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第46話 亜細亜と異邦人

ー/ー



「さぁて、羽馴牧場か。この時期は炭の発注が次々舞い込んで慌ただしいわい......」
 繁忙期に入り、亜細亜は軽トラックで島中を駆け巡っていた。バーベキューが盛んとなるこの時期、羽馴島では木炭の供給が追い付かなくなる。
 換言すれば、亜細亜の収入の大半はこの繁忙期に依るところが大きい。
「......ん? 見慣れぬ姿のご老人だな?」
 出荷に奔走している最中、亜細亜は老人の姿が目に入る。その老人は和服姿で、頭に髷を結っている。
 その奇抜な姿に加えて、彼は何やら周囲を見回している。何か探しているのだろうか?
「いかがなさいましたかな? ご老人」
 その様子が気になった亜細亜は、窓越しから老人に声を掛ける。彼の表情はどことなく不安げだ。
「孫とはぐれてしまいまして......。不慣れな土地柄である手前、不安でしてなぁ」
 どうやら、老人は同行していた孫とはぐれてしまったらしい。若干外国|訛りがあるものの、どうやら日本語は通じるようだ。
「それは心配ですなぁ。折角なら、儂とお孫さんを一緒に探しませんか?」
 亜細亜は老人に同乗を促す。困っている人を放っておけないのは、人情を重んじる亜細亜の性分だ。
「実にかたじけない。恩に着ます」
 老人は亜細亜の言葉に甘え、同行することにした。果たして、探し人は見つかるのだろうか?
 奇抜な容姿であるものの、その横顔は日本人そのもの。日本語の通じる外国とは果たしてどんなところなのだろうか? 亜細亜は素朴な疑問を抱いた。
「......つかぬことを聞くが、貴殿のご出身はどちらかな?」
 日本語を話す奇妙な外国人。亜細亜にはそれが今一つ信じがたかった。
「私は豊臣皇国からやって来ました。詳しいことは明かせませんが、ある探し物の為に孫を連れてやって来ました」
 老人が嘘をついている様子はない。しかし、何か肝心なことを隠しているような気がする。それが亜細亜の抱いた印象だ。
「豊臣皇国......物騒な国だな?」
 その国名を聞いて、亜細亜は頭の片隅にあった記憶を思い出した。豊臣皇国、それは忍術の最高峰と呼ばれる軍事国家。
 海外に忍者を派遣して、世界各国の戦争や紛争に介入している。軍需産業は国策として推進され、それが国家の経済を下支えしているのだ。
「そんな軍事国家から、日本の離島に何の用かな?」
 老人の話を聞いた亜細亜は訝しむ。これは都市伝説として語られているものだが、豊臣皇国は世界各国にスパイを派遣し、新たな軍事技術を開発しているのだとか。
「それは、ここで話すことではありません」
 老人は口を噤む。どことなく核心をぼかす口調からは、彼がただ者でない気配が漂っている。
「......干渉が過ぎましたな。さて、お孫さんはどこか?」
 言葉の牽制を感じ取った亜細亜は、話題を逸らした。内政干渉は、国際問題になるリスクを孕んでいるからだ。
 車内は無言になり、何とも言えない気まずい空気が漂う。二つの意味で、一刻も早く孫が見つからないものか。亜細亜はそう願っていた。
 やがて亜細亜達は羽馴の森に差し掛かる。この付近は彼の修行場であり、弟子のどもんも日夜通っている。するとそこへ、髷を結った少年の姿があった。
「皇z......ぼっちゃん!!」
 少年の姿を見た老人は、窓越しに声を掛ける。老人の反応を見た亜細亜は、即座に軽トラックを停車した。
「爺や! 爺や!!」
 少年も老人に両手を振って返事をする。彼もまた、奇抜な容姿をしている。
 この二人、一体何者だろうか? 亜細亜の疑念は膨らむばかりだ。
「ぼっちゃん、無事で良かった!」
 はぐれた孫と再会して、老人は抱擁を交わす。その表情は安堵に満ちていた。
「爺や、心配かけてごめん!」
 おそらく好奇心旺盛な孫が独り歩きして、老人を置いて行ってしまったのだろう。亜細亜はそう思った。
「職人さん、一緒に孫を探してくれてありがとうございます。つまらぬものですが、これは心ばかりのお礼です」
 老人は亜細亜へ小瓶を手渡す。一見すると、それは白い砂のようだ。
「ご老人、お構いなく。これは儂のお節介みたいなものでして......」
 大したことをしたわけでもないのに、お礼など受け取れない。亜細亜の性格上、謙虚な姿勢であるのは当然のことだ。
「遠慮なさらずに。どうか受け取ってほしい」
 亜細亜は、半ば老人に押し切られる形でそれを受け取った。それにしても、小瓶の中身は一体何なのだろうか?
「では、私達はこれにて失礼」
 老人は、孫ともども足早にその場を後にする。これ以上の会話は口を滑らせてしまうかもしれない、そんな様子だった。
「『幸せの砂』か......。こんなものが観光資源とは、時代は変わったものだ」
 亜細亜は『幸せの砂』の正体に気付いていた。それはかつて、戦争で使用されていた爆弾の材料であった物質だ。
 しかし、近年その物質はほぼ枯渇状態。そんな代物を持っていた老人は、一体何者だったのか。亜細亜の疑念は深まるばかりだった。
――
「皇子、羽馴忍法帳の手がかりは掴めましたかな?」
 老人は少年へ尋ねる。しかし、少年は浮かない顔をしている。
「いいや、駄目だった。この様子だと、羽馴忍法帳は消失しているかもしれないな?」
 少年は諦めの表情を浮かべている。彼らの探している羽馴忍法帳とは一体何なのだろうか?


