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幕間 モニカの魔法

ー/ー



「では、行きます!」

「さぁ来い!」


 目を瞑り、眉間に皺を寄せるパーシーに向かって、モニカは思い切り魔法を叩き込む。辺り一帯は眩い光に包まれ、見守っていたアンヘルも思わず目を細める。しかし、その壮大な光とは裏腹に、モニカの両手から『ぽすん』と馬鹿らしい音を立てて白い煙が立つ。しばらく経っても結局何が起こるわけでもなく、パーシーはわざとらしくため息をついた。


「なにやってんのさ……」

「私はちゃんとやってるつもりなんです!」

「も〜、バウディアムスから招待状が来たからって、それは通過点に過ぎないんだから……しっかりしてよね」

「分かってる!」


 試験に向けて、モニカはより一層、魔法の練習に厚く取り組むようになった。時には今日のようにパーシーを実験台にしたり、時には崖から飛び降り、時にはビー玉に向かって意味無く念を送ることもあった。成果はまだひとつもない。


「いい? モニカ。魔法はイメージだよ。モニカ自身が、自分の魔法をイメージしなきゃ使えないの」

「そうは言われても……」

「モーニーカー!!!」

「わっ。ソラ! 起きてきたの?」

「おはようございます!」


 頭を悩ませるモニカにソラが突撃してくる。2階から飛び降りてきたようだが、意にも介さずモニカにすりついてきた。最近はあごと耳の付け根を触られるのがお気に入りらしく、ネコみたいに喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶようになった。


「今撫でてるのが例の子? 本当に見えないわ」

「パーシーにもこの可愛さが伝わればなぁ〜!」

「ほらほら、そんなことより練習! 実技で魅せなきゃ合格なんて夢のまた夢だよ」


 バウディアムスの試験は筆記、実技、自己表現の3つに分けられている。筆記と実技は言わずもがな、度々超難問が出題されて話題になる筆記試験と、対人戦も兼ねた実技試験。そして、自己表現。いわゆる『面接』と言うやつだ。
 この3つの中でも、特に重要視されるのが実技試験。どれだけ筆記の評価と自己表現の評価が高くても、実技試験でそれなりの結果を残せなければ合格はありえないと言われている。


「何かお悩みですか?」

「うん……魔法のイメージをしないといけなくて……」

「? そんなこと、モニカはもうできてるではありませんか」

「何それ。どういうこと?」


 会話に置いてけぼりのパーシーは頭にハテナマークを作って遊んでいる。曰く、重力操作の応用で空間を歪めているらしいが、モニカには理解ができなかった。優秀な魔法使いには、想像力が豊かな人が多い。パーシーも、もちろんその1人ではある。魔法の練習をする度に『頭が固いよ』と言われ続けているモニカだが、俗に言う『常人』のモニカからすれば、パーシーの考えの方が異常なのだ。


「詳しく教えて! 私にもできてた!?」

「だ……だって、モニカは言っていたじゃないですか。『魔法使いは奇跡を起こす』って」


 その瞬間、詰まっていた何かが解消されたみたいに、モニカの思考が澄み渡る。どうして今まで忘れていたのだろうと疑問に思うほど初歩的なものだった。思わずモニカの顔に笑みがこぼれる。


(そうだよ。魔法使いは……ううん。私は、奇跡を起こせる!)


 頭が固いと言われても仕方がない。こんな簡単な事で迷っていたのかと笑ってしまう。イメージは完璧だった。死の寸前から蘇ったモニカにとって、奇跡ほどイメージしやすいものはない。自信に満ち溢れる。今なら、なんでもできる気がした。


「お、なんか吹っ切れた?」

「うん。多分、人生最高潮かも」

「いいね、ノリノリでいっちゃおう」


 再びパーシーの前に立ち、深呼吸をする。大事なのは、イメージだ。何度も頭の中で、を反復する。なんでもできる気がする魔法の言葉。安心できる、モニカだけの合言葉。


「行くよ!」


 星が輝く。ノーチェスで、ただ1人を照らしている。まるで舞台の主役みたいに、スポットライトの明かりのようにモニカが星の光で包まれる。


「”星の奇跡(ステラ)”!!!!」


 奇跡が、星と共に降り注ぐ。パーシーに向かって放たれたその魔法は、少しづつ軌道を変え、パーシーの足元に着弾する。その場にいた全員が、何かを感じでいた。大地が揺れている。誇張でも、比喩でもなく。何かが来る。その直後、既に変化は起きていた。
 光の玉の着弾点から、その周囲にかけて、目に見えて景色が変わっていく。草木がどんどんと背を伸ばしていく。それだけではない。花々が咲き誇る。まだ開花しない花や、この地域では群生しないはずの花、見たこともないほど珍しい花まで辺り一面に乱れ咲く。


