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瑠菜の弟子②

ー/ー



「楓李さんと瑠菜さんって仲いいんですね!」

 サクラが言うと楓李は「あぁ。」と小さくうなずいた。
 サクラとしてはもう少し話に乗ってほしかった。

(すごくいにくいのですが。瑠菜さんはいつも楓李さんの近くにいるけど、この視線をいつも感じているのかな。)

 周りを歩く人にすごくみられているのだ。縮こまれば、縮こまるほど視線が痛い。だからと言って堂々としようにも、自信を持つための材料を持っていないサクラはすぐに縮こまってしまうのだ。

 「サクラちゃん。おめでとう。瑠菜の弟子になったんだってね。よかったね、認めてもらえて。頑張ってたもんね。」

 やっと声をかけてもらえたが相手は白の王子とも呼ばれるあきだ。書庫と呼ばれる資料室のような図書館のような場所は静かだった。あきの声が聞こえたであろう書庫の中にもともといた人や、楓李についてきた人が一斉にサクラに注目した。

 「サクラちゃん。これから大変だろうけど、なんかあったら俺らのとこ来ていいからね。しばいてあげるから。」

 それを見ていた楓李があきの頭に本の角を打ち付けた。

 「痛いなぁ。角でたたかないでよ。楓李。」
 「変なことほざいてるからだろ?瑠菜の弟子を落としにかかってんじゃねぇよ。ハーレムが。」
 「何言ってんの?僕は一人一人を大切に思ってるんだよ。女の子は国の宝なんだから、守ってあげないといけないからね。」
 「はぁ、サクラ、お前さっきの道戻って瑠菜のとこ戻れるな?」
 「は、はい。」

 楓李がため息交じりに言う。
 サクラはそれを見て怒らせてしまったかと思ってびくびくとしながら返事をした。

 「瑠菜の所に持っていけるか?台車使うなら向こうにあるから。」
 「は、はい。先ほどの部屋ですね。わかりました。あっ、承知しました。」

 サクラはやっとこの痛い視線から離れられると安心して横を見た。
 次の瞬間、安心は絶望へと変わった。
 小さい机には何十冊もの大量のファイルと本が置いてあった。

 「これ、瑠菜さん今日中に読み終わるのですか?」
 「いつもこれくらい読んでんだ。」
 「瑠菜の特技だよ。文字を読んで簡単な言葉に変換するの。大丈夫?俺も手伝おうか?」
 「あき。自分の仕事さっさと終わらせろ。お前は読むのが並大抵のやつより遅いんだから。」
 「楓李、女の子は大事にしないと。俺が手伝ってあげるからね。サクラちゃん。」
 「お前なぁ、また提出が遅れて神様が怒るぞ。ほら行くぞ、ハーレムバカ。」
(カミサマ?)

 何かの宗教を信仰しているのかとサクラは思ったが、聞くのも恥ずかしいので聞かなかったことにした。
 あきはブーブーと楓李に文句を言っているが、楓李は受け流してパソコンを見ている。
 台車に難十冊もあるファイルと本を積んでいると楓李が後ろから急に話しかけてきた。

 「汚すなよ。半分くらいは水性のインク使ってると思うから、濡らすと読めなくなるぞ。」
 「は、はははい!わかってます。」
 「あと何かあったら瑠菜に報告しろ。」

 サクラは何のことかは全く理解していなかったが、とりあえずうなずいた。

(なんであんなこといったんだろう。)

 サクラは考えながら歩いていた。
 瑠菜のいる家の前まで行くと、女の子たちがたむろっていて、何かキャッキャと話している。その子たちはサクラが来た瞬間に冷たい目になり、それをサクラに向けた。サクラは少し構えた。そしてそのまま進むと女の子の一人がホースを取り出したのが見えた。

(えっ、そこまでする?)

 サクラはどうしようかと立ち止まった。

(ここまでホースが届くことはないだろうけど、通ればかけられるよね。この本は守らないととだし。……しょうがない。)

 サクラは上を見上げた。
 二階の窓が開いているのが見える。
 サクラはそこに人影がないことを確認すると女の子たちがたむろっているところへ走った。
 女の子たちは急すぎてあたふたしている。

(ごめんなさい。)

 サクラは心の中でそう言って、そのまま台車ごと投げた。
 台車はバスケットボールに入るように窓の中に吸い込まれていった。
 女の子たちが水をホースから出すころにはサクラは一滴もかぶらずに通っていた。
 サクラは他よりも身体能力が高かったのだ。

 「今日は暑いですもんね。水まきありがとうございます。」

 サクラは明るい口調でそう言って、ぺこりと頭を下げてから家の中へ入っていった。
 その一部始終を瑠菜は見ていた。
 目が合いそうになってカーテンの陰にい隠れたことをすごく正解だったと思っていた。
 まさか、台車ごと投げ入れると思っていなかった。

(あのまま見てなくてよかった。)

 瑠菜の数ミリ横から台車が部屋の中に入ってきたのだ。
 喧嘩でも始まったら、止めに入ろうかと思っていたのだが、本人は嫌味まで言って帰ってきた。

(今時珍しわね。こんなに面白い子がいるなんて。)

 瑠菜はベッドの上に戻りながら思った。

 「瑠菜さん!サクラです、ただいま戻りました。」
 「どうぞ。」
 「外から見える開いてる窓って、」

 サクラはガチャリとドアを開けて中を見て驚いた。

 「え?わー!お怪我はありませんか?すみません。まさかこの部屋だとは思わなくて。すみません。本当にすみません!瑠菜さん大丈夫ですか?」
 「ここにずっといたから大丈夫よ。それより、なんだか外が騒がしいようだけど。あなたは大丈夫?」
 「あ、大丈夫です!外の水まきをしてくださった方々がいたくらいですから。瑠菜さんが言ったように今日はひどい暑さですから。仕事を一つ減らしていただき、ありがたいくらいですよ。」
 「本当に、水まきだったの?」
 「はいっ!」

