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第二十二話 「龍を巡り」

ー/ー



「よし、次はCランクの討伐依頼でも受けるか」
「はい!ルコンとおにいちゃんなら楽勝です!」

 グウェスとの約束から二週間、俺とルコンはAランクに上がるため日々依頼をこなしている。
 既に二人共EランクからCランクへと昇格を果たせた。
 イーラスとは違って毎日の様に依頼が舞い込み、高ランクの依頼も多く届くため、Cまで上がるのはあっという間だった。
 本来であればBランクの討伐依頼などもこなしたいが、ルコンは未だに三本(サード)を長時間維持できないため継戦力に乏しい。
 高ランクの魔獣を相手取るには危険が伴う。
 心もとない、それに守りきれるか分からないという感想が正直なところだ。
 依頼を受けてギルドを出たところで、見知った顔に出くわした。

「おや、ライル君にルコン君。今から依頼ですか?」
「ミルゲンさん!その節はありがとうございました。ミルゲンさんも依頼を受けに?」
「いえ、私は完了報告を」
「わぁ〜!このおっきな羽はなんですか?」

 ルコンが興味津々に、ミルゲンが抱えていた袋から飛び出しているモノに目を輝かせる。
 鉱石のような艶と輝きを放つ、羽の形をした細長い板のようなモノだ。

「あぁ、これはアダマントバードの羽ですよ」
「アダマントバードって、Bランクの魔獣で、魔術が効きづらいんですよね?ミルゲンさん一人で取ってきたんですか!?」
「えぇ。魔術が効きづらいとはいっても、あくまで()()()()()だけ。やりようは幾らでもあるものです」

 見たところミルゲンに目立った外傷や汚れは無く、本当に余裕でこなせるといった貫禄が滲んでいる。
 薄々思っていたがやはり……

「ミルゲンさん、つかぬことをお聞きしますけど、模擬戦の際には手加減してくれてましたよね?」
「ふぇ!?本気じゃなかったんですか!?」
「おや、カッコつけて最後までバレたくなかったのですがね。まぁそうですね。手加減といっても、決して二人のことを舐めてかかった訳ではありません。模擬戦を提案された時点で、ゼール殿の魂胆は見えていました。言うなれば、ギアサでのお返しです。私は君を利用してゼール殿に手合わせを迫った。ならば今回は、私が君達に魔術士戦のイロハを教える番です」

 やはりそうだったか。
 一級魔術は使わないという縛りがあったとはいえ、俺とルコンがミルゲンに勝てたのは違和感があった。
 それが確信に変わったのはグウェスとの模擬戦後だ。
 同じAランクの二人だが、グウェスには手も足も出なかった。
 それにミルゲンの戦い方はこちらを寄せ付けない、守りの戦い方だった。
 使う魔術も単調な物が多く、振り返ればAランク魔術士の全力とはとても思えない。

「ですが、驚かされたのは事実ですよ。ルコン君の底力は勿論、二人の連携、ブラフの打ちどころと妨害(ノイズ)が使えたこと。二人の実力ならすぐにでもBランクに上がれるんじゃないでしょうか」
「あの、俺達Aランクに上がりたいんです。どうすればAになれますか?」
「…………」

 しばしの沈黙。
 こちらを見つめて何事か考えた後、ミルゲンは口を開く。

「聡明な君にはお世辞や嘘をついたところで無駄でしょうから、ハッキリと言っておきましょう。今すぐAランクに上がることは無理です」
「なっ……」
「AとB以下では雲泥の差があると考えて下さい。Bまではギルドで実績を積めば自ずと上がっていきますが、Aに上がるためにはギルドが課す試験をクリアしなければなりません。その試験も高難度、毎年受験した者の中から数人は死者が出るようなものです。今の君達では、合格どころか大怪我、あるいは死んでしまうやもしれません。Aランク冒険者からはSランクの依頼が受注可能です。Sランク依頼とは、達成困難又は高位冒険者が十人以上の規模で挑むことを前提する様な難易度。生半可な実力では死にに行くようなものです」

