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蜘蛛と男 2

ー/ー



「勇者アシノ様は本当人気者ねー」

 温泉の脱衣所で服を脱ぎながらルーは言う。

「うるせぇ」

 宿屋の娘に押し切られる感じでついアシノはサインを書くと、その場で宿屋のカウンターに飾られてしまった。

「やはり、勇者ともなると皆の憧れになるのでしょう」

 モモはフォローしたつもりで言ったが、アシノは拗ねたままだ。

「今の私はビンのフタを飛ばすことが出来るだけだぞ」

「ですが、それ以前のアシノ殿の功績は本物じゃないですか」

「……そっか」

 アシノは一言言って温泉へと向かった。

「まったく、アシノって素直じゃないんだから」

 女性陣が温泉を満喫している頃、ムツヤとユモトも温泉に入っていた。カバンは目の届く位置に置いてある。

 昼間だったので客はムツヤ達だけだった。疲れた体に温泉が染みる。

「いやー、温泉って良いですねー」

「本当ですね」

 ムツヤが温泉にどっぷりと浸かっているのを笑顔でユモトは見つめていた。

「ムツヤっちー聞こえるー?」

 壁で隔たれた向こう側からルーの声が聞こえる。

「はーい、聞こえますよー」

 ムツヤは大きな声で返事をした。

「初めての温泉はどーおー?」

「はい、とっても気持ちいいですー」

 その時ルーは何かを思い出した様にニヤニヤして言う。

「また女湯覗いちゃダメよー?」

 ユモトとモモはブーッと吹き出す。ムツヤは思い出してあわあわとしていた。

「い、いや、あの時はカバンを追ってただけで」

「ルー殿、あれは不可抗力で仕方がなかったと思います!!」

「あんまりムツヤをイジメてやんなよー」

 ルーは爆笑していた。そして、温泉から上がると6人は並んで牛乳を飲んだ。

「プハー、最高ね!!」

 そんなムツヤ達に訪ね人が現れる。

「失礼ですが、勇者アシノ様ですか?」

「えぇ、そうですが?」

 若い男だった、アシノが返事をすると話を進める。

「私は村長の使いの者です。村長が勇者アシノ様に挨拶をしたいと言っているのですが……」

「わかりました、今からでも良いですか?」

「はい、ご案内します」

 男の案内でムツヤ達は周りの家よりも一回り大きい家に着いた。

「村長、アシノ様達をお連れしました」

 戸を開けて中に案内される。そこそこ立派な部屋に村長と思わしき老人が座っていた。

「おぉ、いらっしゃいましたか。本来であれば私から出向くのが筋ですが、足が悪くてですね」

「いえ、お気になさらず。お久しぶりです。あと彼等は冒険者仲間です」

 いつものかったるそうな態度は何処へやら、礼節の正しさは流石は勇者だなと思わせるものがあった。

「お仲間の皆様もどうも、それでアシノ様をお呼びしたのは……、お願いをしたい事がありまして……」

 村長は歯切れが悪く言った、当然アシノは聞き返す。

「ご依頼でしたらギルドを通して冒険者を募集なさってはいかがでしょうか?」

「いえ、実は内密にお願いをしたい事がありまして……」

「内密ですか?」

 アシノは訝しげに聞く、相変わらず村長は何かを言いづらそうにしている。

「その、実はですね……、村の1人が蜘蛛の化け物に化かされてしまいまして」

「蜘蛛の化け物……、もしかしてアラクネの事ですか?」

 アシノが言い直すと村長はゆっくりと頷いた。

「こんな事が村の外に知れたら村の恥です。そこでどうか、勇者アシノ様に内密の内に蜘蛛の化け物を退治していただけないかと思いまして」

 そういう事かとアシノは目を閉じる。

「あのー、ちょっと質問いいですかー?」

 ルーが手を上げて言った。

「はい、何でしょう」

 村長は視線をルーの方へ向けて返事をする。

「アラクネって今はとても珍しい魔物なんですけど、なぜ突然現れたのでしょうか?」

「それは私達にもわかりません。ですが、住民から見たという報告が多く来ておりますので確かだと思います」

「なるほど……」

