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 ぎょっとした。さっきの自撮りを見られていたっていう焦りもあるけれど、聞こえてきたその声には覚えがあった。
 声の主は、私よりほんの数メートルしか離れていない場所に立っていた。私と同じように、テラスの柵に寄りかかり、不思議そうな視線をこちらに向けている。
 いつまでも答えない私に、まっすぐな声が、また届いた。
「あなたは先ほど自分を『天宮 ヒトミ』と名乗り、すぐに『天宮 愛』と変更しました。どちらがあなたの名前なんでしょうか?」
 私が瞬きを繰り返す間も、その人はじっと、こちらを見つめている。視線で射貫かれる、とはこういうことをいうのかと、ぼんやり思った。
 そして、この人はやっぱり、よく知っている人だとわかった。
「もしかして……『深海(ふかみ) 尚也(なおや)』くん?」
 すると、深海くんらしきその人は、ぴくんと体を震わせた。
「そう、ですね。はい。僕は『深海ナオヤ』です」
「やっぱり……えっと、久しぶりだね」
 彼は小学校でのクラスメイトだった人だ。中学に上がる前に私たち家族が引っ越したことで離ればなれになったけれど、『姉』の愛と仲良くしていたのを覚えている。明るくて、頭の回転が速くて、スポーツも得意で、男女問わず人気者だった。愛は、そんな深海くんに密かに憧れていた。よく、覚えている……。
 転校してからはメッセージのやりとりすらなかった仲だけど、やっぱり知っている人だとわかって、ほんの少し安心した。だけど、緊張を和らげた私とは対照的に、目の前の深海くんは、どうしてか顔を強ばらせていた。なんというか……笑顔が、固い。
 その、貼り付いたような笑みのままで、深海くんは首を傾げ、尋ねた。
「それで、僕の質問ですが……あなたは『天宮 ヒトミ』か『天宮 愛』……どちらなのでしょうか?」
 やっぱり、答えないといけないんだ。少し、がっかりした。本当に深海尚也くんなら、答えなくてもいいんじゃないかって、期待した。
 深海くんに気付かれないように小さくため息をこぼしてから、私は、顔を上げた。
「天宮……『ヒトミ』の方だよ。深海くん」
 深海くんは、瞬き一つせずに、「そうですか」と小さく答えただけだった。



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 ぎょっとした。さっきの自撮りを見られていたっていう焦りもあるけれど、聞こえてきたその声には覚えがあった。
 声の主は、私よりほんの数メートルしか離れていない場所に立っていた。私と同じように、テラスの柵に寄りかかり、不思議そうな視線をこちらに向けている。
 いつまでも答えない私に、まっすぐな声が、また届いた。
「あなたは先ほど自分を『天宮 ヒトミ』と名乗り、すぐに『天宮 愛』と変更しました。どちらがあなたの名前なんでしょうか?」
 私が瞬きを繰り返す間も、その人はじっと、こちらを見つめている。視線で射貫かれる、とはこういうことをいうのかと、ぼんやり思った。
 そして、この人はやっぱり、よく知っている人だとわかった。
「もしかして……『|深海《ふかみ》 |尚也《なおや》』くん?」
 すると、深海くんらしきその人は、ぴくんと体を震わせた。
「そう、ですね。はい。僕は『深海ナオヤ』です」
「やっぱり……えっと、久しぶりだね」
 彼は小学校でのクラスメイトだった人だ。中学に上がる前に私たち家族が引っ越したことで離ればなれになったけれど、『姉』の愛と仲良くしていたのを覚えている。明るくて、頭の回転が速くて、スポーツも得意で、男女問わず人気者だった。愛は、そんな深海くんに密かに憧れていた。よく、覚えている……。
 転校してからはメッセージのやりとりすらなかった仲だけど、やっぱり知っている人だとわかって、ほんの少し安心した。だけど、緊張を和らげた私とは対照的に、目の前の深海くんは、どうしてか顔を強ばらせていた。なんというか……笑顔が、固い。
 その、貼り付いたような笑みのままで、深海くんは首を傾げ、尋ねた。
「それで、僕の質問ですが……あなたは『天宮 ヒトミ』か『天宮 愛』……どちらなのでしょうか?」
 やっぱり、答えないといけないんだ。少し、がっかりした。本当に深海尚也くんなら、答えなくてもいいんじゃないかって、期待した。
 深海くんに気付かれないように小さくため息をこぼしてから、私は、顔を上げた。
「天宮……『ヒトミ』の方だよ。深海くん」
 深海くんは、瞬き一つせずに、「そうですか」と小さく答えただけだった。