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ー/ー



「深海! 退院おめでとー!」
「おめでとー!」
「おめでとう」
 深海家の本宅のリビングに、加地くん、弓槻さん、そして私と、賑やかな声が響いた。
 テーブルの端に座るナオヤくんに、私たちは各々プレゼントを渡す……というより押しつけていった。
 花束やらプレゼントやらお菓子やらに囲まれて、ナオヤくんは何故かもじもじしている。
 昼休み、おばさんから一報がもたらされたのだ。ナオヤくんが退院して、明日から登校が可能だと。
 そんなことを聞いて大人しくしている二人じゃない。早速目をキラキラ輝かせて、道すがらあれやこれやと買い込みながらナオヤくんの家まで突撃してしまったのだ。
 当然、ナオヤくんはしばらく茫然としていた。
「……ありがとうございます」
 そう言うナオヤくんは、何故か少し、居心地が悪そうだった。
「あの……急に来たから迷惑だった?」
 私がそう尋ねると、ナオヤくんは首を横に振った。
「まさか。来てくれてとても嬉しい。ですが、その……退院して『おめでとう』と言われるのが、よくわからなくて……僕は迷惑をかけていただけなので、祝って頂くようなこととは何も……」
「うわ、出た! 深海のよくわかんねえ屁理屈」
「屁理屈……」
「退院できて良かったって皆が思ったんだから、これでいいの。大人しく祝われなさい」
「……はい」
 首を傾げながらも、とりあえず引き下がる。
 あの日から一週間ほど入院が続き、ようやく一昨日、退院できたらしい。全身検査して、ようやくお医者さんの許可が下りたのだとか。
 最後の一週間ほどは体力も戻って来たのか、今までと同じくらいの足取りで歩けるようになっていた。四人で中庭を散策したり、院内の食堂メニューを制覇しようとしたり……行動範囲が狭くなっても、楽しく過ごしていた。
 それに、他にも……
「深海も退院したことだし、いよいよこの実験リストを実行していく時だな!」
 加地くんがリストのファイルを開いて、大々的に壁に映した。
 ナオヤくんの入院で一時期ストップしていた『実験リスト』。リストの項目も、塗りつぶされた箇所も、入院前の状態から変わっていない。
 つまり、あと残りの項目は……

・誰かを笑わせる
・花見をする

 この2つだ。そこですかさずナオヤくんが挙手する。
「その『誰かを笑わせる』は完了です。消し忘れていました」
 当然、加地くんと弓槻さんはぎょっとしていた。
「え、なに? 深海が『笑わせ』たの? 誰を? いつ? どうやって?」
「海に行った翌朝、冗談を言って、ヒトミさんを笑わせました。なので完了でいいんですよね?」
「うぇ!?」
 いきなり話を向けられて戸惑う暇などなく、梶君と湯築さんが詰め寄ってくる。
「どうなの、ヒトミちゃん? 笑ったの? 面白かったの?」
「てかどんな冗談だよ? マジで想像できねえんだけど?」
 面白かったと言うよりも、この人があんなことを言うなんてっていう意外性に押し切られたようなところはあったと思う。
 だけど具体的な内容は、ナオヤくんの事情に深く関わるので言えない。二人の追求からどう逃れようか迷っていると……
「僕が、生成管理番号の下三桁が『708』で『ナオヤ』という名にしたんですが、もしも100番違っていたら『808』……つまり僕はナオヤではなくヤオヤになっていた……という冗談です」
 まさか自分から言うとは……。
 思った通り、加地くんも、弓槻さんも、ピタッと動きを止めて、瞬きすら忘れて、ナオヤくんを見ていた。



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「深海! 退院おめでとー!」
「おめでとー!」
「おめでとう」
 深海家の本宅のリビングに、加地くん、弓槻さん、そして私と、賑やかな声が響いた。
 テーブルの端に座るナオヤくんに、私たちは各々プレゼントを渡す……というより押しつけていった。
 花束やらプレゼントやらお菓子やらに囲まれて、ナオヤくんは何故かもじもじしている。
 昼休み、おばさんから一報がもたらされたのだ。ナオヤくんが退院して、明日から登校が可能だと。
 そんなことを聞いて大人しくしている二人じゃない。早速目をキラキラ輝かせて、道すがらあれやこれやと買い込みながらナオヤくんの家まで突撃してしまったのだ。
 当然、ナオヤくんはしばらく茫然としていた。
「……ありがとうございます」
 そう言うナオヤくんは、何故か少し、居心地が悪そうだった。
「あの……急に来たから迷惑だった?」
 私がそう尋ねると、ナオヤくんは首を横に振った。
「まさか。来てくれてとても嬉しい。ですが、その……退院して『おめでとう』と言われるのが、よくわからなくて……僕は迷惑をかけていただけなので、祝って頂くようなこととは何も……」
「うわ、出た! 深海のよくわかんねえ屁理屈」
「屁理屈……」
「退院できて良かったって皆が思ったんだから、これでいいの。大人しく祝われなさい」
「……はい」
 首を傾げながらも、とりあえず引き下がる。
 あの日から一週間ほど入院が続き、ようやく一昨日、退院できたらしい。全身検査して、ようやくお医者さんの許可が下りたのだとか。
 最後の一週間ほどは体力も戻って来たのか、今までと同じくらいの足取りで歩けるようになっていた。四人で中庭を散策したり、院内の食堂メニューを制覇しようとしたり……行動範囲が狭くなっても、楽しく過ごしていた。
 それに、他にも……
「深海も退院したことだし、いよいよこの実験リストを実行していく時だな!」
 加地くんがリストのファイルを開いて、大々的に壁に映した。
 ナオヤくんの入院で一時期ストップしていた『実験リスト』。リストの項目も、塗りつぶされた箇所も、入院前の状態から変わっていない。
 つまり、あと残りの項目は……
・誰かを笑わせる
・花見をする
 この2つだ。そこですかさずナオヤくんが挙手する。
「その『誰かを笑わせる』は完了です。消し忘れていました」
 当然、加地くんと弓槻さんはぎょっとしていた。
「え、なに? 深海が『笑わせ』たの? 誰を? いつ? どうやって?」
「海に行った翌朝、冗談を言って、ヒトミさんを笑わせました。なので完了でいいんですよね?」
「うぇ!?」
 いきなり話を向けられて戸惑う暇などなく、梶君と湯築さんが詰め寄ってくる。
「どうなの、ヒトミちゃん? 笑ったの? 面白かったの?」
「てかどんな冗談だよ? マジで想像できねえんだけど?」
 面白かったと言うよりも、この人があんなことを言うなんてっていう意外性に押し切られたようなところはあったと思う。
 だけど具体的な内容は、ナオヤくんの事情に深く関わるので言えない。二人の追求からどう逃れようか迷っていると……
「僕が、生成管理番号の下三桁が『708』で『ナオヤ』という名にしたんですが、もしも100番違っていたら『808』……つまり僕はナオヤではなくヤオヤになっていた……という冗談です」
 まさか自分から言うとは……。
 思った通り、加地くんも、弓槻さんも、ピタッと動きを止めて、瞬きすら忘れて、ナオヤくんを見ていた。