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13.You're My Best Friend/QUEEN

ー/ー



「だいたい『コリアンダー』が韓国のヒーローだと思ってた天然に、アタシのコト天然とか言われたくないんだよね」
「はぁ? 自分だって『経済アナリスト』をインテリが使う下ネタだと思ってたじゃん」

 夜中の二時過ぎだと言うのに口論。しかも人の家で。

「ちょっと……俺の家でケンカすんのやめてくれません?」

 止めるのも馬鹿馬鹿しい内容の口喧嘩だが、これ以上エキサイトされても面倒なので、一応仲裁。

「心配しなくても大丈夫よ。こんなのいつものコトだから」

 言い合うマキとミチヨを眺めながら、冷静にエリカが言った。

「この二人、中学校からの同級生なのよ。口喧嘩は仲の良い証拠だから」

 中学校からっていうと十年ぐらいか。俺、そんなに長い付き合いの友達なんて……居ない、というか居なくなっちゃったんだよなぁ。

 しかし卒業しても一緒に何かやってるなんて、運命的な出会いってヤツだな。友達らしい友達が居ない俺には羨ましい限りだ。

「エリちゃん、何かアタシ達の悪口言ってるでしょ? 言っとくけど、エリちゃんだって天然の気質あるからね?」

 ミチヨが絡む相手をエリカに変えた。

「あら、例えばどんな?」

 貰い事故だがエリカは淡々と返す。

「前に新宿だか池袋だかでライブやった時のコトだよ!」

「何かあったかしら?」

「猫カフェの前を通った時に、ボソッと言ってたの聞こえたんだからね!

『猫カフェの対義語ってタチ飲み屋かしら……フフフ』

って! そんなワケないじゃん! 猫の反対なら犬とかでしょ!」

「………」

「……そ、そうね、私も天然かもしれないわね。ゴメンなさい」

 いや、いやいやいや、そうじゃないから! おかしいのソコじゃないから!

 チラッとエリカを見るが、完全に目を逸らしている。

『経済アナリスト』とかじゃなくて、高度な下ネタはこっちだから!

「ま、まぁ、長い付き合いなんだから、マキもミチヨも仲良くしなさいね? 弦楽がケンカなんてしてたら、私歌えないんだから」

 あー、無かったコトにしちゃったね。

「ところでマツノさん、私との約束忘れてないですよね?」

 大人しかったサクラが急に絡んできた。

「あ、ああ、そうね。うん。一曲歌うっていうアレね。覚えてますよ」

「約束の期日って一ヶ月後だから、三月下旬じゃないですか? そしたらきっと、もう暖かくなってるから外でやりましょうよ」

 このコは何を言っているんだろうか? 人の初めてを何だと思っているのかと。

「あ、それ楽しそう! ボクもそれがイイと思う」

「いいねー! お花見とかしながらやろう」

 さっきまで白熱した口論を繰り広げていた二人が、急に意見を一致させてきた。さすがまとめ上げるのが上手くていらっしゃる。

「一応訊くけど、それって路上弾き語りに近い感じでやるとか、そういう話?」

「そういう話」

「大丈夫だって! 周り酔っぱらいばっかで誰もアミオくんの歌なんて聴いてないから」

 それはそれで悲しくないか? どうせ初心者素人の弾き語りなんて誰も聴かないだろうけど。

「いやいやいや、初めてなんだから、もっと閉塞的なトコで落ち着いてやらせてよ」

「初めてを大事にするとか、処女か! 最初に恥かいておいた方が後々楽だよ?」

「アハハハ! 処女って! でも酒盛りで楽しくやればイイじゃないですか? 私の判定も緩くなるかもしれないし」

 ミチヨから処女呼ばわりされた三十路のオッサンが、言葉に詰まっているとサクラがフォローを入れた。

 判定が緩いのは惹かれるが、不安は拭いきれない。ただこの四対一の状況では、オッサンが圧倒的に不利だ。

「じゃあ……その時の状況で判断するから、一応、やります」

「頑張ってくださいね? バンバン練習すれば上手くなりますから」

 頑張ってる人に言われる『頑張って』はキツいなぁ。

 俺、今までホントに頑張ったコトなんてあったのか?

「うん。まぁやれるだけやってみるわ。女子高生の平○唯でも弾けてたんだから、俺も練習するか……」

「アハハ! アニメとか観るんだ? アレで女の子のバンド人口増えたよねー」

「まぁすぐやめちゃうコも多かったけどね」

ミチヨとエリカのやり取りを見て、サクラが制す。

「女の子が頑張ってるトコは可愛いけど、マツノさんは必死にやってくださいよ? フィクションのアニメキャラじゃないんですから」

「……」

「……あれ? な、何か悪寒が。俺ちょっと飲み過ぎたかなぁ」

 何だろう? この変な空気。サクラの言葉に全員が黙り込んでしまった。

「ぼ、ボクらもそろそろ帰ろっか?! アミオくんもギター練習してね? 遅くまでお邪魔しましたー」

 マキがそう言うと、他のメンバーは伏し目がちに空き缶を片付け、そそくさと退散していった。

 時計を見ると午前二時過ぎ。

 夜中まで飲んでると、会話もよくわからなくなってくるモノだ。

 小首をかしげつつ風呂に入って布団に潜る。

 目まぐるしい一日だったと思う間もなく、深い眠りに落ちた。


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次のエピソードへ進む 14.Leave It Alone/NOFX