 即答するサクラに瑠菜はこれ以上何も言わなかった。

(まっすぐな子だな。)

 それで片付けようと瑠菜は思った。

 「本を投げるとこんな風になってしまうから、できるだけやめて頂戴ね。」
 「はい!でも、あっ。」
 「何か言いたいことある?」

 瑠菜は人の行動をよく見ている。行動一つ一つで考えていることがわかることもある。

 「あ、いえ。なんでもありません。」
 「はぁ……。サクラ、水をかけられそうになったから、とっさに投げたんでしょう?」
 「……はい。……でもそれはいいわけです。」
 「なら、ほかに本をぬらさずにここへ来る方法があったの?」
 「……わかりません。」

 瑠菜は、肩を下した。ベッドの横に資料を積み重ねながらサクラに言った。

 「サクラ、私の弟子になるっていうのは、意外と大変よ。仲間もいないわ。嫉妬も受けるだろうし。たぶん、あなたの話を聞いてあげられるのは私しかいないと思うの。だから、本当に何でも聞いてちょうだい。聞けないなら調べて。間違ったことを覚えられてしまうよりかはよっぽどましだから。」

 瑠菜はそれだけ言って黙ってしまった。

 「瑠菜さ……。」
 「もう行っていいわよ。資料持ってきてくれてありがとう。質問がないなら次の仕事へ行きなさい。」

 つまり、もう出て行け。と。
 さすがのサクラもそれくらいは理解することができた。サクラはそっと出ていくとふぅっと息を吐いた。自分が何も知らないということを改めて理解して、恥ずかしさを感じていた。

 「瑠菜さんを怒らせてしまった。自分がなんも知らないし頭も悪いし。」

 人気のない山の中に入るとサクラはつぶやいた。

 「大丈夫よ。瑠菜ちゃんが怒るわけないでしょ。とっても優しい子よ。」
 「でも、…………。」
 「そうねぇ。あ!実はねいいものがあるの。資料のたぁっくさんあった部屋。あったでしょう?あの場所にね。ここの歴史の本もあるのよ。」
 「そうなんですか?じゃあ、一緒に来てください。」
 「うーん。それはできないはね。ごめんね。」
 「瑠菜さんの知り合いなら、会っていかないんですか?」
 「えぇ。私は会えないのよ。」
 「名前は?」

 サクラは、その人を引き留めようとした。

 「ふふっ。コムさん、とでも呼んでちょうだい。」







 
 そのころ、瑠菜は楓李とあきに呼ばれて書庫に来ていた。
 「つまり、探し物を手伝え。と?」
 「あぁ、どうしても見つからねぇんだ。」
 「瑠菜が占えばすぐだよね?」
 瑠菜は占いが得意だった。昔一儲けしたことがある。カードを使った占いがメインでそれ以外もできる。あたるから人が来るのだ。
 「占いは、必ず当たるとは限らないわ。」
 「でも、こっちも見当もつかねぇんだ。」
 「頼れるものには頼らないとね。」
 「バカじゃないの?あんたら。」
 「お願いだよ。瑠菜。」
 瑠菜は周りを見渡した。一か所瑠菜は違和感を感じてそれを指さした。
 「ねぇ、あの人の持ち物は探した?」
 「えっ?いや、あの人が管理人さんだよ瑠菜。依頼者。」
 あきが説明する。瑠菜はそのまま続けて言う。
 「なくしたものってカギだったんだね。教えてもらうの忘れてたけど。」
 「あっ。ごめん。教えるの忘れてた。うん。そうだよ。」
 その場にいた全員が、なぜわかったんだという変な目で瑠菜を見る。
 「いいよもう。管理人のおじさんは隠したいことがあるみたいだし。依頼人ほど、怪しい人はいないって教わらなかったっけ?」
 瑠菜が首をかしげながら言う。
 「そ、それは……」
 あきがしどろもどろしている横で、楓李が頭を抱える。瑠菜はいつもこんな感じなのだ。
 頭がよく、回転が速い。
 だからなのか、周りを置いて行ってしまうことが多々ある。
 「あなたの仕事は資料整理。資料が入っているパソコンは特殊な作りになっていってカギを使って開く仕組みになっている。そのパソコンを見に行ったほうが速そうね。」
 瑠菜は穏やかに言いながら、周りがついてきていないことに気づいて、一冊の本を取り出した。
 本の中には穴が開いていて、箱のようになっている。
 瑠菜はその中に入っていたカギをジャラジャラと出した。
 「結構な量あるね。」
 「ここの資料とか使ってない部屋、使っている部屋の鍵もある。俺も未だに見分けつかねぇんだ。」
 「楓李でも見分けつかないの?」
 「あぁ。あれはあいつとコム師匠しか使いこなせねぇな。」
 楓李とあきがそんな会話をしているとき、瑠菜は大量にあるカギの中から一つ選んでパソコンに刺している。
 「楓李は、この本すらも見つけられないもんね。」
 「本当の本を使ってるんだからわかる分けねぇだろ?お前がおかしいんだよ。お前が!」
 瑠菜があおるとすぐに怒り口調になる楓李を見て車の運転させたら大変だろうなぁとあきは思った。事故ることがほぼ約束された地獄行の車に早変わりだ。
 パソコンの起動には一分もかからなかった。
 「コムサン。イラッシャイマセ。ドノヨウナ資料ヲオ探シデスカ?」
 パソコンがそう言うと、瑠菜と楓李以外の全員がびっくりしていた。
 「ごめんなさい。私は瑠菜なのよ。」
 「モウシワケゴザイマセン。瑠菜様デゴザイマシタカ。ドウカナサイマシタカ?」
 「最近消えた資料、増えた資料がないか調べたくて。できるかしら?」
 「モチロンデゴザイマス。最近消エタ資料、増エタ資料デスネ?該当スルモノヲオ出シシマス。少々オ待チクダサイ。」
 ピピピ……。という機械音とともに真ん中の顔のような絵が回る。
 「瑠菜、どういうこと?」
 「見てわからないの?人工知能よ。」
 「このパソコンができたのって百年も前だって聞いたけど?そもそも百年前のパソコンかも微妙だけど。それにコムさんって瑠菜と楓李の師匠だよね?」
 何も言わない瑠菜の代わりに楓李が答えた。
 「あぁ。あの人が作ったんだ。こいつの改造した。このパソコン自体は、結構前の先輩方が作ったらしい。というか、ここに入った時ここの資料を読まされただろ?それにも載ってたし。うれしかったのか、どれを読んでも書いてあるくらいにはあったが?」
 「なんで、一番読んでなさそうな楓李が読んでんの?」
 「どういう意味だ?あき。」
 「うわぁ。楓李が切れたぁ!瑠菜もそう思うよねぇ?」
 「…………あ、うん。」
 瑠菜はボーとしながら楓李とあきのけんかを聞いていた。瑠菜にとってこの場所は忘れたくても忘れられない大切な思い出の場所だ。瑠菜が師匠に、ここへ連れてきてもらったのを瑠菜は覚えている。
 だから、あっさりと鍵を開けられるのだ。
 ピピっという音とほぼ同時にパソコンがまたしゃべりだした。
 「千五百件ノ資料ガゴザイマス。」
 「千五百……?」
 その場にいた全員が息をのんだ。
 誰が聞いても相当な量なのは確かだ。
 楓李が瑠菜の横から顔を出して画像を見る。
 「始末屋のやつらか。」
 「そうみたいだね。」
 楓李とあきがそう言って下のほうまで画面を変える。
 画面いっぱいに同じ人物の写真が写っている。
 瑠菜は気持ち悪くなり、画面から顔をそむけた。
 「しまつや?」
 瑠菜は聞きなれない言葉に楓李のほうを見た。
 「なんで……っ!」
 「お前、始末屋の人間か。」
 楓李に言われて、その男が後ろへ下がろうとした瞬間にあきが足をすくって転ばせた。
 男は床に強めに頭を打ったが、そのまま逃げようとする。
 「バカだなぁ。まさか私たちから逃げるつもり?こんなガキ相手に口封じもせずに逃げるなんて、始末屋の名が泣くよ。弱くなったものだねぇ。始末屋も。あっ、もしかしておっちゃんが弱いだけ?」
 瑠菜が挑発すると、男は手を握り締めて震えた。
 効果はあるらしい。
 「負けっぱなしなんて情けないなぁ。」
 男は瑠菜をにらみつけ、周りにいた人に殴りかかった。
 瑠菜の二倍もある図体をお持ちの男にやられたらひとたまりもないと誰もが思う。
 その場にいた瑠菜以外の人間は笑顔ではいられなくなっていた。逆に瑠菜だけは口の端をにぃっと釣り上げた笑顔で男を見た。
 「間違えないでよ。あんたの相手は私でしょ?殴るのもけるのも私にしなさいよ。意気地なし。」




