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第3話 きみの世界

ー/ー



 目の前にある異形を斃す――そう息巻いたものの、正直なところ不安の方が勝っていたのは紛れもない事実だった。
 何故なら、この自分の身体よりも何倍も大きいこのロボットを、動かす術が見つからないからだ。

「……もしかして、怖がっているのかにゃ? あれ程自分でやる、って言っていたのに? それはそれで何とも奇妙きてれつな話ではあるのだけれどにゃー」
「五月蝿い。それぐらい分からないのかよ……! そもそもこの世界にはロボットはあっても、こんな風に人間が中に入って操縦出来るぐらいのサイズのものは存在しない訳だし」
「それぐらい分かっているにゃー。多少、遅れている世界であるということぐらいは」

 分かっているならば何故?

「……それを言うのは、また少し落ち着いてから。或いはきみが物事を理解するようになってから、の方が良いと思うのにゃ!」

 ある程度話は聞いておきたかったのに、上手い具合に躱されてしまい、何も言えなくなってしまった。
 翻って、現実は最悪だ。
 既に腕は肩程まで出てきている。その段階で、彼が乗るロボットと同じぐらいのサイズを誇っていた。即ち、計算するとロボットの二倍乃至は三倍近い身体が待ち構えているに違いなかった。
 即ち、完全に身体を魅せてしまうと、勝ち目がなくなる可能性が非常に高い。
 現時点においても勝算があるかと言われると、少年は是とは言えないだろう。このロボットに乗ったばっかりで、どういう攻撃手段を持っていて、どのように動くのかさえも分からないのだから。

「……どうするつもりなのかにゃー。このまま指を咥えて出てくるのを待つのも良いけれど、はっきり言って勝ち目はないのにゃー。だったら、少しばかり脅かしてやると良いのにゃ!」
「脅かす?」
「今はここでああだこうだ言うつもりはないけれど、あの敵は普通の敵ではないのにゃー。敵情視察とでも言えば良いのかにゃ?」
「つまり、見に来ただけ? でも、どうして」
「それを今ここで言うと、長い時間がかかるし、それこそ正体を表してもおかしくはないのにゃー」

 少年の手を引き寄せる少女。
 少年はそのまま身体を少女の上に重ねた。
 柔らかい感触が顔に当たり、とても恥ずかしくなる。

「恥ずかしいよ!」
「まあまあ、そう言うのも今のうちだにゃー」

 柔らかい感触は、まるで全てを包み込むかの如く——或いは、深い海の如く。
 沈み、沈む。

「……何だか、まるで」


◇◇◇


 次に少年が目を覚ましたのは、公園だった。
 公園と言っても、鉄棒とブランコ、砂場しかない非常に小さな公園だった。
 オレンジ色に視界が染まっていることから夕方なのだろうと考えるが——しかし、夕焼けは見えない。
 何故なら、公園の向こうに広がる光景は、白。
 永遠にも似た白い空間が、広がっていたからだ。
 何処からともなく、夕焼け小焼けのパンザマストが聞こえてくる。
 その直後、公園で遊んでいた子供が一人、また一人と何処かへ消えていった。
 残っていたのは、少年だけ。

「……これは、いったい」
「ここは、きみの世界。きみだけの世界」

 気付けば、目の前のブランコには少女が座っていた。

「——ぼくだけの世界?」

 ブランコを漕ぐ少女は、少年の問いに答える。

「人間は誰しも部屋を心の中に持っている。檻のような部屋、開かれた部屋、何もない部屋……きみの世界は、こういう世界なんだね。ちょっと変わっていて、子供っぽくて、悪くはないね。良いと思うよ」

 気付けば、少女の特徴的な語尾は消え失せていた。
 しかし、それよりも。

「ぼくはなんでここに? さっき、ロボットの中に居たはずじゃ……」
「あのロボットは、そのままでは操縦出来ない。分からなかった? あのコックピットは、コックピットではないってことに」
「コックピットではない?」
「そう……。言うならば、あれは揺り篭」

