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神様が好きな届け物

ー/ー




 都会とまでは言えないけど、田舎とも言えない町。そんな僕の住む町の住宅街には沿うように面した山があり、少し登った場所に小さな神社がある。
 昔からある神社で、ここら辺を護ってくださっている土地神様を祀ったものだ。

 そんな神社の境内にある社の裏手を僕は春の陽気の下で掃除していた。

「いつもありがとうねえ。せっちゃん」
「いえ、もう習慣みたいなモンですから……ん?」
「あら、どうしたの?」
「いや、なんか既視感が……」

 アザミさんからお茶の入ったペットボトルを受け取りながら頭を捻る。
 なんだか前にも似たようなことがあったような。気のせいだろうか。
 ……とにかく、ほとんどの週に一度、この神社を訪れては掃除するのが僕、相引(ソウビキ)セキによる日常的恒例行事。今日はその当日というわけだ。

「あー、涼しい……」

 物置横のベンチに腰掛けてペットボトルを傾けて喉を潤してから、身体を吹き抜ける風に思わず声を出す。
 四月が終わりそうな今でさえこの暑さ。夏場になったらどうなることやら……。

「若い子は代謝が良くて大変ねぇ。ところでせっちゃん、この袋は何かしら?」

 一抹の不安が頭に過ぎりながらもタオルで汗を拭っていると、アザミさんはベンチの上……僕の隣に置いてある荷物のうち、いくつかの紙袋を指して訊いてきた。

「あーそれ、土地神様へのお届け物なんです。ここに来る前に姉貴に渡されまして」

 先日の一件以来、顔を合わせることのなかった姉貴。
 そんな彼女にいつかと同様、突然呼び出されたと思ったら、この紙袋を突き出されてこう言われたのだ。

『ユッキーも私もなかなか行けそうになくてさ。だから代わりにお願い! あ、中身は人に見せないようにね』

 何卒、何卒……。と言いながら手を合わせる姉貴に、しょうがないなと即了承した僕はかなりできた弟だと思う。
 まあ実際は今回も呆気に取られて「あ、うん」しか言えなかっただけなんだけどさ。
 紙袋を手に取った瞬間、想像よりも……というか前の時よりも重くて驚いている隙にまたしても姉貴の姿は消え失せていた。

「前も同じようなことがあったねえ。これ、中身はなんなんだい?」
「あー……中身はキリさんしか見たらダメなんで……」
「うーん、そっか。気になるけど仕方ないね。じゃああたしは先に降りてるから、良かったら後で家に寄っていってねぇ」

 少し残念そうに微笑みながら去っていくアザミさんを手を振って送り出す。
 それから、隣の紙袋の中へ目を落とした。
 前に持ってきた時でさえギリギリまで敷き詰められていて中身が見られない状態だったのに、今回はさらに多く入っているせいか取り出すのも難しくなっている。ここに来るまでよくこの袋が破れなかったものだ。

 と、考えていたその時。
 袋が淡い光に包まれながらふわりと宙へ浮かんだ。

 そのままフラフラと移動する紙袋を目で追うと……白くて長い髪をした着物の女性の手元へと降り立った。

「おっと。こんにちは、土地神様」
「こんにちは、セキさん……ってなんなん、その呼び方」

 突然現れた神社に祀られている土地神様……キリさんへと挨拶すると、くすりと笑われてしまった。
 つられてこちらも笑いながら相槌を打つ。

「いやあ、なんとなくです。にしても丁度良かった。それ、キリさん宛てですよ」
「あ、はい。さっきアザミちゃんと話しとったよね」
「ああ、聞いてたんですね」

 流石は神様、僕らの会話は筒抜けだったようだ。
 盗み聞きのような気がしないでもないけど……ここは神社の境内。彼女の家の中のようなものだし、特に指摘することでもないか。
 そんな僕の内心を知ってか知らずか、嬉しそうに紙袋を抱えるキリさんの笑顔を眩しく見ていると、彼女は紙袋の中身を取り出そうとして首を傾げた。

「ん? あ、あれ? セキさん、これ抜けんのんじゃけど……」
「かなり詰め込んでありますからね。紙袋破っちゃっていいと思いますよ」
「分かった!」

 ――バリィッ!!

