第53話 毒霧
ー/ー この村に感染爆発が発生したのは三ヶ月前。オニキスが【誕生日】とやらを待っていたのも三ヶ月。
時期が重なっている辺り予想は出来たが、改めて人為的に感染爆発を引き起こしたのだと答えられると、モーズは怒りで目の前が真っ白になりそうだった。
「オニキスと、言ったか」
「そうだよっ! 名前を覚えて貰えて嬉し〜っ!」
「私は君を、許さない」
ペガサス教団の名と信仰対象、そして活動内容は噂には聞いていた。しかし実際、目の前でバイオテロの惨事を突き付けられてしまうと、モーズは冷静でいられなくなりそうになる。
怒っているのはユストゥスとて同じようで、彼はまだ状況を飲み込め切れていないクロロホルムに指示を出した。
「クロロホルム、奴を捕えろ!」
「あっ、はいっ! ユストゥス先生!」
困惑は残っているものの指示を与えられればクロロホルムはすかさず動き出す。
床を蹴り、オニキスに急接近し刃のない槍を向ける。恐らく麻酔効果で眠らせる気だ。足を負傷し動けないオニキスは、その攻撃を逃げられないだろう。
「えーえー? ここで捕まっちゃうのは困る〜っ」
しかし彼は特別、慌てた様子もなくちょいと指先を動かし
ゴッ!
大木と同じ程の太さになった菌糸の束、菌糸体をクロロホルムの横腹にぶち当てて彼を壁に叩き付けた。
「う……っ!」
「クロロホルムっ!」
壁に叩き付けられた衝撃からクロロホルムは短い悲鳴をあげてしまったが、大した外傷もなく槍を支えに立ち上がる。
しかしオニキスの周りは〈根〉から伸びた菌糸体が格子のように囲っていて、迂闊に近付いても弾き飛ばされる事が察せられた。
「僕はまだまだ遊び足りない。遊び相手になってくれる子が【誕生日】を迎えてくれるまで、頑張らなくっちゃあ」
ぐぐぐぐ
オニキスが、立ち上がった。穴の空いた両足からは、未だ血が流れ続けているのにも関わらず。
そもそも出力は落としていたとはいえ即効性であるニコチンの毒素を受けて、平然としていられるのはおかしい。モーズは信じられない光景に困惑した。
「君は、一体……?」
「凄いでしょう? 僕は誕生日を迎えられたいい子なんだ、『珊瑚サマ』に近付けた《神の御使い》なんだ!」
床に転がる感染者の菌糸が〈根〉にどんどん集まり、質量を増してゆく。
太く艶やかな菌糸体が幾つも連なり、〈根〉の青年はその重さから身体が不自然に引き延ばされ、本来なら曲がらない方向に手足がひん曲がっていっている。
「そんな《神の御使い》が未成熟子を導いてあげるのは、当たり前の事でしょう?」
菌糸体を作り肥大化してゆく〈根〉を自慢げに眺めながら、オニキスは笑った。
すると今までただ床に転がっていた感染者が、糸で引っ張られたマリオネットの様に続々と起き上がり、こちらに迫ってくる。
その数は、30はくだらない。
「Scheiße! ニコチン! 緊急事態だ、毒霧を撒け!!」
「えっ、本気ですか先生!?」
「マージか。お前ぇら保つのか?」
「返事は短く!!」
ユストゥスの指示にニコチンは肩をすくめ、口に咥えていたタバコをぱくんと飲み込んだ。
「Ja、ってか」
ふー……
ニコチンが吐いた白い煙は空へ登って消え……ない。
白い煙は茶褐色へ染まってゆき、低空を漂い時間経過と共にどんどん溜まってゆく。その煙に臭いはない。しかし煙に囲われた感染者は次々に苦しみ出し、その場で痙攣を始めた。
ニコチンの、中毒症状だ。
一瞬で30人を越える感染者の身動きを封じてしまった。しかしオニキスには効いていないようで、動きが悪くなった感染者達を見て頬を膨らませている。
「つまんない、つまんない〜っ!」
足が無傷だったのならば地団駄を踏んでいた事だろう。
未就学の幼子のようなオニキス。彼は思い通りにならない現状を散々嘆いた後、不意にモーズの方を見た。
そして新しいオモチャを見付けた子供のように、ニヤァと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ! ここもう飽きちゃったからさ、僕ともっと楽しい所に行こうよっ!」
そしてその悪戯っぽい笑みが、モーズの眼前に迫ってくる。
「……!?」
瞬間移動かと見紛う程に速く、オニキスはモーズの目の前に移動していた。
理解が追い付かず状況を飲み込むまでの一瞬の隙に、モーズはオニキスに腕を鷲掴みにされてしまう。その力は細い腕からは考えられないほど強く、振り解けない。
「余所見たァ余裕だな」
