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第37話 マチヲカケル!

ー/ー



 とある昼下がり、京子はグルメ雑誌を読んでいた。それは以前、文恵が親切心から島長家へ手渡したものだ。時間を持て余した京子は、思い出したようにそれを見開いていた。
「羽馴島、まだまだ私の知らない魅力に溢れているわね」
 グルメ雑誌を読んでいる彼女は瞳をきらめかせている。羽馴島へ引っ越してきて以来、まだ島内観光はおろか近隣の散策さえまともにしていない。
 DIYや燻製などでも十分スローライフを満喫できているが、そこはやはり地元の魅力をきちんと知っておきたい。
「えっと......『いま話題沸騰! ナイトロコールドブリューコーヒーの飲めるお店は島内でここだけ!』ですって?」
 聞き慣れない名前のコーヒーが京子の琴線に触れる。語感的に呪文のような名前だが、コールドブリューと冠していることから水出しコーヒーの一種なのかもしれない。
 しかし、雑誌に掲載されているビジュアルは京子の斜め上を行くものであった。
「......これ、絶対美味しいヤツじゃない!? お店もここから近いみたいだし、これは行くっきゃない!!」
 そのビジュアルを見た京子の第六感が激しく呼応した。彼女の行動を感化させたコーヒーとは一体どんなものだったのだろうか? 衝動に駆られ、京子は施錠さえも忘れて自宅を飛び出した。
「ワン! ワン!」
 訳が分からないまま、庭先にいたケンも京子の後を追う。そして、自宅から駆け出した京子は発車寸前のバスに飛び乗った! 
「......お客さん! 危険だから飛び込み乗車は駄目だよ!!」
 バスの運転手は、京子の行動に対して厳しい口調で注意する。閉まる寸前の扉を掻い潜って車内へ飛び乗って来た彼女に対して、彼が冷や汗をかいたことは想像に難くない。
「ごめんなさいねぇ?」
 その言葉とは裏腹に、京子は舌を出して笑っている。これでも一応、彼女は三十路の人間である。
 しかし、年齢に不相応な跳躍でバスへ飛び乗りIC乗車券のタッチを決めた姿は、アクロバティックの一言に尽きる。
「おやおや、近頃の若者は元気いっぱいだねぇ?」
 バスへ同乗していた老爺は、京子を学生と勘違いしている様子。アクロバティックな跳躍に加え、彼女は年齢不相応に若い容姿をしている。そういう意味では、そんな勘違いも必然だろうか。
「ワンワンッ!」
 そんなケンを尻目に、京子を乗せたバスは発車する。しかし彼女に置いていかれまいと、ケンはバスへ懸命に食らいつく。
 京子を必死に追いかけるケンの姿は、実に涙ぐましい。......忘れられがちだが、本来の飼い主は源文恵である。
 バスへ乗車してからわずか数分で、最寄りのバス停へ到着する。目的地へ着いた京子は、ICカードをかざしてバスから下車する。
「さて、目的地はここからまもなくのはず」
 京子は周囲を見渡す。そこは、京子が普段から買い出しに来る商店街だった。
 雑誌によると、どうやらレンガ造りの店舗であるらしい。おそらく、商店街の一角に店舗を構えているのかもしれない。
「ほむら喫茶、ほむら喫茶......あった!」
 商店街を散策していると、まもなく京子はその店を見つけた。確かにレンガ造りの店舗であるが......外観があまりにも古めかしく、営業しているのかさえ疑ってしまう。
「ここで間違いないのよね......?」
 不安を抱えながらも、京子は意を決し扉を開こうとする......が、建付けが悪いのかドアノブを引いても扉が開かない。かといって、自宅裏の倉庫のように扉を蹴飛ばすわけにもいかない。これは困った。
「んぎぎぎっ!!! 」
 京子は力づくで開けようとドアノブを引っ張るも、全く歯が立たない。そんな矢先、ある男が通りかかった。
「京子さん! どうしたの!?」
 偶然にも良行が商店街を通りかかった。彼は、店の前で歯を食いしばっている京子に唖然としている。
「良行さん! この扉がどうしても開かないの!!」
 京子は必死に目と言葉で良行へ訴えかける。これでは、扉は開くよりも前に壊れてしまいそうだ。
「京子さん、下がって!」
 京子の様子を見かねた良行は、彼女に代わって扉を開ける。すると、扉はいとも簡単に開いた。
「この扉は斜めに少し傾いているから、扉全体を右側へ引きながら開ける必要があるんだ」
 彼の言葉を聞いて京子はハッとする。そうか、ここが先日良行の話していた喫茶店なのだと彼女は気付いた。しかし、この喫茶店は門前から開け方にコツが必要なため、ある意味で敷居が高いのかもしれない。同時にそんな思いも巡る。
「ワンワンッ!!」
 そんな二人を横目に、白黒ツートンカラーの何かが店舗内へ猛進して行った。