 アシノは何かを考えて、決断する。

「わかりました、引き受けましょう」


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「勇者アシノ様は本当人気者ねー」
 温泉の脱衣所で服を脱ぎながらルーは言う。
「うるせぇ」
 宿屋の娘に押し切られる感じでついアシノはサインを書くと、その場で宿屋のカウンターに飾られてしまった。
「やはり、勇者ともなると皆の憧れになるのでしょう」
 モモはフォローしたつもりで言ったが、アシノは拗ねたままだ。
「今の私はビンのフタを飛ばすことが出来るだけだぞ」
「ですが、それ以前のアシノ殿の功績は本物じゃないですか」
「……そっか」
 アシノは一言言って温泉へと向かった。
「まったく、アシノって素直じゃないんだから」
 女性陣が温泉を満喫している頃、ムツヤとユモトも温泉に入っていた。カバンは目の届く位置に置いてある。
 昼間だったので客はムツヤ達だけだった。疲れた体に温泉が染みる。
「いやー、温泉って良いですねー」
「本当ですね」
 ムツヤが温泉にどっぷりと浸かっているのを笑顔でユモトは見つめていた。
「ムツヤっちー聞こえるー?」
 壁で隔たれた向こう側からルーの声が聞こえる。
「はーい、聞こえますよー」
 ムツヤは大きな声で返事をした。
「初めての温泉はどーおー?」
「はい、とっても気持ちいいですー」
 その時ルーは何かを思い出した様にニヤニヤして言う。
「また女湯覗いちゃダメよー?」
 ユモトとモモはブーッと吹き出す。ムツヤは思い出してあわあわとしていた。
「い、いや、あの時はカバンを追ってただけで」
「ルー殿、あれは不可抗力で仕方がなかったと思います!!」
「あんまりムツヤをイジメてやんなよー」
 ルーは爆笑していた。そして、温泉から上がると6人は並んで牛乳を飲んだ。
「プハー、最高ね!!」
 そんなムツヤ達に訪ね人が現れる。
「失礼ですが、勇者アシノ様ですか?」
「えぇ、そうですが?」
 若い男だった、アシノが返事をすると話を進める。
「私は村長の使いの者です。村長が勇者アシノ様に挨拶をしたいと言っているのですが……」
「わかりました、今からでも良いですか?」
「はい、ご案内します」
 男の案内でムツヤ達は周りの家よりも一回り大きい家に着いた。
「村長、アシノ様達をお連れしました」
 戸を開けて中に案内される。そこそこ立派な部屋に村長と思わしき老人が座っていた。
「おぉ、いらっしゃいましたか。本来であれば私から出向くのが筋ですが、足が悪くてですね」
「いえ、お気になさらず。お久しぶりです。あと彼等は冒険者仲間です」
 いつものかったるそうな態度は何処へやら、礼節の正しさは流石は勇者だなと思わせるものがあった。
「お仲間の皆様もどうも、それでアシノ様をお呼びしたのは……、お願いをしたい事がありまして……」
 村長は歯切れが悪く言った、当然アシノは聞き返す。
「ご依頼でしたらギルドを通して冒険者を募集なさってはいかがでしょうか?」
「いえ、実は内密にお願いをしたい事がありまして……」
「内密ですか?」
 アシノは訝しげに聞く、相変わらず村長は何かを言いづらそうにしている。
「その、実はですね……、村の1人が蜘蛛の化け物に化かされてしまいまして」
「蜘蛛の化け物……、もしかしてアラクネの事ですか?」
 アシノが言い直すと村長はゆっくりと頷いた。
「こんな事が村の外に知れたら村の恥です。そこでどうか、勇者アシノ様に内密の内に蜘蛛の化け物を退治していただけないかと思いまして」
 そういう事かとアシノは目を閉じる。
「あのー、ちょっと質問いいですかー?」
 ルーが手を上げて言った。
「はい、何でしょう」
 村長は視線をルーの方へ向けて返事をする。
「アラクネって今はとても珍しい魔物なんですけど、なぜ突然現れたのでしょうか?」
「それは私達にもわかりません。ですが、住民から見たという報告が多く来ておりますので確かだと思います」
「なるほど……」
 アシノは何かを考えて、決断する。
「わかりました、引き受けましょう」