ジャキリと、ニコチンがオニキスに向けて真っ直ぐ拳銃を向けて言う。〈根〉に向けている拳銃とは別の拳銃だ。
左手で構えている、2丁目。
「余所見してないもん」
しかしニコチンが撃つ直前にその拳銃は壁から生えた菌糸体に弾き飛ばされ、オニキスには当たらず代わりに床へ大穴を空けた。
「チッ! 後ろに目ん玉付いてるってか!?」
「じゃ行こっか〜」
目の前で穴が空いた事を良いことに、オニキスはモーズを引っ張ってその中に入ってゆく。
それを見たニコチンもまた、一切の躊躇なく二人を追って穴へ降り立った。
「モーズ! ニコチン!」
「先生危ないです! 崩落に巻き込まれますっ!!」
ユストゥスもそれに続こうとしたが、すかさず彼の元に駆け寄ったクロロホルムに止められる。
床に穴が空いた事と、屋根裏部屋中に菌糸体が増えてゆき、〈根〉が肥大化。それに伴い重量が更に増し、屋根も壁も床も崩壊しそうな程に不安定になっているからだ。
「それに、今は目の前の事に集中しなくては!」
故に床が壊れる前に、攻撃が届かなくなる前に、菌糸を繭のように纏い『大型』となった〈根〉を片さなくてはならない。
クロロホルムは槍を構え、ユストゥスにそう訴えた。
「くっ、私が君に諭されるとは情けない……! クロロホルム、今から〈根〉の処分作業に入る! 迅速に遂行せよ!」
「Ja!」
時期が重なっている辺り予想は出来たが、改めて人為的に感染爆発を引き起こしたのだと答えられると、モーズは怒りで目の前が真っ白になりそうだった。
「オニキスと、言ったか」
「そうだよっ! 名前を覚えて貰えて嬉し〜っ!」
「私は君を、許さない」
ペガサス教団の名と信仰対象、そして活動内容は噂には聞いていた。しかし実際、目の前でバイオテロの惨事を突き付けられてしまうと、モーズは冷静でいられなくなりそうになる。
怒っているのはユストゥスとて同じようで、彼はまだ状況を飲み込め切れていないクロロホルムに指示を出した。
「クロロホルム、奴を捕えろ!」
「あっ、はいっ! ユストゥス先生!」
困惑は残っているものの指示を与えられればクロロホルムはすかさず動き出す。
床を蹴り、オニキスに急接近し刃のない槍を向ける。恐らく麻酔効果で眠らせる気だ。足を負傷し動けないオニキスは、その攻撃を逃げられないだろう。
「えーえー? ここで捕まっちゃうのは困る〜っ」
しかし彼は特別、慌てた様子もなくちょいと指先を動かし
ゴッ!
大木と同じ程の太さになった菌糸の束、菌糸体をクロロホルムの横腹にぶち当てて彼を壁に叩き付けた。
「う……っ!」
「クロロホルムっ!」
壁に叩き付けられた衝撃からクロロホルムは短い悲鳴をあげてしまったが、大した外傷もなく槍を支えに立ち上がる。
しかしオニキスの周りは〈根〉から伸びた菌糸体が格子のように囲っていて、迂闊に近付いても弾き飛ばされる事が察せられた。
「僕はまだまだ遊び足りない。遊び相手になってくれる子が【誕生日】を迎えてくれるまで、頑張らなくっちゃあ」
ぐぐぐぐ
オニキスが、立ち上がった。穴の空いた両足からは、未だ血が流れ続けているのにも関わらず。
そもそも出力は落としていたとはいえ即効性であるニコチンの毒素を受けて、平然としていられるのはおかしい。モーズは信じられない光景に困惑した。
「君は、一体……?」
「凄いでしょう? 僕は誕生日を迎えられたいい子なんだ、『珊瑚サマ』に近付けた《神の御使い》なんだ!」
床に転がる感染者の菌糸が〈根〉にどんどん集まり、質量を増してゆく。
太く艶やかな菌糸体が幾つも連なり、〈根〉の青年はその重さから身体が不自然に引き延ばされ、本来なら曲がらない方向に手足がひん曲がっていっている。
「そんな《神の御使い》が未成熟子を導いてあげるのは、当たり前の事でしょう?」
菌糸体を作り肥大化してゆく〈根〉を自慢げに眺めながら、オニキスは笑った。
すると今までただ床に転がっていた感染者が、糸で引っ張られたマリオネットの様に続々と起き上がり、こちらに迫ってくる。
その数は、30はくだらない。
「Scheiße! ニコチン! 緊急事態だ、毒霧を撒け!!」
「えっ、本気ですか先生!?」
「マージか。お前ぇら保つのか?」
「返事は短く!!」
ユストゥスの指示にニコチンは肩をすくめ、口に咥えていたタバコをぱくんと飲み込んだ。
「Ja、ってか」
ふー……
ニコチンが吐いた白い煙は空へ登って消え……ない。
