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転校生、三島玲

ー/ー



朝起きて支度をして家を出る。バス停に行くと、ひなが待っていた。

「ひな、おはよう」
「おはよう」
「今日から学校だな」
「そうね」
「毎日起きなくちゃいけないと思うとテンションが下がるよ」
「だから夏休みでも規則正しい生活しなさいよって言ったのに」
「ひなはきっちりしてるね」
「しんどい思いするのが嫌なだけよ」
「ひなは学校楽しみ?」
「そうね。クラスの子にも久しぶりに会えるから」
「俺は勉強しなくちゃいけないと思うと嫌になるよ」
「夏休みの課題はやったの?」
「一応ね。毎日コツコツやったよ」
「そう。なら良かったわね」
「ひなは?終わったの?」
「私は七月中に全て終わらせたわ」
「さすがだな」

 そんな話をしているうちにバスが来た。バスに乗り込んだ。

「バスに乗れないトラウマは、もうすっかりなくなったのね」
「ああ、なんとかな。ひなと仲直り出来たからなのか、初恋サービスを使ったから分からないけどな。バスに乗ると、すぐあんなに気持ち悪くなっていたのに、嘘のように気分が悪くなったりしないんだ」
「そう。良かったわね」

 それからひなは途中で降りて、龍賀城女子へと歩いていった。俺も次の停留所で降りて学校へと向かった。

 教室に入るとクラスが何やらクラスがざわついていた。皆、久しぶりに会うから夏休みの出来事を話し合っているのだろうと思った。すると雅弘が俺の席にやってきた。

「なあ。優斗。聞いたか? 今日、うちのクラスに転校生が来るらしい」
「えっ? そうなの? それでこんなにクラスがざわついてるのか」
「しかも凄く可愛い子なんだってさ」
「へえ」
「まあでも俺は、愛美ちゃん一筋だけどな」
「はいはい」

 それからチャイムが鳴り、先生がやってきた。

「えー、今日からうちのクラスに転校生が来ます。どうぞ、入ってきて」

 そこに現れた女の子の顔を見て、俺は驚いてしまった。

 あの子だ。間違いない。初恋サービスを俺に渡してくれた女の子だ。

「三島玲です。今日から皆さんと一緒に勉強する事になりました。両親の仕事の都合でこっちに来ました。こっちの事はまだよく知らないので、色々教えてくれると嬉しいです。好きなものは絶叫マシン。嫌いなものは虫です。よろしくお願いします」

 拍手と共に男子達がテンションが上がっているのが分かる。女子達もあの子めっちゃ可愛いと言っていた。彼女の顔は、どことなくひなに似ているような感じだった。

 それから三島さんは、すぐにクラスの注目の的となった。男子からも女子からも質問攻めだった。でも明るい感じの三島さんは、何でも明るく答えて皆を楽しませていた。

「三島さん。前の学校でモテたんじゃない? 彼氏いるの?」
「確かにモテましたね。皆さん、見る目がありますよ。私を選ぶんですから」
「三島さん。連絡先交換しようよ」
「玲でいいですよ。いいですね。是非交換しましょう」

 見た目はひなに系統が似ているし、クールな感じの女の子なのかと思ったが、ひなとは全然違うタイプだ。

 ようやくクラスの子達から解放され、落ち着いた三島さんは、俺の方にやってきた。

「加藤優斗さん。お久しぶりですね」
「やっぱり君だったのか。俺に初恋サービスをくれたのは」
「よかった。記憶が戻ったんですね。順調です」
「順調?」
「いえ、こっちの話です。それよりも私、加藤さんと仲良くなりたいです。優斗さんと呼んでもかまいませんか? あっ、私の事も玲と呼んで頂いて結構です。皆、玲と呼ぶんです。その方が慣れてますし」
「別にいいけど」
「そうですか。では優斗さん。仲良くなるついでにお願いがあるんですけどいいですか?」
「何?」
「私にこの辺を案内してもらえませんか? 引っ越してきたばかりで、この辺りの地理に疎いのです。美味しいお店とか遊ぶ場所とか色々教えて頂けると嬉しいのですが」
「いいよ、別に」

