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獄蝶vs焔

ー/ー



「爆ぜろ、”獄蝶(ごくちょう)”」

「燃えろ焔!」


 2人の魔法がぶつかり合う。花火のように空が彩られ、火花を散らして炸裂する。絶え間なく放たれる獄蝶と焔の応酬。無限にも続くように思える獄蝶による攻撃が旭を襲う。


「ほらほら、防戦一方か?」

「うるせぇ!」


 旭の怒号と同時に焔の勢いが強まる。が、炸裂する獄蝶に相殺されるばかりで、獄蝶のジョカには届かない。


「旭はさぁ、確かに優秀だよ。私が見てきた魔法使いの中じゃ、かなり上位の実力だ」


 戦いの中で、獄蝶のジョカが急に語りかけてくる。旭が獄蝶による攻撃を防ぐので精一杯になっているというのに、獄蝶のジョカは指先1つで獄蝶を操り、旭の攻撃ものらりくらりと躱している。


「でも1番じゃない。才能には恵まれているけど、極東にいた頃から何にも変わっちゃいない。どうしてだと思う?」


 余裕そうに獄蝶のジョカが空を飛び回る。


「”炎獄(えんごく)”ッ!」

「”獄蝶”」


 緑豊かに育っていた草木が焦げていく。緩やかに、自然が燃やされて、破壊される。


「戦う理由だよ。復讐のためって言ってるけどね、お前の魔法が、そんなこと望んでないんだよ」

「魔法が? そんな訳ないだろ、魔法に意思があるってのかよ!」

「そういうことじゃないさ」

「じゃあどういう……」


 旭の言葉を遮るように、無数の獄蝶が飛びかかる。防御も、相殺も間に合うはずもなく、獄蝶の攻撃が旭に直撃する。


「痛っ……てぇな」

「お前、その魔法、何を成すために創り出した?」

「……そんなの、復讐のために」

「違うね。殺すための魔法が、こんなに(ぬる)い訳が無い」


 戦いは苛烈さを増す。焔の火力は更に増していき、獄蝶の数が目に見えて多くなる。次第に被弾も増えていき、旭に疲労が溜まっていく。旭が呼吸と整えようと獄蝶のジョカから距離を取った瞬間、それを追うように獄蝶が羽ばたく。


(まずッ……)


 けたたましい爆発音と散る火花。真っ黒に焦げた芝生が僅か燃えている。灰色の煙を掻き分けて、ボロボロになった旭が顔を出した。それを見て、獄蝶のジョカは続ける。


「魔力量、手数、炎の質、なによりが足りていない。こんな魔法で復讐が果たせるかよ」


 焔の魔法。それは、旭が0から創り出した魔法だ。獄蝶を元に創られた焔は、本来この程度の火力では無い。


「――じゃあ、魅せてやるよ。こっからが本番だ」


 旭が焔を纏う。瞬間、気流が荒れ、上に向かって風が吹きすさぶ。箒に乗っていた獄蝶のジョカは多少バランスを崩したが、それどころではなかった。


(……なんだ、あれは)


 目が離せない。視線の先では、先程とは比べ物にならないほど熱く、輝きを増した焔が揺れている。気流が変わるほどの火力。獄蝶と同等、あるいはそれ以上の熱量を持った焔を操り、旭は再び獄蝶のジョカと対峙する。


「これが、焔の本来の火力だ」


 焔の魔法は、火や炎の魔法とはまったく性質が異なる。単純な、元素を操る魔法だと思われがちな焔の魔法は、想像以上に複雑な構成で成り立っている。その1つが、だ。
 本来の元素を操る魔法は使用者の魔力量によって威力が変わる。これは、魔力によって元素を創っているからであり、当然、魔力の多い者が使えば威力は上がり、少ない者が使えば威力は下がる。これが、元素を操る魔法の基本だ。火や炎、水や雷はこの性質を持ち、同じように焔も同等の性質を持つだろうと、獄蝶のジョカは考えていた。


「焔はな、炎の上位魔法なんかじゃねぇんだよ」

(そうだ、あの魔法は……)


 だが、焔は獄蝶を元に創られた魔法だ。


(考えてみれば……さっきから私の獄蝶が相殺されていたのもおかしな話だ。火力も魔力も私が勝っているってのに)


 ならば、焔の魔法の威力は何をもって定められるのか。答えは簡単に導き出せた。


「……()か」

「焔は外に放出するだけじゃなく、内に熱を()()()()こともできるんだよ」

「……なるほど。防御だけしてるように見せかけて、実際は体の内に熱を溜めてたのか」

「正確にはちょっと違うけど、まぁそんなとこ。さぁ、続きをしようぜ」


 そう煽る旭の限界は近いようで、足元が覚束ないようだった。なんとか気合いで立っていられているだけだ。内に熱を溜め込むとは言っているが、そんなこと、簡単に出来ることではない。この時、旭は気がついていないが、既に体温は40度を超えていた。常人が耐えられる状態ではない。しかし、興奮によるアドレナリンの分泌と、この程度の体温では比べることのできないほどの熱を放つ獄蝶を前に、そんなことは気にならなかった。


(気がついているかい、旭)


 更なる体温の上昇により火力を増す焔。獄蝶のジョカは気がついていたが、まだ旭は無意識だったようで、狙いを定めるように獄蝶のジョカを見つめている。


(もう、復讐なんて考えちゃいないだろう)