 




 サクラは資料室と書かれた倉庫に入った。
 自分が知らないことを少しでも減らそうと考えたのだ。目の端が赤くなっている。
 「あ、歴史の本。」
 サクラは一冊の本を手に取った。
(瑠菜さんは楓李さんとあきさんに呼ばれていたし、忙しそうだから。)
 サクラはその本の目次のページを見た。
 厚みがあるため当たり前だが最後の章は六十章と書いてある。
(歴史のある場所だとは聞いていたけど、これは……)
 サクラ閉じたくなるのを我慢して目次をよくよく見てみた。
 王、騎士、王子と、書かれた章の中に女帝という文字もある。
 いつもなら最初に、というページから読むのだが、サクラは別のページを開いた。
 「会社の権力者の中の一人。時に、王よりも強い権力を持つ。呪われた存在であり、その名は代々受け継がれ続けている。女帝に近い存在の二人を不幸にしてしまう。」
 言わずもがな女帝のページだった。サクラとしては瑠菜のことをもっと知りたいと思っていたのだ。
 そこまで読んでサクラは周りが騒がしいことに気づいた。何だろうかと、本棚の陰から様子を見てみると……。
 「瑠菜さん!」









 瑠菜は今にもナイフを持った始末屋の男に刺されそうになっていた。
(ちょっとあおりすぎたんじゃ……)
 あきはそう思って楓李を見たが、楓李は首を横に振るばかりだった。
(占めた、やっと乗ってくれた。)
 瑠菜が動こうとしたその時、瑠菜にとって思ってもいなかったことが起きた。
 「瑠菜さん!」
 「サクラ!何でここに?」
 そのおかげで動くのが遅れてしまった瑠菜は、ナイフをよけきれずに前日の自傷行為の傷をえぐった。
 「あき、サクラを。」
 「了解。」
 楓李に言われて、あきがサクラの前に立つ。
 瑠菜は立て直しながら男の首の後ろをトンっとたたいた。男はそのまま気絶し、楓李がすかさず縛り上げた。
 「データの改ざんっつーことで。社長室にでも寝かせとけ。」
 楓李は自分の弟子によろしくと伝えた。
 いつもそんなこと言わない楓李に言われてうれしかったのか弟子のほうも嬉しそうに返事をしていた。
 一方、瑠菜のほうは疲れ切ってしまったのか床に這い蹲るようにして息を整えている。
 息を吐くと同時にぽたぽたと血が滴る。
 「瑠菜さん。」
 尻尾を振って寄ってくる子犬のようにサクラが瑠菜に近寄る。
 瑠菜はそれを血が出ていないほうの手で制した。
 「サクラ、外行って。近寄らないでちょうだい。」
 「えっ?瑠菜さん!」
 「サクラちゃん。やめておこうか。今は。」
 あきに言われて、サクラは気づいた。
 あの時無意識に自分が叫んでしまったことによって、瑠菜がけがをしたこと。
 運が悪ければ死んでいたかもしれないということ。
 そもそも自分があの場で叫ばなければ瑠菜は怪我をしていなかったかもしれない。
 サクラは考えれば考えるほど悪いほうへ考えてしまい、最終的には泣き出してしまった。
 「わわっ!サクラちゃん!大丈夫だからね?瑠菜はただ単にちょっと見られたく、……あっ。と、とりあえず、ちょっと待って。」
 あきはサクラを連れて小さい小屋に連れて行った。
 はたから見れば泣いてる小さい子を誘拐しているようにも見える。
 「サクラちゃん、サクラちゃん。そんな泣くことないって。」
 あきは必死に励ました。
 狭い部屋に棚が七つと机が三つ。
 資料の山までできていて本当に狭い。
 窓は一つしかなく、一か所から光が差すような形になっている。
 「うわっ!ここに連れてきたのかよ。」
 「楓李―!待ってたよ!もう、遅かったじゃん。」
 「あき、なんでこいつをここに連れてきた?」
 「しょうがないじゃん!泣いている女の子をほおっておくなんて僕にはできないし!」
 「ケッ。キザ野郎が。」
 「楓李ももっと瑠菜以外の女の子にやさしくしないと。」
 「瑠菜、後でここに来るって言ってたぞ?あいつから逃げたいんだと。」
 「えーっ!大丈夫?サクラちゃん。」
 「あ。は、はい。」
 サクラは元気なく答えた。
 「無理しなくていいからね。会いたくなかったらほかのとこ一緒に行くからね。」
 「明日には嫌でも顔合わせんだろ?」
 はぁ、っとあきれたように楓李は言う。
 「そうだけど、ね?サクラちゃん大丈夫?」
 「会いたくなくても毎日顔を合わせるし、知りたくなくても相手の情報を細かく知るのが、仲間になったってことだ。それが無理なら今すぐ瑠菜の弟子やめろ。」
 楓李が自分のパソコンを広げながら言う。
