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彼女の愛した不為人~マリオネット~ 1-③

ー/ー



「ねえ、佐和子さん。私がこの写真見て、一番おかしいと思ったのは、この人……希和子さんがね、水子背負っているからなんです。それで他の写真見せてもらったら、別人だと確信した」

「……私も、一回、流産したことはあるんですが……」

「そうですね。でも、とても心を込めて供養されている。水子でなく、守護霊的な存在になって、あなたの側にいますよ」

「……本当?」


 事実である。実は佐和子さんには内緒だが、ミチ姐に極秘で受けた情報提供でも、流産の経験とそれを彼女が酷く悼んでいたことも聞いている。

 佐和子さんを助けるためだという名目で得た情報だが、守秘義務違反に抵触するので、聞き方には注意した。

 光を見ずに天国に行った魂があるかな? という問いに、「哀悼の意をささげていたわ」と返答が来た。

 瑛比古さんの心に秘めておくと約束したとはいえ、こと出産関係に関しては職業意識の高いミチ姐が明かせる、ギリギリのラインだったであろう。

 返答には時間がかかった。


「一方、希和子さんは、悼む気持ちはあるのに、十分供養できないうちに悲しみをあらぬベクトルに向けてしまっている。……可哀想に、この子、とても心配している」

「その子は、もしかして、夫と……?」

 貴弘さんが希和子さんといる、という事実から、佐和子さんは別の可能性も考えていたことが、その言葉で分かる。

 三年前に失踪した夫が別の女性といる、という事実だけを考えたら、仕方がない思考過程かもしれない。

 さっきハルに「私のことは憎んでいるけど」と訊いたのも、希和子さんが貴弘さんに横恋慕したのかもしれないという思い込みから来たのだろう。

 けれど。


「いいえ」

 瑛比古さん、断言。

「この子は、別に父親がいます。それに、この子が亡くなったのは、もう七年も前だ」

「七年前……」


 それは。


「あなたと再会した、少し前でしょうね。そして、おそらく、全ての悲劇は、そこから始まった」



 歯車が狂いだしたのは、七年前の、すれ違い……。


『メールがきてまーしゅ』

 突如、愛らしい声が、瑛比古さんにメール受信を伝える。


「瑛比古くん……」


 緊迫感だいなしの着信音に、がっくりとうなだれる丸田氏を尻目に、ニコニコ顔の瑛比古さん。

「可愛いでしょう! メイに吹き込んでもらったんですよ。あ、メイってのは、家の一人娘でして、可愛い盛りなんです。今保育園の年少さんで……」

「親バカっスね」

 瑛比古さんにどつかれる小早川クンに同情しながら、思わず我が身を振り返るハルであった。


 自宅からの着信ディスプレイにメイの画像使うの、やめた方がいいのかな?



 悩んでいるハルをよそに、瑛比古さんはメールを確認する。

「貴弘さんと弘夢くん、無事保護されたようです。佐和子さんに、確認に来てもらいたいと。行きますか?」

「……行きます」


 毅然とした瞳で、佐和子さん、瑛比古さんを見つめ、頷いた。



 数分後、丸田氏、メールの送り主である元部下の某刑事に苦言を呈す。


「何でわしに連絡せんのだ!」

『だって、丸さん、電話に出ませんでしたよ? 多分マナーモードのまま、気付いていないんだろうな、と思って。連絡つかない時は土岐田さんにって言ったの、丸さんですよ』


 昼食時にマナーモードにして、そのままだったのだ。



 ……電話を切って、一分おきの着信履歴【不在】を確認した丸田氏、心の中で謝りつつ、そっと、自分を慰める。

 さっきまで警察を代表する気持ちで佐和子さんに謝罪したのに、いいところを瑛比古さんに持っていかれてしまった気がして。



 なので、解除することを失念した事実を棚上げして、ちょっと天に吠えてみた。



 レストランではマナーモードってのは、エチケットだよな、間違ってないよな?