 ミルゲンはハッキリと言い放つ。
 いや、薄っすらとわかっていたことだ。
 こうして言葉で伝えてくれた方が有り難い。
 グウェスはやはり、俺を連れて行く気は……

「わかりました、ありがとうございます……」
「お力になれたかはわかりませんが、参考になれば。そんなに気を落とさないで下さい。君達の若さでその強さは目を見張る物があります。このまま成長を続ければ間違い無くAランクに成れますよ」

 その言葉こそお世辞、社交辞令の様なものだろう。
 欲しいのは、今すぐAに上がれるだけの実力と保証だ。
 そんな事をミルゲンに求めるのもお門違いだということは分かっているのだが。


 ミルゲンと別れ、門をくぐり王都の外へと向かう。
 対象の魔獣は平野に巣食っているらしい。

「おにいちゃん、ルコンたちAランクにはなれないんですかね?」
「すぐには無理、って感じかな……」
「そう、ですか……」

 ルコンがしゅんと項垂れてしまう。
 あれからルコンには、俺がナーロ村を出た理由、龍を倒すため強さを求めている事等を話した。
 はじめこそ悲しそうに話を聞いていた彼女も、最後には『助けてくれたおにいちゃんのためです!』と力を貸してくれる事になった。
 二人でAランクを目指す、そんな目標は簡単に砕かれてしまった。
 グウェスが出した条件、満たせない課題、これからどうなるのだろうか……


 ――――

 王都ロディアスにそびえ立つ王城ロードス。
 現ロデナス王が住む城にして、ロデナス王国の心臓部とも言える聖城。
 その内部、荘厳(そうごん)なる雰囲気に包まれた、中央に大きな円卓を構える一室にて数人の人物が言葉を交わす。

「こんなところですまんな。十年ぶりか……息災であったか?」

 白銀のところどころに金の装飾が施された豪奢な鎧を纏い、綺麗に整えられ不潔感等一切無い白髪を後ろに流して一本に纏めた老齢の男性。
 腰には柄の部分だけでかなり高位の魔具と見て取れる剣を一本提げている。
 現ロデナス国王、ダルド・ロデナス。
 人魔大戦以前から国王を務め、終始大戦に反発し、人と魔を平等に扱う聖王として崇められる人物。
 この王がいるからこそ、凡人土と魔土の境界線から遠く離れたここロディアスでも、人と魔が共存出来ていると言っても過言ではない。
 そんな人物が、その見た目からは想像もつかない穏やかな口ぶりで声をかけたのは、薄紫の髪を腰まで伸ばし純白のローブを纏った美しい女性であった。

「えぇ、変わりなく。国王陛下こそお元気そうで何よりです」
「ハッハッハ!バカを言うでないわ!ワシとてあと数年の命だろうよ。元気であるものか!」

 部屋には女と国王以外に数人がいたが、国王以外の全員が心の中で『元気だろ』と呟いていた。

「陛下、申し訳ありませんが次の議題に進むべきかと」

 ぴしゃっとその場の空気を変えるために発言したのは、魔族の男であった。
 豹のような見た目をした細身の魔族。
 スラリと伸びた背筋に、他の騎士達とは違って軽装の鎧を纏っている。

「おぉ、すまんな。イラルド、おまえが議題の途中でゼールを呼ぶもんだからワシがパーザに叱られたではないか!」
「『今から議題だからゼールを呼んでこい!』って言ったのは国王でしょうに……」

 トホホ、と肩を落としながらイラルドが呟く。
 いつものことなのだろう、慣れた様子で会話は進んでいく。

「ゼールよ、おまえを呼んだのは何も懐かしさから顔を見たかったわけではない。ナーロ村にて龍と相見えたらしいな?知っての通り、現在我が国は龍災に悩まされておるが、その龍の情報は極端に少ない。そこで、おまえから話を聞きたいというわけだ」

 ゼールは道中でイラルドから大まかな話は聞いていた。
 国王が龍についての情報を欲しがっていること、久しぶりに顔を見たがっていること。
 ゼールもダルド王には恩がある。
 それくらいならと、ライル達が依頼に出ている日中のみと王城に招喚されたのである。

