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第4章〜イケてる彼女とサエない彼氏〜⑤

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校門から校舎に続く通路や校舎内の人混みがうそのように、体育館の裏には、わたしたち以外、教師や来賓、そして、生徒を含めて、まったくと言ってよいほど、人の気配というものがなかった。

 ただ、体育館では、吹奏楽部の演奏が行われているのか、聞き慣れたクラシック音楽の音色が漏れ聞こえているけど、わたしに、ただならぬ因縁を感じているらしい下級生は、気にすることなく語りだした。

「瓦木センパイが聞きたいことと、私が伝えたいことは、たぶん、同じです。センパイは、なぜ私が、アナタのことを()()()()()()のか、心当たりがない、ということで良いですね?」

 ()()()()()()と、彼女は言うが、絡まれているわたしからすれば、身に覚えのないことで執着されているようにしか感じられない。そのことを強調しておくため、あえて、()()()()()()()()()()、客観的事実を伝えておくことにする。

「そうね……わたしは、()()()()()()()()()()()、関係が解消されてるの。いまのわたしは、鳴尾はるか君とは関係のない人間だし……わたしのことは、もう放っておいてくれないかな?」

 元カレから、別れを告げられたあの日のことは、ひと月以上が経過したいま、わたしの中で、徐々に、そのキズも薄れつつある。
 それは、このひと月の間、リコやナミ、そして、寿太郎を始めとした映文研のメンバーと一緒に、刺激的な時間を過ごすことができたからだろう。
 
 結局、その関係を自分のせいで、台無しにしてしまいそうになっているけれど――――――。

 わたしからすれば、ほとんど、赤の他人という認識しかない下級生に、過去のことを蒸し返すようなことをされるいわれはない、と感じる。
 そんな想いで、山口さんに自分の考えを伝えると、彼女は、顔をしかめながら、

「『わたしのことは、もう放っておいてくれないかな?』って…………ハルカ君に()()()()()して、放っておくなんて、できるわけないじゃない!」

と、声を荒げた。
 けれど、わたしは、その言葉に違和感を覚える。

「あんなことって……? わたし、()()()にナニかした?」

 感じた疑問を、そのまま口にして問い返すと、下級生は、さらに険しい表情で、言い放った。

「『ナニかした?』ですって……? あんなに()()()()()ハルカ君のファッションセンスを、勝手にプロデュースして、別人みたいにしたくせに!」

「ちょ……ちょっと待って! あんなに()()()()()って……わたしと知り合う前のあの()()()みたいなファッションセンスのこと?」

 再びわたしが問い返すと、下級生は、ゆっくりとうなずく。
 ただ、彼女にとって、こちらが発した言葉には、気になるワードがあったようだ。

()()()じゃありません! 黒と赤の組み合わせが最高にカッコ良いゴシック・ファッションです!」

 ゴシック・ファッション――――――。
 
 それは、黒を基調とした、シンプルなデザインの洋服が多く、死、オカルト、悪魔や魔女をイメージしたものが特徴とされるファッション。西洋的なイメージがあるが、日本でも、マンガやアニメが好きな人たちに好まれる印象があるけれど……。

 特定のファン層の獲得を目指すなら、それも十分に有効なイメージ戦略だと思うけど(歌い手)のハルカのイメージにはそぐわない……と、個人的には感じていたし、それが、元カレのファッションをコーディネートするキッカケになり、多くの女性ファンから注目される要因になった……と、わたしは、いまでも考えている。

 ただ、わたしの考えをすべてのファンが受け入れてくれたわけではないようだ。
 その代表が、目の前にいる、この下級生なのだろう。

「そう……あなたは、かなり以前から、彼のファンだったのね……」

 わたしが、つぶやくように語ると、今度は、こちらの言葉に異論がなかったのか、彼女は力強く二度うなずいた。
 あらためて、その下級生の姿を観察すると、ゴシック調のメイド服が良く似合っている。

「二年生でメイド喫茶をしているクラスがあると聞いていたけど……山口さん、あなたのクラスなの?」

 そう問いかけると、彼女は、再びうなずく。

「えぇ、そうです! この服も私が、クラスで店員になる人数分を準備しました」

 力強く言い切った下級生は、ドヤ顔で、自らの仕事ぶりを誇っているようだ。
 わたしが知り合った頃の鳴尾はるかを思い出すと、たしかに、いまの彼女の服装となら、相性ピッタリな気がする。

「そう……あなたなら、元のハルカのセンスと、お似合いかもね」

 わたしからすると、一○○パーセント肯定する意味で語ったわけではないのだけれど、山口カリンさんは、こちらのセリフに満足したようだ。

「わかってくれれば、良いんです! そういうわけで、これからは、()()のコーディネートをしていきますから、もう、あなたは口出しはしないでくださいね!」

 口出しをするもナニも、わたしとしては、一方的に別れを告げてきた相手と関わりを持つつもりは、これっぽっちもない。
 ひと月前まで、ほとんど面識のなかった下級生に敵意を向けられていた理由は判明したけど、今度は、身に覚えのない怒りをぶつけられる要因になった元カレに対する、あきれるような感情が、わき上がる。

「山口さん、あなたの言い分はわかったわ。わたしは、もうあなたの恋人と関わりを持つつもりはないから……ただ、わたしがアドバイスしたことに不満があったのなら、直接、言って欲しかった、と彼に伝えておいて」

