幕間その2〜セ界制覇へ突き進め!∨やでタイガース〜2015年その①
ー/ーその年、中野虎太郎は、高校に進学していた。
彼は、女子にあまり縁のない男子高校生の大半がそうであるように、恋愛の機微というモノがどういうモノなのかわかっていなかった。
だが――――――。
思春期なりに、彼にも、気になる存在の異性がいた。
「はぁ……文化祭の演し物……どうしよう……」
高校最初の期末試験が終わり、学生にとって、夏休み前の開放的な気分になる時期にも関わらず、教室内で虎太郎とともに居残る女子生徒は、憂鬱な表情でため息をつく。
彼女の名前は、橋本神奈。
虎太郎と同じく、県西高校1年1組の文化祭実行委員を務める生徒だ。
ため息をつく神奈の言葉のとおり、彼ら二人の頭を悩ませているのは、秋に開催される文化祭で行うクラスの演し物が決まらない、ということだった。
「なんで、男子は執事喫茶に反対なの? メイド喫茶なんて、もうオワコンじゃない?」
ふたたび彼女の言葉どおり、1年1組の文化祭の演し物を決めるホームルームは、男女半々のクラス構成を反映し、女子を中心とした執事喫茶派と男子が推すメイド喫茶派に意見が真っ二つに別れて紛糾し、時間内に最終決定を行うことができなかった。
学校の代表委員に演し物を報告する期限は明日に迫っている。
いまや、世界をリードする文化の発信源に対して、「終わったコンテンツ」を意味する不穏当なワードを発した神奈ではあるが、執事喫茶実現のため、美術部や手芸部の部員たちに協力を仰ぎながら、喫茶店の内装や制服の見本まで準備をした彼女の言い分も理解してあげたい、と虎太郎は考えていた。
「たしかに、メイド喫茶の方は、なんの準備も出来てないしなぁ」
隣の席で、頭を抱えている女子生徒に同調して虎太郎がつぶやくと、神奈は我が意を得たり、と立ち上がって、
「でしょ? 中野くん、男子を説得してよ」
と、相方の男子に、にじり寄る。
(ちょ……顔が近いって……)
内心でツッコミを入れる虎太郎ではあるが、もちろん、それは拒否反応からではない。
彼は、入学当初から、クラスの男女問わず別け隔てなく明るく接する神奈の人柄を憎からず想っていた。
さらに、文化祭実行委員として、ともに活動するようになってから、彼女が仕事に取り組む生真面目な姿勢に惹かれるようになっていった。
それだけに、クラスメートの適した人材に仕事を割り振りながら、自分たちのクラスの演し物の実現に向けてがんばっている神奈をできる限りサポートしたい、と虎太郎は考えている。
しかし――――――。
一方で、クラスの半分を占める男子の意見も無視はできなかった。
「なんで、オレたち男子だけ晒しモノにならなアカンねん?」
「それなら、男女平等に、メイド喫茶を提案させてもらう!」
というのが、男子一同の表立っての主張であった。
虎太郎も、分断されたクラスの世論に対して、手をこまねいていた訳ではない。
対立した意見の落とし所を探るべく、ホームルームの時間中に許可をとって、男子二十名を集め、説得を試みようとしたのだが……。
「虎太郎、まさか裏切るつもりじゃないだろうな?」
「おまえだって、メイド服を着ているのを見たい女子が一人くらい居るだろう?」
「そう、たとえば、橋本さんとかな……」
関川・山田・北川の三人の男子に取り囲むようにしてスゴまれると、彼としては、一時撤退の判断を下さざるを得なかった。
それでも、この時の集合で得るものがなかったわけではない。
(男子側の要求内容は、だいたいわかった。あとは、落としどころをどうするかだよな……)
そう考えた虎太郎は、神奈に提案する。
「執事喫茶なら、ウェイター役の衣装は、男性用のモノにだろうけど、その衣装で女子にも接客してもらうことはできないかな? あと、表には出ないけど、調理係にも制服があってもいいんじゃないか、と思うんだけど……?」
彼の一言に、相方の文化委員は、「ふ〜ん」と、うなずきながら思案する。
「女子にも、執事服を着てもらう、ってこと? うん、タカラヅカ風で面白そうかもね? 調理担当にもエプロンみたいなユニフォームは必要だろうし……たしかに、イイかも! でも、男子はそれで納得するの?」