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 とある昼下がり、京子はグルメ雑誌を読んでいた。それは以前、文恵が親切心から島長家へ手渡したものだ。時間を持て余した京子は、思い出したようにそれを見開いていた。
「羽馴島、まだまだ私の知らない魅力に溢れているわね」
 グルメ雑誌を読んでいる彼女は瞳をきらめかせている。羽馴島へ引っ越してきて以来、まだ島内観光はおろか近隣の散策さえまともにしていない。
 DIYや燻製などでも十分スローライフを満喫できているが、そこはやはり地元の魅力をきちんと知っておきたい。
「えっと......『いま話題沸騰! ナイトロコールドブリューコーヒーの飲めるお店は島内でここだけ!』ですって?」
 聞き慣れない名前のコーヒーが京子の琴線に触れる。語感的に呪文のような名前だが、コールドブリューと冠していることから水出しコーヒーの一種なのかもしれない。
 しかし、雑誌に掲載されているビジュアルは京子の斜め上を行くものであった。
「......これ、絶対美味しいヤツじゃない!? お店もここから近いみたいだし、これは行くっきゃない!!」
 そのビジュアルを見た京子の第六感が激しく呼応した。彼女の行動を感化させたコーヒーとは一体どんなものだったのだろうか? 衝動に駆られ、京子は施錠さえも忘れて自宅を飛び出した。
「ワン! ワン!」
 訳が分からないまま、庭先にいたケンも京子の後を追う。そして、自宅から駆け出した京子は発車寸前のバスに飛び乗った! 
「......お客さん! 危険だから飛び込み乗車は駄目だよ!!」
 バスの運転手は、京子の行動に対して厳しい口調で注意する。閉まる寸前の扉を掻い潜って車内へ飛び乗って来た彼女に対して、彼が冷や汗をかいたことは想像に難くない。
「ごめんなさいねぇ?」
 その言葉とは裏腹に、京子は舌を出して笑っている。これでも一応、彼女は三十路の人間である。
 しかし、年齢に不相応な跳躍でバスへ飛び乗りIC乗車券のタッチを決めた姿は、アクロバティックの一言に尽きる。
「おやおや、近頃の若者は元気いっぱいだねぇ?」
 バスへ同乗していた老爺は、京子を学生と勘違いしている様子。アクロバティックな跳躍に加え、彼女は年齢不相応に若い容姿をしている。そういう意味では、そんな勘違いも必然だろうか。
「ワンワンッ!」
 そんなケンを尻目に、京子を乗せたバスは発車する。しかし彼女に置いていかれまいと、ケンはバスへ懸命に食らいつく。
 京子を必死に追いかけるケンの姿は、実に涙ぐましい。......忘れられがちだが、本来の飼い主は源文恵である。
 バスへ乗車してからわずか数分で、最寄りのバス停へ到着する。目的地へ着いた京子は、ICカードをかざしてバスから下車する。
「さて、目的地はここからまもなくのはず」
 京子は周囲を見渡す。そこは、京子が普段から買い出しに来る商店街だった。
 雑誌によると、どうやらレンガ造りの店舗であるらしい。おそらく、商店街の一角に店舗を構えているのかもしれない。
「ほむら喫茶、ほむら喫茶......あった!」
 商店街を散策していると、まもなく京子はその店を見つけた。確かにレンガ造りの店舗であるが......外観があまりにも古めかしく、営業しているのかさえ疑ってしまう。
「ここで間違いないのよね......?」
 不安を抱えながらも、京子は意を決し扉を開こうとする......が、建付けが悪いのかドアノブを引いても扉が開かない。かといって、自宅裏の倉庫のように扉を蹴飛ばすわけにもいかない。これは困った。
「んぎぎぎっ!!! 」
 京子は力づくで開けようとドアノブを引っ張るも、全く歯が立たない。そんな矢先、ある男が通りかかった。
「京子さん! どうしたの!?」
 偶然にも良行が商店街を通りかかった。彼は、店の前で歯を食いしばっている京子に唖然としている。
「良行さん! この扉がどうしても開かないの!!」
 京子は必死に目と言葉で良行へ訴えかける。これでは、扉は開くよりも前に壊れてしまいそうだ。
「京子さん、下がって!」
 京子の様子を見かねた良行は、彼女に代わって扉を開ける。すると、扉はいとも簡単に開いた。
「この扉は斜めに少し傾いているから、扉全体を右側へ引きながら開ける必要があるんだ」
 彼の言葉を聞いて京子はハッとする。そうか、ここが先日良行の話していた喫茶店なのだと彼女は気付いた。しかし、この喫茶店は門前から開け方にコツが必要なため、ある意味で敷居が高いのかもしれない。同時にそんな思いも巡る。
「ワンワンッ!!」
 そんな二人を横目に、白黒ツートンカラーの何かが店舗内へ猛進して行った。