表示設定
表示設定
目次 目次




回想③〜白草四葉の場合その2〜拾壱

ー/ー



「照れなくてもイイのに……カワイイ……」

 クスリと笑うわたしに、クロは、

「う、うるせ〜」

と、反論するのだった。
 そして、彼は、両手のひらで、パチンと自身の頬を叩き、

「うん! 母ちゃんが来なくても、オレの歌を聞いてくれる人はいるんだしな……」

 そう言って、自分に言い聞かせるようにつぶやく。

「そうだよ! クロの歌う姿を楽しみにしてるヒトもいるんだから!」

 気持ちを立て直そうとするクロに、わたしも賛同する。
 けれど――――――

「あぁ、そうだな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言ってくれてたしな」

 彼は、わたしが掛けた言葉を明後日の方向に解釈したのか、まったく見当違いのセリフを発した。

「はぁ!?」

 クロの発言に、思わず声が漏れてしまう。

(どうして、ここで、他の女のヒトの話しが出てくるわけ!?)

 しかし、彼は、気分を害したわたしには気づかないようすで、

「ありがとう、シロ! じゃ、そろそろ出掛けようぜ!」

と、何事もなかったように声を掛けてくる。
 さらに、タイミングよく、カラオケ・ルームのドアがノックされ、

「竜司くん、シロちゃん。そろそろ出発する時間なんだけど……」

と、廊下から真奈美サンの声がした。
 この日、付き添い役を引き受けてくれた彼女は、クルマを運転して、わたしたちをテレビ局まで送ってくれるということだったのだけど……。
 デリカシーに欠ける男子の発言のせいで、わたし自身の機嫌は、テレビ局に着くまで直ることはなかった。



 真奈美サンの運転するクルマでテレビ局に着いたわたしたちは、受付を終えると、大きな控え室に通された。
 司サンは来ることが出来なかったが、仕事関係の知り合いだというテレビ局の関係者には事前に連絡が入っていたようで、大学生一人と小学生二人という、親子には見えない自分たち三人の組み合わせでも、すんなりと手続きをしてもらうことができた。
 案内された控え室には、すでに五〜六組の親子が待機しており、番組収録前の独特な緊張感が漂っている。
 着物姿の男子中学生、ディズニー・アニメ風のドレスのような衣装を着た女子小学生、なかには、まだ小学校に上がっていなさそうな年齢の女の子もいる。

「なんか、みんな……スゴい、独特な感じがするな……」

 小声で語りかけて来るクロのようすから、控え室の雰囲気に呑まれそうになっていることがわかる。

「テレビに出ようとするヒトたちだもん。まぁ、こんな感じだよ」

 クロの気持ちをリラックスさせようと考え、そう返答すると、

「シロ、こういう大会に出たことあんの? なんか、スゲ〜落ち着いてる感じだけど……」

と、彼は少し不安げな表情でたずねてきた。
 何度か母に連れられて、テレビ局に出入りしたことのあるわたしにとって、子役タレントや、今回のようなちびっこカラオケ大会に出場する小・中学生が放つ独特のオーラは見慣れたモノだったが、普通の小学生として日々を過ごしているであろうクロは、一般の世界とは異なる空気に、気圧されてしまうのも無理はない。
 せっかく、歌う気を取り戻してくれたのに、ここで、クロが萎縮してしまったら、これまでの練習が、すべて無駄になってしまう。
 なんとか、彼に平静な気持ちを取り戻してもらおうと、