「男子側の不満は、自分たちだけが接客するのは不公平だってことと、男子だけじゃなくて、女子にもナニか衣装を用意するべきだろう、ってことだから……」
男子の視覚的欲求もとい、要望を穏当な表現で伝える虎太郎の返答に、「なるほどね……」と相づちを打ちながら、神奈は納得した口ぶりで応じた。
「そっか……男子は、そんな風に考えてたんだ……そうだね、せっかくだから、調理担当の衣装も、ちょっと可愛らしいデザインにしてみよっか?」
自分の提案を受け入れてくれた女子文化委員の返答に、虎太郎の顔はほころび、大きく首をタテに振りながら、男子たちの意見を代弁する。
「可愛らしいデザイン! いいんじゃないかな?」
その喜色満面の表情に対して、橋本神奈は、
「中野くん、なんで、そんなに嬉しそうなん? もしかして、可愛い制服を着せたい女子がクラスにおるとか? それ、普通に引くわ……」
冷静な表情で、言葉を返した。
彼は、女子にあまり縁のない男子高校生の大半がそうであるように、恋愛の機微というモノがどういうモノなのかわかっていなかった。
だが――――――。
思春期なりに、彼にも、気になる存在の異性がいた。
「はぁ……文化祭の演し物……どうしよう……」
高校最初の期末試験が終わり、学生にとって、夏休み前の開放的な気分になる時期にも関わらず、教室内で虎太郎とともに居残る女子生徒は、憂鬱な表情でため息をつく。
彼女の名前は、橋本神奈。
虎太郎と同じく、県西高校1年1組の文化祭実行委員を務める生徒だ。
ため息をつく神奈の言葉のとおり、彼ら二人の頭を悩ませているのは、秋に開催される文化祭で行うクラスの演し物が決まらない、ということだった。
「なんで、男子は執事喫茶に反対なの? メイド喫茶なんて、もうオワコンじゃない?」
ふたたび彼女の言葉どおり、1年1組の文化祭の演し物を決めるホームルームは、男女半々のクラス構成を反映し、女子を中心とした執事喫茶派と男子が推すメイド喫茶派に意見が真っ二つに別れて紛糾し、時間内に最終決定を行うことができなかった。
学校の代表委員に演し物を報告する期限は明日に迫っている。
いまや、世界をリードする文化の発信源に対して、「終わったコンテンツ」を意味する不穏当なワードを発した神奈ではあるが、執事喫茶実現のため、美術部や手芸部の部員たちに協力を仰ぎながら、喫茶店の内装や制服の見本まで準備をした彼女の言い分も理解してあげたい、と虎太郎は考えていた。
「たしかに、メイド喫茶の方は、なんの準備も出来てないしなぁ」
隣の席で、頭を抱えている女子生徒に同調して虎太郎がつぶやくと、神奈は我が意を得たり、と立ち上がって、
「でしょ? 中野くん、男子を説得してよ」
と、相方の男子に、にじり寄る。
(ちょ……顔が近いって……)
内心でツッコミを入れる虎太郎ではあるが、もちろん、それは拒否反応からではない。
彼は、入学当初から、クラスの男女問わず別け隔てなく明るく接する神奈の人柄を憎からず想っていた。
さらに、文化祭実行委員として、ともに活動するようになってから、彼女が仕事に取り組む生真面目な姿勢に惹かれるようになっていった。
それだけに、クラスメートの適した人材に仕事を割り振りながら、自分たちのクラスの演し物の実現に向けてがんばっている神奈をできる限りサポートしたい、と虎太郎は考えている。
しかし――――――。
一方で、クラスの半分を占める男子の意見も無視はできなかった。
「なんで、オレたち男子だけ晒しモノにならなアカンねん?」
「それなら、男女平等に、メイド喫茶を提案させてもらう!」
というのが、男子一同の表立っての主張であった。
虎太郎も、分断されたクラスの世論に対して、手をこまねいていた訳ではない。
対立した意見の落とし所を探るべく、ホームルームの時間中に許可をとって、男子二十名を集め、説得を試みようとしたのだが……。
「虎太郎、まさか裏切るつもりじゃないだろうな?」
「おまえだって、メイド服を着ているのを見たい女子が一人くらい居るだろう?」
「そう、たとえば、橋本さんとかな……」