 僕が提案するや否や、中身の本を残して紙袋が弾け飛んだ。
 神通力を使うまでの判断が早すぎるだろ。どんだけ読みたかったんだよ。

 それからキリさんは僕の隣に座ったと思ったら、食い入るように本を読み始めた。


『もっと! くんずほぐれつ★ランデブー♡』


 そんなタイトルと共にかなり美形で上半身をはだけさせた男性二人が抱き合っている表紙が目に入った。
 ……相変わらず表紙からして刺激が強い作品である。これをあの大人しそうなニシユキさんが描いたとは未だに信じがたい。

「おお」とか「ええっ」と声を上げたり顔を赤くしながら読み進めている土地神様を横目に、紙袋の残骸を一つにまとめていく。
 せっかく掃除したのに家主が汚してどうすんだ、と呆れていると……手元の残骸の柄に目が留まった。
 この紙袋、見覚えが……ああ、あの時フキが資料を持ってきた時の物だったか。そういえばあの後、資料を入れてそのまま渡してたっけ。

 そんなことに気が付くと同時に、その日の榎園家でイザと交わした会話を思い出した。


『一冊の薔薇本からとんだ大騒動だったわねー……』
『薔薇本?』
『あ、ええっと……BL本の俗称よ。薔薇っていうのが男同士の恋愛の隠語というか……いや、何説明してんだアタシ。忘れていいわ』


 食事中ということもあってか、イザは少し気まずそうに目を逸らしていたっけ。
 言われてみればたしかに本の中にも何故か背景に薔薇が散りばめられているところがあったような気がする。
 ……薔薇、か。

「キリさん、ホントその本好きなんですね」
「あ、はい! 本というか、内容というか……男同士だからこそというか――」

 僕の確認するような問いかけに対し、興味を持ったと思ったのかキリさんは凄まじい熱量でボーイズラブの良さについて語り始めた。
 輝く瞳、トーンの上がった声、捲し立てるような早口。どこからどう見ても嬉しそうで、楽しそうな顔だ。