 「そうそう。つまり、かえはお前は仲間なんだから危なくなれば守るし、なんかあったら味方するぞぉ!って言いたいのよね。」
 「瑠菜!は、早かったね?」
 あきがびっくりしてがんっと机に足をぶつけた。
 「だって、あの人うるさいから。会わないよにしてんのよ。」
 「お前今歩けてるのも普通に生活してるのもそいつのおかげだぞ。」
 「あの人一応すごい人だしね。」
 「あら、サクラここにいたんだ。こんなさびくれて埃のたまった場所じゃなくて奥に座りましょうよ。お菓子とお茶もあるし。あぁー、いつかはここに連れてこないといけなかったし。ちょうどよかった。」
 瑠菜は無理やりサクラはカーテンの裏に連れて行った。
 「瑠菜ぁ!どこ行った?瑠菜はどこだ?隠すんじゃねぇぞ?楓李、あき。」
 瑠菜がサクラを連れて行ってから、一分もたたないうちにそんな声が響き渡った。口は悪く、低めの声質だが、男にしては少し高い声だ。
 「来てないっすよ?今日は来ないって言ってましたし。」
 楓李が答える。
 なれたものだ。よくこうやってかくまっているだけある。
 「なんでわかる?」
 「今日は出張ですから。」
 「どこにだ?」
 「さぁ。どこだったでしょう。あ、札幌でしたね。」
 「さ、はぁ?何で札幌なんかに?」
 「暑いからっすね。」
 「あのガキ。そんなことありそうなのがまた腹立つなぁ。」
 「出て行ってくれます?仕事済ませて俺らもそっち行きたいんで。」
 「あ、あぁ。悪かったな。」
 その人が出ていくと同時に瑠菜がカーテンとカーテンの間から顔を出した。
 「行った?」
 「今度ハカセの家行くんだぞ?瑠菜。」
 「あーい!で?サクラなんで泣いてるの?」
 「あー、それは……。」
 あきが説明する前に瑠菜が遮って話し出した。
 「楓李にいじめられたの?大丈夫?言い方強いもんねぇ。あいつ。」
 「い、いえ。」
 瑠菜が言うとあきもノリノリで入ってきた。
 「そうなんだよぉ。ひどいんだ。楓李は!」
 あきがそう答えた瞬間、楓李がにぃっと笑いながら顔を上げた。
 怒っているのは言うまでもない。
 「お前ら。いい加減にしろよ?」
 「楓李は一見優しくないし、見た目ヤンキーだし、口は悪いし、見た目ヤンキーだしなぁ。」
 「おいこら、瑠菜?何で二回言ったんだ?あ?なぜ、ヤンキーだと二回言った?」
 「あれが楓李のやさしさなのよ。わかってあげてね。あ、それでねこの件なんだけど楓李どう思う?」
 瑠菜は楓李のことを無視し通してから、楓李に話しかけた。
 淡々と仕事の話をする瑠菜に、楓李もあっさり丸め込まれしまった。
 そんな瑠菜にサクラは見入ってしまった。
 瑠菜は女であるが、男からはもちろん女からもモテる。男装も得意で、カッコいいとよく言われる。サクラもこの時の瑠菜を正直にきれいだなと思った。
 「る、瑠菜さん、瑠菜さん。怒ってないですか?」
 「ん?何が?」
 「今日、私は瑠菜さんを殺してしまいそうになりました。」
 「え?」
 「「はぁ?」」
 また泣きそうになっているサクラに三人はぽかんとしてしまう。
 あきすらもサクラが泣いている理由は知らなかったらしく、驚いている。
 「楓李。顔、顔怖いよ。」
 楓李は尻尾を踏まれた猛獣のような顔をしていた。
 「さ、さっき、書庫で私が声を上げたから。」
 サクラはそこまで行ってついに涙をぽろぽろと流し始めた。
 それでやっと三人は理解した。
 三人は顔を見合わせてからサクラに向き合う。
 「大丈夫よ。私、死んでないし。それにあれは私が悪かったから。ね?泣き止んでくれるかしら?私、泣いている女の子は嫌いじゃないけど、笑っている女の子のほうが好きなのよ。」
 「そうそう。あれは瑠菜が挑発しすぎただけで自業自得だ。成人男性舐めるから。」
 「気を抜きすぎたんだよね。瑠菜はいつもだから。」
 「うるっさい!」
 瑠菜が言うと二人は言いすぎたなと口をつぐんだ。
 それを見てサクラは安心したように笑った。
 「よかったぁ。」
 自分の弟子の笑った顔など見たことのない瑠菜は、ほっとした。
 瑠菜にとって弟子は邪魔な存在でしかなかった。行動にも制限がかかってしまうし、時間だって取られてしまう。
 「サクラはかわいいね。」
 「?……あ、瑠菜さん。私またここに来てもいいですか?」
 「まぁ、ここにいたほうが仕事はすぐに覚えられるし。いいわよ。」
 「はい!覚えます。」
 ふんっというようにやる気を出すサクラを瑠菜は心底愛らしいと思った。