「ゼール殿。現在我々は龍がグランロアマウンに巣を構えている事までは把握しております。ですが、肝心の龍自体の情報は殆どありません。御力添えを頂けますか?」

 先程の魔族、パーザが口を開きゼールに問いかける。

「そのために参りました。まず、種別は赤龍。龍種の中でも特に好戦的で気性の荒い種。体長は20から30メートル程ですが、恐らくはまだ成体ではないでしょう。龍気が見て取れませんでした。ナーロでの接触の際に()()負わせた傷が二箇所、左翼と左角にございます」

 淡々と報告するゼールの言葉を、円卓の側に控える書記官がスラスラとメモに取っていく。
 その報告を受けて、ダルド王は別の人物に問いかける。

「どうだ、シベルディア」
「そうですね、仕掛けるなら早期に仕掛けたほうがよろしいかと。龍種の成長はその長寿故にゆったりとしたものと聞きますが、未だに謎の方が多いのは事実。悠長に手間取っている間に成体になられては被害は増す一方です」

 問いかけに応えたシベルディアという人物は、冷静に与えられた情報から今後の見解を述べる。
 シベルディア・アーノット。
 ヴァダル大陸全土にその手を広げる冒険者ギルドの副長を務める、ギルドの実質的No.2である。

「であろうな。パーザよ、アトラは何と?」
「文書によると、『我々は来期に控える人魔平定祭の準備と魔土との国交に忙しく、人手を割ける状況ではない。つきましてはロデナス王国より精鋭を派遣の後、この厄災に当たられよ』とのことです」
「ハッ!そんなことだろうと思ったわ。アトラとロデナスとの国境であるグランロアマウンに巣食われたところで、大きな弊害が有るのは魔土、アトラと物流を介するワシらロデナス。現状被害を被っておるのもロデナス領だけとなれば、こんな面倒事に手間と人材を割きたくないといったところか」

 腹立たしそうにダルド王は指で円卓を叩く。
 側に控える者達も、ダルド王のイラつきに内心ヒヤヒヤしながら次の一言を待つ。

「仕方があるまいな。イラルド、おまえの第一師団は引き続き王都と王都周辺の警戒に当たれ。万が一龍が襲ってきた際にはおまえたちが民の盾となるのだ。パーザの第二師団で引き続きグランロアマウン内の龍の居処を探り出せ。ただし、危険を感じたら深追いせずに戻って来い。第三師団のパルヴァスはまだ戻らんか……。シベルディアよ、此度の龍伐をSランク依頼として王都ギルドへ貼り出せ。募集期限は二週間だ、三週間後に依頼に集まった者たちと騎士団から選び抜いた精鋭とで討伐隊を編成してグランロアマウンへと向かう」

 ダルド王が次々と指示を出し、議会を取り仕切る。
 ここぞという時には国王としての威厳を示して皆を纏めるその姿には、誰しも敬意と賞賛を抱かずにはいられない。

「して、ゼールよ。此度の龍伐、参加してくれるか?」
「申し訳ございませんが、私は現在アトラへの護衛依頼を遂行中です。ご期待には添えません」
「そうか……仕方あるまいな。アトラまでとは、いったいどのような者の護衛だ?」
「魔族の少年でございます」
「ほう、魔族の……しかも少年ときたか……おまえの生き方は相変わらずのようだ」
「…………」
「何も責めておる訳ではない。安心しておるのだ。生き方とは、信条とは変えられんものだ。ワシがそうであったように、おまえの信条も曲げられん強さを持つということだろう」
「過ぎた御言葉でございます」
「ふむ。では此度の議会はこれにて閉会とする!イラルド、ゼールを街まで送ってやれ。パーザ、シベルディア!先程の通りだ、各々の役割を果たせ!」
「「「ハッ!」」」