 そんな話をしていると、雅弘が寄ってきた。

「おっ、何々? 三島さん。優斗に気があるの?」
「あはははは。ないですよ。ないですないです。天変地異が起ころうとも、そんな事はあり得ません。ただちょっとこの辺を案内して欲しかったんです」
「どうして俺なの?」
「んー、まあなんとなくですかね。まあ別にいいじゃないですか」

 玲はニヤニヤしながら答える。

「じゃあ俺も一緒に行っていい?」
「ええ。沖野さんも一緒に行きましょう」
「おお。俺の名前、もう覚えてくれたんだ」
「はい。もうクラス全員覚えました。一度名前を聞けば覚えられます」
「凄いね。三島さん。頭良いんだね」
「私、天才ですから」
「ははは」
「あっ、それから私の事は玲と呼んでくれていいです」
「オッケー。玲ちゃん」

 それから学校が終わり、俺と雅弘で、玲を色々な場所に案内した。コロッケが美味しい肉屋、カラオケでいつも行ってるラウンドツー、ファミレス、デパート。色々なところを回った。

「なるほど。最近の高校生は、こういうところで遊んだりするわけですね」
「最近って。玲ちゃんも最近の高校生じゃん」
「そうでした。いやー、沢山回りましたね。どこも興味深くて楽しかったです」
「楽しんでもらえたなら良かったよ」
「また今度、是非カラオケなんかも連れて行ってください」
「うん。そうだね。ひなちゃんとか愛美ちゃんも連れて一緒に行こう」
「ひなちゃんに愛美さんですか。ふふっ、楽しみです」
「それじゃ、俺もそろそろ帰るよ」
「おう、またな。雅弘」
「それじゃ、私もそろそろ帰りますね。優斗さん、今日はありがとうございました。また明日からも学校でよろしくお願いします」
「うん。またね」

 俺は雅弘と玲と別れて家に帰った。玲は明るい子だった。でもなぜ俺の名前を知っていて、初恋サービスを俺に渡してくれたんだ。謎が多い子だ。そんな事を考えながら、俺はベッドで目を閉じて眠りについた。

 翌日の朝、支度をして学校へ行く。バス停に行くとひなが先に来てバスを待っていた。

「おはよう、ひな」
「おはよう」
「昨日さ、うちに転校生が来たんだ」
「そうなの」
「うん。三島玲って言う子なんだけど、仲良くなってさ。今度雅弘と愛美ちゃんも誘ってカラオケに行こうって話になってるんだけど、ひなも一緒に行かないか?」
「別にいいけど」

 それからバスがやってきて、バスに乗り込んだ。ひなが途中で降りて、俺も次の停留所で降りて学校へ行く。

「優斗さん、おはようございます」
「おはよう」
「そういえば今日、テストがあるらしいですよ。優斗さん、勉強してきましたか?」
「テスト? あっ、やばい。すっかり忘れていた」
「優斗さん、勉強は嫌いなんですね」
「そうだな。勉強が好きな奴なんていないだろう」
「私は嫌いじゃないですよ」
「そうなの?」
「はい。知らないことを知るのは楽しい事ですし、知的好奇心を満たすのは楽しいです」
「玲って意外と優等生なの?」
「いえ、私。天才ですから」
「そんな事言うのは、テストで良い点取ってからいいなよ」
「だったら私とテストの点で勝負してみます?」
「まあ別にいいよ。多分俺と似たようなもんだろ」

 自分で天才だなんて言ってるような人間は、そんなに頭なんて良いわけがない。俺はそう思い、テストでの勝負を受ける事にした。

 テストが始まる。かなりの難問ばかりで、これは平均点が悪いだろうと思った。これなら悪い点を取っても玲に馬鹿にされることもないだろう。

テストが終わり、隣の席の人と答案を交換して採点してもらう。俺の点数は、四十九点だった。まあ良い点数ではないが、難問ばっかりだったし。それでこの点数なら悪くないだろう。そして玲がテストを持って俺のところにきた。

