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27話 土地神様と浄化の儀式 その四

ー/ー





 結論から言うと、ニシユキさんとリンギクさんの呪いについては驚くほどあっさりと解決した。

 直前で数百年にも及ぶ累積した呪いを祓っていたキリさんからすれば当然というか、特になんのトラブルもなく儀式は成功。並べていた半紙も変色したのは用意していた数の半分以下で、ひとまとめにして浄化・消滅させた分を差し引いても結構な数が余っていた。
 強いて厄介だった点を挙げるならば、石像のように固まったリンギクさんを並べた紙の中心に連れて行くのに手間取ったくらいだろうか。

 そんな儀式を終え、今は榎園家へと移動したところである。


「――ハッ!? ぼ、ボクは一体……?」
「あ、起きた」


 客間のソファに件の石像後輩を座らせたところ、ちょうど彼女は目を覚ました。
 気絶していたリンギクさんからすると突然場所が変わったようなものだから当然だが、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。

「ここは……それにさっきのは……夢、だったのか?」
「ここはサラの家だよ。それと……」
「キリさんが靄を封印して浄化したってのなら現実よ。ニシユキさんとアンタの呪いに関しても寝てる間に解決したわ」

 イザと僕で寝ぼけ眼のリンギクさんに端的な説明を行う。
 説明を聞いた彼女は驚きでパッチリと目を丸くしてから、何故か悔しそうな顔つきになってしまった。

「あ、あんなにカッコイイ光景の二回目を見逃してしまったのか、ボクは……!」
「ああ、そういう反応になるんだ」

 まあ気持ちは分からなくないけど。実際あの時のキリさんかっこよかったしな。

「また今度別のやつでも見せてもらえばいいんじゃない? あの神様なら頼めばやってくれるでしょ」
「それもそうだね。なんならこの後にでも頼んどく?」
「いやそれは申し訳な……神様?」
「あれ、リンギクさんにも言ってなかったっけ? 寝てる間にニシユキさんには説明したんだけど、キリさんって神様なんだよね」
「え」

 そうして今更な紹介をしていたところで、ガラッと背後の扉が開く音がした。
 振り向くとちょうど今話していた神様、キリさんが神通力でいくつかのコップを載せたお盆を浮かせてやってきたところだった。

「あ、起きたんじゃね。身体に変なところとかない?」
「え、あ、ああ。特に問題は……ないな、うん」
「そっか、よかったぁ……」

 キリさんは浮遊させていたお盆をテーブルに置き、安堵の息を漏らした。
 リンギクさんが眠っていた間に聞いた話では、白くなった元・黒い本の靄を直に浴びていたので少し危ない状態だったらしい。
 ただ、リンギクさんの精神力が異常なまでに強靭なのか精神面への負荷に鈍感だったのか、それとも体質なのか……原因は分からないが、とにかく靄の影響が薄くて助かったとのことだ。

「とりあえずこれ。お茶貰ってきたけん、飲んで飲んで」
「……」
「リンギクさん?」

 キリさんが呼びかけるも、反応がない。
 何故かリンギクさんは浮遊したお盆を見つめて固まってしまっている。
 まだ本調子じゃないのかな?

「あの、コレ維持するん結構難しいけえ、できれば(はよ)う取ってもらえると助かるんじゃけど……」
「僕が取りますんで、そのままでお願いします……はい、リンギクさん」
「はっ!? あ、ありがとう、ソウビキ先輩。……その、キリさん?」
「あ、はい?」
「貴女が神様というのは、本当の話なのか?」
「え? あ、はい。この辺護っとる土地神じゃけど……」

 突然の質問にキリさんは小首を傾げ、何を今更、と当然のように肯定した。
 瞬間、リンギクさんは頭を抱えて顔を下に向けてしまった。

「り、リンギクさん!? 大丈夫!?」
「い、いや、すまない。ちょっと混乱して……まだ夢の中なのか、コレは……」
「あー……まあそういう反応になるわよね」

 なんだかよく分からないがイザがリンギクさんに同情の眼差しを向けている。
 さっきニシユキさんに話した時もそうだったけど、なんで二人ともそんな妙な反応をするんだ?