「うわっ! なにこれ!?」

「すっごいです、モニカ!」

「あら、綺麗なお花」


 様々な反応をする中、1番驚いていたのはモニカ本人だった。あまりの驚きに腰を抜かして倒れ込む。今までのように漠然とではなく、何かを理解したかのように、月を、星を見た。


(できた……使えた!)


 ふるふると、歓喜で身体が打ち震える。何年かかっただろうか。思えば、ここまで長かった。約15年。パーシーと比べれば、およそ10年の差。ようやく近づくことができた。


「はい、モニカ。おめでとう」


 パーシーがいくつかの花を摘んで花束を作り、モニカに差し出す。


「『星の魔法』ってとこかな? 奇跡を起こす魔法かぁ〜……とんだ理不尽魔法使えるようになったね……ってどした?」


 パーシーが手を差し伸べても、モニカは握り返してこなかった。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯きながら小さな声でモニカは言った。


「ま、魔力切れちゃった……」


 その言葉を聞いてパーシーは抱腹絶倒した。ひとしきり笑ったあとも度々思い出し笑いをして、数日間馬鹿にされたのは言うまでもない。この日のことは「モニカ、初魔力切れで動けなくなる」というタイトルと共に日記に刻まれた。
 何はともあれ、『奇跡』によって魔法が使えるようになったモニカはそれからも魔法の練習に励むようになった。もちろん筆記の勉強も欠かさず、バウディアムスの試験勉強は順調に進んでいく。