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「ねえ、佐和子さん。私がこの写真見て、一番おかしいと思ったのは、この人……希和子さんがね、水子背負っているからなんです。それで他の写真見せてもらったら、別人だと確信した」
「……私も、一回、流産したことはあるんですが……」
「そうですね。でも、とても心を込めて供養されている。水子でなく、守護霊的な存在になって、あなたの側にいますよ」
「……本当?」
 事実である。実は佐和子さんには内緒だが、ミチ姐に極秘で受けた情報提供でも、流産の経験とそれを彼女が酷く悼んでいたことも聞いている。
 佐和子さんを助けるためだという名目で得た情報だが、守秘義務違反に抵触するので、聞き方には注意した。
 光を見ずに天国に行った魂があるかな? という問いに、「哀悼の意をささげていたわ」と返答が来た。
 瑛比古さんの心に秘めておくと約束したとはいえ、こと出産関係に関しては職業意識の高いミチ姐が明かせる、ギリギリのラインだったであろう。
 返答には時間がかかった。
「一方、希和子さんは、悼む気持ちはあるのに、十分供養できないうちに悲しみをあらぬベクトルに向けてしまっている。……可哀想に、この子、とても心配している」
「その子は、もしかして、夫と……?」
 貴弘さんが希和子さんといる、という事実から、佐和子さんは別の可能性も考えていたことが、その言葉で分かる。
 三年前に失踪した夫が別の女性といる、という事実だけを考えたら、仕方がない思考過程かもしれない。
 さっきハルに「私のことは憎んでいるけど」と訊いたのも、希和子さんが貴弘さんに横恋慕したのかもしれないという思い込みから来たのだろう。
 けれど。
「いいえ」
 瑛比古さん、断言。
「この子は、別に父親がいます。それに、この子が亡くなったのは、もう七年も前だ」
「七年前……」
 それは。
「あなたと再会した、少し前でしょうね。そして、おそらく、全ての悲劇は、そこから始まった」
 歯車が狂いだしたのは、七年前の、すれ違い……。
『メールがきてまーしゅ』
 突如、愛らしい声が、瑛比古さんにメール受信を伝える。
「瑛比古くん……」
 緊迫感だいなしの着信音に、がっくりとうなだれる丸田氏を尻目に、ニコニコ顔の瑛比古さん。
「可愛いでしょう! メイに吹き込んでもらったんですよ。あ、メイってのは、家の一人娘でして、可愛い盛りなんです。今保育園の年少さんで……」
「親バカっスね」
 瑛比古さんにどつかれる小早川クンに同情しながら、思わず我が身を振り返るハルであった。
 自宅からの着信ディスプレイにメイの画像使うの、やめた方がいいのかな?
 悩んでいるハルをよそに、瑛比古さんはメールを確認する。
「貴弘さんと弘夢くん、無事保護されたようです。佐和子さんに、確認に来てもらいたいと。行きますか?」
「……行きます」
 毅然とした瞳で、佐和子さん、瑛比古さんを見つめ、頷いた。
 数分後、丸田氏、メールの送り主である元部下の某刑事に苦言を呈す。
「何でわしに連絡せんのだ!」
『だって、丸さん、電話に出ませんでしたよ? 多分マナーモードのまま、気付いていないんだろうな、と思って。連絡つかない時は土岐田さんにって言ったの、丸さんですよ』
 昼食時にマナーモードにして、そのままだったのだ。
 ……電話を切って、一分おきの着信履歴【不在】を確認した丸田氏、心の中で謝りつつ、そっと、自分を慰める。
 さっきまで警察を代表する気持ちで佐和子さんに謝罪したのに、いいところを瑛比古さんに持っていかれてしまった気がして。
 なので、解除することを失念した事実を棚上げして、ちょっと天に吠えてみた。
 レストランではマナーモードってのは、エチケットだよな、間違ってないよな?