「ア、起きてる!」
「だ、大丈夫?」

 と、リンギクさんの反応に疑問を抱いていたところで、サラとニシユキさんがお茶菓子と折り鶴を載せたお盆を持って現れた。
 これで客間にである。

「身体に変なところは? 気怠いとか、熱は?」
「なんかあったらすぐに言ってネ」
「姉さん、それにエゾノ先輩……いや、問題ないさ。ただ寝起きで少し混乱しているだけ……って、姉さんの方こそ容態は?」
「自分も平気……というか、前よりも調子が良いくらいだよ」
「そうか……よかった」

 互いの無事を確認し、安堵の溜息を吐くリンギクさん。その表情はとても嬉しそうで、そっと胸をなでおろしている。
 ニシユキさんの周囲から靄は完全に消え失せ、青白かった顔色は時間が経つにつれて生気を取り戻していき、今は生き生きとした表情をしている。最初に会った時とは大違いだ。
 ちなみにリンギクさんの方も少し顔色が良くなっている。元々元気だったから分かりにくいけど……もしかするとそう装っていただけで結構無理をしていたのかもしれない。

「ホント、解決して良かったわね。お疲れ様」
「いや、真に労われるべきはボクではないだろう。本当にありがとうございました、キリさん。……いや、様?」
「あ、そっか。自分もそう呼んだ方がいいですか?」
「いいいいいやいや! お二人ともそんな、様とか付けんでいいよ!」

 態度を改めようとする二人に対し、キリさんは物凄い勢いで首を左右に振った。
 さっきは大活躍だったし、少しくらい偉ぶってもいいような気はするんだけど……彼女の性格的にそれは無理な話だよね。


「ンな呼び方されたら逆に距離感じんだろ。そのままでいいんじゃねえの?」


 と、慌てるキリさんに助け舟を出すようにが響く。
 それからお盆の上に載っていた朱色の折り鶴が宙に浮き上がり、僕の隣までやってきた。

「そ、そうそう! じゃけえ気にせんでいいけんね?」
「あ、はい! その……キリ、さん」
「このカミサマ、チャン付けて呼ぶと喜びますゼ?」
「えっ、いやそれは……いいんですか?」
「へぇっ!? え、むしろいいんですか!?」

 ニシユキさんの言葉に顔を赤くして訊き返すキリさん。
 口元がにやけている。感情隠しきれてないっすよ。

「嬉しそうだなこの神様」
「そりゃこの神様、ニシユキさんのファンですからね」
「そーいやそんな話だったか? まあなんにせよ全員健康なのは良いことだな!」
「ま、それもそうね」

 イザと僕の間でフワフワと浮かんでいる折り鶴と一緒に笑い合う。
 これで呪いの件は全て解決。
 一件落着。ハッピーエンドである。






【土地神様は薔薇が好き。】 完







「……あの、少し待って頂きたいんだが?」


 全てが終わったような気になっていると、途中から黙り込んでいたリンギクさんが口を開いた。

「え、何?」
「いや、何じゃないが」
「なんかあったか?」
「何かというか、目の前にあるというか……やはりボクはまだ夢を見ているのか?」

 僕と折り鶴が疑問符を浮かべていると、どういうわけかリンギクさんはまたしても頭を抱えてしまった。
 一体何が……はっ!

「まさかまだ靄が残って!?」
「ち、違う! そうじゃないんだソウビキ先輩! 他にもっとこう、明らかな異物が目の前にあるだろう!」

 え、目の前?

「……何かあったっけ?」
「いやどう考えてもでしょ」

 首を傾げる僕の隣でイザは目の前に浮かんでいた折り鶴をつまみ上げた。
 あ、そっか。馴染んでたから完全に意識の外だった。

「あ゛? ……あ、ジブンか」
「むしろ貴方以外に何があると思ったんだ。……というか、その話し方はもしや」
「ああ、うん。あの変態幽霊が中に入ってる」


 そう、イザの言うように、この朱色の折り鶴の中身はあの全力匂いフェチ幽霊、ノロイさんなのだ。
 細かいところは僕にもよく分からないのだが、紙に吸収されやすいという靄の特性は呪いに巻き込まれてニシユキさんの身体に取り込まれたノロイさんの方にも反映されていたらしい。
 その特性を活かし、ニシユキさんからあの靄を引き剥がす際にノロイさんをこの折り鶴に移し替えたのだという。