 獄蝶と焔。第2ラウンドがはじまる。


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「爆ぜろ、”|獄蝶《ごくちょう》”」
「燃えろ焔!」
 2人の魔法がぶつかり合う。花火のように空が彩られ、火花を散らして炸裂する。絶え間なく放たれる獄蝶と焔の応酬。無限にも続くように思える獄蝶による攻撃が旭を襲う。
「ほらほら、防戦一方か?」
「うるせぇ!」
 旭の怒号と同時に焔の勢いが強まる。が、炸裂する獄蝶に相殺されるばかりで、獄蝶のジョカには届かない。
「旭はさぁ、確かに優秀だよ。私が見てきた魔法使いの中じゃ、かなり上位の実力だ」
 戦いの中で、獄蝶のジョカが急に語りかけてくる。旭が獄蝶による攻撃を防ぐので精一杯になっているというのに、獄蝶のジョカは指先1つで獄蝶を操り、旭の攻撃ものらりくらりと躱している。
「でも1番じゃない。才能には恵まれているけど、極東にいた頃から何にも変わっちゃいない。どうしてだと思う?」
 余裕そうに獄蝶のジョカが空を飛び回る。
「”|炎獄《えんごく》”ッ!」
「”獄蝶”」
 緑豊かに育っていた草木が焦げていく。緩やかに、自然が燃やされて、破壊される。
「戦う理由だよ。復讐のためって言ってるけどね、お前の魔法が、そんなこと望んでないんだよ」
「魔法が? そんな訳ないだろ、魔法に意思があるってのかよ!」
「そういうことじゃないさ」
「じゃあどういう……」
 旭の言葉を遮るように、無数の獄蝶が飛びかかる。防御も、相殺も間に合うはずもなく、獄蝶の攻撃が旭に直撃する。
「痛っ……てぇな」
「お前、その魔法、何を成すために創り出した?」
「……そんなの、復讐のために」
「違うね。殺すための魔法が、こんなに|温《ぬる》い訳が無い」
 戦いは苛烈さを増す。焔の火力は更に増していき、獄蝶の数が目に見えて多くなる。次第に被弾も増えていき、旭に疲労が溜まっていく。旭が呼吸と整えようと獄蝶のジョカから距離を取った瞬間、それを追うように獄蝶が羽ばたく。
(まずッ……)
 けたたましい爆発音と散る火花。真っ黒に焦げた芝生が僅か燃えている。灰色の煙を掻き分けて、ボロボロになった旭が顔を出した。それを見て、獄蝶のジョカは続ける。
「魔力量、手数、炎の質、なにより《《火力》》が足りていない。こんな魔法で復讐が果たせるかよ」
 焔の魔法。それは、旭が0から創り出した魔法だ。獄蝶を元に創られた焔は、本来この程度の火力では無い。
「――じゃあ、魅せてやるよ。こっからが本番だ」
 旭が焔を纏う。瞬間、気流が荒れ、上に向かって風が吹きすさぶ。箒に乗っていた獄蝶のジョカは多少バランスを崩したが、それどころではなかった。
(……なんだ、あれは)
 目が離せない。視線の先では、先程とは比べ物にならないほど熱く、輝きを増した焔が揺れている。気流が変わるほどの火力。獄蝶と同等、あるいはそれ以上の熱量を持った焔を操り、旭は再び獄蝶のジョカと対峙する。
「これが、焔の本来の火力だ」
 焔の魔法は、火や炎の魔法とはまったく性質が異なる。単純な、元素を操る魔法だと思われがちな焔の魔法は、想像以上に複雑な構成で成り立っている。その1つが、《《火力》》だ。
 本来の元素を操る魔法は使用者の魔力量によって威力が変わる。これは、魔力によって元素を創っているからであり、当然、魔力の多い者が使えば威力は上がり、少ない者が使えば威力は下がる。これが、元素を操る魔法の基本だ。火や炎、水や雷はこの性質を持ち、同じように焔も同等の性質を持つだろうと、獄蝶のジョカは考えていた。
「焔はな、炎の上位魔法なんかじゃねぇんだよ」
(そうだ、あの魔法は……)
 だが、焔は獄蝶を元に創られた魔法だ。
(考えてみれば……さっきから私の獄蝶が相殺されていたのもおかしな話だ。火力も魔力も私が勝っているってのに)
 ならば、焔の魔法の威力は何をもって定められるのか。答えは簡単に導き出せた。
「……|熱《・》か」
「焔は外に放出するだけじゃなく、内に熱を|溜《・》|め《・》|込《・》|む《・》こともできるんだよ」
「……なるほど。防御だけしてるように見せかけて、実際は体の内に熱を溜めてたのか」
「正確にはちょっと違うけど、まぁそんなとこ。さぁ、続きをしようぜ」
 そう煽る旭の限界は近いようで、足元が覚束ないようだった。なんとか気合いで立っていられているだけだ。内に熱を溜め込むとは言っているが、そんなこと、簡単に出来ることではない。この時、旭は気がついていないが、既に体温は40度を超えていた。常人が耐えられる状態ではない。しかし、興奮によるアドレナリンの分泌と、この程度の体温では比べることのできないほどの熱を放つ獄蝶を前に、そんなことは気にならなかった。
(気がついているかい、旭)
 更なる体温の上昇により火力を増す焔。獄蝶のジョカは気がついていたが、まだ旭は無意識だったようで、狙いを定めるように獄蝶のジョカを見つめている。
(もう、復讐なんて考えちゃいないだろう)
 獄蝶と焔。第2ラウンドがはじまる。