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「だいたい『コリアンダー』が韓国のヒーローだと思ってた天然に、アタシのコト天然とか言われたくないんだよね」「はぁ? 自分だって『経済アナリスト』をインテリが使う下ネタだと思ってたじゃん」
 夜中の二時過ぎだと言うのに口論。しかも人の家で。
「ちょっと……俺の家でケンカすんのやめてくれません?」
 止めるのも馬鹿馬鹿しい内容の口喧嘩だが、これ以上エキサイトされても面倒なので、一応仲裁。
「心配しなくても大丈夫よ。こんなのいつものコトだから」
 言い合うマキとミチヨを眺めながら、冷静にエリカが言った。
「この二人、中学校からの同級生なのよ。口喧嘩は仲の良い証拠だから」
 中学校からっていうと十年ぐらいか。俺、そんなに長い付き合いの友達なんて……居ない、というか居なくなっちゃったんだよなぁ。
 しかし卒業しても一緒に何かやってるなんて、運命的な出会いってヤツだな。友達らしい友達が居ない俺には羨ましい限りだ。
「エリちゃん、何かアタシ達の悪口言ってるでしょ? 言っとくけど、エリちゃんだって天然の気質あるからね?」
 ミチヨが絡む相手をエリカに変えた。
「あら、例えばどんな?」
 貰い事故だがエリカは淡々と返す。
「前に新宿だか池袋だかでライブやった時のコトだよ!」
「何かあったかしら?」
「猫カフェの前を通った時に、ボソッと言ってたの聞こえたんだからね!
『猫カフェの対義語ってタチ飲み屋かしら……フフフ』
って! そんなワケないじゃん! 猫の反対なら犬とかでしょ!」
「………」
「……そ、そうね、私も天然かもしれないわね。ゴメンなさい」
 いや、いやいやいや、そうじゃないから! おかしいのソコじゃないから!
 チラッとエリカを見るが、完全に目を逸らしている。
『経済アナリスト』とかじゃなくて、高度な下ネタはこっちだから!
「ま、まぁ、長い付き合いなんだから、マキもミチヨも仲良くしなさいね? 弦楽がケンカなんてしてたら、私歌えないんだから」
 あー、無かったコトにしちゃったね。
「ところでマツノさん、私との約束忘れてないですよね?」
 大人しかったサクラが急に絡んできた。
「あ、ああ、そうね。うん。一曲歌うっていうアレね。覚えてますよ」
「約束の期日って一ヶ月後だから、三月下旬じゃないですか? そしたらきっと、もう暖かくなってるから外でやりましょうよ」
 このコは何を言っているんだろうか? 人の初めてを何だと思っているのかと。
「あ、それ楽しそう! ボクもそれがイイと思う」
「いいねー! お花見とかしながらやろう」
 さっきまで白熱した口論を繰り広げていた二人が、急に意見を一致させてきた。さすがまとめ上げるのが上手くていらっしゃる。
「一応訊くけど、それって路上弾き語りに近い感じでやるとか、そういう話?」
「そういう話」
「大丈夫だって! 周り酔っぱらいばっかで誰もアミオくんの歌なんて聴いてないから」
 それはそれで悲しくないか? どうせ初心者素人の弾き語りなんて誰も聴かないだろうけど。
「いやいやいや、初めてなんだから、もっと閉塞的なトコで落ち着いてやらせてよ」
「初めてを大事にするとか、処女か! 最初に恥かいておいた方が後々楽だよ?」
「アハハハ! 処女って! でも酒盛りで楽しくやればイイじゃないですか? 私の判定も緩くなるかもしれないし」
 ミチヨから処女呼ばわりされた三十路のオッサンが、言葉に詰まっているとサクラがフォローを入れた。
 判定が緩いのは惹かれるが、不安は拭いきれない。ただこの四対一の状況では、オッサンが圧倒的に不利だ。
「じゃあ……その時の状況で判断するから、一応、やります」
「頑張ってくださいね? バンバン練習すれば上手くなりますから」
 頑張ってる人に言われる『頑張って』はキツいなぁ。
 俺、今までホントに頑張ったコトなんてあったのか?
「うん。まぁやれるだけやってみるわ。女子高生の平○唯でも弾けてたんだから、俺も練習するか……」
「アハハ! アニメとか観るんだ? アレで女の子のバンド人口増えたよねー」
「まぁすぐやめちゃうコも多かったけどね」
ミチヨとエリカのやり取りを見て、サクラが制す。
「女の子が頑張ってるトコは可愛いけど、マツノさんは必死にやってくださいよ? フィクションのアニメキャラじゃないんですから」
「……」
「……あれ? な、何か悪寒が。俺ちょっと飲み過ぎたかなぁ」
 何だろう? この変な空気。サクラの言葉に全員が黙り込んでしまった。
「ぼ、ボクらもそろそろ帰ろっか?! アミオくんもギター練習してね? 遅くまでお邪魔しましたー」
 マキがそう言うと、他のメンバーは伏し目がちに空き缶を片付け、そそくさと退散していった。
 時計を見ると午前二時過ぎ。
 夜中まで飲んでると、会話もよくわからなくなってくるモノだ。
 小首をかしげつつ風呂に入って布団に潜る。
 目まぐるしい一日だったと思う間もなく、深い眠りに落ちた。