表示設定
表示設定
目次 目次




第50話 一生に一度の奇跡

ー/ー



「どもん、俺の足が臭いってどういうことだよ!?」
 竹藪の方から怒声が聞こえる。それを不審に思った二人は怒声の先へ向かう。
「来たなオオカミ少年。待ち侘びたぞ!」
 そこにはどこかで見かけた姿の空手少年と、狼キャップを被った少年の姿があった。おそらく片方はどもんであるようだが、もう一方の少年はりょうたの見知らぬ人物だった。
「俺はたける! オオカミ少年じゃない!!」
 狼キャップの少年はたけるという人物らしい。足が臭いだのオオカミ少年だの、彼の言われようは散々だ。
「いい目をしているな、白き狼王(ろうおう)
 どうやら、どもんは何が何でもたけるにあだ名をつけたいらしい。しかしながら、たけるに白の要素は皆無だ。
「もう何でもいいや。てか、何かかっこいい」
 白き狼王という響き、たけるはまんざらでもないようだ。何々王という肩書きに魅入られるのは、小学生にありがちな心理と言える。
「師匠は『逃げれば1つ、進めば2つ手に入る』と言っていた。逃げれば臆病者の烙印、進めば木鶏と覇道が手に入る! 戦いを申し入れた以上、ここで退くわけにはいかない!」
 どもんは立派な口上を並べているが、話の脈絡から因縁をつけたのが彼であることは明らか。友達付き合いが苦手などもんは、何かとヒールになってしまう。
「どもんさん、また要らぬことして......」
 それを察したりょうたは呆れ顔である。彼の不器用さをどことなく察しているがゆえの心情だ。
 二人が睨み合いをしている最中りょうたは気付く。茂みで何かが蠢いているような、そんな物音に。
「......僕が来たぁっ!!!」
 茂みから突如、ムキムキタンクトップ姿の男が現れた。突然の出来事に、その場の時が一瞬止まる。
『き、筋肉先生っ!?』
 ムキムキタンクトップの名は布袋肥瑠(ひる)、体育教師である。ボディビルダー顔負けの磨かれた筋肉美から、児童達の間で『筋肉先生』と呼ばれている。
 しかし、彼はどうして茂みに潜んでいたのだろうか?
「君たちだね? 学校の平和を乱す(ヴィラン)は。上腕二頭筋に代わって、僕がお仕置きしなきゃね??」
 怒りに満ち溢れた肥瑠の目は血走り、その力を溜め込んだ拳は蒸気を発している。彼の放つ拳は校舎のコンクリートを抉るほどの破壊力で、児童達からは『道産子拳』として恐れられているほどだ。
 その様子に、どもんたちは足がすくんでしまっている。
「......今は逃げる事だけ考えよう! 今の俺達では、コイツに勝てないっ!!」
 どもん達は決闘を取り止めて一目散に逃亡を図った。どもんが今回手にしたもの、それは臆病者の烙印だった。
「どもんさん、大丈夫かなぁ......」
 肥瑠に目をつけられた児童は、心身ともに厳しいお仕置きを受けると言われている。それを知っているりょうたはどもん達の行く末を案じてしまった。
「......りょうたくん、あれ!」
 喧騒が過ぎ去った竹藪の向こうに、もえは何かを見つけた様子だった。彼女は一体何を指差しているのだろうか?
「あぁ......」
 その光景に二人は言葉を失った。そこにあったのは、大量に咲き誇る竹の花だった。
 それは花と言うよりも稲穂に近いもので、どちらかといえば地味なものである。しかしながら、竹の花は人間が一生に一度見られるかどうかと言われるほど貴重なもの。
 二人は、そんな奇跡の場面に遭遇したのだ。
「あっ! スマホどこだっけ!?」
 我に返ったりょうたは懐からスマートフォンを取り出す。この奇跡の場面をカメラに押さえずにいられない。
「これは描き残さなくちゃね!」
 冷静を保っていたもえは既に色鉛筆を走らせていた。地味と言っても花は花、もえの筆先は興奮が抑えきれない様子だ。
「すごい......」
 写真を見たりょうたは恍惚の表情を浮かべる。あまりにも神秘的な竹の花に、りょうたは心奪われる。
「......出来たっ!!」
 間もなくもえもスケッチを終える。彼女の表情には達成感が満ちていた。
「うわぁ......もえちゃん、上手いねぇ」
 もえの描いた竹の花は、茎や葉の深緑にクリーム色の花のコントラストが映える1枚に仕上がった。その絵は、視覚的な神秘さだけでなく彼女自身の感動も織り込まれたような神々しい雰囲気を醸し出していた。
「へへっ! これは自信作!」
 竹の花を描き切ったもえはとても誇らしげな表情だ。それがりょうたにとっても嬉しかった。
「......いけないっ! 昼休みが終わっちゃう!! 行こう、もえちゃん!」
 竹の花に魅入られているうち、いつしか昼休みの終わりが迫っていた。それに気付いたりょうたは、もえの手を引き校舎へ駆け込んだ。
――
 放課後、もえは先程の竹藪へやってきた。今一度、あの光景を目に焼き付けたいと思い立ったからだ。
「あ......」
 だが、竹の花は既に枯れてしまっていた。竹の花は短命で、僅か数時間しか咲かないのだ。もえは、竹の花に命の儚さを見た。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第51話 巻き添えになってさぁ大変!