白い煙は茶褐色へ染まってゆき、低空を漂い時間経過と共にどんどん溜まってゆく。その煙に臭いはない。しかし煙に囲われた感染者は次々に苦しみ出し、その場で痙攣を始めた。
ニコチンの、中毒症状だ。
一瞬で30人を越える感染者の身動きを封じてしまった。しかしオニキスには効いていないようで、動きが悪くなった感染者達を見て頬を膨らませている。
「つまんない、つまんない〜っ!」
足が無傷だったのならば地団駄を踏んでいた事だろう。
未就学の幼子のようなオニキス。彼は思い通りにならない現状を散々嘆いた後、不意にモーズの方を見た。
そして新しいオモチャを見付けた子供のように、ニヤァと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ! ここもう飽きちゃったからさ、僕ともっと楽しい所に行こうよっ!」
そしてその悪戯っぽい笑みが、モーズの眼前に迫ってくる。
「……!?」
瞬間移動かと見紛う程に速く、オニキスはモーズの目の前に移動していた。
理解が追い付かず状況を飲み込むまでの一瞬の隙に、モーズはオニキスに腕を鷲掴みにされてしまう。その力は細い腕からは考えられないほど強く、振り解けない。
「余所見たァ余裕だな」
ジャキリと、ニコチンがオニキスに向けて真っ直ぐ拳銃を向けて言う。〈根〉に向けている拳銃とは別の拳銃だ。
左手で構えている、2丁目。
「余所見してないもん」
しかしニコチンが撃つ直前にその拳銃は壁から生えた菌糸体に弾き飛ばされ、オニキスには当たらず代わりに床へ大穴を空けた。
「チッ! 後ろに目ん玉付いてるってか!?」
「じゃ行こっか〜」
目の前で穴が空いた事を良いことに、オニキスはモーズを引っ張ってその中に入ってゆく。
それを見たニコチンもまた、一切の躊躇なく二人を追って穴へ降り立った。
「モーズ! ニコチン!」
「先生危ないです! 崩落に巻き込まれますっ!!」
ユストゥスもそれに続こうとしたが、すかさず彼の元に駆け寄ったクロロホルムに止められる。
床に穴が空いた事と、屋根裏部屋中に菌糸体が増えてゆき、〈根〉が肥大化。それに伴い重量が更に増し、屋根も壁も床も崩壊しそうな程に不安定になっているからだ。
「それに、今は目の前の事に集中しなくては!」
故に床が壊れる前に、攻撃が届かなくなる前に、菌糸を繭のように纏い『大型』となった〈根〉を片さなくてはならない。
クロロホルムは槍を構え、ユストゥスにそう訴えた。
「くっ、私が君に諭されるとは情けない……! クロロホルム、今から〈根〉の処分作業に入る! 迅速に遂行せよ!」
「Ja!」
作品を応援する
この村に|感染爆発《パンデミック》が発生したのは三ヶ月前。オニキスが【誕生日】とやらを待っていたのも三ヶ月。
時期が重なっている辺り予想は出来たが、改めて人為的に|感染爆発《パンデミック》を引き起こしたのだと答えられると、モーズは怒りで目の前が真っ白になりそうだった。
時期が重なっている辺り予想は出来たが、改めて人為的に|感染爆発《パンデミック》を引き起こしたのだと答えられると、モーズは怒りで目の前が真っ白になりそうだった。
「オニキスと、言ったか」
「そうだよっ! 名前を覚えて貰えて嬉し〜っ!」
「私は君を、許さない」
「そうだよっ! 名前を覚えて貰えて嬉し〜っ!」
「私は君を、許さない」
ペガサス教団の名と信仰対象、そして活動内容は噂には聞いていた。しかし実際、目の前でバイオテロの惨事を突き付けられてしまうと、モーズは冷静でいられなくなりそうになる。
怒っているのはユストゥスとて同じようで、彼はまだ状況を飲み込め切れていないクロロホルムに指示を出した。
怒っているのはユストゥスとて同じようで、彼はまだ状況を飲み込め切れていないクロロホルムに指示を出した。
「クロロホルム、奴を捕えろ!」
「あっ、はいっ! ユストゥス先生!」
「あっ、はいっ! ユストゥス先生!」
困惑は残っているものの指示を与えられればクロロホルムはすかさず動き出す。
床を蹴り、オニキスに急接近し刃のない槍を向ける。恐らく麻酔効果で眠らせる気だ。足を負傷し動けないオニキスは、その攻撃を逃げられないだろう。
床を蹴り、オニキスに急接近し刃のない槍を向ける。恐らく麻酔効果で眠らせる気だ。足を負傷し動けないオニキスは、その攻撃を逃げられないだろう。
「えーえー? ここで捕まっちゃうのは困る〜っ」
しかし彼は特別、慌てた様子もなくちょいと指先を動かし
ゴッ!