 街で奮闘する少年の思惑とは裏腹に、龍を巡っての物語は動き出す。




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「よし、次はCランクの討伐依頼でも受けるか」「はい!ルコンとおにいちゃんなら楽勝です!」
 グウェスとの約束から二週間、俺とルコンはAランクに上がるため日々依頼をこなしている。
 既に二人共EランクからCランクへと昇格を果たせた。
 イーラスとは違って毎日の様に依頼が舞い込み、高ランクの依頼も多く届くため、Cまで上がるのはあっという間だった。
 本来であればBランクの討伐依頼などもこなしたいが、ルコンは未だに|三本《サード》を長時間維持できないため継戦力に乏しい。
 高ランクの魔獣を相手取るには危険が伴う。
 心もとない、それに守りきれるか分からないという感想が正直なところだ。
 依頼を受けてギルドを出たところで、見知った顔に出くわした。
「おや、ライル君にルコン君。今から依頼ですか?」
「ミルゲンさん!その節はありがとうございました。ミルゲンさんも依頼を受けに?」
「いえ、私は完了報告を」
「わぁ〜!このおっきな羽はなんですか?」
 ルコンが興味津々に、ミルゲンが抱えていた袋から飛び出しているモノに目を輝かせる。
 鉱石のような艶と輝きを放つ、羽の形をした細長い板のようなモノだ。
「あぁ、これはアダマントバードの羽ですよ」
「アダマントバードって、Bランクの魔獣で、魔術が効きづらいんですよね?ミルゲンさん一人で取ってきたんですか!?」
「えぇ。魔術が効きづらいとはいっても、あくまで|効《・》|き《・》|づ《・》|ら《・》|い《・》だけ。やりようは幾らでもあるものです」
 見たところミルゲンに目立った外傷や汚れは無く、本当に余裕でこなせるといった貫禄が滲んでいる。
 薄々思っていたがやはり……
「ミルゲンさん、つかぬことをお聞きしますけど、模擬戦の際には手加減してくれてましたよね?」
「ふぇ!?本気じゃなかったんですか!?」
「おや、カッコつけて最後までバレたくなかったのですがね。まぁそうですね。手加減といっても、決して二人のことを舐めてかかった訳ではありません。模擬戦を提案された時点で、ゼール殿の魂胆は見えていました。言うなれば、ギアサでのお返しです。私は君を利用してゼール殿に手合わせを迫った。ならば今回は、私が君達に魔術士戦のイロハを教える番です」
 やはりそうだったか。
 一級魔術は使わないという縛りがあったとはいえ、俺とルコンがミルゲンに勝てたのは違和感があった。
 それが確信に変わったのはグウェスとの模擬戦後だ。
 同じAランクの二人だが、グウェスには手も足も出なかった。
 それにミルゲンの戦い方はこちらを寄せ付けない、守りの戦い方だった。
 使う魔術も単調な物が多く、振り返ればAランク魔術士の全力とはとても思えない。
「ですが、驚かされたのは事実ですよ。ルコン君の底力は勿論、二人の連携、ブラフの打ちどころと|妨害《ノイズ》が使えたこと。二人の実力ならすぐにでもBランクに上がれるんじゃないでしょうか」
「あの、俺達Aランクに上がりたいんです。どうすればAになれますか?」
「…………」
 しばしの沈黙。
 こちらを見つめて何事か考えた後、ミルゲンは口を開く。
「聡明な君にはお世辞や嘘をついたところで無駄でしょうから、ハッキリと言っておきましょう。今すぐAランクに上がることは無理です」
「なっ……」
「AとB以下では雲泥の差があると考えて下さい。Bまではギルドで実績を積めば自ずと上がっていきますが、Aに上がるためにはギルドが課す試験をクリアしなければなりません。その試験も高難度、毎年受験した者の中から数人は死者が出るようなものです。今の君達では、合格どころか大怪我、あるいは死んでしまうやもしれません。Aランク冒険者からはSランクの依頼が受注可能です。Sランク依頼とは、達成困難又は高位冒険者が十人以上の規模で挑むことを前提する様な難易度。生半可な実力では死にに行くようなものです」