「大丈夫! 周りのヒトは、気にしないで、クロの歌の良さを出すことだけを考えて!」

そう声を掛けたけど、クロは、

「あ、あぁ……わかった」

と、返答するのみで、心ここにあらずという感じだ。
 黒田家を出発する直前に、クロに対して感じていたイライラする気持ちは、いつの間にか、消えていたけれど……。
 本番を前に、わたしは、自分のことよりも、この十日あまりをともに過ごして来た同い年の男の子のようすが気掛かりでならなかった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「照れなくてもイイのに……カワイイ……」
 クスリと笑うわたしに、クロは、
「う、うるせ〜」
と、反論するのだった。
 そして、彼は、両手のひらで、パチンと自身の頬を叩き、
「うん! 母ちゃんが来なくても、オレの歌を聞いてくれる人はいるんだしな……」
 そう言って、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そうだよ! クロの歌う姿を楽しみにしてるヒトもいるんだから!」
 気持ちを立て直そうとするクロに、わたしも賛同する。
 けれど――――――
「あぁ、そうだな! |付《・》|き《・》|添《・》|い《・》|で《・》|来《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|る《・》|マ《・》|ナ《・》|ミ《・》|さ《・》|ん《・》|も《・》、|楽《・》|し《・》|み《・》|に《・》|し《・》|て《・》|る《・》って言ってくれてたしな」
 彼は、わたしが掛けた言葉を明後日の方向に解釈したのか、まったく見当違いのセリフを発した。
「はぁ!?」
 クロの発言に、思わず声が漏れてしまう。
(どうして、ここで、他の女のヒトの話しが出てくるわけ!?)
 しかし、彼は、気分を害したわたしには気づかないようすで、
「ありがとう、シロ! じゃ、そろそろ出掛けようぜ!」
と、何事もなかったように声を掛けてくる。
 さらに、タイミングよく、カラオケ・ルームのドアがノックされ、
「竜司くん、シロちゃん。そろそろ出発する時間なんだけど……」
と、廊下から真奈美サンの声がした。
 この日、付き添い役を引き受けてくれた彼女は、クルマを運転して、わたしたちをテレビ局まで送ってくれるということだったのだけど……。
 デリカシーに欠ける男子の発言のせいで、わたし自身の機嫌は、テレビ局に着くまで直ることはなかった。
 真奈美サンの運転するクルマでテレビ局に着いたわたしたちは、受付を終えると、大きな控え室に通された。
 司サンは来ることが出来なかったが、仕事関係の知り合いだというテレビ局の関係者には事前に連絡が入っていたようで、大学生一人と小学生二人という、親子には見えない自分たち三人の組み合わせでも、すんなりと手続きをしてもらうことができた。
 案内された控え室には、すでに五〜六組の親子が待機しており、番組収録前の独特な緊張感が漂っている。
 着物姿の男子中学生、ディズニー・アニメ風のドレスのような衣装を着た女子小学生、なかには、まだ小学校に上がっていなさそうな年齢の女の子もいる。
「なんか、みんな……スゴい、独特な感じがするな……」
 小声で語りかけて来るクロのようすから、控え室の雰囲気に呑まれそうになっていることがわかる。
「テレビに出ようとするヒトたちだもん。まぁ、こんな感じだよ」
 クロの気持ちをリラックスさせようと考え、そう返答すると、
「シロ、こういう大会に出たことあんの? なんか、スゲ〜落ち着いてる感じだけど……」
と、彼は少し不安げな表情でたずねてきた。
 何度か母に連れられて、テレビ局に出入りしたことのあるわたしにとって、子役タレントや、今回のようなちびっこカラオケ大会に出場する小・中学生が放つ独特のオーラは見慣れたモノだったが、普通の小学生として日々を過ごしているであろうクロは、一般の世界とは異なる空気に、気圧されてしまうのも無理はない。
 せっかく、歌う気を取り戻してくれたのに、ここで、クロが萎縮してしまったら、これまでの練習が、すべて無駄になってしまう。
 なんとか、彼に平静な気持ちを取り戻してもらおうと、
「大丈夫! 周りのヒトは、気にしないで、クロの歌の良さを出すことだけを考えて!」
そう声を掛けたけど、クロは、
「あ、あぁ……わかった」
と、返答するのみで、心ここにあらずという感じだ。
 黒田家を出発する直前に、クロに対して感じていたイライラする気持ちは、いつの間にか、消えていたけれど……。
 本番を前に、わたしは、自分のことよりも、この十日あまりをともに過ごして来た同い年の男の子のようすが気掛かりでならなかった。