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紹介の儀 1話

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 キラキラと輝くシャンデリア。色とりどりのドレスを着ている女性たち。

 その中に、王妃イレインの姿があった。彼女はソファに座り、紅茶を飲んでいた。

 イレインは周りに男性たちも置いていた。護衛の騎士の他にも、イレインに――王妃に近付きたいものが多いから、今がチャンスとばかりに彼女のもとに集まっているからだ。

 彼女に近付きたい男性たちは、様々な内容の話を口にして、彼女を楽しませる。

 その様子を扇子で口元を隠しながら聞いていたイレインだが――ざわざわと、人々のざわめきが大きくなった。

 重々しい扉が開かれ、ダヴィドにエスコートされた見目麗しい美女――……アナベルが会場に足を踏み入れたのだ。

 身体のラインを強調するようなシュミーズドレスに、温かそうなケープを羽織っている。

 さらに、アイスブルーのダイヤモンドのイヤリングとネックレスを身につけていた。

 ――エルヴィスの目の色だ。アイスブルーのダイヤモンドの石言葉は『永遠』と『幸せ』ということに気付いた貴族たちは、彼が彼女のことをとても大切に想っていることを察する。

 ダヴィドとアナベルがイレインの前に立つ。

 イレインは目元を細めダヴィドを見つめたあと、睨むようにアナベルに視線を向けた。

 射貫(いぬ)くような眼光に、アナベルはふわりと微笑んでみせた。

「ごきげんよう、デュナン公爵。そちらの方が、()()寵姫(ちょうき)ですか?」

 扇子を閉じてすっと立ち上がると、ダヴィドに対してにこりと――目が笑ってない笑みを浮かべながら(たず)ねる。

 ダヴィドはうなずいて、そっとアナベルの背中を押した。

 アナベルはちらりと彼を見てから、一歩前に出てドレスの裾を柔らかく掴みカーテシーをする。

 その自然な……いや、むしろ洗練された動きは、周りにいた貴族を一瞬で魅了した。

「踊り子だったのだろう?」
「あんなに綺麗なカーテシーができるなんて、本当は貴族の令嬢だったのでは?」

 感心したような貴族の声が耳に届き、イレインはこほん、とわざと咳払いをする。

「アナベル・ロラ・アンリオと申します」

 ぴくり、とイレインの眉が跳ねた。

「どうですか、美しいでしょう?」

 ダヴィドがアナベルを見て、イレインに視線を移してにっこりと笑う。

 イレインは困ったように眉を下げて、扇子を再び広げて口元を隠した。

「ええ、本当に美しい女性で驚きましたわ。……陛下も隅に置けませんわね。……それにしても、ただの踊り子と聞いていたのですが?」
「ああ、それは陛下の計らいでして。彼女の故郷はなんと、十五年前に焼かれたらしく……五歳の女の子が森の中で行き倒れになっていたところを、旅芸人の一座が助けた……とのことです」

 ダヴィドの言葉に、貴族たちは「まあ」や、「幼い頃から災難でしたのね」などの同情の声が集まる。

「陛下は彼女をたいそう気に入ったようで、そんなに苦労してきたならば、これからは少しでも楽をさせてあげよう――そう考え、アンリオ侯爵家との()()()()を提案したのです」

 すらすらと言葉を並べるダヴィド。

 貴族たちは養子縁組と聞いて、目を丸くしていた。

 アンリオ侯爵家といえば、二十年ほど前に国随一と言われていたミシェルが駆け落ちしたことで有名になった。

 その後、ミシェルがいなくなったことがショックで、すっかり社交界にも顔を出さなくなったと言われていたが……

(ミシェルの生家の養子縁組をした、ですって?)