「優斗さん。どうでした?」
「四十九点だった」
「全然ダメじゃないですか。もっと勉強しないと」
「今回のは難問が多かっただろう。さすがに点取るのなんて無理だよ」
「そうですか? 一体どこがそんなに難しかったのやら」
「玲は何点だったんだ?」
「満点です」
「えっ?」
「だから、満点ですって。百点です」
「マ、マジかよ」

 その様子を見ていたクラスメイトがざわつきだす。

「玲ちゃん。百点なの? 凄い。勉強できるんだね。私に勉強教えて」
「私にも」
「俺にも」
「いいですよ。この天才である私が皆さんに勉強を教えます」

 そう言ってドヤ顔する玲の横で、俺はショックを受けるのだった。

 それから昼休みになった。雅弘と一緒に購買にパンを買いに行って教室に戻ると、玲が話しかけてきた。

「優斗さん。沖野さんも一緒に食べましょうよ」
「ああ、いいよ」
「うん。そうだね、玲ちゃん」

 三人で並んで昼食を食べる。玲は弁当だった。

「それ作ってもらったの?」
「いえ、自分で作りますよ」
「凄いね」
「料理くらいできますよ。私、天才ですから」
「そこは天才とかあんまり関係ないと思うんだけど」
「優斗さん。今日は放課後、何か予定はありますか?」
「いや、特にないね」
「良かったら買い物に付き合ってくれませんか?」
「うん。別にいいけど」

 昼休みにそんな約束をして、学校の授業も終わり、放課後になった。
 玲と一緒に駅前まで行った。

「それで買い物って何買うの?」
「服ですね。うーん、そろそろだと思うんですけどね」
「そろそろって何が?」
「いえ、何でもないです」

 そう言って二人で服売り場をうろついていると、肩を叩かれた。

「優斗」
「えっ?」

 そこには、ひなと愛美ちゃんがいた。

「あれー、優斗君じゃん。どうしたの? ここ女の子の服の店だよ?」
「ああ、ちょっと買い物に付き合ってって言われてさ」
「買い物? 誰に?」
「ほら、あの子」

 俺は服を物色する玲を指差す。

「誰? あの子」
「うん。夏休み明けに転校してきた子だよ」
「へえ」
「おーい、玲」
「はい」

 触っていた服を置いて、玲がこっちに来る。

「あ、愛……あ、いえ。初めまして。三島玲です」
「こんにちは」

 愛美ちゃんが挨拶する。ひなもぺこりと頭を下げた。

「優斗君。ひながいるのに浮気?」

 愛美ちゃんが俺を疑う。

「いや、違うよ。玲は転校してきたばかりだから、まだこの辺りの地理に疎いんだ。それで俺の案内がてら買い物をしたいって言うから」
「ふーん、そういうことか。でも玲なんて下の名前で呼んで親しそうだね」
「あ、いえいえ。それは私が優斗さんにお願いしたんです。私、誰にでも玲と呼んで下さいと言ってるので」
「そうなんだ」
「はい。ですから私の事は、玲と呼んでください」
「よろしくね、玲ちゃん。私も愛美でいいよ。で、こっちはひな」
「よろしく」
「よろしくお願いします。愛美さん。それからひなちゃん」
「なんで私だけちゃん付けなの?」

 ちょっとブスッとした感じでひなが言う。

「いえ、ひなちゃんには近しい物を感じますからね。ふふふっ」

 そう言うと、玲は微笑んだ。ひなの横に並ぶと、やはり二人は、なんとなく顔のパーツが似ている気がする。ひなはもちろんだけど、玲もかなりの美少女の部類に入るだろう。

「そうだ。私、良い服ないかなと思って探しているんですけど、良かったら二人に選んでもらえませんか? どれにしようか迷っていて」
「別にいいよ。ね、ひな」
「ええ。別にいいけど」
「ありがとうございます」

