化け物騒動があったその後。
橋の修復のために、学園都市内から派遣された武器科の生徒何名かが修復作業を行っていた。
幸いなことに人的被害はゼロ。変な宗教の勧誘者も無傷で、本州へと逃げ帰っていった。しかし礼儀礼節の心はあったのか、礼安に対してまるで神でも見たかのように、数えきれないほどの礼をして去っていったのだった。
礼安は一躍時の人になりかけたが、院たちはその場をそそくさと立ち去った。入学前からあまり目立った行動をとりたくはなかった為であった。
「とりあえず、ここが私たちの寮。一応パンフレットにも載っていたけど、寮にしてはシャレにならない大きさだこと」
一通りの学内での準備を整えた後、礼安たちはエヴァの案内により英雄学園の寮へとたどり着いていた。
全五千部屋、そのすべてが3LDKはある二人部屋、かつそれぞれ一軒家となっており、卒業生によってはここで一生暮らすこともあるほどの豪華さを備えている。
電気ガス水道代はもちろん、衣食に関しても無償で最高級のものを扱える。これも人にはよるが、英雄として戦えるまでの勉学を履修したうえで、世界最高峰の料理界やファッション業界で生きていく、なんてこともあるほど。
衣食住全てにおいて日本の「最高峰」である。
「お、お二人私の家のお隣さんじゃあないですか! 出会った縁もありますし、あとでバーベキューでもパァッとやりましょうよ!」
「バーベキュー!? 勿論いいよ! お肉たくさん食べよう!」
子供のようにはしゃぐ礼安。そしてそんな礼安を諫めることを半分放棄し呆れる院。礼安の喜びを共に享受するエヴァ。三者三様の喜びの形がそこにあった。
一通り自分の荷物を片付け終えた院は、部屋の様相をごみ屋敷にしそうな礼安を手伝いつつ、丸三時間が経過したころ。
時刻は午後七時、日も落ち、静けさが辺りを包み始める夕食時であった。
エヴァはバーベキューセットを自身の家から引っ張り出し、早速火の準備をし始めていた。引っ張り出してきた納屋の中は……目も当てられなかった。それは家の中も同様で、仙台の家での惨状を、累乗したようなものであったのだ。
よくこんなところで生活できるものだ、と院が軽く引いた表情で目を細めていると、エヴァはそんな院の心情などくそくらえ、と言わんばかりに礼安顔負けの太陽のような笑顔で返してきたのだった。
院は、どこか既視感を覚えた。そう、ペットショップで自身が生涯ついていく、そんな主人を爛々と輝く目で誘惑する子犬のようであったのだ。
「……なんか、負けましたわ」
院は、犬派である。少々性格に難こそあれど、根が礼安同様良いため、どこかエヴァに子犬のような感覚を覚えてしまった瞬間である。
「え!? なぜでしょうか院さん!? 私何か変なことでもしましたか!?」
「……気にしないでくださいまし、エヴァ『先輩』」
そんな面食らったような院ではあったが、学年上敬うことを決めた瞬間であった。
しかし、そんな礼安などつゆ知らず、バーベキューパーティーがいざ始まると、礼安はエヴァが焼く肉や野菜を口いっぱいに頬張り、これまた満面の笑みで喜ぶのであった。
形容するなら、数日間の出張から帰ってきた主人を出迎える犬。
「――――礼安の笑顔は私が守りますわ」
こんなほほえましいタイミングで、院は重大な決心をしたのだった。
一通りのパーティーが終わった後、院は礼安と一緒に風呂に入るための準備を整えるため、一足先に自分たちの家に帰っていた。
エヴァの家の屋上。
ほかの寮……もとい一軒家の屋上はどこも風景はあまり変わりないものの、エヴァたちの家は、学園と本州を繋ぐ橋、観光客や生徒たちなど多くの人で栄える中心街などが何の邪魔もなくクリアに見えるため、多少の特別感がある。
午後九時に差し掛かろうか、というゴールデンタイム。空には雲一つなく、一つ一つの星々やら月やらが輝き、主張する。
「いやあ、今日は貴女方との運命的な出会いを果たせて、私感激しました! しかも、中々に明朗かつ可憐で……さながら二輪の白百合のようでした、ハイ!」
エヴァと礼安は、屋上に備え付けられている椅子に腰かけながら、エヴァ宅の冷蔵庫(という名のいろいろなものがパンパンに詰まった四次元ポケット)の中から発掘された、奇跡的に無事な缶ジュースを飲んでいた。
「今日はありがとう、エヴァちゃん! お肉や野菜もおいしかったし、これで明日も頑張れそうだよ!」
「いえいえ、それはこちらの台詞にございます……最高の供給をありがとうございました」
何のことだか分からない礼安は、ただただ首をかしげるだけであった。
ぐい、と一つ伸びをすると、エヴァはにこやかに語り掛ける。
「しかし、あの後院さんにある程度話を聞きはしましたが……事実上英雄に変身するのが初めてで、あれだけ動けるのは大したものですよ、礼安さん!」
「私、元々お父さんとかの影響こそあったけど、プリキュアとか大好きだったんだ! 戦う女の子の……輝きっていうのかな、それに憧れてた部分は、少なからずあったんだ」
礼安は、柔らかな笑みを絶やすことはしないままに、きらきらと輝く星空を眺めながらエヴァに語った。
「……私ね、自分の中に『英雄』の因子が眠ってるって聞いた時、内心嬉しかったんだ。私の目の前で、傷つく人をようやく本当の意味で助けてあげられる、って」
「礼安さん……」
礼安は椅子から立ち上がり、楽しそうな学生や見学に来た一般市民を眺めながら、続けて語る。しかし今度は、一人に語り掛けるのではなく、この場にいない第三者に矢印が向かっているようであった。
「今はもう、お空の上にいる私のママも、『人のために、自分のために生きなさい』って小さい頃よく言ってくれてね、人の笑顔を見ることがとにかく大好きだったから、『自分のために、友達も、赤の他人も助ける』。それを何よりに生きてきたんだ!」
エヴァは缶ジュースを静かに傾け、ふうと一息つく。
「――――礼安さんは、とってもいい人です。親御さんの言いつけをしっかりと、今も守り続ける、しばらくリアルで会ってこなかった『信念』と『覚悟』のある人です」
「……ふふっ、エヴァちゃんそんな言われてもなんも出ないよー!」
そういって礼安はエヴァの肩口をぽん、と押す。エヴァはふっ、と笑って見せた。