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「しっかし、電車の揺れって眠くなるよな」

 桔平くんが、遠慮なく大きな欠伸をする。天気がよくてポカポカしているから、余計に眠気を誘うのよね。

 桔平くんの欠伸がうつったみたいで、私は思わず口元を押さえた。

「いま、うつった?」
「えっ?」

 桔平くんが顔を覗き込んでくる。すぐ隣にいるから、めちゃくちゃ距離が近い。ていうか、なんでそんなに嬉しそうな表情なの?
 
「欠伸、うつっただろ」
「う、うん」
「知ってるか? 欠伸がうつるのって、相手と同じ行動をとってしまう行動伝染って現象なんだよ。行動伝染の根底にあるのは、相手への関心と共感。つまり、親しい相手とか好きな相手の欠伸は、うつりやすいってわけ」

 にやりと笑いながら桔平くんが言う。
 顔が熱くなって黙り込む私を見て、桔平くんは満足げな表情で再び座席にもたれた。

 距離が近いから電車の揺れで体が触れて、そのたびに胸が早鐘を打つ。それを誤魔化すために、とりとめのない話ばかりしてしまった。
 昨日作ったご飯とか、最近の天気のこととか。そんなどうでもいい話を、桔平くんは笑って聞いてくれる。

 会話が途切れてお互いに沈黙しても、それが全然重苦しくなくて。ドキドキするのに、桔平くんの隣は不思議と落ち着けるみたい。

 途中、神田で乗り換えをして上野駅に着いた。駅の構内はとても広くて、やっぱり人であふれている。

「迷子になられてもめんどくせぇから、オレの袖でも掴んでなよ」

 すれ違う人とぶつかりそうになる私を見かねて、桔平くんが言った。本当は手を繋いだほうがいいんだろうけど、桔平くんは自分が言ったことを頑なに守ってくれている。

「じゃあ……失礼します」

 遠慮気味に桔平くんの左袖を掴むと、じっと見下ろされた。本当によく凝視してくるよね……全然嫌ではないけれど、やっぱり恥ずかしい。

「……これはこれでアリだな」
「え、なに?」
「愛茉がすっげぇ可愛いって言ったの」

 今日1日、本当に心臓がもつんだろうか。思わず心配になって、気持ちを落ち着けるために俯いた。

 桔平くんは、私の様子を見つつゆっくり歩いてくれる。いつか手を繋いで歩けるのかな。歩きたいな。桔平くんに触れたいし、触れてほしい。その気持ちを抑えるのに必死だった。


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「しっかし、電車の揺れって眠くなるよな」
 桔平くんが、遠慮なく大きな欠伸をする。天気がよくてポカポカしているから、余計に眠気を誘うのよね。
 桔平くんの欠伸がうつったみたいで、私は思わず口元を押さえた。
「いま、うつった?」
「えっ?」
 桔平くんが顔を覗き込んでくる。すぐ隣にいるから、めちゃくちゃ距離が近い。ていうか、なんでそんなに嬉しそうな表情なの?
「欠伸、うつっただろ」
「う、うん」
「知ってるか? 欠伸がうつるのって、相手と同じ行動をとってしまう行動伝染って現象なんだよ。行動伝染の根底にあるのは、相手への関心と共感。つまり、親しい相手とか好きな相手の欠伸は、うつりやすいってわけ」
 にやりと笑いながら桔平くんが言う。
 顔が熱くなって黙り込む私を見て、桔平くんは満足げな表情で再び座席にもたれた。
 距離が近いから電車の揺れで体が触れて、そのたびに胸が早鐘を打つ。それを誤魔化すために、とりとめのない話ばかりしてしまった。
 昨日作ったご飯とか、最近の天気のこととか。そんなどうでもいい話を、桔平くんは笑って聞いてくれる。
 会話が途切れてお互いに沈黙しても、それが全然重苦しくなくて。ドキドキするのに、桔平くんの隣は不思議と落ち着けるみたい。
 途中、神田で乗り換えをして上野駅に着いた。駅の構内はとても広くて、やっぱり人であふれている。
「迷子になられてもめんどくせぇから、オレの袖でも掴んでなよ」
 すれ違う人とぶつかりそうになる私を見かねて、桔平くんが言った。本当は手を繋いだほうがいいんだろうけど、桔平くんは自分が言ったことを頑なに守ってくれている。
「じゃあ……失礼します」
 遠慮気味に桔平くんの左袖を掴むと、じっと見下ろされた。本当によく凝視してくるよね……全然嫌ではないけれど、やっぱり恥ずかしい。
「……これはこれでアリだな」
「え、なに?」
「愛茉がすっげぇ可愛いって言ったの」
 今日1日、本当に心臓がもつんだろうか。思わず心配になって、気持ちを落ち着けるために俯いた。
 桔平くんは、私の様子を見つつゆっくり歩いてくれる。いつか手を繋いで歩けるのかな。歩きたいな。桔平くんに触れたいし、触れてほしい。その気持ちを抑えるのに必死だった。