 それから玲とひなと愛美ちゃんの三人は、俺を置いて服を選びだした。それからは、めちゃくちゃ長い時間、服を選んでいた。どうして女の子の買い物ってこんなにも長いんだろうか。

「玲ちゃん、これなんてどう? 玲ちゃんに似合いそう」
「私こういうのは着た事ないですね」
「玲ちゃん、水色凄く似合うよ」
「そうですか。愛美お……愛美さんがそう言うなら安心ですね」
「うん。私も玲さんは水色が似合ってると思う」
「玲でいいですよ。ひなちゃん」
「そ、そう……」

 ひなは、玲の距離感の詰め方に少し戸惑っていた。それから服を選び終わり、会計を済ませて店を出た。

「ひなちゃんも愛美さんも服選ぶのに付き合ってくれてありがとうございます。お礼に飲み物でも奢りますからカフェでも行きませんか?」
「いいね。じゃあ行こうかな。ひなもいいよね?」
「私は別にかまわないけど」
「優斗さんも行きましょう」
「ああ」

 それから四人でカフェに向かった。カフェに着いてコーヒーと紅茶をそれぞれに注文して、色々な話をした。

「へえ。玲ちゃん頭良いんだ」
「そうなんだ。難しいテストだったんだけど百点取ってさ」
「私、天才ですから」
「愛美ちゃんも分からないところがあったら玲に教えてもらったらいいよ」
「うん、私も勉強苦手だから頼むかも。ひなは頭も良いからいいよね」
「別に授業を真面目に聞いていれば分かるわよ」

 愛美ちゃんが頭を抱えながら言ったところをひなに言われる。

「それができないんだって」

 俺も愛美ちゃんに同意する。

「なんでそれができないんですかねー。凡人にはそれが難しいんですかねー」

 玲がやれやれという感じで言う。

「あっ、そういえば今日。雅弘君は?」

 思い出したように愛美ちゃんが聞いてきた。

「誘ったんだけど今日は用事があるからって言って断られたんだ」
「そうなんだ。残念」
「雅弘とは上手くいってるの?」
「うん。この間、一緒に買い物に行ったよ」
「そうなんだ」
「玲ちゃんは? 好きな人とかいないの?」
「私は恋愛には興味ありませんから」
「そうなんだ。玲ちゃんモテそうなのにね」
「確かに言い寄ってくる男の人は多いです。でも私が恋愛に興味が湧くなんてことはないと思います」
「どんな人がタイプなの?」
「そうですねえ。頼りがいのある優しい人でしょうか」
「そっかあ」
「あ、でも顔は優斗さんみたいな人って結構良いと思いますよ」

