をしていく。
(あ、あれって)
「ん?」
「えっ、と。宮本さん!」
 公衆の場で堂々と刃物、しかも日本刀を持っている男はさぞ見つけやすかっただろう。鞘に納められているとはいえ危機感は感じる。背がそこそこ高い上に、制服の上から和服を羽織っているためすぐに見つかった。
「何か用かな?」
「アステシア先生から、寮の説明があるので、18時までに寮へ向かって下さい、との事です!」
「あぁ、わざわざ伝えにきてくれたんだね。ありがとう」
 自然な流れでモニカの髪を触ろうとする手を何者かが鷲掴みにする。
「許可なく女性の髪を触るのは失礼じゃないくて?」
「……い、いたた。ギブ、ギブ……」
 その正体が誰なのかは、あまりに特徴的なその髪型ですぐに分かった。耳が隠れるほど長く伸びた小麦色のサラサラの長髪。ふわりと自然を感じさせる爽やかな匂いが鼻腔をくすぐる。
「ヴェローニカさん!」
「……何?」
 少しイラついたような口調でヴェローニカは返事をする。
「えっと、寮の説明をするので……」
「さっきそこで聞いた。話はそれだけですか?」
「う、うん……」
「じゃあいいです」
 パッと国綱の腕を離し、廊下の向こう側へヴェローニカは歩いていく。逃げるように、モニカよりも少し大きな歩幅で姿勢よく歩くヴェローニカを、小さな歩幅でテトテトとモニカは追いかける。小走りになりつつも追いかけてくるモニカをヴェローニカが気にしないはずもなく、苛立ちは限界を超えて声を荒らげた。
「……なんで追いかけてくるんですか!」
「え……!? えっと、その……」
「もう用は済んだのでしょう?」
「う、うん! でも……」
 モニカはコミュニケーション能力に欠けている。だが、時として欠点というものは短所ではなく、長所になりうるものだ。
「私、ヴェローニカさんと仲良くなりたくて……」
「……はぁ?」
「で、でもね?! ヴェローニカさんのこと何にも知らないし、声かけたのも今日が初めてだから、どうすればいいのかわかんなくて……」
「……そんなことで、わざわざ追いかけてきたんですか?」
「う、うん。ごめんね……私、反対側行くから」
「待って」
 回りくどく共通点を探したり、遠回しに仲良くなろうとすると、かえって失敗するものだ。モニカは極度のコミュ障ではあるが、新しい環境になってから、友達作りに出遅れたことは1度もない。
「……連絡先、くらいは交換してあげます」
「い、いいの!?」
「べ、別にこれくらい、誰でもやってることでしょう?」
 たまには、直接相手に想いを伝えてみるのも、いいのかもしれないと、モニカは満面の笑みを浮かべた。