その木を見た時、皆そろって感嘆の声を上げた。
「おおぉ~、これが……!」
「初めて見た……!」
正確には、加地くんと弓槻さんが。ナオヤくんの家の庭で、二人はため息にも似た息をついていた。
淡い薄紅色の花びらをまとった桜の木を見上げていると、私もナオヤくんも、同じ気持ちになる。
そして、桜だけじゃない。
庭を見回すと、それまでは植え込みを整えていただけだったのに、今や色とりどりの、四季折々の花が植えられていた。
赤や白や黄色や紫……時には青も織り交ぜて、華やかなお庭になっている。
庭をあちこち見て回っている二人に対して、ナオヤくんと私は、庭のテラスにあるベンチに並んで座って、のんびり庭全体を眺めていた。
「おばさん、やるとなると凄いね」
「母は、行動力が人の百倍はありますから」
私たちは、少しずつ、家族としての距離を縮めていくことにした。
それもまた、先日増やした『実験リスト』の項目の一つだ。
まだ桜を見て感激している二人を置いて、私はナオヤくんにも見えるように、リストを開いた。そこに書かれてある項目に、線を引いていく。その項目は……
・両親にお願いごとをする
愛情を試すわけじゃないけれど、自分たちだけじゃ難しいことについて周りを頼ってみることが必要だった。これはその第一段階だ。
あの時、ナオヤくんに勇気をもらったおかげで、私は今、こうしてリストを達成することができたのだ。
「ですが、良かったんでしょうか。桜の木だけじゃなく、庭の花や苗まで、ヒトミさんのご両親に甘えてしまって……」
「その分、ナオヤくんのお母さんには庭全体を使わせてもらっちゃったし、たぶん今後の手入れもお願いすることになるし……」
私の両親とナオヤくんのお母さん、特に示し合わせたわけじゃないけれど、何だかうまく費用折半となって、トントン拍子に庭が出来上がっていった。
どちらも一流企業の社長……やるとなったら、それはもう仕事が速い。親たちの『本気』を見た気がした。
「すげーよな。まさか本当に、ここで花見ができるなんて思ってなかった」
「深海くんだけじゃなくて、ヒトミちゃんまでお嬢様だったっていうのもびっくりだけど」
いつの間にか、庭を見回っていた加地くんと弓槻さんが戻ってきた。まだ興奮冷めやらぬ様子で、ベンチの脇にある椅子に座った。
「あはは……」
結局は私の力じゃないので、なんとも恐縮なんだけれども……結果として、喜んでもらえているみたいなので、いいってことにしよう。