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 「痛いなぁ。角でたたかないでよ。楓李。」
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 「何言ってんの?僕は一人一人を大切に思ってるんだよ。女の子は国の宝なんだから、守ってあげないといけないからね。」
 「はぁ、サクラ、お前さっきの道戻って瑠菜のとこ戻れるな?」
 「は、はい。」
 楓李がため息交じりに言う。
 サクラはそれを見て怒らせてしまったかと思ってびくびくとしながら返事をした。
 「瑠菜の所に持っていけるか?台車使うなら向こうにあるから。」
 「は、はい。先ほどの部屋ですね。わかりました。あっ、承知しました。」
 サクラはやっとこの痛い視線から離れられると安心して横を見た。
 次の瞬間、安心は絶望へと変わった。
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 「これ、瑠菜さん今日中に読み終わるのですか?」
 「いつもこれくらい読んでんだ。」
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(カミサマ?)
 何かの宗教を信仰しているのかとサクラは思ったが、聞くのも恥ずかしいので聞かなかったことにした。
 あきはブーブーと楓李に文句を言っているが、楓李は受け流してパソコンを見ている。
 台車に難十冊もあるファイルと本を積んでいると楓李が後ろから急に話しかけてきた。
 「汚すなよ。半分くらいは水性のインク使ってると思うから、濡らすと読めなくなるぞ。」
 「は、はははい!わかってます。」
 「あと何かあったら瑠菜に報告しろ。」
 サクラは何のことかは全く理解していなかったが、とりあえずうなずいた。
(なんであんなこといったんだろう。)
 サクラは考えながら歩いていた。
 瑠菜のいる家の前まで行くと、女の子たちがたむろっていて、何かキャッキャと話している。その子たちはサクラが来た瞬間に冷たい目になり、それをサクラに向けた。サクラは少し構えた。そしてそのまま進むと女の子の一人がホースを取り出したのが見えた。
(えっ、そこまでする?)
 サクラはどうしようかと立ち止まった。
(ここまでホースが届くことはないだろうけど、通ればかけられるよね。この本は守らないととだし。……しょうがない。)
 サクラは上を見上げた。
 二階の窓が開いているのが見える。
 サクラはそこに人影がないことを確認すると女の子たちがたむろっているところへ走った。
 女の子たちは急すぎてあたふたしている。
(ごめんなさい。)
 サクラは心の中でそう言って、そのまま台車ごと投げた。
 台車はバスケットボールに入るように窓の中に吸い込まれていった。
 女の子たちが水をホースから出すころにはサクラは一滴もかぶらずに通っていた。
 サクラは他よりも身体能力が高かったのだ。
 「今日は暑いですもんね。水まきありがとうございます。」
 サクラは明るい口調でそう言って、ぺこりと頭を下げてから家の中へ入っていった。
 その一部始終を瑠菜は見ていた。
 目が合いそうになってカーテンの陰にい隠れたことをすごく正解だったと思っていた。
 まさか、台車ごと投げ入れると思っていなかった。
(あのまま見てなくてよかった。)
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 喧嘩でも始まったら、止めに入ろうかと思っていたのだが、本人は嫌味まで言って帰ってきた。
(今時珍しわね。こんなに面白い子がいるなんて。)
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 「瑠菜さん!サクラです、ただいま戻りました。」
 「どうぞ。」
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 「え?わー!お怪我はありませんか?すみません。まさかこの部屋だとは思わなくて。すみません。本当にすみません!瑠菜さん大丈夫ですか?」
 「ここにずっといたから大丈夫よ。それより、なんだか外が騒がしいようだけど。あなたは大丈夫?」
 「あ、大丈夫です!外の水まきをしてくださった方々がいたくらいですから。瑠菜さんが言ったように今日はひどい暑さですから。仕事を一つ減らしていただき、ありがたいくらいですよ。」
 「本当に、水まきだったの?」
 「はいっ!」
 即答するサクラに瑠菜はこれ以上何も言わなかった。
(まっすぐな子だな。)
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 「はい!でも、あっ。」
 「何か言いたいことある?」
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 「あ、いえ。なんでもありません。」
 「はぁ……。サクラ、水をかけられそうになったから、とっさに投げたんでしょう?」
 「……はい。……でもそれはいいわけです。」
 「なら、ほかに本をぬらさずにここへ来る方法があったの?」
 「……わかりません。」
 瑠菜は、肩を下した。ベッドの横に資料を積み重ねながらサクラに言った。