「そういうことだったのか……変に騒いでしまってすまない」
「いや、説明し忘れてたアタシ達が悪いし……そもそも騒がない方がおかしいから。こいつと違ってアンタの反応は正しいわよ」
「何を言うか。僕だって最初は驚いてただろ。ノロイさんの声で性別が分かった衝撃の方が強くてすぐに意識がそっちに向いただけで」
「ああ、ジブンも驚いたぜ。まさか女だったとは」
「なんで自分で驚いているんだ……いやそもそも驚くところはそこじゃないと思うんだが」
「アンタ、常識的な時とそうでない時の差が激しくて時々怖くなってくるわね」

 なぜ浮遊している折り鶴幽霊よりも僕に恐怖を感じているんだ。甚だ遺憾である。

「ともかく、だ。新しく生まれ変わったノロイさんをよろしくってこったな」
「ああ、あらためてよろしく」

 わはは、と快活に笑い声を挙げるノロイさんにリンギクさんはしっかりと頷いた。

 そんな何度目かのご挨拶を傍から見ていたところで、サラ達がこちらに近寄ってきた。

「なんの話してンノ?」
「ああいや、リンギクさんに現状説明をね。ほら、ノロイさんのこととか」
「あ、そっか。そういえば説明しとらんかったね」
「自分も言い忘れてた……ごめんね」

 頭を下げる白髪と金髪の年上組に銀髪の後輩は「問題ない」と手を振る。

「此方の先輩方に聞いたから大丈夫さ。……ところで疑問なのだが、ノロイさんは何故成仏しなかったんだ? 言いたくなければ言わなくても構わないが……」
「あ? そりゃお前……」
「「女の子の匂い嗅ぎたいからでしょ」」
「よく分かってんなお前ら」

 僕とイザが同時に放った言葉を悪びれもなく肯定する折り鶴。
 初めて会ってからここまで一貫して欲望に忠実だと一周回って信念を貫いているかっこいい姿に見えてきた。折り紙だけど。

「ということで……ちょいと失礼」

 そう言うや否や、ノロイさんは素早くリンギクさんの左肩へと移動した。
 そして頭を首筋に近づけ……

「…………」

 何故か無言になった。

「ノロイさん?」
「……が……ねえ……」

 え、なんて?