 少女はブランコから降りる。

「揺り篭」
「難しい話を延々とするのも、勿体ないし。けれど、いつかは知らないといけないことでもある。きみが、この世界にやって来ることが出来たのだから」
「どういうこと?」

 静寂。

「……特性、って奴だよ。或いは、耐性とでも言えば良いのかな?」

 砂場を指さす少女。
 少年は、指さした先を見つめる。
 そこにあったのは、オモチャだった。
 自分がさっきまで乗っていたロボットと、浮かんでいる扉から出てきている腕。
 どういうメカニズムで浮いているのか、少年にはさっぱり分からなかった。

「……これは?」
「ジオラマ、とでも言えば良いのかな。オモチャだね。きみの世界ではこうなのだろうけれど、こうやって耐性のある人間は、世界の中に模型を作り出す。ロボットと、その敵を。そして、その中であればどんなことだって実現出来る——面白いメカニズムだよね、全くもって」

 少女は笑みを浮かべる。
 されど、少年は話の意味が全く理解出来なかった。

「……このジオラマを触れば、現実と同じことが?」
「うん。分かってきているじゃん。良かった良かった、また延々と説明をしなければならないのかと思っちゃったよ。ちょっとばかり安心しちゃった」

 少女は安堵の溜息を吐くと、砂場を眺める。
 砂場には、何もない。
 砂で遊ぶのであれば、スコップやバケツぐらいありそうなものなのに。

「どうやって戦えば?」
「思えば良いだけ。きみは、どうやって倒したい? この世界は、きみの世界だ。きみが思い描けば、どんなものだって生み出せる。とはいえ、生み出すものには限界もあるし多少歪曲してしまうこともあるけれど」