 ミルゲンはハッキリと言い放つ。
 いや、薄っすらとわかっていたことだ。
 こうして言葉で伝えてくれた方が有り難い。
 グウェスはやはり、俺を連れて行く気は……
「わかりました、ありがとうございます……」
「お力になれたかはわかりませんが、参考になれば。そんなに気を落とさないで下さい。君達の若さでその強さは目を見張る物があります。このまま成長を続ければ間違い無くAランクに成れますよ」
 その言葉こそお世辞、社交辞令の様なものだろう。
 欲しいのは、今すぐAに上がれるだけの実力と保証だ。
 そんな事をミルゲンに求めるのもお門違いだということは分かっているのだが。
 ミルゲンと別れ、門をくぐり王都の外へと向かう。
 対象の魔獣は平野に巣食っているらしい。
「おにいちゃん、ルコンたちAランクにはなれないんですかね?」
「すぐには無理、って感じかな……」
「そう、ですか……」
 ルコンがしゅんと項垂れてしまう。
 あれからルコンには、俺がナーロ村を出た理由、龍を倒すため強さを求めている事等を話した。
 はじめこそ悲しそうに話を聞いていた彼女も、最後には『助けてくれたおにいちゃんのためです!』と力を貸してくれる事になった。
 二人でAランクを目指す、そんな目標は簡単に砕かれてしまった。
 グウェスが出した条件、満たせない課題、これからどうなるのだろうか……
 ――――
 王都ロディアスにそびえ立つ王城ロードス。
 現ロデナス王が住む城にして、ロデナス王国の心臓部とも言える聖城。
 その内部、|荘厳《そうごん》なる雰囲気に包まれた、中央に大きな円卓を構える一室にて数人の人物が言葉を交わす。
「こんなところですまんな。十年ぶりか……息災であったか?」
 白銀のところどころに金の装飾が施された豪奢な鎧を纏い、綺麗に整えられ不潔感等一切無い白髪を後ろに流して一本に纏めた老齢の男性。
 腰には柄の部分だけでかなり高位の魔具と見て取れる剣を一本提げている。
 現ロデナス国王、ダルド・ロデナス。
 人魔大戦以前から国王を務め、終始大戦に反発し、人と魔を平等に扱う聖王として崇められる人物。
 この王がいるからこそ、凡人土と魔土の境界線から遠く離れたここロディアスでも、人と魔が共存出来ていると言っても過言ではない。
 そんな人物が、その見た目からは想像もつかない穏やかな口ぶりで声をかけたのは、薄紫の髪を腰まで伸ばし純白のローブを纏った美しい女性であった。
「えぇ、変わりなく。国王陛下こそお元気そうで何よりです」
「ハッハッハ!バカを言うでないわ!ワシとてあと数年の命だろうよ。元気であるものか!」
 部屋には女と国王以外に数人がいたが、国王以外の全員が心の中で『元気だろ』と呟いていた。
「陛下、申し訳ありませんが次の議題に進むべきかと」
 ぴしゃっとその場の空気を変えるために発言したのは、魔族の男であった。
 豹のような見た目をした細身の魔族。
 スラリと伸びた背筋に、他の騎士達とは違って軽装の鎧を纏っている。
「おぉ、すまんな。イラルド、おまえが議題の途中でゼールを呼ぶもんだからワシがパーザに叱られたではないか!」
「『今から議題だからゼールを呼んでこい!』って言ったのは国王でしょうに……」
 トホホ、と肩を落としながらイラルドが呟く。
 いつものことなのだろう、慣れた様子で会話は進んでいく。
「ゼールよ、おまえを呼んだのは何も懐かしさから顔を見たかったわけではない。ナーロ村にて龍と相見えたらしいな?知っての通り、現在我が国は龍災に悩まされておるが、その龍の情報は極端に少ない。そこで、おまえから話を聞きたいというわけだ」
 ゼールは道中でイラルドから大まかな話は聞いていた。