 にやりと笑いながら、玲は言った。

「残念。俺にはひながいるから」
「おー、いいですねえ。青春ですねえ」

 嬉しそうに玲が言う。

「そういう事言わないでよ。恥ずかしい」

 ひなの顔が赤くなる。

 そんな会話をした後、カフェを出た。

「皆さん、今日はありがとうございました」
「うん。私達も楽しかったよ。あっ、そうだ。玲ちゃん、連絡先教えてよ」
「いいですよ」

 愛美ちゃんと玲は、連絡先を交換した。

「私、ひなちゃんの連絡先も知りたいです」
「別にいいけど」

 続いて、玲はひなの連絡先も教えてもらって交換した。

「ありがとうございました。それじゃ、私はそろそろ帰ります。優斗さん、また明日学校で」
「うん、またね」

 そう言うと、玲は振り返って手を振って帰っていった。

「なんか面白い子だね」

 愛美ちゃんが言った。

「うん、そうだね」
「しかもひなに顔が似てるのがツボだった」
「やめてよ」
「ひながテンション上がったらあんな感じになるのかな。あはは」
「もう。愛美ったら」

 ひなが呆れる。

「それじゃ、私達。ちょっと寄ってくとこあるから」
「うん。またね」

 そう言って二人と別れて帰った。


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みんなのリアクション

朝起きて支度をして家を出る。バス停に行くと、ひなが待っていた。
「ひな、おはよう」
「おはよう」
「今日から学校だな」
「そうね」
「毎日起きなくちゃいけないと思うとテンションが下がるよ」
「だから夏休みでも規則正しい生活しなさいよって言ったのに」
「ひなはきっちりしてるね」
「しんどい思いするのが嫌なだけよ」
「ひなは学校楽しみ?」
「そうね。クラスの子にも久しぶりに会えるから」
「俺は勉強しなくちゃいけないと思うと嫌になるよ」
「夏休みの課題はやったの?」
「一応ね。毎日コツコツやったよ」
「そう。なら良かったわね」
「ひなは?終わったの?」
「私は七月中に全て終わらせたわ」
「さすがだな」
 そんな話をしているうちにバスが来た。バスに乗り込んだ。
「バスに乗れないトラウマは、もうすっかりなくなったのね」
「ああ、なんとかな。ひなと仲直り出来たからなのか、初恋サービスを使ったから分からないけどな。バスに乗ると、すぐあんなに気持ち悪くなっていたのに、嘘のように気分が悪くなったりしないんだ」
「そう。良かったわね」
 それからひなは途中で降りて、龍賀城女子へと歩いていった。俺も次の停留所で降りて学校へと向かった。
 教室に入るとクラスが何やらクラスがざわついていた。皆、久しぶりに会うから夏休みの出来事を話し合っているのだろうと思った。すると雅弘が俺の席にやってきた。
「なあ。優斗。聞いたか? 今日、うちのクラスに転校生が来るらしい」
「えっ? そうなの? それでこんなにクラスがざわついてるのか」
「しかも凄く可愛い子なんだってさ」
「へえ」
「まあでも俺は、愛美ちゃん一筋だけどな」
「はいはい」
 それからチャイムが鳴り、先生がやってきた。
「えー、今日からうちのクラスに転校生が来ます。どうぞ、入ってきて」
 そこに現れた女の子の顔を見て、俺は驚いてしまった。
 あの子だ。間違いない。初恋サービスを俺に渡してくれた女の子だ。
「三島玲です。今日から皆さんと一緒に勉強する事になりました。両親の仕事の都合でこっちに来ました。こっちの事はまだよく知らないので、色々教えてくれると嬉しいです。好きなものは絶叫マシン。嫌いなものは虫です。よろしくお願いします」
 拍手と共に男子達がテンションが上がっているのが分かる。女子達もあの子めっちゃ可愛いと言っていた。彼女の顔は、どことなくひなに似ているような感じだった。
 それから三島さんは、すぐにクラスの注目の的となった。男子からも女子からも質問攻めだった。でも明るい感じの三島さんは、何でも明るく答えて皆を楽しませていた。