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「さぁて、羽馴牧場か。この時期は炭の発注が次々舞い込んで慌ただしいわい......」
 繁忙期に入り、亜細亜は軽トラックで島中を駆け巡っていた。バーベキューが盛んとなるこの時期、羽馴島では木炭の供給が追い付かなくなる。
 換言すれば、亜細亜の収入の大半はこの繁忙期に依るところが大きい。
「......ん? 見慣れぬ姿のご老人だな?」
 出荷に奔走している最中、亜細亜は老人の姿が目に入る。その老人は和服姿で、頭に髷を結っている。
 その奇抜な姿に加えて、彼は何やら周囲を見回している。何か探しているのだろうか?
「いかがなさいましたかな? ご老人」
 その様子が気になった亜細亜は、窓越しから老人に声を掛ける。彼の表情はどことなく不安げだ。
「孫とはぐれてしまいまして......。不慣れな土地柄である手前、不安でしてなぁ」
 どうやら、老人は同行していた孫とはぐれてしまったらしい。若干外国|訛りがあるものの、どうやら日本語は通じるようだ。
「それは心配ですなぁ。折角なら、儂とお孫さんを一緒に探しませんか?」
 亜細亜は老人に同乗を促す。困っている人を放っておけないのは、人情を重んじる亜細亜の性分だ。
「実にかたじけない。恩に着ます」
 老人は亜細亜の言葉に甘え、同行することにした。果たして、探し人は見つかるのだろうか?
 奇抜な容姿であるものの、その横顔は日本人そのもの。日本語の通じる外国とは果たしてどんなところなのだろうか? 亜細亜は素朴な疑問を抱いた。
「......つかぬことを聞くが、貴殿のご出身はどちらかな?」
 日本語を話す奇妙な外国人。亜細亜にはそれが今一つ信じがたかった。
「私は豊臣皇国からやって来ました。詳しいことは明かせませんが、ある探し物の為に孫を連れてやって来ました」
 老人が嘘をついている様子はない。しかし、何か肝心なことを隠しているような気がする。それが亜細亜の抱いた印象だ。
「豊臣皇国......物騒な国だな?」
 その国名を聞いて、亜細亜は頭の片隅にあった記憶を思い出した。豊臣皇国、それは忍術の最高峰と呼ばれる軍事国家。
 海外に忍者を派遣して、世界各国の戦争や紛争に介入している。軍需産業は国策として推進され、それが国家の経済を下支えしているのだ。
「そんな軍事国家から、日本の離島に何の用かな?」
 老人の話を聞いた亜細亜は訝しむ。これは都市伝説として語られているものだが、豊臣皇国は世界各国にスパイを派遣し、新たな軍事技術を開発しているのだとか。
「それは、ここで話すことではありません」
 老人は口を噤む。どことなく核心をぼかす口調からは、彼がただ者でない気配が漂っている。
「......干渉が過ぎましたな。さて、お孫さんはどこか?」
 言葉の牽制を感じ取った亜細亜は、話題を逸らした。内政干渉は、国際問題になるリスクを孕んでいるからだ。
 車内は無言になり、何とも言えない気まずい空気が漂う。二つの意味で、一刻も早く孫が見つからないものか。亜細亜はそう願っていた。
 やがて亜細亜達は羽馴の森に差し掛かる。この付近は彼の修行場であり、弟子のどもんも日夜通っている。するとそこへ、髷を結った少年の姿があった。
「皇z......ぼっちゃん!!」
 少年の姿を見た老人は、窓越しに声を掛ける。老人の反応を見た亜細亜は、即座に軽トラックを停車した。
「爺や! 爺や!!」
 少年も老人に両手を振って返事をする。彼もまた、奇抜な容姿をしている。
 この二人、一体何者だろうか? 亜細亜の疑念は膨らむばかりだ。
「ぼっちゃん、無事で良かった!」
 はぐれた孫と再会して、老人は抱擁を交わす。その表情は安堵に満ちていた。
「爺や、心配かけてごめん!」
 おそらく好奇心旺盛な孫が独り歩きして、老人を置いて行ってしまったのだろう。亜細亜はそう思った。
「職人さん、一緒に孫を探してくれてありがとうございます。つまらぬものですが、これは心ばかりのお礼です」
 老人は亜細亜へ小瓶を手渡す。一見すると、それは白い砂のようだ。
「ご老人、お構いなく。これは儂のお節介みたいなものでして......」
 大したことをしたわけでもないのに、お礼など受け取れない。亜細亜の性格上、謙虚な姿勢であるのは当然のことだ。
「遠慮なさらずに。どうか受け取ってほしい」
 亜細亜は、半ば老人に押し切られる形でそれを受け取った。それにしても、小瓶の中身は一体何なのだろうか?
「では、私達はこれにて失礼」
 老人は、孫ともども足早にその場を後にする。これ以上の会話は口を滑らせてしまうかもしれない、そんな様子だった。
「『幸せの砂』か......。こんなものが観光資源とは、時代は変わったものだ」
 亜細亜は『幸せの砂』の正体に気付いていた。それはかつて、戦争で使用されていた爆弾の材料であった物質だ。
 しかし、近年その物質はほぼ枯渇状態。そんな代物を持っていた老人は、一体何者だったのか。亜細亜の疑念は深まるばかりだった。
――
「皇子、羽馴忍法帳の手がかりは掴めましたかな?」
 老人は少年へ尋ねる。しかし、少年は浮かない顔をしている。
「いいや、駄目だった。この様子だと、羽馴忍法帳は消失しているかもしれないな?」
 少年は諦めの表情を浮かべている。彼らの探している羽馴忍法帳とは一体何なのだろうか?