 国王が龍についての情報を欲しがっていること、久しぶりに顔を見たがっていること。
 ゼールもダルド王には恩がある。
 それくらいならと、ライル達が依頼に出ている日中のみと王城に招喚されたのである。
「ゼール殿。現在我々は龍がグランロアマウンに巣を構えている事までは把握しております。ですが、肝心の龍自体の情報は殆どありません。御力添えを頂けますか?」
 先程の魔族、パーザが口を開きゼールに問いかける。
「そのために参りました。まず、種別は赤龍。龍種の中でも特に好戦的で気性の荒い種。体長は20から30メートル程ですが、恐らくはまだ成体ではないでしょう。龍気が見て取れませんでした。ナーロでの接触の際に|私《・》|が《・》負わせた傷が二箇所、左翼と左角にございます」
 淡々と報告するゼールの言葉を、円卓の側に控える書記官がスラスラとメモに取っていく。
 その報告を受けて、ダルド王は別の人物に問いかける。
「どうだ、シベルディア」
「そうですね、仕掛けるなら早期に仕掛けたほうがよろしいかと。龍種の成長はその長寿故にゆったりとしたものと聞きますが、未だに謎の方が多いのは事実。悠長に手間取っている間に成体になられては被害は増す一方です」
 問いかけに応えたシベルディアという人物は、冷静に与えられた情報から今後の見解を述べる。
 シベルディア・アーノット。
 ヴァダル大陸全土にその手を広げる冒険者ギルドの副長を務める、ギルドの実質的No.2である。
「であろうな。パーザよ、アトラは何と?」
「文書によると、『我々は来期に控える人魔平定祭の準備と魔土との国交に忙しく、人手を割ける状況ではない。つきましてはロデナス王国より精鋭を派遣の後、この厄災に当たられよ』とのことです」
「ハッ!そんなことだろうと思ったわ。アトラとロデナスとの国境であるグランロアマウンに巣食われたところで、大きな弊害が有るのは魔土、アトラと物流を介するワシらロデナス。現状被害を被っておるのもロデナス領だけとなれば、こんな面倒事に手間と人材を割きたくないといったところか」
 腹立たしそうにダルド王は指で円卓を叩く。
 側に控える者達も、ダルド王のイラつきに内心ヒヤヒヤしながら次の一言を待つ。
「仕方があるまいな。イラルド、おまえの第一師団は引き続き王都と王都周辺の警戒に当たれ。万が一龍が襲ってきた際にはおまえたちが民の盾となるのだ。パーザの第二師団で引き続きグランロアマウン内の龍の居処を探り出せ。ただし、危険を感じたら深追いせずに戻って来い。第三師団のパルヴァスはまだ戻らんか……。シベルディアよ、此度の龍伐をSランク依頼として王都ギルドへ貼り出せ。募集期限は二週間だ、三週間後に依頼に集まった者たちと騎士団から選び抜いた精鋭とで討伐隊を編成してグランロアマウンへと向かう」
 ダルド王が次々と指示を出し、議会を取り仕切る。
 ここぞという時には国王としての威厳を示して皆を纏めるその姿には、誰しも敬意と賞賛を抱かずにはいられない。
「して、ゼールよ。此度の龍伐、参加してくれるか?」
「申し訳ございませんが、私は現在アトラへの護衛依頼を遂行中です。ご期待には添えません」
「そうか……仕方あるまいな。アトラまでとは、いったいどのような者の護衛だ?」
「魔族の少年でございます」
「ほう、魔族の……しかも少年ときたか……おまえの生き方は相変わらずのようだ」
「…………」
「何も責めておる訳ではない。安心しておるのだ。生き方とは、信条とは変えられんものだ。ワシがそうであったように、おまえの信条も曲げられん強さを持つということだろう」
「過ぎた御言葉でございます」
「ふむ。では此度の議会はこれにて閉会とする!イラルド、ゼールを街まで送ってやれ。パーザ、シベルディア!先程の通りだ、各々の役割を果たせ!」
「「「ハッ!」」」
 街で奮闘する少年の思惑とは裏腹に、龍を巡っての物語は動き出す。