 「サクラ、私の弟子になるっていうのは、意外と大変よ。仲間もいないわ。嫉妬も受けるだろうし。たぶん、あなたの話を聞いてあげられるのは私しかいないと思うの。だから、本当に何でも聞いてちょうだい。聞けないなら調べて。間違ったことを覚えられてしまうよりかはよっぽどましだから。」
 瑠菜はそれだけ言って黙ってしまった。
 「瑠菜さ……。」
 「もう行っていいわよ。資料持ってきてくれてありがとう。質問がないなら次の仕事へ行きなさい。」
 つまり、もう出て行け。と。
 さすがのサクラもそれくらいは理解することができた。サクラはそっと出ていくとふぅっと息を吐いた。自分が何も知らないということを改めて理解して、恥ずかしさを感じていた。
 「瑠菜さんを怒らせてしまった。自分がなんも知らないし頭も悪いし。」
 人気のない山の中に入るとサクラはつぶやいた。
 「大丈夫よ。瑠菜ちゃんが怒るわけないでしょ。とっても優しい子よ。」
 「でも、…………。」
 「そうねぇ。あ!実はねいいものがあるの。資料のたぁっくさんあった部屋。あったでしょう?あの場所にね。ここの歴史の本もあるのよ。」
 「そうなんですか?じゃあ、一緒に来てください。」
 「うーん。それはできないはね。ごめんね。」
 「瑠菜さんの知り合いなら、会っていかないんですか?」
 「えぇ。私は会えないのよ。」
 「名前は?」
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 「ふふっ。コムさん、とでも呼んでちょうだい。」
 そのころ、瑠菜は楓李とあきに呼ばれて書庫に来ていた。
 「つまり、探し物を手伝え。と?」
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 瑠菜は占いが得意だった。昔一儲けしたことがある。カードを使った占いがメインでそれ以外もできる。あたるから人が来るのだ。
 「占いは、必ず当たるとは限らないわ。」
 「でも、こっちも見当もつかねぇんだ。」
 「頼れるものには頼らないとね。」
 「バカじゃないの?あんたら。」
 「お願いだよ。瑠菜。」
 瑠菜は周りを見渡した。一か所瑠菜は違和感を感じてそれを指さした。
 「ねぇ、あの人の持ち物は探した?」
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 あきが説明する。瑠菜はそのまま続けて言う。
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 その場にいた全員が、なぜわかったんだという変な目で瑠菜を見る。
 「いいよもう。管理人のおじさんは隠したいことがあるみたいだし。依頼人ほど、怪しい人はいないって教わらなかったっけ?」
 瑠菜が首をかしげながら言う。
 「そ、それは……」
 あきがしどろもどろしている横で、楓李が頭を抱える。瑠菜はいつもこんな感じなのだ。
 頭がよく、回転が速い。
 だからなのか、周りを置いて行ってしまうことが多々ある。
 「あなたの仕事は資料整理。資料が入っているパソコンは特殊な作りになっていってカギを使って開く仕組みになっている。そのパソコンを見に行ったほうが速そうね。」
 瑠菜は穏やかに言いながら、周りがついてきていないことに気づいて、一冊の本を取り出した。
 本の中には穴が開いていて、箱のようになっている。
 瑠菜はその中に入っていたカギをジャラジャラと出した。
 「結構な量あるね。」
 「ここの資料とか使ってない部屋、使っている部屋の鍵もある。俺も未だに見分けつかねぇんだ。」
 「楓李でも見分けつかないの?」
 「あぁ。あれはあいつとコム師匠しか使いこなせねぇな。」
 楓李とあきがそんな会話をしているとき、瑠菜は大量にあるカギの中から一つ選んでパソコンに刺している。
 「楓李は、この本すらも見つけられないもんね。」
 「本当の本を使ってるんだからわかる分けねぇだろ?お前がおかしいんだよ。お前が!」
 瑠菜があおるとすぐに怒り口調になる楓李を見て車の運転させたら大変だろうなぁとあきは思った。事故ることがほぼ約束された地獄行の車に早変わりだ。
 パソコンの起動には一分もかからなかった。
 「コムサン。イラッシャイマセ。ドノヨウナ資料ヲオ探シデスカ?」
 パソコンがそう言うと、瑠菜と楓李以外の全員がびっくりしていた。
 「ごめんなさい。私は瑠菜なのよ。」
 「モウシワケゴザイマセン。瑠菜様デゴザイマシタカ。ドウカナサイマシタカ?」
 「最近消えた資料、増えた資料がないか調べたくて。できるかしら?」
 「モチロンデゴザイマス。最近消エタ資料、増エタ資料デスネ?該当スルモノヲオ出シシマス。少々オ待チクダサイ。」
 ピピピ……。という機械音とともに真ん中の顔のような絵が回る。
 「瑠菜、どういうこと?」
 「見てわからないの?人工知能よ。」
 「このパソコンができたのって百年も前だって聞いたけど?そもそも百年前のパソコンかも微妙だけど。それにコムさんって瑠菜と楓李の師匠だよね?」
 何も言わない瑠菜の代わりに楓李が答えた。
 「あぁ。あの人が作ったんだ。こいつの改造した。このパソコン自体は、結構前の先輩方が作ったらしい。というか、ここに入った時ここの資料を読まされただろ?それにも載ってたし。うれしかったのか、どれを読んでも書いてあるくらいにはあったが?」
 「なんで、一番読んでなさそうな楓李が読んでんの?」