「この身体、匂いが嗅げねえッッ!!!」



 どうやら折り紙の身体には嗅覚が搭載されていなかったようだ。
 絶望に満ちた悲しき亡霊の叫びが榎園家に響いた。





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 結論から言うと、ニシユキさんとリンギクさんの呪いについては驚くほどあっさりと解決した。
 直前で数百年にも及ぶ累積した呪いを祓っていたキリさんからすれば当然というか、特になんのトラブルもなく儀式は成功。並べていた半紙も変色したのは用意していた数の半分以下で、ひとまとめにして浄化・消滅させた分を差し引いても結構な数が余っていた。
 強いて厄介だった点を挙げるならば、石像のように固まったリンギクさんを並べた紙の中心に連れて行くのに手間取ったくらいだろうか。
 そんな儀式を終え、今は榎園家へと移動したところである。
「――ハッ!? ぼ、ボクは一体……?」
「あ、起きた」
 客間のソファに件の石像後輩を座らせたところ、ちょうど彼女は目を覚ました。
 気絶していたリンギクさんからすると突然場所が変わったようなものだから当然だが、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「ここは……それにさっきのは……夢、だったのか?」
「ここはサラの家だよ。それと……」
「キリさんが靄を封印して浄化したってのなら現実よ。ニシユキさんとアンタの呪いに関しても寝てる間に解決したわ」
 イザと僕で寝ぼけ眼のリンギクさんに端的な説明を行う。
 説明を聞いた彼女は驚きでパッチリと目を丸くしてから、何故か悔しそうな顔つきになってしまった。
「あ、あんなにカッコイイ光景の二回目を見逃してしまったのか、ボクは……!」
「ああ、そういう反応になるんだ」
 まあ気持ちは分からなくないけど。実際あの時のキリさんかっこよかったしな。
「また今度別のやつでも見せてもらえばいいんじゃない? あの神様なら頼めばやってくれるでしょ」
「それもそうだね。なんならこの後にでも頼んどく?」
「いやそれは申し訳な……神様?」
「あれ、リンギクさんにも言ってなかったっけ? 寝てる間にニシユキさんには説明したんだけど、キリさんって神様なんだよね」
「え」
 そうして今更な紹介をしていたところで、ガラッと背後の扉が開く音がした。
 振り向くとちょうど今話していた神様、キリさんが神通力でいくつかのコップを載せたお盆を浮かせてやってきたところだった。
「あ、起きたんじゃね。身体に変なところとかない?」
「え、あ、ああ。特に問題は……ないな、うん」
「そっか、よかったぁ……」
 キリさんは浮遊させていたお盆をテーブルに置き、安堵の息を漏らした。
 リンギクさんが眠っていた間に聞いた話では、白くなった元・黒い本の靄を直に浴びていたので少し危ない状態だったらしい。
 ただ、リンギクさんの精神力が異常なまでに強靭なのか精神面への負荷に鈍感だったのか、それとも体質なのか……原因は分からないが、とにかく靄の影響が薄くて助かったとのことだ。
「とりあえずこれ。お茶貰ってきたけん、飲んで飲んで」
「……」
「リンギクさん?」
 キリさんが呼びかけるも、反応がない。
 何故かリンギクさんは浮遊したお盆を見つめて固まってしまっている。
 まだ本調子じゃないのかな?
「あの、コレ維持するん結構難しいけえ、できれば|早《はよ》う取ってもらえると助かるんじゃけど……」
「僕が取りますんで、そのままでお願いします……はい、リンギクさん」
「はっ!? あ、ありがとう、ソウビキ先輩。……その、キリさん?」
「あ、はい?」
「貴女が神様というのは、本当の話なのか?」
「え? あ、はい。この辺護っとる土地神じゃけど……」
 突然の質問にキリさんは小首を傾げ、何を今更、と当然のように肯定した。
 瞬間、リンギクさんは頭を抱えて顔を下に向けてしまった。
「り、リンギクさん!? 大丈夫!?」
「い、いや、すまない。ちょっと混乱して……まだ夢の中なのか、コレは……」
「あー……まあそういう反応になるわよね」
 なんだかよく分からないがイザがリンギクさんに同情の眼差しを向けている。
 さっきニシユキさんに話した時もそうだったけど、なんで二人ともそんな妙な反応をするんだ?
「ア、起きてる!」
「だ、大丈夫?」
 と、リンギクさんの反応に疑問を抱いていたところで、サラとニシユキさんがお茶菓子と折り鶴を載せたお盆を持って現れた。
 これで客間に《《全員集合》》である。
「身体に変なところは? 気怠いとか、熱は?」
「なんかあったらすぐに言ってネ」
「姉さん、それにエゾノ先輩……いや、問題ないさ。ただ寝起きで少し混乱しているだけ……って、姉さんの方こそ容態は?」
「自分も平気……というか、前よりも調子が良いくらいだよ」
「そうか……よかった」
 互いの無事を確認し、安堵の溜息を吐くリンギクさん。その表情はとても嬉しそうで、そっと胸をなでおろしている。
 ニシユキさんの周囲から靄は完全に消え失せ、青白かった顔色は時間が経つにつれて生気を取り戻していき、今は生き生きとした表情をしている。最初に会った時とは大違いだ。
 ちなみにリンギクさんの方も少し顔色が良くなっている。元々元気だったから分かりにくいけど……もしかするとそう装っていただけで結構無理をしていたのかもしれない。
