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18.Pressure Drop/Toots & the Maytals

ー/ー



 切れたギター弦のコトが気になり、酔うに酔えない夜を過ごし、いつもの如く夜中の一時過ぎぐらいに、女子会プラス三十路のオッサンの宴はお開きになる。
 しかも花見での死刑執行日が今週末に設定されており、胃痛が日増しに酷くなっている気がする。

 二日酔いによる重たいアタマで仕事をこなし、やはり重たい足取りで帰路に付く。

 家に帰っても弦の切れたギターを取り出すコトは無く、立ったり座ったりを繰り返してミチヨの訪問を待った。

『ドンドンドン』

 いつものように荒々しくドアがノックされ、やっと来たかという心持ちで玄関を解錠すると、マキとミチヨだけでなく、今日はサクラとエリカもそこに居た。

「お疲れっす。今日は全員揃ってイ~ンザハウス!」

 ミチヨがおどけてみせるが、俺は弦を切ったコトがそこまで大事になっているのかと、やや不安になりながらも四人を部屋に通した。

「いやぁ~今日は久々に四人でスタジオ入れたんすよねー。充実充実! んじゃ早速弦の張り替えしましょう。マキちゃんカモン」

 ポケモンかカプセル怪獣を召喚すべく、ミチヨがマキにギターを手渡して弦の交換を委ねる。

 マキは慣れた手付きですべてのペグを緩めると、そんなに雑でイイのかと不安に思うぐらい、ニッパーでバチバチと弦を切り始めた。

「ちなみにサクラはどのくらい弦替えてなかった?」

 手元から目線を外さずに、マキはサクラに問う。

「んーと、二年ぐらい? しばらく弾いてなかったし」

「そりゃ切れるわ! ペグ回りの弦なんて錆び錆びだもん」

 手際良く外し終わると、古い弦をくるりとまとめて新しい弦を取り出して、熟練の仕立て屋の如く真新しい弦を張ってゆく。

 たゆんだ弦がテンションを保ち始め、一本ずつピックで弾きながらペグを回し、元の音に近づくと、音叉と呼ばれる何に使うのかイマイチよくわかっていなかった道具で、柱を叩いて口で咥える。

 うっすらと金属音の残響が聞こえる中、マキはペグを慎重に回してチューニングに取り掛かっていた。

 当然だが素人の俺には無理だとしても、モノの十分程度で弦の張り替えが終わるモノなのだと知った。

 ふとマキの手元で散らかっている、ド派手なピンク色のギター弦の袋に目をやると、698円の値札が貼ってあった。

「あの、ミチヨさん? 昨日私ってお幾らお渡ししましたっけ?」

「ん? 諸々の手数料込みで三千円でしたけど?」

「値札を見る限り、ギター弦自体は698円のようなんですが、残り二千円以上あるハズのお釣りはどちらに?」

「お陰様で、今みんなの喉を潤して頂いております。ご馳走様でございます」

 出たよ! 守銭奴どもめ!! 知らなかったとは言え、完全にボッタクられたじゃないか!

「じゃあ千円で足りるって最初から言えばイイじゃないか! っていうかバイオリンの弓の話なんて何の関係も無いし!」

「バイオリンの話は、単純に世間話ですけど? それに買いに行った手間賃と、マキの張り替え工賃が含まれてるんだからイイじゃない」

 ぐ、ぐぅの音も出ないっていうこの屈辱感。今後ミチヨに金を渡すコトが無いように気を付けねば。

「はい、完了! 古い弦と違って音の響き方が違うと思うから、ちょっと弾いてみたら?」

 悔しさで下唇を噛んでいると、チューニングを終えたマキがギターを手渡してくれたのだが、心なしか弦が艶々しているような気がする。

 若干緊張しながら、弦を切ったイメージを払拭しつつ恐る恐るコードでGを鳴らす。

『ジャラーン!』

 昨日まで感じていた、やや何かが干渉しているような雑味が無く、綺麗で透き通った音色が響いた。

「おおお! 弦を張り替えるだけでこんなに違うモンなのか!」

「まぁアミオくんは生音で鳴らしてるから、特にそう感じるかもね? 次回から自分で張り替えてよ? ボクもう面倒臭いのイヤだから」

 コードが弾きやすくなったので、気持ち良く掻き鳴らしてしまい、後半は聞こえないフリをした。

「さぁ、弦も新しくなったコトだし、明後日の花見デビューも大丈夫そうですね! ちなみに当日は何時上がりですか?」

 気持ち良くギターを弾いていた手が止まる。そっち完全に忘れてたわ。

「あー、えっと、そうっすね。帰宅は20時ぐらいかと」

 もっと遅く設定して、何とかやり過ごそうとも思ったが、土曜の夜なら何時まででも待たれてしまいそうなので、ここは正直に答えた。

「じゃあ、本門寺公園ってわかります? そこ行こうと思ってるんですけど、人が多かったら探しづらいんで、五重の塔で待ち合わせしませんか? 前日に回収来るんで、ギターは運んでおきますから」

 着々と俺のデビューステージの段取りが決められてゆく。もう今更断れるような強い心を持っていない三十路のオッサンは、それに従う以外の選択肢は無く、コクコクと頷くばかりだった。

