婚約破棄公爵令嬢リルオードは最後に第二王子の寵愛を受ける.11

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 闇が晴れるにつれ、わたくしの中で怒りが改めて沸き起こってきます。

「君に婚約破棄を言い渡す少し前から、兄上の金遣いが荒くなってきていた。もともと浪費家だったが、更に酷くなった。結婚式のパレードは見たかい」
「……いいえ……」

 見ておりませんでした。
 大怪我をした母のことでいっぱいいっぱいでしたし、何よりクララの幸せな姿を見て耐えられる自信がありませんでした。

「そこで二人が乗ったのは馬車ではなかった。自動車、というものを知っているかい。隣国が開発した馬の要らない乗り物だ。兄上は新しいもの好きだ。だから、()()()()()()()一台だけ輸入したんだが、それがまた莫大な額だ。その年の民からの税の一割に匹敵する。そしてその輸入を請け負ったのが……」
「ウェントワース家……」
「ご明察。ふと気になって、事件とは別に調べてみたんだが……実際の輸入額は、なんとその倍していたのだ。水神の貯水池でウェントワース家が横領していた金額全部を併せてもなお足りない。いくら娘が嫁いだ返礼だとしても、釣り合わないにも程がある。だから私は、ウェントワース家のみならず王家にも密かに密偵を入れた。そこで明らかになったのが……」

 アレクシス殿下は、わたくしの目をじっと見つめました。
 彼の中にも、兄に対する怒りが燃えているのが見て取れたのでした。

「ウェントワース家による王家の分断だ。彼らは、アルフレッド王太子の身分を保証する代わりに、王家から国の統治の権利を奪い、執政としてこの国を支配するつもりなのだ」

 ……

「皆の者、本日は妻との結婚三周年のめでたい日に、よく集まってくれた。誠に感謝に絶えない」

 美しく整備された真昼のガーデンで、アルフレッド・エングルフィールド王太子が直々に挨拶しておられます。

「この三年間、色々あった。まず嬉しかったのは、家族が増えたことだ。……アレン、おいで」

 抱っこされた小さなアレンくんも、なんだかとっても嬉しそう。

「このアレンを、我ら夫婦に授けてくださった、女神様に感謝申し上げたい」

 ぱちぱちぱちぱち。
 観客から拍手が上がります。

「待ってくれ。実はもう一つ、報告したいことがある。……クラリッサ」

 わたくしも、とっても嬉しい気持ちでいっぱいです。

「……みなさま、国王陛下お義父様、王妃お義母様。本日はあたくしたち家族をお祝い下さり、感謝申し上げますわ」

 だって、シッスルが言っていたもの。

『貴女はこれから幸せになる。この国の、誰よりも幸せになる。いわば最高のご馳走よ』

「実はあたくし、今、嬉しくて泣きそうですの」

 わたくしは、これから幸せになる。

『復讐は、その前の前菜(オードブル)だよ。美味しい美味しい、ね?』

「先週わかったことなのですが」

 その前に復讐をするの。

「あたくし、お腹の中に新しい赤ちゃんが──」

 クラリッサ、憎い憎いあなたに。

「国王陛下! それにお集まりの皆さま! ごきげんよう! リルオード・イングラムでございますわ! 嬉しいご報告の前に、陛下のお耳に入れたいことがございますわー!」

 クララの顔が凍りつくのが見えました。
 まるで死んだはずの人間を見ているかのようでございました。


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 闇が晴れるにつれ、わたくしの中で怒りが改めて沸き起こってきます。
「君に婚約破棄を言い渡す少し前から、兄上の金遣いが荒くなってきていた。もともと浪費家だったが、更に酷くなった。結婚式のパレードは見たかい」
「……いいえ……」
 見ておりませんでした。
 大怪我をした母のことでいっぱいいっぱいでしたし、何よりクララの幸せな姿を見て耐えられる自信がありませんでした。
「そこで二人が乗ったのは馬車ではなかった。自動車、というものを知っているかい。隣国が開発した馬の要らない乗り物だ。兄上は新しいもの好きだ。だから、|そ《・》|の《・》|た《・》|め《・》|だ《・》|け《・》|に《・》一台だけ輸入したんだが、それがまた莫大な額だ。その年の民からの税の一割に匹敵する。そしてその輸入を請け負ったのが……」
「ウェントワース家……」
「ご明察。ふと気になって、事件とは別に調べてみたんだが……実際の輸入額は、なんとその倍していたのだ。水神の貯水池でウェントワース家が横領していた金額全部を併せてもなお足りない。いくら娘が嫁いだ返礼だとしても、釣り合わないにも程がある。だから私は、ウェントワース家のみならず王家にも密かに密偵を入れた。そこで明らかになったのが……」
 アレクシス殿下は、わたくしの目をじっと見つめました。
 彼の中にも、兄に対する怒りが燃えているのが見て取れたのでした。
「ウェントワース家による王家の分断だ。彼らは、アルフレッド王太子の身分を保証する代わりに、王家から国の統治の権利を奪い、執政としてこの国を支配するつもりなのだ」
 ……
「皆の者、本日は妻との結婚三周年のめでたい日に、よく集まってくれた。誠に感謝に絶えない」
 美しく整備された真昼のガーデンで、アルフレッド・エングルフィールド王太子が直々に挨拶しておられます。
「この三年間、色々あった。まず嬉しかったのは、家族が増えたことだ。……アレン、おいで」
 抱っこされた小さなアレンくんも、なんだかとっても嬉しそう。
「このアレンを、我ら夫婦に授けてくださった、女神様に感謝申し上げたい」
 ぱちぱちぱちぱち。
 観客から拍手が上がります。
「待ってくれ。実はもう一つ、報告したいことがある。……クラリッサ」
 わたくしも、とっても嬉しい気持ちでいっぱいです。
「……みなさま、国王陛下お義父様、王妃お義母様。本日はあたくしたち家族をお祝い下さり、感謝申し上げますわ」
 だって、シッスルが言っていたもの。
『貴女はこれから幸せになる。この国の、誰よりも幸せになる。いわば最高のご馳走よ』
「実はあたくし、今、嬉しくて泣きそうですの」
 わたくしは、これから幸せになる。
『復讐は、その前の|前菜《オードブル》だよ。美味しい美味しい、ね?』
「先週わかったことなのですが」
 その前に復讐をするの。
「あたくし、お腹の中に新しい赤ちゃんが──」
 クラリッサ、憎い憎いあなたに。
「国王陛下! それにお集まりの皆さま! ごきげんよう! リルオード・イングラムでございますわ! 嬉しいご報告の前に、陛下のお耳に入れたいことがございますわー!」
 クララの顔が凍りつくのが見えました。
 まるで死んだはずの人間を見ているかのようでございました。