大木と同じ程の太さになった菌糸の束、|菌《・》|糸《・》|体《・》をクロロホルムの横腹にぶち当てて彼を壁に叩き付けた。
ゴッ!
大木と同じ程の太さになった菌糸の束、|菌《・》|糸《・》|体《・》をクロロホルムの横腹にぶち当てて彼を壁に叩き付けた。
「う……っ!」
「クロロホルムっ!」
「クロロホルムっ!」
壁に叩き付けられた衝撃からクロロホルムは短い悲鳴をあげてしまったが、大した外傷もなく槍を支えに立ち上がる。
しかしオニキスの周りは〈根〉から伸びた菌糸体が格子のように囲っていて、迂闊に近付いても弾き飛ばされる事が察せられた。
しかしオニキスの周りは〈根〉から伸びた菌糸体が格子のように囲っていて、迂闊に近付いても弾き飛ばされる事が察せられた。
「僕はまだまだ遊び足りない。遊び相手になってくれる子が【誕生日】を迎えてくれるまで、頑張らなくっちゃあ」
ぐぐぐぐ
オニキスが、立ち上がった。穴の空いた両足からは、未だ血が流れ続けているのにも関わらず。
そもそも出力は落としていたとはいえ即効性であるニコチンの毒素を受けて、平然としていられるのはおかしい。モーズは信じられない光景に困惑した。
オニキスが、立ち上がった。穴の空いた両足からは、未だ血が流れ続けているのにも関わらず。
そもそも出力は落としていたとはいえ即効性であるニコチンの毒素を受けて、平然としていられるのはおかしい。モーズは信じられない光景に困惑した。
「君は、一体……?」
「凄いでしょう? 僕は|誕《・》|生《・》|日《・》を迎えられたいい子なんだ、『珊瑚サマ』に近付けた《神の御使い》なんだ!」
「凄いでしょう? 僕は|誕《・》|生《・》|日《・》を迎えられたいい子なんだ、『珊瑚サマ』に近付けた《神の御使い》なんだ!」
床に転がる感染者の菌糸が〈根〉にどんどん集まり、質量を増してゆく。
太く艶やかな菌糸体が幾つも連なり、〈根〉の青年はその重さから身体が不自然に引き延ばされ、本来なら曲がらない方向に手足がひん曲がっていっている。
太く艶やかな菌糸体が幾つも連なり、〈根〉の青年はその重さから身体が不自然に引き延ばされ、本来なら曲がらない方向に手足がひん曲がっていっている。
「そんな《神の御使い》が未成熟子を導いてあげるのは、当たり前の事でしょう?」
菌糸体を作り肥大化してゆく〈根〉を自慢げに眺めながら、オニキスは笑った。
すると今までただ床に転がっていた感染者が、糸で引っ張られたマリオネットの様に続々と起き上がり、こちらに迫ってくる。
その数は、30はくだらない。
すると今までただ床に転がっていた感染者が、糸で引っ張られたマリオネットの様に続々と起き上がり、こちらに迫ってくる。
その数は、30はくだらない。
「|Scheiße《クソッ》! ニコチン! 緊急事態だ、毒霧を撒け!!」
「えっ、本気ですか先生!?」
「マージか。お前ぇら|保《・》|つ《・》のか?」
「返事は短く!!」
「えっ、本気ですか先生!?」
「マージか。お前ぇら|保《・》|つ《・》のか?」
「返事は短く!!」
ユストゥスの指示にニコチンは肩をすくめ、口に咥えていたタバコをぱくんと飲み込んだ。
「|Ja《ヤー》、ってか」
ふー……
ニコチンが吐いた白い煙は空へ登って消え……ない。
白い煙は茶褐色へ染まってゆき、低空を漂い時間経過と共にどんどん溜まってゆく。その煙に臭いはない。しかし煙に囲われた感染者は次々に苦しみ出し、その場で痙攣を始めた。
ニコチンの、中毒症状だ。
一瞬で30人を越える感染者の身動きを封じてしまった。しかしオニキスには効いていないようで、動きが悪くなった感染者達を見て頬を膨らませている。
ニコチンが吐いた白い煙は空へ登って消え……ない。