「いやぁ楽しみだ! アミオさん頑張ってくださいね」

「ボクが教えたんだから、ちゃんと弾いてくれないと怒りますよ?」

「アミオがしっかり練習したなら大丈夫じゃない? 頑張ってね?」

「みんな期待してますから、当日は楽しんでやりましょう!」

 四人からプレッシャーとしか思えないような激励を頂き、不安しかない明後日を迎えるコトになった。

 翌日、宣言通り回収に来たサクラにギターを渡すと、土曜日は朝から気持ち悪くなるぐらい胃痛がした。


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 二日酔いによる重たいアタマで仕事をこなし、やはり重たい足取りで帰路に付く。
 家に帰っても弦の切れたギターを取り出すコトは無く、立ったり座ったりを繰り返してミチヨの訪問を待った。
『ドンドンドン』
 いつものように荒々しくドアがノックされ、やっと来たかという心持ちで玄関を解錠すると、マキとミチヨだけでなく、今日はサクラとエリカもそこに居た。
「お疲れっす。今日は全員揃ってイ~ンザハウス!」
 ミチヨがおどけてみせるが、俺は弦を切ったコトがそこまで大事になっているのかと、やや不安になりながらも四人を部屋に通した。
「いやぁ~今日は久々に四人でスタジオ入れたんすよねー。充実充実! んじゃ早速弦の張り替えしましょう。マキちゃんカモン」
 ポケモンかカプセル怪獣を召喚すべく、ミチヨがマキにギターを手渡して弦の交換を委ねる。
 マキは慣れた手付きですべてのペグを緩めると、そんなに雑でイイのかと不安に思うぐらい、ニッパーでバチバチと弦を切り始めた。
「ちなみにサクラはどのくらい弦替えてなかった?」
 手元から目線を外さずに、マキはサクラに問う。
「んーと、二年ぐらい? しばらく弾いてなかったし」
「そりゃ切れるわ! ペグ回りの弦なんて錆び錆びだもん」
 手際良く外し終わると、古い弦をくるりとまとめて新しい弦を取り出して、熟練の仕立て屋の如く真新しい弦を張ってゆく。
 たゆんだ弦がテンションを保ち始め、一本ずつピックで弾きながらペグを回し、元の音に近づくと、音叉と呼ばれる何に使うのかイマイチよくわかっていなかった道具で、柱を叩いて口で咥える。
 うっすらと金属音の残響が聞こえる中、マキはペグを慎重に回してチューニングに取り掛かっていた。
 当然だが素人の俺には無理だとしても、モノの十分程度で弦の張り替えが終わるモノなのだと知った。
 ふとマキの手元で散らかっている、ド派手なピンク色のギター弦の袋に目をやると、698円の値札が貼ってあった。
「あの、ミチヨさん? 昨日私ってお幾らお渡ししましたっけ?」
「ん? 諸々の手数料込みで三千円でしたけど?」
「値札を見る限り、ギター弦自体は698円のようなんですが、残り二千円以上あるハズのお釣りはどちらに?」
「お陰様で、今みんなの喉を潤して頂いております。ご馳走様でございます」
 出たよ! 守銭奴どもめ!! 知らなかったとは言え、完全にボッタクられたじゃないか!
「じゃあ千円で足りるって最初から言えばイイじゃないか! っていうかバイオリンの弓の話なんて何の関係も無いし!」
「バイオリンの話は、単純に世間話ですけど? それに買いに行った手間賃と、マキの張り替え工賃が含まれてるんだからイイじゃない」
 ぐ、ぐぅの音も出ないっていうこの屈辱感。今後ミチヨに金を渡すコトが無いように気を付けねば。
「はい、完了! 古い弦と違って音の響き方が違うと思うから、ちょっと弾いてみたら?」
 悔しさで下唇を噛んでいると、チューニングを終えたマキがギターを手渡してくれたのだが、心なしか弦が艶々しているような気がする。
 若干緊張しながら、弦を切ったイメージを払拭しつつ恐る恐るコードでGを鳴らす。
『ジャラーン!』
 昨日まで感じていた、やや何かが干渉しているような雑味が無く、綺麗で透き通った音色が響いた。
「おおお! 弦を張り替えるだけでこんなに違うモンなのか!」
「まぁアミオくんは生音で鳴らしてるから、特にそう感じるかもね? 次回から自分で張り替えてよ? ボクもう面倒臭いのイヤだから」
 コードが弾きやすくなったので、気持ち良く掻き鳴らしてしまい、後半は聞こえないフリをした。
「さぁ、弦も新しくなったコトだし、明後日の花見デビューも大丈夫そうですね! ちなみに当日は何時上がりですか?」
 気持ち良くギターを弾いていた手が止まる。そっち完全に忘れてたわ。
「あー、えっと、そうっすね。帰宅は20時ぐらいかと」
 もっと遅く設定して、何とかやり過ごそうとも思ったが、土曜の夜なら何時まででも待たれてしまいそうなので、ここは正直に答えた。
「じゃあ、本門寺公園ってわかります? そこ行こうと思ってるんですけど、人が多かったら探しづらいんで、五重の塔で待ち合わせしませんか? 前日に回収来るんで、ギターは運んでおきますから」
 着々と俺のデビューステージの段取りが決められてゆく。もう今更断れるような強い心を持っていない三十路のオッサンは、それに従う以外の選択肢は無く、コクコクと頷くばかりだった。
「いやぁ楽しみだ! アミオさん頑張ってくださいね」
「ボクが教えたんだから、ちゃんと弾いてくれないと怒りますよ?」
「アミオがしっかり練習したなら大丈夫じゃない? 頑張ってね?」
「みんな期待してますから、当日は楽しんでやりましょう!」
 四人からプレッシャーとしか思えないような激励を頂き、不安しかない明後日を迎えるコトになった。
 翌日、宣言通り回収に来たサクラにギターを渡すと、土曜日は朝から気持ち悪くなるぐらい胃痛がした。