 そして、数ヶ月後。春の陽気に誘われて、ソラの毛並みは一層ボサボサになり、遂に受験シーズン。バウディアムス魔法学園の試験が始まる――


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「では、行きます!」
「さぁ来い!」
 目を瞑り、眉間に皺を寄せるパーシーに向かって、モニカは思い切り魔法を叩き込む。辺り一帯は眩い光に包まれ、見守っていたアンヘルも思わず目を細める。しかし、その壮大な光とは裏腹に、モニカの両手から『ぽすん』と馬鹿らしい音を立てて白い煙が立つ。しばらく経っても結局何が起こるわけでもなく、パーシーはわざとらしくため息をついた。
「なにやってんのさ……」
「私はちゃんとやってるつもりなんです!」
「も〜、バウディアムスから招待状が来たからって、それは通過点に過ぎないんだから……しっかりしてよね」
「分かってる!」
 試験に向けて、モニカはより一層、魔法の練習に厚く取り組むようになった。時には今日のようにパーシーを実験台にしたり、時には崖から飛び降り、時にはビー玉に向かって意味無く念を送ることもあった。成果はまだひとつもない。
「いい? モニカ。魔法はイメージだよ。モニカ自身が、自分の魔法をイメージしなきゃ使えないの」
「そうは言われても……」
「モーニーカー!!!」
「わっ。ソラ! 起きてきたの?」
「おはようございます!」
 頭を悩ませるモニカにソラが突撃してくる。2階から飛び降りてきたようだが、意にも介さずモニカにすりついてきた。最近はあごと耳の付け根を触られるのがお気に入りらしく、ネコみたいに喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶようになった。
「今撫でてるのが例の子? 本当に見えないわ」
「パーシーにもこの可愛さが伝わればなぁ〜!」
「ほらほら、そんなことより練習! 実技で魅せなきゃ合格なんて夢のまた夢だよ」
 バウディアムスの試験は筆記、実技、自己表現の3つに分けられている。筆記と実技は言わずもがな、度々超難問が出題されて話題になる筆記試験と、対人戦も兼ねた実技試験。そして、自己表現。いわゆる『面接』と言うやつだ。
 この3つの中でも、特に重要視されるのが実技試験。どれだけ筆記の評価と自己表現の評価が高くても、実技試験でそれなりの結果を残せなければ合格はありえないと言われている。
「何かお悩みですか?」
「うん……魔法のイメージをしないといけなくて……」
「? そんなこと、モニカはもうできてるではありませんか」
「何それ。どういうこと?」
 会話に置いてけぼりのパーシーは頭にハテナマークを作って遊んでいる。曰く、重力操作の応用で空間を歪めているらしいが、モニカには理解ができなかった。優秀な魔法使いには、想像力が豊かな人が多い。パーシーも、もちろんその1人ではある。魔法の練習をする度に『頭が固いよ』と言われ続けているモニカだが、俗に言う『常人』のモニカからすれば、パーシーの考えの方が異常なのだ。
「詳しく教えて! 私にもできてた!?」
「だ……だって、モニカは言っていたじゃないですか。『魔法使いは奇跡を起こす』って」
 その瞬間、詰まっていた何かが解消されたみたいに、モニカの思考が澄み渡る。どうして今まで忘れていたのだろうと疑問に思うほど初歩的なものだった。思わずモニカの顔に笑みがこぼれる。
(そうだよ。魔法使いは……ううん。私は、奇跡を起こせる!)
 頭が固いと言われても仕方がない。こんな簡単な事で迷っていたのかと笑ってしまう。イメージは完璧だった。死の寸前から蘇ったモニカにとって、奇跡ほどイメージしやすいものはない。自信に満ち溢れる。今なら、なんでもできる気がした。
「お、なんか吹っ切れた?」
「うん。多分、人生最高潮かも」
「いいね、ノリノリでいっちゃおう」
 再びパーシーの前に立ち、深呼吸をする。大事なのは、イメージだ。何度も頭の中で、《《あの言葉》》を反復する。なんでもできる気がする魔法の言葉。安心できる、モニカだけの合言葉。
「行くよ!」
 星が輝く。ノーチェスで、ただ1人を照らしている。まるで舞台の主役みたいに、スポットライトの明かりのようにモニカが星の光で包まれる。
「”|星の奇跡《ステラ》”!!!!」
 奇跡が、星と共に降り注ぐ。パーシーに向かって放たれたその魔法は、少しづつ軌道を変え、パーシーの足元に着弾する。その場にいた全員が、何かを感じでいた。大地が揺れている。誇張でも、比喩でもなく。何かが来る。その直後、既に変化は起きていた。
 光の玉の着弾点から、その周囲にかけて、目に見えて景色が変わっていく。草木がどんどんと背を伸ばしていく。それだけではない。花々が咲き誇る。まだ開花しない花や、この地域では群生しないはずの花、見たこともないほど珍しい花まで辺り一面に乱れ咲く。
「うわっ! なにこれ!?」
「すっごいです、モニカ!」
「あら、綺麗なお花」
 様々な反応をする中、1番驚いていたのはモニカ本人だった。あまりの驚きに腰を抜かして倒れ込む。今までのように漠然とではなく、何かを理解したかのように、月を、星を見た。
(できた……使えた!)
 ふるふると、歓喜で身体が打ち震える。何年かかっただろうか。思えば、ここまで長かった。約15年。パーシーと比べれば、およそ10年の差。ようやく近づくことができた。
「はい、モニカ。おめでとう」
 パーシーがいくつかの花を摘んで花束を作り、モニカに差し出す。
「『星の魔法』ってとこかな? 奇跡を起こす魔法かぁ〜……とんだ理不尽魔法使えるようになったね……ってどした?」
 パーシーが手を差し伸べても、モニカは握り返してこなかった。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯きながら小さな声でモニカは言った。
「ま、魔力切れちゃった……」
 その言葉を聞いてパーシーは抱腹絶倒した。ひとしきり笑ったあとも度々思い出し笑いをして、数日間馬鹿にされたのは言うまでもない。この日のことは「モニカ、初魔力切れで動けなくなる」というタイトルと共に日記に刻まれた。
 何はともあれ、『奇跡』によって魔法が使えるようになったモニカはそれからも魔法の練習に励むようになった。もちろん筆記の勉強も欠かさず、バウディアムスの試験勉強は順調に進んでいく。
 そして、数ヶ月後。春の陽気に誘われて、ソラの毛並みは一層ボサボサになり、遂に受験シーズン。バウディアムス魔法学園の試験が始まる――