関川・山田・北川の三人の男子に取り囲むようにしてスゴまれると、彼としては、一時撤退の判断を下さざるを得なかった。
それでも、この時の集合で得るものがなかったわけではない。
(男子側の要求内容は、だいたいわかった。あとは、落としどころをどうするかだよな……)
そう考えた虎太郎は、神奈に提案する。
「執事喫茶なら、ウェイター役の衣装は、男性用のモノにだろうけど、その衣装で女子にも接客してもらうことはできないかな? あと、表には出ないけど、調理係にも制服があってもいいんじゃないか、と思うんだけど……?」
彼の一言に、相方の文化委員は、「ふ〜ん」と、うなずきながら思案する。
「女子にも、執事服を着てもらう、ってこと? うん、タカラヅカ風で面白そうかもね? 調理担当にもエプロンみたいなユニフォームは必要だろうし……たしかに、イイかも! でも、男子はそれで納得するの?」
「男子側の不満は、自分たちだけが接客するのは不公平だってことと、男子だけじゃなくて、女子にもナニか衣装を用意するべきだろう、ってことだから……」
男子の視覚的欲求もとい、要望を穏当な表現で伝える虎太郎の返答に、「なるほどね……」と相づちを打ちながら、神奈は納得した口ぶりで応じた。
「そっか……男子は、そんな風に考えてたんだ……そうだね、せっかくだから、調理担当の衣装も、ちょっと可愛らしいデザインにしてみよっか?」
自分の提案を受け入れてくれた女子文化委員の返答に、虎太郎の顔はほころび、大きく首をタテに振りながら、男子たちの意見を代弁する。
「可愛らしいデザイン! いいんじゃないかな?」
その喜色満面の表情に対して、橋本神奈は、
「中野くん、なんで、そんなに嬉しそうなん? もしかして、可愛い制服を着せたい女子がクラスにおるとか? それ、普通に引くわ……」
冷静な表情で、言葉を返した。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
その年、|中野虎太郎《なかのこたろう》は、高校に進学していた。
彼は、女子にあまり縁のない男子高校生の大半がそうであるように、|恋《・》|愛《・》|の《・》|機《・》|微《・》というモノがどういうモノなのかわかっていなかった。
彼は、女子にあまり縁のない男子高校生の大半がそうであるように、|恋《・》|愛《・》|の《・》|機《・》|微《・》というモノがどういうモノなのかわかっていなかった。
だが――――――。
思春期なりに、彼にも、気になる存在の異性がいた。
「はぁ……文化祭の|演《だ》し|物《もの》……どうしよう……」
高校最初の期末試験が終わり、学生にとって、夏休み前の開放的な気分になる時期にも関わらず、教室内で虎太郎とともに居残る女子生徒は、憂鬱な表情でため息をつく。
彼女の名前は、|橋本神奈《はしもとかんな》。
虎太郎と同じく、|県西《けんにし》高校1年1組の文化祭実行委員を務める生徒だ。
虎太郎と同じく、|県西《けんにし》高校1年1組の文化祭実行委員を務める生徒だ。
ため息をつく|神奈《かんな》の言葉のとおり、彼ら二人の頭を悩ませているのは、秋に開催される文化祭で行うクラスの|演《だ》し|物《もの》が決まらない、ということだった。
「なんで、男子は執事喫茶に反対なの? メイド喫茶なんて、もう|オ《・》|ワ《・》|コ《・》|ン《・》じゃない?」
ふたたび彼女の言葉どおり、1年1組の文化祭の|演《だ》し|物《もの》を決めるホームルームは、男女半々のクラス構成を反映し、女子を中心とした執事喫茶派と男子が推すメイド喫茶派に意見が真っ二つに別れて|紛糾《ふんきゅう》し、時間内に最終決定を行うことができなかった。
学校の代表委員に|演《だ》し|物《もの》を報告する期限は明日に迫っている。
いまや、世界をリードする|文《・》|化《・》の発信源に対して、「終わったコンテンツ」を意味する不穏当なワードを発した|神奈《かんな》ではあるが、執事喫茶実現のため、美術部や手芸部の部員たちに協力を仰ぎながら、喫茶店の内装や制服の見本まで準備をした彼女の言い分も理解してあげたい、と虎太郎は考えていた。