 メイド服の下級生に、そう告げて、わたしは、体育館裏から退散させてもらうことにした。




みんなのリアクション

校門から校舎に続く通路や校舎内の人混みがうそのように、体育館の裏には、わたしたち以外、教師や来賓、そして、生徒を含めて、まったくと言ってよいほど、人の気配というものがなかった。
 ただ、体育館では、吹奏楽部の演奏が行われているのか、聞き慣れたクラシック音楽の音色が漏れ聞こえているけど、わたしに、ただならぬ因縁を感じているらしい下級生は、気にすることなく語りだした。
「瓦木センパイが聞きたいことと、私が伝えたいことは、たぶん、同じです。センパイは、なぜ私が、アナタのことを|気《・》|に《・》|し《・》|て《・》|い《・》|る《・》のか、心当たりがない、ということで良いですね?」
 |気《・》|に《・》|し《・》|て《・》|い《・》|る《・》と、彼女は言うが、絡まれているわたしからすれば、身に覚えのないことで執着されているようにしか感じられない。そのことを強調しておくため、あえて、|事《・》|実《・》|か《・》|ら《・》|目《・》|を《・》|そ《・》|ら《・》|さ《・》|ず《・》、客観的事実を伝えておくことにする。
「そうね……わたしは、|あ《・》|な《・》|た《・》|の《・》|彼《・》|氏《・》|に《・》|フ《・》|ラ《・》|れ《・》|て《・》、関係が解消されてるの。いまのわたしは、鳴尾はるか君とは関係のない人間だし……わたしのことは、もう放っておいてくれないかな?」
 元カレから、別れを告げられたあの日のことは、ひと月以上が経過したいま、わたしの中で、徐々に、そのキズも薄れつつある。
 それは、このひと月の間、リコやナミ、そして、寿太郎を始めとした映文研のメンバーと一緒に、刺激的な時間を過ごすことができたからだろう。
 結局、その関係を自分のせいで、台無しにしてしまいそうになっているけれど――――――。
 わたしからすれば、ほとんど、赤の他人という認識しかない下級生に、過去のことを蒸し返すようなことをされるいわれはない、と感じる。
 そんな想いで、山口さんに自分の考えを伝えると、彼女は、顔をしかめながら、
「『わたしのことは、もう放っておいてくれないかな?』って…………ハルカ君に|あ《・》|ん《・》|な《・》|こ《・》|と《・》して、放っておくなんて、できるわけないじゃない!」
と、声を荒げた。
 けれど、わたしは、その言葉に違和感を覚える。
「あんなことって……? わたし、|あ《・》|の《・》|人《・》にナニかした?」
 感じた疑問を、そのまま口にして問い返すと、下級生は、さらに険しい表情で、言い放った。
「『ナニかした?』ですって……? あんなに|素《・》|敵《・》|だ《・》|っ《・》|た《・》ハルカ君のファッションセンスを、勝手にプロデュースして、別人みたいにしたくせに!」
「ちょ……ちょっと待って! あんなに|素《・》|敵《・》|だ《・》|っ《・》|た《・》って……わたしと知り合う前のあの|中《・》|二《・》|病《・》みたいなファッションセンスのこと?」
 再びわたしが問い返すと、下級生は、ゆっくりとうなずく。
 ただ、彼女にとって、こちらが発した言葉には、気になるワードがあったようだ。
「|中《・》|二《・》|病《・》じゃありません! 黒と赤の組み合わせが最高にカッコ良いゴシック・ファッションです!」
 ゴシック・ファッション――――――。
 それは、黒を基調とした、シンプルなデザインの洋服が多く、死、オカルト、悪魔や魔女をイメージしたものが特徴とされるファッション。西洋的なイメージがあるが、日本でも、マンガやアニメが好きな人たちに好まれる印象があるけれど……。
 特定のファン層の獲得を目指すなら、それも十分に有効なイメージ戦略だと思うけど、《歌い手》のハルカのイメージにはそぐわない……と、個人的には感じていたし、それが、元カレのファッションをコーディネートするキッカケになり、多くの女性ファンから注目される要因になった……と、わたしは、いまでも考えている。
 ただ、わたしの考えをすべてのファンが受け入れてくれたわけではないようだ。
 その代表が、目の前にいる、この下級生なのだろう。
「そう……あなたは、かなり以前から、彼のファンだったのね……」
 わたしが、つぶやくように語ると、今度は、こちらの言葉に異論がなかったのか、彼女は力強く二度うなずいた。
 あらためて、その下級生の姿を観察すると、ゴシック調のメイド服が良く似合っている。
「二年生でメイド喫茶をしているクラスがあると聞いていたけど……山口さん、あなたのクラスなの?」
 そう問いかけると、彼女は、再びうなずく。
「えぇ、そうです! この服も私が、クラスで店員になる人数分を準備しました」
 力強く言い切った下級生は、ドヤ顔で、自らの仕事ぶりを誇っているようだ。
 わたしが知り合った頃の鳴尾はるかを思い出すと、たしかに、いまの彼女の服装となら、相性ピッタリな気がする。
「そう……あなたなら、元のハルカのセンスと、お似合いかもね」
 わたしからすると、一○○パーセント肯定する意味で語ったわけではないのだけれど、山口カリンさんは、こちらのセリフに満足したようだ。
「わかってくれれば、良いんです! そういうわけで、これからは、|私《・》が|彼《・》のコーディネートをしていきますから、もう、あなたは口出しはしないでくださいね!」
 口出しをするもナニも、わたしとしては、一方的に別れを告げてきた相手と関わりを持つつもりは、これっぽっちもない。
 ひと月前まで、ほとんど面識のなかった下級生に敵意を向けられていた理由は判明したけど、今度は、身に覚えのない怒りをぶつけられる要因になった元カレに対する、あきれるような感情が、わき上がる。
「山口さん、あなたの言い分はわかったわ。わたしは、もうあなたの恋人と関わりを持つつもりはないから……ただ、わたしがアドバイスしたことに不満があったのなら、直接、言って欲しかった、と彼に伝えておいて」
 メイド服の下級生に、そう告げて、わたしは、体育館裏から退散させてもらうことにした。