「三島さん。前の学校でモテたんじゃない? 彼氏いるの?」
「確かにモテましたね。皆さん、見る目がありますよ。私を選ぶんですから」
「三島さん。連絡先交換しようよ」
「玲でいいですよ。いいですね。是非交換しましょう」
 見た目はひなに系統が似ているし、クールな感じの女の子なのかと思ったが、ひなとは全然違うタイプだ。
 ようやくクラスの子達から解放され、落ち着いた三島さんは、俺の方にやってきた。
「加藤優斗さん。お久しぶりですね」
「やっぱり君だったのか。俺に初恋サービスをくれたのは」
「よかった。記憶が戻ったんですね。順調です」
「順調?」
「いえ、こっちの話です。それよりも私、加藤さんと仲良くなりたいです。優斗さんと呼んでもかまいませんか? あっ、私の事も玲と呼んで頂いて結構です。皆、玲と呼ぶんです。その方が慣れてますし」
「別にいいけど」
「そうですか。では優斗さん。仲良くなるついでにお願いがあるんですけどいいですか?」
「何?」
「私にこの辺を案内してもらえませんか? 引っ越してきたばかりで、この辺りの地理に疎いのです。美味しいお店とか遊ぶ場所とか色々教えて頂けると嬉しいのですが」
「いいよ、別に」
 そんな話をしていると、雅弘が寄ってきた。
「おっ、何々? 三島さん。優斗に気があるの?」
「あはははは。ないですよ。ないですないです。天変地異が起ころうとも、そんな事はあり得ません。ただちょっとこの辺を案内して欲しかったんです」
「どうして俺なの?」
「んー、まあなんとなくですかね。まあ別にいいじゃないですか」
 玲はニヤニヤしながら答える。
「じゃあ俺も一緒に行っていい?」
「ええ。沖野さんも一緒に行きましょう」
「おお。俺の名前、もう覚えてくれたんだ」
「はい。もうクラス全員覚えました。一度名前を聞けば覚えられます」
「凄いね。三島さん。頭良いんだね」
「私、天才ですから」
「ははは」
「あっ、それから私の事は玲と呼んでくれていいです」
「オッケー。玲ちゃん」
 それから学校が終わり、俺と雅弘で、玲を色々な場所に案内した。コロッケが美味しい肉屋、カラオケでいつも行ってるラウンドツー、ファミレス、デパート。色々なところを回った。
「なるほど。最近の高校生は、こういうところで遊んだりするわけですね」
「最近って。玲ちゃんも最近の高校生じゃん」
「そうでした。いやー、沢山回りましたね。どこも興味深くて楽しかったです」
「楽しんでもらえたなら良かったよ」
「また今度、是非カラオケなんかも連れて行ってください」
「うん。そうだね。ひなちゃんとか愛美ちゃんも連れて一緒に行こう」
「ひなちゃんに愛美さんですか。ふふっ、楽しみです」
「それじゃ、俺もそろそろ帰るよ」
「おう、またな。雅弘」
「それじゃ、私もそろそろ帰りますね。優斗さん、今日はありがとうございました。また明日からも学校でよろしくお願いします」
「うん。またね」
 俺は雅弘と玲と別れて家に帰った。玲は明るい子だった。でもなぜ俺の名前を知っていて、初恋サービスを俺に渡してくれたんだ。謎が多い子だ。そんな事を考えながら、俺はベッドで目を閉じて眠りについた。
 翌日の朝、支度をして学校へ行く。バス停に行くとひなが先に来てバスを待っていた。
「おはよう、ひな」
「おはよう」
「昨日さ、うちに転校生が来たんだ」
「そうなの」
「うん。三島玲って言う子なんだけど、仲良くなってさ。今度雅弘と愛美ちゃんも誘ってカラオケに行こうって話になってるんだけど、ひなも一緒に行かないか?」
「別にいいけど」
 それからバスがやってきて、バスに乗り込んだ。ひなが途中で降りて、俺も次の停留所で降りて学校へ行く。
「優斗さん、おはようございます」
「おはよう」
「そういえば今日、テストがあるらしいですよ。優斗さん、勉強してきましたか?」
「テスト? あっ、やばい。すっかり忘れていた」
「優斗さん、勉強は嫌いなんですね」
「そうだな。勉強が好きな奴なんていないだろう」
「私は嫌いじゃないですよ」
「そうなの?」
