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ー/ー



 重いため息を落とした私に、おばさんは静かに声をかけた。
「あなたたちのせいじゃない。すべて私が悪いのよ」
「そんな……!」
「そうなのよ。だって、私が不可能な夢を見たせいなんだから」
 声が震えていた。見ると、両手までが震えて、そして固く握りしめられていた。
「夫も息子も、死んでしまったらもう会えない。そんな当たり前のことを否定して、技術的に難しいと言われても金にものを言わせて断行した。その結果が、今なの」
 私は、なんとか否定しようとした。でも、できなかった。
「一人の人間を作るために、たくさんのクローンという名の人間を犠牲にした。やっと無事に生まれた子の寿命を縮めさせてしまった。恐ろしいまでの成長を強制したせいで、身体も未発達にさせてしまった……すべて私が、あの子を再現してほしいなんて望んだせい……あの子と会って初めて、私は自分の所業がどれほど傲慢で鬼畜だったのか、思い知った。だけど、その時にはもう遅かった……! あの子はもう、この世に存在しているのだから」
 おばさんの声は、いつしか言葉と嗚咽が入り交じっていた。
 すべてを語り終えたおばさんは顔を覆って、ひたすらに涙を堪えている。そっとその背中をさすると、その手を握り返された。
 ようやくわかった。おばさんはずっと、重すぎる責任を背負っていた。ナオヤくんを弱くしてしまったことの罪悪感に潰されないように必死だったんだ。
 そして、ナオヤくんも、きっと同じだった。あまりにも深海くんと違いすぎる自分を責めていた。おばさんの……母親の望む人間になれない罪悪感を抱えていた。
 あまりにも重すぎて、一人では耐えられないはずで……どちらも、相手を責めたっておかしくないのに、一言もそんな言葉を口にしない。
 だからこそ、もどかしい。どうして、お互いにその思いを言わないんだろうと思ってしまった。
 その時だった。おばさんのリスト端末から、声がした。
『お母さん、もうそれくらいで』
 ナオヤくんの声だった。
「え!? どうして!?」
『病室の声を拾うために回線を開いたままにしていたでしょう。逆のことだってできるんですよ』
 つまり、ナオヤくんは全部聞いていたんだ。おばさんの告白を、すべて。
『二人とも、こっちに来てはどうですか。外は、もう暗いでしょう』
 おばさんと二人、顔を見合わせる。その頬に、さっきまで差していた西日はない。辺りを見回すと、日の光はすっかり消えて、夜の闇が覆っていた。街灯の小さな灯りが、水面にぽつんぽつんと映っている。
 おばさんが瞬きを数度繰り返して、私を見た。涙で赤い目を、隠すこともせずに。
「……来てくれる?」
「……はい」
 私は迷わず、頷いた。 



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 重いため息を落とした私に、おばさんは静かに声をかけた。
「あなたたちのせいじゃない。すべて私が悪いのよ」
「そんな……!」
「そうなのよ。だって、私が不可能な夢を見たせいなんだから」
 声が震えていた。見ると、両手までが震えて、そして固く握りしめられていた。
「夫も息子も、死んでしまったらもう会えない。そんな当たり前のことを否定して、技術的に難しいと言われても金にものを言わせて断行した。その結果が、今なの」
 私は、なんとか否定しようとした。でも、できなかった。
「一人の人間を作るために、たくさんのクローンという名の人間を犠牲にした。やっと無事に生まれた子の寿命を縮めさせてしまった。恐ろしいまでの成長を強制したせいで、身体も未発達にさせてしまった……すべて私が、あの子を再現してほしいなんて望んだせい……あの子と会って初めて、私は自分の所業がどれほど傲慢で鬼畜だったのか、思い知った。だけど、その時にはもう遅かった……! あの子はもう、この世に存在しているのだから」
 おばさんの声は、いつしか言葉と嗚咽が入り交じっていた。
 すべてを語り終えたおばさんは顔を覆って、ひたすらに涙を堪えている。そっとその背中をさすると、その手を握り返された。
 ようやくわかった。おばさんはずっと、重すぎる責任を背負っていた。ナオヤくんを弱くしてしまったことの罪悪感に潰されないように必死だったんだ。
 そして、ナオヤくんも、きっと同じだった。あまりにも深海くんと違いすぎる自分を責めていた。おばさんの……母親の望む人間になれない罪悪感を抱えていた。
 あまりにも重すぎて、一人では耐えられないはずで……どちらも、相手を責めたっておかしくないのに、一言もそんな言葉を口にしない。
 だからこそ、もどかしい。どうして、お互いにその思いを言わないんだろうと思ってしまった。
 その時だった。おばさんのリスト端末から、声がした。
『お母さん、もうそれくらいで』
 ナオヤくんの声だった。
「え!? どうして!?」
『病室の声を拾うために回線を開いたままにしていたでしょう。逆のことだってできるんですよ』
 つまり、ナオヤくんは全部聞いていたんだ。おばさんの告白を、すべて。
『二人とも、こっちに来てはどうですか。外は、もう暗いでしょう』
 おばさんと二人、顔を見合わせる。その頬に、さっきまで差していた西日はない。辺りを見回すと、日の光はすっかり消えて、夜の闇が覆っていた。街灯の小さな灯りが、水面にぽつんぽつんと映っている。
 おばさんが瞬きを数度繰り返して、私を見た。涙で赤い目を、隠すこともせずに。
「……来てくれる?」
「……はい」
 私は迷わず、頷いた。