「たしかに、メイド喫茶の方は、なんの準備も出来てないしなぁ」
隣の席で、頭を抱えている女子生徒に同調して虎太郎がつぶやくと、|神奈《かんな》は我が意を得たり、と立ち上がって、
「でしょ? 中野くん、男子を説得してよ」
と、相方の男子に、にじり寄る。
(ちょ……顔が近いって……)
内心でツッコミを入れる虎太郎ではあるが、もちろん、それは拒否反応からではない。
彼は、入学当初から、クラスの男女問わず別け隔てなく明るく接する|神奈《かんな》の人柄を|憎《にく》からず想っていた。
さらに、文化祭実行委員として、ともに活動するようになってから、彼女が仕事に取り組む生真面目な姿勢に惹かれるようになっていった。
さらに、文化祭実行委員として、ともに活動するようになってから、彼女が仕事に取り組む生真面目な姿勢に惹かれるようになっていった。
それだけに、クラスメートの適した人材に仕事を割り振りながら、自分たちのクラスの|演《だ》し|物《もの》の実現に向けてがんばっている|神奈《かんな》をできる限りサポートしたい、と虎太郎は考えている。
しかし――――――。
一方で、クラスの半分を占める男子の意見も無視はできなかった。
「なんで、オレたち男子だけ|晒《・》|し《・》|モ《・》|ノ《・》にならなアカンねん?」
「それなら、男女平等に、メイド喫茶を提案させてもらう!」
というのが、男子一同の|表《・》|立《・》|っ《・》|て《・》の主張であった。
虎太郎も、分断されたクラスの世論に対して、手をこまねいていた訳ではない。
虎太郎も、分断されたクラスの世論に対して、手をこまねいていた訳ではない。
対立した意見の落とし所を探るべく、ホームルームの時間中に許可をとって、男子二十名を集め、説得を試みようとしたのだが……。
「虎太郎、まさか裏切るつもりじゃないだろうな?」
「おまえだって、メイド服を着ているのを見たい女子が一人くらい居るだろう?」
「そう、たとえば、|橋《・》|本《・》|さ《・》|ん《・》とかな……」
|関川《せきかわ》・|山田《やまだ》・|北川《きたがわ》の三人の男子に取り囲むようにしてスゴまれると、彼としては、一時撤退の判断を下さざるを得なかった。
それでも、この時の集合で得るものがなかったわけではない。
それでも、この時の集合で得るものがなかったわけではない。
(男子側の要求内容は、だいたいわかった。あとは、落としどころをどうするかだよな……)
そう考えた虎太郎は、|神奈《かんな》に提案する。
「執事喫茶なら、ウェイター役の衣装は、男性用のモノにだろうけど、その衣装で女子にも接客してもらうことはできないかな? あと、表には出ないけど、調理係にも制服があってもいいんじゃないか、と思うんだけど……?」
彼の一言に、相方の文化委員は、「ふ〜ん」と、うなずきながら思案する。
「女子にも、執事服を着てもらう、ってこと? うん、タカラヅカ風で面白そうかもね? 調理担当にもエプロンみたいなユニフォームは必要だろうし……たしかに、イイかも! でも、男子はそれで納得するの?」
「男子側の不満は、自分たちだけが接客するのは不公平だってことと、男子だけじゃなくて、女子にもナニか衣装を用意するべきだろう、ってことだから……」
男子の視覚的欲求もとい、要望を|穏《・》|当《・》|な《・》|表《・》|現《・》で伝える虎太郎の返答に、「なるほどね……」と相づちを打ちながら、|神奈《かんな》は納得した口ぶりで応じた。
「そっか……男子は、そんな風に考えてたんだ……そうだね、せっかくだから、調理担当の衣装も、ちょっと可愛らしいデザインにしてみよっか?」
自分の提案を受け入れてくれた女子文化委員の返答に、虎太郎の顔はほころび、大きく首をタテに振りながら、男子たちの意見を代弁する。
「可愛らしいデザイン! いいんじゃないかな?」
その喜色満面の表情に対して、|橋本神奈《はしもとかんな》は、
「中野くん、なんで、そんなに嬉しそうなん? もしかして、可愛い制服を着せたい女子がクラスにおるとか? それ、普通に引くわ……」
冷静な表情で、言葉を返した。