「はい。知らないことを知るのは楽しい事ですし、知的好奇心を満たすのは楽しいです」
「玲って意外と優等生なの?」
「いえ、私。天才ですから」
「そんな事言うのは、テストで良い点取ってからいいなよ」
「だったら私とテストの点で勝負してみます?」
「まあ別にいいよ。多分俺と似たようなもんだろ」
 自分で天才だなんて言ってるような人間は、そんなに頭なんて良いわけがない。俺はそう思い、テストでの勝負を受ける事にした。
 テストが始まる。かなりの難問ばかりで、これは平均点が悪いだろうと思った。これなら悪い点を取っても玲に馬鹿にされることもないだろう。
テストが終わり、隣の席の人と答案を交換して採点してもらう。俺の点数は、四十九点だった。まあ良い点数ではないが、難問ばっかりだったし。それでこの点数なら悪くないだろう。そして玲がテストを持って俺のところにきた。
「優斗さん。どうでした?」
「四十九点だった」
「全然ダメじゃないですか。もっと勉強しないと」
「今回のは難問が多かっただろう。さすがに点取るのなんて無理だよ」
「そうですか? 一体どこがそんなに難しかったのやら」
「玲は何点だったんだ?」
「満点です」
「えっ?」
「だから、満点ですって。百点です」
「マ、マジかよ」
 その様子を見ていたクラスメイトがざわつきだす。
「玲ちゃん。百点なの? 凄い。勉強できるんだね。私に勉強教えて」
「私にも」
「俺にも」
「いいですよ。この天才である私が皆さんに勉強を教えます」
 そう言ってドヤ顔する玲の横で、俺はショックを受けるのだった。
 それから昼休みになった。雅弘と一緒に購買にパンを買いに行って教室に戻ると、玲が話しかけてきた。
「優斗さん。沖野さんも一緒に食べましょうよ」
「ああ、いいよ」
「うん。そうだね、玲ちゃん」
 三人で並んで昼食を食べる。玲は弁当だった。
「それ作ってもらったの?」
「いえ、自分で作りますよ」
「凄いね」
「料理くらいできますよ。私、天才ですから」
「そこは天才とかあんまり関係ないと思うんだけど」
「優斗さん。今日は放課後、何か予定はありますか?」
「いや、特にないね」
「良かったら買い物に付き合ってくれませんか?」
「うん。別にいいけど」
 昼休みにそんな約束をして、学校の授業も終わり、放課後になった。
 玲と一緒に駅前まで行った。
「それで買い物って何買うの?」
「服ですね。うーん、そろそろだと思うんですけどね」
「そろそろって何が?」
「いえ、何でもないです」
 そう言って二人で服売り場をうろついていると、肩を叩かれた。
「優斗」
「えっ?」
 そこには、ひなと愛美ちゃんがいた。
「あれー、優斗君じゃん。どうしたの? ここ女の子の服の店だよ?」
「ああ、ちょっと買い物に付き合ってって言われてさ」
「買い物? 誰に?」
「ほら、あの子」
 俺は服を物色する玲を指差す。
「誰? あの子」
「うん。夏休み明けに転校してきた子だよ」
「へえ」
「おーい、玲」
「はい」
 触っていた服を置いて、玲がこっちに来る。
「あ、愛……あ、いえ。初めまして。三島玲です」
「こんにちは」
 愛美ちゃんが挨拶する。ひなもぺこりと頭を下げた。
「優斗君。ひながいるのに浮気?」
 愛美ちゃんが俺を疑う。
「いや、違うよ。玲は転校してきたばかりだから、まだこの辺りの地理に疎いんだ。それで俺の案内がてら買い物をしたいって言うから」
「ふーん、そういうことか。でも玲なんて下の名前で呼んで親しそうだね」
「あ、いえいえ。それは私が優斗さんにお願いしたんです。私、誰にでも玲と呼んで下さいと言ってるので」
「そうなんだ」
「はい。ですから私の事は、玲と呼んでください」
「よろしくね、玲ちゃん。私も愛美でいいよ。で、こっちはひな」
「よろしく」
「よろしくお願いします。愛美さん。それからひなちゃん」
「なんで私だけちゃん付けなの?」
 ちょっとブスッとした感じでひなが言う。
「いえ、ひなちゃんには近しい物を感じますからね。ふふふっ」