 イレインは心の中でつぶやき、大袈裟なほどに目を見開いてみせた。

「まぁっ! 陛下ったら慈悲深いのですね。……その慈悲深さを他の方々にも与えれば良いものを……」

 頬に手を添えながら、しみじみと言葉をこぼすイレインに、アナベルは小さく笑う。

「どうかしまして?」
「いいえ。エルヴィス陛下は本当に慈悲深くていらっしゃいますもの。王妃陛下がそのことを口にしてくださるなんて、嬉しい限りですわ」

 にっこり。

 アナベルは花が(ほころ)ぶように微笑む。

 それを見ていた男性たちは、思わず彼女に見惚れてしまった。

 顔が赤くなっているのを見て、アナベルがキョトンと首をかしげる。

「顔が赤くなっていますが、大丈夫ですか?」

 心配そうに眉を下げて男性を見つめるアナベルに、男性はハンカチを取り出すと滲んだ汗を拭い、「だ、大丈夫です」と上擦った声を出した。

 アナベルが「良かった……」と胸元で手を合わせてはにかむと、その姿を見た男性たちが耳まで顔を真っ赤に染める。

(……女性に免疫のない人たちばかり、集まっているのかしらねぇ……?)

 あまりにも初心(うぶ)な反応をされて、アナベルのほうが内心驚いてしまった。

「――エルヴィス陛下がいらっしゃいました」

 イレインよりも年上の女性が、彼女の耳元でささやく。

 彼女が顔を動かすのと同時に、アナベルも動かした。

 エルヴィスが近付いてきたのを確認すると、アナベルはぱぁっと表情を輝かせる。

「――待たせたな、ベル」
「いいえ。陛下をお待ちしているあいだも、デュナン公爵と王妃陛下が話し相手になってくださいましたから」

 エルヴィスがそっとアナベルの腰に手を回し、その身体を自分へと引き寄せた。

 アナベルはうっとりとしたように恍惚の笑みを浮かべて、彼に甘えるように寄りかかる。

 それを見ていたイレインは、表情を歪めた。

「……ずいぶんと、お気に入りですのね」
「ああ、それはもう。こんなにも美しい女性を見るのは初めてだったからな」
「まぁ、陛下ったら……」

 アナベルは恥ずかしそうに、ポッと頬を赤らめた。



次のエピソードへ進む 紹介の儀 2話


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 キラキラと輝くシャンデリア。色とりどりのドレスを着ている女性たち。
 その中に、王妃イレインの姿があった。彼女はソファに座り、紅茶を飲んでいた。
 イレインは周りに男性たちも置いていた。護衛の騎士の他にも、イレインに――王妃に近付きたいものが多いから、今がチャンスとばかりに彼女のもとに集まっているからだ。
 彼女に近付きたい男性たちは、様々な内容の話を口にして、彼女を楽しませる。
 その様子を扇子で口元を隠しながら聞いていたイレインだが――ざわざわと、人々のざわめきが大きくなった。
 重々しい扉が開かれ、ダヴィドにエスコートされた見目麗しい美女――……アナベルが会場に足を踏み入れたのだ。
 身体のラインを強調するようなシュミーズドレスに、温かそうなケープを羽織っている。
 さらに、アイスブルーのダイヤモンドのイヤリングとネックレスを身につけていた。
 ――エルヴィスの目の色だ。アイスブルーのダイヤモンドの石言葉は『永遠』と『幸せ』ということに気付いた貴族たちは、彼が彼女のことをとても大切に想っていることを察する。
 ダヴィドとアナベルがイレインの前に立つ。
 イレインは目元を細めダヴィドを見つめたあと、睨むようにアナベルに視線を向けた。
 |射貫《いぬ》くような眼光に、アナベルはふわりと微笑んでみせた。
「ごきげんよう、デュナン公爵。そちらの方が、|今《・》|回《・》の|寵姫《ちょうき》ですか?」
 扇子を閉じてすっと立ち上がると、ダヴィドに対してにこりと――目が笑ってない笑みを浮かべながら|尋《たず》ねる。
 ダヴィドはうなずいて、そっとアナベルの背中を押した。