 「どういう意味だ?あき。」
 「うわぁ。楓李が切れたぁ!瑠菜もそう思うよねぇ?」
 「…………あ、うん。」
 瑠菜はボーとしながら楓李とあきのけんかを聞いていた。瑠菜にとってこの場所は忘れたくても忘れられない大切な思い出の場所だ。瑠菜が師匠に、ここへ連れてきてもらったのを瑠菜は覚えている。
 だから、あっさりと鍵を開けられるのだ。
 ピピっという音とほぼ同時にパソコンがまたしゃべりだした。
 「千五百件ノ資料ガゴザイマス。」
 「千五百……?」
 その場にいた全員が息をのんだ。
 誰が聞いても相当な量なのは確かだ。
 楓李が瑠菜の横から顔を出して画像を見る。
 「始末屋のやつらか。」
 「そうみたいだね。」
 楓李とあきがそう言って下のほうまで画面を変える。
 画面いっぱいに同じ人物の写真が写っている。
 瑠菜は気持ち悪くなり、画面から顔をそむけた。
 「しまつや?」
 瑠菜は聞きなれない言葉に楓李のほうを見た。
 「なんで……っ!」
 「お前、始末屋の人間か。」
 楓李に言われて、その男が後ろへ下がろうとした瞬間にあきが足をすくって転ばせた。
 男は床に強めに頭を打ったが、そのまま逃げようとする。
 「バカだなぁ。まさか私たちから逃げるつもり?こんなガキ相手に口封じもせずに逃げるなんて、始末屋の名が泣くよ。弱くなったものだねぇ。始末屋も。あっ、もしかしておっちゃんが弱いだけ?」
 瑠菜が挑発すると、男は手を握り締めて震えた。
 効果はあるらしい。
 「負けっぱなしなんて情けないなぁ。」
 男は瑠菜をにらみつけ、周りにいた人に殴りかかった。
 瑠菜の二倍もある図体をお持ちの男にやられたらひとたまりもないと誰もが思う。
 その場にいた瑠菜以外の人間は笑顔ではいられなくなっていた。逆に瑠菜だけは口の端をにぃっと釣り上げた笑顔で男を見た。
 「間違えないでよ。あんたの相手は私でしょ?殴るのもけるのも私にしなさいよ。意気地なし。」
 サクラは資料室と書かれた倉庫に入った。
 自分が知らないことを少しでも減らそうと考えたのだ。目の端が赤くなっている。
 「あ、歴史の本。」
 サクラは一冊の本を手に取った。
(瑠菜さんは楓李さんとあきさんに呼ばれていたし、忙しそうだから。)
 サクラはその本の目次のページを見た。
 厚みがあるため当たり前だが最後の章は六十章と書いてある。
(歴史のある場所だとは聞いていたけど、これは……)
 サクラ閉じたくなるのを我慢して目次をよくよく見てみた。
 王、騎士、王子と、書かれた章の中に女帝という文字もある。
 いつもなら最初に、というページから読むのだが、サクラは別のページを開いた。
 「会社の権力者の中の一人。時に、王よりも強い権力を持つ。呪われた存在であり、その名は代々受け継がれ続けている。女帝に近い存在の二人を不幸にしてしまう。」
 言わずもがな女帝のページだった。サクラとしては瑠菜のことをもっと知りたいと思っていたのだ。
 そこまで読んでサクラは周りが騒がしいことに気づいた。何だろうかと、本棚の陰から様子を見てみると……。
 「瑠菜さん!」
 瑠菜は今にもナイフを持った始末屋の男に刺されそうになっていた。
(ちょっとあおりすぎたんじゃ……)
 あきはそう思って楓李を見たが、楓李は首を横に振るばかりだった。
(占めた、やっと乗ってくれた。)
 瑠菜が動こうとしたその時、瑠菜にとって思ってもいなかったことが起きた。
 「瑠菜さん!」
 「サクラ!何でここに?」
 そのおかげで動くのが遅れてしまった瑠菜は、ナイフをよけきれずに前日の自傷行為の傷をえぐった。
 「あき、サクラを。」
 「了解。」
 楓李に言われて、あきがサクラの前に立つ。
 瑠菜は立て直しながら男の首の後ろをトンっとたたいた。男はそのまま気絶し、楓李がすかさず縛り上げた。
 「データの改ざんっつーことで。社長室にでも寝かせとけ。」
 楓李は自分の弟子によろしくと伝えた。
 いつもそんなこと言わない楓李に言われてうれしかったのか弟子のほうも嬉しそうに返事をしていた。
 一方、瑠菜のほうは疲れ切ってしまったのか床に這い蹲るようにして息を整えている。
 息を吐くと同時にぽたぽたと血が滴る。
 「瑠菜さん。」
 尻尾を振って寄ってくる子犬のようにサクラが瑠菜に近寄る。
 瑠菜はそれを血が出ていないほうの手で制した。
 「サクラ、外行って。近寄らないでちょうだい。」
 「えっ?瑠菜さん!」
 「サクラちゃん。やめておこうか。今は。」
 あきに言われて、サクラは気づいた。
 あの時無意識に自分が叫んでしまったことによって、瑠菜がけがをしたこと。
 運が悪ければ死んでいたかもしれないということ。
 そもそも自分があの場で叫ばなければ瑠菜は怪我をしていなかったかもしれない。
 サクラは考えれば考えるほど悪いほうへ考えてしまい、最終的には泣き出してしまった。
 「わわっ!サクラちゃん!大丈夫だからね?瑠菜はただ単にちょっと見られたく、……あっ。と、とりあえず、ちょっと待って。」
 あきはサクラを連れて小さい小屋に連れて行った。
 はたから見れば泣いてる小さい子を誘拐しているようにも見える。
 「サクラちゃん、サクラちゃん。そんな泣くことないって。」
 あきは必死に励ました。
 狭い部屋に棚が七つと机が三つ。
 資料の山までできていて本当に狭い。
 窓は一つしかなく、一か所から光が差すような形になっている。
 「うわっ!ここに連れてきたのかよ。」