白い煙は茶褐色へ染まってゆき、低空を漂い時間経過と共にどんどん溜まってゆく。その煙に臭いはない。しかし煙に囲われた感染者は次々に苦しみ出し、その場で痙攣を始めた。
ニコチンの、中毒症状だ。
一瞬で30人を越える感染者の身動きを封じてしまった。しかしオニキスには効いていないようで、動きが悪くなった感染者達を見て頬を膨らませている。
「つまんない、つまんない〜っ!」
足が無傷だったのならば地団駄を踏んでいた事だろう。
未就学の幼子のようなオニキス。彼は思い通りにならない現状を散々嘆いた後、不意にモーズの方を見た。
そして新しいオモチャを見付けた子供のように、ニヤァと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
未就学の幼子のようなオニキス。彼は思い通りにならない現状を散々嘆いた後、不意にモーズの方を見た。
そして新しいオモチャを見付けた子供のように、ニヤァと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ! ここもう飽きちゃったからさ、僕ともっと楽しい所に行こうよっ!」
そしてその悪戯っぽい笑みが、モーズの眼前に迫ってくる。
「……!?」
瞬間移動かと見紛う程に速く、オニキスはモーズの目の前に移動していた。
理解が追い付かず状況を飲み込むまでの一瞬の隙に、モーズはオニキスに腕を鷲掴みにされてしまう。その力は細い腕からは考えられないほど強く、振り解けない。
理解が追い付かず状況を飲み込むまでの一瞬の隙に、モーズはオニキスに腕を鷲掴みにされてしまう。その力は細い腕からは考えられないほど強く、振り解けない。
「余所見たァ余裕だな」
ジャキリと、ニコチンがオニキスに向けて真っ直ぐ拳銃を向けて言う。〈根〉に向けている拳銃とは別の拳銃だ。
左手で構えている、2丁目。
左手で構えている、2丁目。
「余所見してないもん」
しかしニコチンが撃つ直前にその拳銃は壁から生えた菌糸体に弾き飛ばされ、オニキスには当たらず代わりに床へ大穴を空けた。
「チッ! 後ろに目ん玉付いてるってか!?」
「じゃ行こっか〜」
「じゃ行こっか〜」
目の前で穴が空いた事を良いことに、オニキスはモーズを引っ張ってその中に入ってゆく。
それを見たニコチンもまた、一切の躊躇なく二人を追って穴へ降り立った。
それを見たニコチンもまた、一切の躊躇なく二人を追って穴へ降り立った。
「モーズ! ニコチン!」
「先生危ないです! 崩落に巻き込まれますっ!!」
「先生危ないです! 崩落に巻き込まれますっ!!」
ユストゥスもそれに続こうとしたが、すかさず彼の元に駆け寄ったクロロホルムに止められる。
床に穴が空いた事と、屋根裏部屋中に菌糸体が増えてゆき、〈根〉が肥大化。それに伴い重量が更に増し、屋根も壁も床も崩壊しそうな程に不安定になっているからだ。
床に穴が空いた事と、屋根裏部屋中に菌糸体が増えてゆき、〈根〉が肥大化。それに伴い重量が更に増し、屋根も壁も床も崩壊しそうな程に不安定になっているからだ。
「それに、今は目の前の事に集中しなくては!」
故に床が壊れる前に、攻撃が届かなくなる前に、菌糸を繭のように纏い『大型』となった〈根〉を片さなくてはならない。
クロロホルムは槍を構え、ユストゥスにそう訴えた。
クロロホルムは槍を構え、ユストゥスにそう訴えた。
「くっ、私が君に諭されるとは情けない……! クロロホルム、今から〈根〉の処分作業に入る! 迅速に遂行せよ!」
「|Ja《ヤー》!」
「|Ja《ヤー》!」
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