 ああ、まったく本当に――




 ――土地神様は薔薇が好きらしい。


【邂逅、探索編】 終。


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 都会とまでは言えないけど、田舎とも言えない町。そんな僕の住む町の住宅街には沿うように面した山があり、少し登った場所に小さな神社がある。
 昔からある神社で、ここら辺を護ってくださっている土地神様を祀ったものだ。
 そんな神社の境内にある社の裏手を僕は春の陽気の下で掃除していた。
「いつもありがとうねえ。せっちゃん」
「いえ、もう習慣みたいなモンですから……ん?」
「あら、どうしたの?」
「いや、なんか既視感が……」
 アザミさんからお茶の入ったペットボトルを受け取りながら頭を捻る。
 なんだか前にも似たようなことがあったような。気のせいだろうか。
 ……とにかく、ほとんどの週に一度、この神社を訪れては掃除するのが僕、相引《ソウビキ》セキによる日常的恒例行事。今日はその当日というわけだ。
「あー、涼しい……」
 物置横のベンチに腰掛けてペットボトルを傾けて喉を潤してから、身体を吹き抜ける風に思わず声を出す。
 四月が終わりそうな今でさえこの暑さ。夏場になったらどうなることやら……。
「若い子は代謝が良くて大変ねぇ。ところでせっちゃん、この袋は何かしら?」
 一抹の不安が頭に過ぎりながらもタオルで汗を拭っていると、アザミさんはベンチの上……僕の隣に置いてある荷物のうち、いくつかの紙袋を指して訊いてきた。
「あーそれ、土地神様へのお届け物なんです。ここに来る前に姉貴に渡されまして」
 先日の一件以来、顔を合わせることのなかった姉貴。
 そんな彼女にいつかと同様、突然呼び出されたと思ったら、この紙袋を突き出されてこう言われたのだ。
『ユッキーも私もなかなか行けそうになくてさ。だから代わりにお願い! あ、中身は人に見せないようにね』
 何卒、何卒……。と言いながら手を合わせる姉貴に、しょうがないなと即了承した僕はかなりできた弟だと思う。
 まあ実際は今回も呆気に取られて「あ、うん」しか言えなかっただけなんだけどさ。
 紙袋を手に取った瞬間、想像よりも……というか前の時よりも重くて驚いている隙にまたしても姉貴の姿は消え失せていた。
「前も同じようなことがあったねえ。これ、中身はなんなんだい?」
「あー……中身はキリさんしか見たらダメなんで……」
「うーん、そっか。気になるけど仕方ないね。じゃああたしは先に降りてるから、良かったら後で家に寄っていってねぇ」
 少し残念そうに微笑みながら去っていくアザミさんを手を振って送り出す。
 それから、隣の紙袋の中へ目を落とした。
 前に持ってきた時でさえギリギリまで敷き詰められていて中身が見られない状態だったのに、今回はさらに多く入っているせいか取り出すのも難しくなっている。ここに来るまでよくこの袋が破れなかったものだ。
 と、考えていたその時。
 袋が淡い光に包まれながらふわりと宙へ浮かんだ。
 そのままフラフラと移動する紙袋を目で追うと……白くて長い髪をした着物の女性の手元へと降り立った。
「おっと。こんにちは、土地神様」
「こんにちは、セキさん……ってなんなん、その呼び方」
 突然現れた神社に祀られている土地神様……キリさんへと挨拶すると、くすりと笑われてしまった。
 つられてこちらも笑いながら相槌を打つ。
「いやあ、なんとなくです。にしても丁度良かった。それ、キリさん宛てですよ」
「あ、はい。さっきアザミちゃんと話しとったよね」
「ああ、聞いてたんですね」
 流石は神様、僕らの会話は筒抜けだったようだ。
 盗み聞きのような気がしないでもないけど……ここは神社の境内。彼女の家の中のようなものだし、特に指摘することでもないか。
 そんな僕の内心を知ってか知らずか、嬉しそうに紙袋を抱えるキリさんの笑顔を眩しく見ていると、彼女は紙袋の中身を取り出そうとして首を傾げた。
「ん? あ、あれ? セキさん、これ抜けんのんじゃけど……」
「かなり詰め込んでありますからね。紙袋破っちゃっていいと思いますよ」
「分かった!」
 ――バリィッ!!
 僕が提案するや否や、中身の本を残して紙袋が弾け飛んだ。
 神通力を使うまでの判断が早すぎるだろ。どんだけ読みたかったんだよ。
 それからキリさんは僕の隣に座ったと思ったら、食い入るように本を読み始めた。
『もっと! くんずほぐれつ★ランデブー♡』
 そんなタイトルと共にかなり美形で上半身をはだけさせた男性二人が抱き合っている表紙が目に入った。
 ……相変わらず表紙からして刺激が強い作品である。これをあの大人しそうなニシユキさんが描いたとは未だに信じがたい。
「おお」とか「ええっ」と声を上げたり顔を赤くしながら読み進めている土地神様を横目に、紙袋の残骸を一つにまとめていく。
 せっかく掃除したのに家主が汚してどうすんだ、と呆れていると……手元の残骸の柄に目が留まった。
 この紙袋、見覚えが……ああ、あの時フキが資料を持ってきた時の物だったか。そういえばあの後、資料を入れてそのまま渡してたっけ。
 そんなことに気が付くと同時に、その日の榎園家でイザと交わした会話を思い出した。
『一冊の薔薇本からとんだ大騒動だったわねー……』
『薔薇本?』
『あ、ええっと……BL本の俗称よ。薔薇っていうのが男同士の恋愛の隠語というか……いや、何説明してんだアタシ。忘れていいわ』
 食事中ということもあってか、イザは少し気まずそうに目を逸らしていたっけ。
 言われてみればたしかに本の中にも何故か背景に薔薇が散りばめられているところがあったような気がする。
 ……薔薇、か。
「キリさん、ホントその本好きなんですね」
「あ、はい! 本というか、内容というか……男同士だからこそというか――」
 僕の確認するような問いかけに対し、興味を持ったと思ったのかキリさんは凄まじい熱量でボーイズラブの良さについて語り始めた。
 輝く瞳、トーンの上がった声、捲し立てるような早口。どこからどう見ても嬉しそうで、楽しそうな顔だ。
 ああ、まったく本当に――
 ――土地神様は薔薇が好きらしい。
【邂逅、探索編】 終。