 少年は考える。
 この場を打開するための——ロボットが使う武器を。
 考えると、気付けば砂場の端に一本のカッターが置かれていた。

「……カッター?」
「成る程、先ずは刃物をと考えた訳だね。まあ、仕方ない。この世界は、少々幼稚なようだから。包丁やのこぎりは出てこないのかもしれないね」

 少女は分かったような口ぶりで、さらに少年に問いかける。

「さあ、武器は揃った。次の一手は?」


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 目の前にある異形を斃す――そう息巻いたものの、正直なところ不安の方が勝っていたのは紛れもない事実だった。
 何故なら、この自分の身体よりも何倍も大きいこのロボットを、動かす術が見つからないからだ。
「……もしかして、怖がっているのかにゃ? あれ程自分でやる、って言っていたのに? それはそれで何とも奇妙きてれつな話ではあるのだけれどにゃー」
「五月蝿い。それぐらい分からないのかよ……! そもそもこの世界にはロボットはあっても、こんな風に人間が中に入って操縦出来るぐらいのサイズのものは存在しない訳だし」
「それぐらい分かっているにゃー。多少、遅れている世界であるということぐらいは」
 分かっているならば何故?
「……それを言うのは、また少し落ち着いてから。或いはきみが物事を理解するようになってから、の方が良いと思うのにゃ!」
 ある程度話は聞いておきたかったのに、上手い具合に躱されてしまい、何も言えなくなってしまった。
 翻って、現実は最悪だ。
 既に腕は肩程まで出てきている。その段階で、彼が乗るロボットと同じぐらいのサイズを誇っていた。即ち、計算するとロボットの二倍乃至は三倍近い身体が待ち構えているに違いなかった。
 即ち、完全に身体を魅せてしまうと、勝ち目がなくなる可能性が非常に高い。
 現時点においても勝算があるかと言われると、少年は是とは言えないだろう。このロボットに乗ったばっかりで、どういう攻撃手段を持っていて、どのように動くのかさえも分からないのだから。
「……どうするつもりなのかにゃー。このまま指を咥えて出てくるのを待つのも良いけれど、はっきり言って勝ち目はないのにゃー。だったら、少しばかり脅かしてやると良いのにゃ!」
「脅かす?」
「今はここでああだこうだ言うつもりはないけれど、あの敵は普通の敵ではないのにゃー。敵情視察とでも言えば良いのかにゃ?」
「つまり、見に来ただけ? でも、どうして」
「それを今ここで言うと、長い時間がかかるし、それこそ正体を表してもおかしくはないのにゃー」
 少年の手を引き寄せる少女。
 少年はそのまま身体を少女の上に重ねた。
 柔らかい感触が顔に当たり、とても恥ずかしくなる。
「恥ずかしいよ!」
「まあまあ、そう言うのも今のうちだにゃー」
 柔らかい感触は、まるで全てを包み込むかの如く——或いは、深い海の如く。
 沈み、沈む。
「……何だか、まるで」
◇◇◇
 次に少年が目を覚ましたのは、公園だった。
 公園と言っても、鉄棒とブランコ、砂場しかない非常に小さな公園だった。
 オレンジ色に視界が染まっていることから夕方なのだろうと考えるが——しかし、夕焼けは見えない。
 何故なら、公園の向こうに広がる光景は、白。
 永遠にも似た白い空間が、広がっていたからだ。
 何処からともなく、夕焼け小焼けのパンザマストが聞こえてくる。
 その直後、公園で遊んでいた子供が一人、また一人と何処かへ消えていった。
 残っていたのは、少年だけ。
「……これは、いったい」
「ここは、きみの世界。きみだけの世界」
 気付けば、目の前のブランコには少女が座っていた。
「——ぼくだけの世界?」
 ブランコを漕ぐ少女は、少年の問いに答える。
「人間は誰しも部屋を心の中に持っている。檻のような部屋、開かれた部屋、何もない部屋……きみの世界は、こういう世界なんだね。ちょっと変わっていて、子供っぽくて、悪くはないね。良いと思うよ」
 気付けば、少女の特徴的な語尾は消え失せていた。
 しかし、それよりも。
「ぼくはなんでここに? さっき、ロボットの中に居たはずじゃ……」
「あのロボットは、そのままでは操縦出来ない。分からなかった? あのコックピットは、コックピットではないってことに」
「コックピットではない?」
「そう……。言うならば、あれは揺り篭」
 少女はブランコから降りる。
「揺り篭」
「難しい話を延々とするのも、勿体ないし。けれど、いつかは知らないといけないことでもある。きみが、この世界にやって来ることが出来たのだから」
「どういうこと?」
 静寂。
「……特性、って奴だよ。或いは、耐性とでも言えば良いのかな?」
 砂場を指さす少女。
 少年は、指さした先を見つめる。
 そこにあったのは、オモチャだった。
 自分がさっきまで乗っていたロボットと、浮かんでいる扉から出てきている腕。
 どういうメカニズムで浮いているのか、少年にはさっぱり分からなかった。
「……これは?」
「ジオラマ、とでも言えば良いのかな。オモチャだね。きみの世界ではこうなのだろうけれど、こうやって耐性のある人間は、世界の中に模型を作り出す。ロボットと、その敵を。そして、その中であればどんなことだって実現出来る——面白いメカニズムだよね、全くもって」
 少女は笑みを浮かべる。
 されど、少年は話の意味が全く理解出来なかった。
「……このジオラマを触れば、現実と同じことが?」
「うん。分かってきているじゃん。良かった良かった、また延々と説明をしなければならないのかと思っちゃったよ。ちょっとばかり安心しちゃった」
 少女は安堵の溜息を吐くと、砂場を眺める。
 砂場には、何もない。
 砂で遊ぶのであれば、スコップやバケツぐらいありそうなものなのに。
「どうやって戦えば?」
「思えば良いだけ。きみは、どうやって倒したい? この世界は、きみの世界だ。きみが思い描けば、どんなものだって生み出せる。とはいえ、生み出すものには限界もあるし多少歪曲してしまうこともあるけれど」
 少年は考える。
 この場を打開するための——ロボットが使う武器を。
 考えると、気付けば砂場の端に一本のカッターが置かれていた。
「……カッター?」
「成る程、先ずは刃物をと考えた訳だね。まあ、仕方ない。この世界は、少々幼稚なようだから。包丁やのこぎりは出てこないのかもしれないね」
 少女は分かったような口ぶりで、さらに少年に問いかける。
「さあ、武器は揃った。次の一手は?」