 アナベルはちらりと彼を見てから、一歩前に出てドレスの裾を柔らかく掴みカーテシーをする。
 その自然な……いや、むしろ洗練された動きは、周りにいた貴族を一瞬で魅了した。
「踊り子だったのだろう?」
「あんなに綺麗なカーテシーができるなんて、本当は貴族の令嬢だったのでは?」
 感心したような貴族の声が耳に届き、イレインはこほん、とわざと咳払いをする。
「アナベル・ロラ・アンリオと申します」
 ぴくり、とイレインの眉が跳ねた。
「どうですか、美しいでしょう?」
 ダヴィドがアナベルを見て、イレインに視線を移してにっこりと笑う。
 イレインは困ったように眉を下げて、扇子を再び広げて口元を隠した。
「ええ、本当に美しい女性で驚きましたわ。……陛下も隅に置けませんわね。……それにしても、ただの踊り子と聞いていたのですが?」
「ああ、それは陛下の計らいでして。彼女の故郷はなんと、十五年前に焼かれたらしく……五歳の女の子が森の中で行き倒れになっていたところを、旅芸人の一座が助けた……とのことです」
 ダヴィドの言葉に、貴族たちは「まあ」や、「幼い頃から災難でしたのね」などの同情の声が集まる。
「陛下は彼女をたいそう気に入ったようで、そんなに苦労してきたならば、これからは少しでも楽をさせてあげよう――そう考え、アンリオ侯爵家との|養《・》|子《・》|縁《・》|組《・》を提案したのです」
 すらすらと言葉を並べるダヴィド。
 貴族たちは養子縁組と聞いて、目を丸くしていた。
 アンリオ侯爵家といえば、二十年ほど前に国随一と言われていたミシェルが駆け落ちしたことで有名になった。
 その後、ミシェルがいなくなったことがショックで、すっかり社交界にも顔を出さなくなったと言われていたが……
(ミシェルの生家の養子縁組をした、ですって?)
 イレインは心の中でつぶやき、大袈裟なほどに目を見開いてみせた。
「まぁっ! 陛下ったら慈悲深いのですね。……その慈悲深さを他の方々にも与えれば良いものを……」
 頬に手を添えながら、しみじみと言葉をこぼすイレインに、アナベルは小さく笑う。
「どうかしまして?」
「いいえ。エルヴィス陛下は本当に慈悲深くていらっしゃいますもの。王妃陛下がそのことを口にしてくださるなんて、嬉しい限りですわ」
 にっこり。
 アナベルは花が|綻《ほころ》ぶように微笑む。
 それを見ていた男性たちは、思わず彼女に見惚れてしまった。
 顔が赤くなっているのを見て、アナベルがキョトンと首をかしげる。
「顔が赤くなっていますが、大丈夫ですか?」
 心配そうに眉を下げて男性を見つめるアナベルに、男性はハンカチを取り出すと滲んだ汗を拭い、「だ、大丈夫です」と上擦った声を出した。
 アナベルが「良かった……」と胸元で手を合わせてはにかむと、その姿を見た男性たちが耳まで顔を真っ赤に染める。
(……女性に免疫のない人たちばかり、集まっているのかしらねぇ……?)
 あまりにも|初心《うぶ》な反応をされて、アナベルのほうが内心驚いてしまった。
「――エルヴィス陛下がいらっしゃいました」
 イレインよりも年上の女性が、彼女の耳元でささやく。
 彼女が顔を動かすのと同時に、アナベルも動かした。
 エルヴィスが近付いてきたのを確認すると、アナベルはぱぁっと表情を輝かせる。
「――待たせたな、ベル」
「いいえ。陛下をお待ちしているあいだも、デュナン公爵と王妃陛下が話し相手になってくださいましたから」
 エルヴィスがそっとアナベルの腰に手を回し、その身体を自分へと引き寄せた。
 アナベルはうっとりとしたように恍惚の笑みを浮かべて、彼に甘えるように寄りかかる。
 それを見ていたイレインは、表情を歪めた。
「……ずいぶんと、お気に入りですのね」
「ああ、それはもう。こんなにも美しい女性を見るのは初めてだったからな」
「まぁ、陛下ったら……」
 アナベルは恥ずかしそうに、ポッと頬を赤らめた。