 そう言うと、玲は微笑んだ。ひなの横に並ぶと、やはり二人は、なんとなく顔のパーツが似ている気がする。ひなはもちろんだけど、玲もかなりの美少女の部類に入るだろう。
「そうだ。私、良い服ないかなと思って探しているんですけど、良かったら二人に選んでもらえませんか? どれにしようか迷っていて」
「別にいいよ。ね、ひな」
「ええ。別にいいけど」
「ありがとうございます」
 それから玲とひなと愛美ちゃんの三人は、俺を置いて服を選びだした。それからは、めちゃくちゃ長い時間、服を選んでいた。どうして女の子の買い物ってこんなにも長いんだろうか。
「玲ちゃん、これなんてどう? 玲ちゃんに似合いそう」
「私こういうのは着た事ないですね」
「玲ちゃん、水色凄く似合うよ」
「そうですか。愛美お……愛美さんがそう言うなら安心ですね」
「うん。私も玲さんは水色が似合ってると思う」
「玲でいいですよ。ひなちゃん」
「そ、そう……」
 ひなは、玲の距離感の詰め方に少し戸惑っていた。それから服を選び終わり、会計を済ませて店を出た。
「ひなちゃんも愛美さんも服選ぶのに付き合ってくれてありがとうございます。お礼に飲み物でも奢りますからカフェでも行きませんか?」
「いいね。じゃあ行こうかな。ひなもいいよね?」
「私は別にかまわないけど」
「優斗さんも行きましょう」
「ああ」
 それから四人でカフェに向かった。カフェに着いてコーヒーと紅茶をそれぞれに注文して、色々な話をした。
「へえ。玲ちゃん頭良いんだ」
「そうなんだ。難しいテストだったんだけど百点取ってさ」
「私、天才ですから」
「愛美ちゃんも分からないところがあったら玲に教えてもらったらいいよ」
「うん、私も勉強苦手だから頼むかも。ひなは頭も良いからいいよね」
「別に授業を真面目に聞いていれば分かるわよ」
 愛美ちゃんが頭を抱えながら言ったところをひなに言われる。
「それができないんだって」
 俺も愛美ちゃんに同意する。
「なんでそれができないんですかねー。凡人にはそれが難しいんですかねー」
 玲がやれやれという感じで言う。
「あっ、そういえば今日。雅弘君は?」
 思い出したように愛美ちゃんが聞いてきた。
「誘ったんだけど今日は用事があるからって言って断られたんだ」
「そうなんだ。残念」
「雅弘とは上手くいってるの?」
「うん。この間、一緒に買い物に行ったよ」
「そうなんだ」
「玲ちゃんは? 好きな人とかいないの?」
「私は恋愛には興味ありませんから」
「そうなんだ。玲ちゃんモテそうなのにね」
「確かに言い寄ってくる男の人は多いです。でも私が恋愛に興味が湧くなんてことはないと思います」
「どんな人がタイプなの?」
「そうですねえ。頼りがいのある優しい人でしょうか」
「そっかあ」
「あ、でも顔は優斗さんみたいな人って結構良いと思いますよ」
 にやりと笑いながら、玲は言った。
「残念。俺にはひながいるから」
「おー、いいですねえ。青春ですねえ」
 嬉しそうに玲が言う。
「そういう事言わないでよ。恥ずかしい」
 ひなの顔が赤くなる。
 そんな会話をした後、カフェを出た。
「皆さん、今日はありがとうございました」
「うん。私達も楽しかったよ。あっ、そうだ。玲ちゃん、連絡先教えてよ」
「いいですよ」
 愛美ちゃんと玲は、連絡先を交換した。
「私、ひなちゃんの連絡先も知りたいです」
「別にいいけど」
 続いて、玲はひなの連絡先も教えてもらって交換した。
「ありがとうございました。それじゃ、私はそろそろ帰ります。優斗さん、また明日学校で」
「うん、またね」
 そう言うと、玲は振り返って手を振って帰っていった。
「なんか面白い子だね」
 愛美ちゃんが言った。
「うん、そうだね」
「しかもひなに顔が似てるのがツボだった」
「やめてよ」
「ひながテンション上がったらあんな感じになるのかな。あはは」
「もう。愛美ったら」
 ひなが呆れる。
「それじゃ、私達。ちょっと寄ってくとこあるから」
「うん。またね」
 そう言って二人と別れて帰った。