「ホント、解決して良かったわね。お疲れ様」
「いや、真に労われるべきはボクではないだろう。本当にありがとうございました、キリさん。……いや、様?」
「あ、そっか。自分もそう呼んだ方がいいですか?」
「いいいいいやいや! お二人ともそんな、様とか付けんでいいよ!」
 態度を改めようとする二人に対し、キリさんは物凄い勢いで首を左右に振った。
 さっきは大活躍だったし、少しくらい偉ぶってもいいような気はするんだけど……彼女の性格的にそれは無理な話だよね。
「ンな呼び方されたら逆に距離感じんだろ。そのままでいいんじゃねえの?」
 と、慌てるキリさんに助け舟を出すように《《女性の声》》が響く。
 それからお盆の上に載っていた朱色の折り鶴が宙に浮き上がり、僕の隣までやってきた。
「そ、そうそう! じゃけえ気にせんでいいけんね?」
「あ、はい! その……キリ、さん」
「このカミサマ、チャン付けて呼ぶと喜びますゼ?」
「えっ、いやそれは……いいんですか?」
「へぇっ!? え、むしろいいんですか!?」
 ニシユキさんの言葉に顔を赤くして訊き返すキリさん。
 口元がにやけている。感情隠しきれてないっすよ。
「嬉しそうだなこの神様」
「そりゃこの神様、ニシユキさんのファンですからね」
「そーいやそんな話だったか? まあなんにせよ全員健康なのは良いことだな!」
「ま、それもそうね」
 イザと僕の間でフワフワと浮かんでいる折り鶴と一緒に笑い合う。
 これで呪いの件は全て解決。
 一件落着。ハッピーエンドである。
【土地神様は薔薇が好き。】 完
「……あの、少し待って頂きたいんだが?」
 全てが終わったような気になっていると、途中から黙り込んでいたリンギクさんが口を開いた。
「え、何?」
「いや、何じゃないが」
「なんかあったか?」
「何かというか、目の前にあるというか……やはりボクはまだ夢を見ているのか?」
 僕と折り鶴が疑問符を浮かべていると、どういうわけかリンギクさんはまたしても頭を抱えてしまった。
 一体何が……はっ!
「まさかまだ靄が残って!?」
「ち、違う! そうじゃないんだソウビキ先輩! 他にもっとこう、明らかな異物が目の前にあるだろう!」
 え、目の前?
「……何かあったっけ?」
「いやどう考えても《《コレ》》でしょ」
 首を傾げる僕の隣でイザは目の前に浮かんでいた折り鶴をつまみ上げた。
 あ、そっか。馴染んでたから完全に意識の外だった。
「あ゛? ……あ、ジブンか」
「むしろ貴方以外に何があると思ったんだ。……というか、その話し方はもしや」
「ああ、うん。あの変態幽霊が中に入ってる」
 そう、イザの言うように、この朱色の折り鶴の中身はあの全力匂いフェチ幽霊、ノロイさんなのだ。
 細かいところは僕にもよく分からないのだが、紙に吸収されやすいという靄の特性は呪いに巻き込まれてニシユキさんの身体に取り込まれたノロイさんの方にも反映されていたらしい。
 その特性を活かし、ニシユキさんからあの靄を引き剥がす際にノロイさんをこの折り鶴に移し替えたのだという。
「そういうことだったのか……変に騒いでしまってすまない」
「いや、説明し忘れてたアタシ達が悪いし……そもそも騒がない方がおかしいから。こいつと違ってアンタの反応は正しいわよ」
「何を言うか。僕だって最初は驚いてただろ。ノロイさんの声で性別が分かった衝撃の方が強くてすぐに意識がそっちに向いただけで」
「ああ、ジブンも驚いたぜ。まさか女だったとは」
「なんで自分で驚いているんだ……いやそもそも驚くところはそこじゃないと思うんだが」
「アンタ、常識的な時とそうでない時の差が激しくて時々怖くなってくるわね」
 なぜ浮遊している折り鶴幽霊よりも僕に恐怖を感じているんだ。甚だ遺憾である。
「ともかく、だ。新しく生まれ変わったノロイさんをよろしくってこったな」
「ああ、あらためてよろしく」
 わはは、と快活に笑い声を挙げるノロイさんにリンギクさんはしっかりと頷いた。
 そんな何度目かのご挨拶を傍から見ていたところで、サラ達がこちらに近寄ってきた。
「なんの話してンノ?」
「ああいや、リンギクさんに現状説明をね。ほら、ノロイさんのこととか」
「あ、そっか。そういえば説明しとらんかったね」
「自分も言い忘れてた……ごめんね」
 頭を下げる白髪と金髪の年上組に銀髪の後輩は「問題ない」と手を振る。
「此方の先輩方に聞いたから大丈夫さ。……ところで疑問なのだが、ノロイさんは何故成仏しなかったんだ? 言いたくなければ言わなくても構わないが……」
「あ? そりゃお前……」
「「女の子の匂い嗅ぎたいからでしょ」」
「よく分かってんなお前ら」
 僕とイザが同時に放った言葉を悪びれもなく肯定する折り鶴。
 初めて会ってからここまで一貫して欲望に忠実だと一周回って信念を貫いているかっこいい姿に見えてきた。折り紙だけど。
「ということで……ちょいと失礼」
 そう言うや否や、ノロイさんは素早くリンギクさんの左肩へと移動した。
 そして頭を首筋に近づけ……
「…………」
 何故か無言になった。
「ノロイさん?」
「……が……ねえ……」
 え、なんて?
「この身体、匂いが嗅げねえッッ!!!」
 どうやら折り紙の身体には嗅覚が搭載されていなかったようだ。
 絶望に満ちた悲しき亡霊の叫びが榎園家に響いた。