 「楓李―!待ってたよ!もう、遅かったじゃん。」
 「あき、なんでこいつをここに連れてきた?」
 「しょうがないじゃん!泣いている女の子をほおっておくなんて僕にはできないし!」
 「ケッ。キザ野郎が。」
 「楓李ももっと瑠菜以外の女の子にやさしくしないと。」
 「瑠菜、後でここに来るって言ってたぞ?あいつから逃げたいんだと。」
 「えーっ!大丈夫?サクラちゃん。」
 「あ。は、はい。」
 サクラは元気なく答えた。
 「無理しなくていいからね。会いたくなかったらほかのとこ一緒に行くからね。」
 「明日には嫌でも顔合わせんだろ?」
 はぁ、っとあきれたように楓李は言う。
 「そうだけど、ね?サクラちゃん大丈夫?」
 「会いたくなくても毎日顔を合わせるし、知りたくなくても相手の情報を細かく知るのが、仲間になったってことだ。それが無理なら今すぐ瑠菜の弟子やめろ。」
 楓李が自分のパソコンを広げながら言う。
 「そうそう。つまり、かえはお前は仲間なんだから危なくなれば守るし、なんかあったら味方するぞぉ!って言いたいのよね。」
 「瑠菜!は、早かったね?」
 あきがびっくりしてがんっと机に足をぶつけた。
 「だって、あの人うるさいから。会わないよにしてんのよ。」
 「お前今歩けてるのも普通に生活してるのもそいつのおかげだぞ。」
 「あの人一応すごい人だしね。」
 「あら、サクラここにいたんだ。こんなさびくれて埃のたまった場所じゃなくて奥に座りましょうよ。お菓子とお茶もあるし。あぁー、いつかはここに連れてこないといけなかったし。ちょうどよかった。」
 瑠菜は無理やりサクラはカーテンの裏に連れて行った。
 「瑠菜ぁ!どこ行った?瑠菜はどこだ?隠すんじゃねぇぞ?楓李、あき。」
 瑠菜がサクラを連れて行ってから、一分もたたないうちにそんな声が響き渡った。口は悪く、低めの声質だが、男にしては少し高い声だ。
 「来てないっすよ?今日は来ないって言ってましたし。」
 楓李が答える。
 なれたものだ。よくこうやってかくまっているだけある。
 「なんでわかる?」
 「今日は出張ですから。」
 「どこにだ?」
 「さぁ。どこだったでしょう。あ、札幌でしたね。」
 「さ、はぁ?何で札幌なんかに?」
 「暑いからっすね。」
 「あのガキ。そんなことありそうなのがまた腹立つなぁ。」
 「出て行ってくれます?仕事済ませて俺らもそっち行きたいんで。」
 「あ、あぁ。悪かったな。」
 その人が出ていくと同時に瑠菜がカーテンとカーテンの間から顔を出した。
 「行った?」
 「今度ハカセの家行くんだぞ?瑠菜。」
 「あーい!で?サクラなんで泣いてるの?」
 「あー、それは……。」
 あきが説明する前に瑠菜が遮って話し出した。
 「楓李にいじめられたの?大丈夫?言い方強いもんねぇ。あいつ。」
 「い、いえ。」
 瑠菜が言うとあきもノリノリで入ってきた。
 「そうなんだよぉ。ひどいんだ。楓李は!」
 あきがそう答えた瞬間、楓李がにぃっと笑いながら顔を上げた。
 怒っているのは言うまでもない。
 「お前ら。いい加減にしろよ?」
 「楓李は一見優しくないし、見た目ヤンキーだし、口は悪いし、見た目ヤンキーだしなぁ。」
 「おいこら、瑠菜?何で二回言ったんだ?あ?なぜ、ヤンキーだと二回言った?」
 「あれが楓李のやさしさなのよ。わかってあげてね。あ、それでねこの件なんだけど楓李どう思う?」
 瑠菜は楓李のことを無視し通してから、楓李に話しかけた。
 淡々と仕事の話をする瑠菜に、楓李もあっさり丸め込まれしまった。
 そんな瑠菜にサクラは見入ってしまった。
 瑠菜は女であるが、男からはもちろん女からもモテる。男装も得意で、カッコいいとよく言われる。サクラもこの時の瑠菜を正直にきれいだなと思った。
 「る、瑠菜さん、瑠菜さん。怒ってないですか?」
 「ん?何が?」
 「今日、私は瑠菜さんを殺してしまいそうになりました。」
 「え?」
 「「はぁ?」」
 また泣きそうになっているサクラに三人はぽかんとしてしまう。
 あきすらもサクラが泣いている理由は知らなかったらしく、驚いている。
 「楓李。顔、顔怖いよ。」
 楓李は尻尾を踏まれた猛獣のような顔をしていた。
 「さ、さっき、書庫で私が声を上げたから。」
 サクラはそこまで行ってついに涙をぽろぽろと流し始めた。
 それでやっと三人は理解した。
 三人は顔を見合わせてからサクラに向き合う。
 「大丈夫よ。私、死んでないし。それにあれは私が悪かったから。ね?泣き止んでくれるかしら?私、泣いている女の子は嫌いじゃないけど、笑っている女の子のほうが好きなのよ。」
 「そうそう。あれは瑠菜が挑発しすぎただけで自業自得だ。成人男性舐めるから。」
 「気を抜きすぎたんだよね。瑠菜はいつもだから。」
 「うるっさい!」
 瑠菜が言うと二人は言いすぎたなと口をつぐんだ。
 それを見てサクラは安心したように笑った。
 「よかったぁ。」
 自分の弟子の笑った顔など見たことのない瑠菜は、ほっとした。
 瑠菜にとって弟子は邪魔な存在でしかなかった。行動にも制限がかかってしまうし、時間だって取られてしまう。
 「サクラはかわいいね。」
 「?……あ、瑠菜さん。私またここに来てもいいですか?」
 「まぁ、ここにいたほうが仕事はすぐに覚えられるし。いいわよ。」
 「はい!覚えます。」
 ふんっというようにやる気を出すサクラを瑠菜は心底愛らしいと思った。