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「どもん、俺の足が臭いってどういうことだよ!?」
 竹藪の方から怒声が聞こえる。それを不審に思った二人は怒声の先へ向かう。
「来たなオオカミ少年。待ち侘びたぞ!」
 そこにはどこかで見かけた姿の空手少年と、狼キャップを被った少年の姿があった。おそらく片方はどもんであるようだが、もう一方の少年はりょうたの見知らぬ人物だった。
「俺はたける! オオカミ少年じゃない!!」
 狼キャップの少年はたけるという人物らしい。足が臭いだのオオカミ少年だの、彼の言われようは散々だ。
「いい目をしているな、白き|狼王《ろうおう》」
 どうやら、どもんは何が何でもたけるにあだ名をつけたいらしい。しかしながら、たけるに白の要素は皆無だ。
「もう何でもいいや。てか、何かかっこいい」
 白き狼王という響き、たけるはまんざらでもないようだ。何々王という肩書きに魅入られるのは、小学生にありがちな心理と言える。
「師匠は『逃げれば1つ、進めば2つ手に入る』と言っていた。逃げれば臆病者の烙印、進めば木鶏と覇道が手に入る! 戦いを申し入れた以上、ここで退くわけにはいかない!」
 どもんは立派な口上を並べているが、話の脈絡から因縁をつけたのが彼であることは明らか。友達付き合いが苦手などもんは、何かとヒールになってしまう。
「どもんさん、また要らぬことして......」
 それを察したりょうたは呆れ顔である。彼の不器用さをどことなく察しているがゆえの心情だ。
 二人が睨み合いをしている最中りょうたは気付く。茂みで何かが蠢いているような、そんな物音に。
「......僕が来たぁっ!!!」
 茂みから突如、ムキムキタンクトップ姿の男が現れた。突然の出来事に、その場の時が一瞬止まる。
『き、筋肉先生っ!?』
 ムキムキタンクトップの名は布袋|肥瑠《ひる》、体育教師である。ボディビルダー顔負けの磨かれた筋肉美から、児童達の間で『筋肉先生』と呼ばれている。
 しかし、彼はどうして茂みに潜んでいたのだろうか?
「君たちだね? 学校の平和を乱す|敵《ヴィラン》は。上腕二頭筋に代わって、僕がお仕置きしなきゃね??」
 怒りに満ち溢れた肥瑠の目は血走り、その力を溜め込んだ拳は蒸気を発している。彼の放つ拳は校舎のコンクリートを抉るほどの破壊力で、児童達からは『道産子拳』として恐れられているほどだ。
 その様子に、どもんたちは足がすくんでしまっている。
「......今は逃げる事だけ考えよう! 今の俺達では、コイツに勝てないっ!!」
 どもん達は決闘を取り止めて一目散に逃亡を図った。どもんが今回手にしたもの、それは臆病者の烙印だった。
「どもんさん、大丈夫かなぁ......」
 肥瑠に目をつけられた児童は、心身ともに厳しいお仕置きを受けると言われている。それを知っているりょうたはどもん達の行く末を案じてしまった。
「......りょうたくん、あれ!」
 喧騒が過ぎ去った竹藪の向こうに、もえは何かを見つけた様子だった。彼女は一体何を指差しているのだろうか?
「あぁ......」
 その光景に二人は言葉を失った。そこにあったのは、大量に咲き誇る竹の花だった。
 それは花と言うよりも稲穂に近いもので、どちらかといえば地味なものである。しかしながら、竹の花は人間が一生に一度見られるかどうかと言われるほど貴重なもの。
 二人は、そんな奇跡の場面に遭遇したのだ。
「あっ! スマホどこだっけ!?」
 我に返ったりょうたは懐からスマートフォンを取り出す。この奇跡の場面をカメラに押さえずにいられない。
「これは描き残さなくちゃね!」
 冷静を保っていたもえは既に色鉛筆を走らせていた。地味と言っても花は花、もえの筆先は興奮が抑えきれない様子だ。
「すごい......」
 写真を見たりょうたは恍惚の表情を浮かべる。あまりにも神秘的な竹の花に、りょうたは心奪われる。
「......出来たっ!!」
 間もなくもえもスケッチを終える。彼女の表情には達成感が満ちていた。
「うわぁ......もえちゃん、上手いねぇ」
 もえの描いた竹の花は、茎や葉の深緑にクリーム色の花のコントラストが映える1枚に仕上がった。その絵は、視覚的な神秘さだけでなく彼女自身の感動も織り込まれたような神々しい雰囲気を醸し出していた。
「へへっ! これは自信作!」
 竹の花を描き切ったもえはとても誇らしげな表情だ。それがりょうたにとっても嬉しかった。
「......いけないっ! 昼休みが終わっちゃう!! 行こう、もえちゃん!」
 竹の花に魅入られているうち、いつしか昼休みの終わりが迫っていた。それに気付いたりょうたは、もえの手を引き校舎へ駆け込んだ。
――
 放課後、もえは先程の竹藪へやってきた。今一度、あの光景を目に焼き付けたいと思い立ったからだ。
「あ......」
 だが、竹の花は既に枯れてしまっていた。竹の花は短命で、僅か数時間しか咲かないのだ。もえは、竹の花に命の儚さを見た。