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第2幕・Respect(リスペクト)の章〜⑦〜

ー/ー



彼女の疑問に、僕はまたしても、苦笑しながら答える。

「ライトスタンドでは、これから()()()が始まりますからね……1番打者(バッター)から9番打者(バッター)までのヒッティングマーチを歌って、もう一回『六甲おろし』を歌って、応援団長のシュプレヒコールが終わってから解散になるのが通常のパターンです。今日は、単独首位に立ちましたし、試合内容も熱い場面が多かったんで、盛り上がるんじゃないですかね?」

 二次会、というフレーズが気になったのか、奈緒美さんは、目を丸くして感想を述べた。

「そうですか……ライブの会場でも、ライブが()()たあとに、会場周辺で()()の人たちが盛り上がっていることはありますけど、あんなに大規模な人数が残っているのは見たことがないです。会場にも迷惑が掛かっちゃいますし……野外だと、夜になると、騒音に対する苦情もスゴいんですよ」

 彼女の言葉には、「ですよね……」と同意するしかないのだが……。
 そんな会話をしながら駅に向かう途中、国道と高速道路が重なる高架下に差し掛かった。

 高架下から見上げる天井部分は、七色のレインボカラーに彩られたネオンが輝いている。

「そういえば……感染症がまん延してからは禁止されてしまったんですけど、以前は、この高架下でも内野席やアルプス席で試合を観た人たちが集まって二次会をしてたんですよ」

 僕が、この場所に連れてきてもらった最初の頃は、夜になると真っ暗になっていた記憶のある場所を見上げながら言うと、あきれるような表情と、感心したような表情が入り混じったような雰囲気で、奈緒美さんは、

「タイガースのファンは、本当に熱狂的な人が多いんですね……ちょっと、その様子は観てみたかった気がします」

と、答える。その言葉に、僕はすぐさま反応した。

「スマホを買ったばかりのときに、高架下の二次会を撮影してYouTubeにアップしたことがあるんですけど……よければ、観てみますか?」

 思わず口にしてしまった提案に、奈緒美さんは、一瞬、面食らったような表情を見せたあと、クスクスと笑いだし、

「そうですね、今度、是非……」

そう、返事をしたあと、

「今日は、色々な発見があって楽しい一日でした」

と、感想を口にする。
 彼女の楽しげな表情に、僕の顔もほころび、

「そ、それは、良かったです!」

と、返答すると、奈緒美さんは澄ました表情で答える。

「えぇ……野球観戦の楽しさ、タイガースファンの熱さ……それに、中野くんのガチ(ぜい)っぷりも楽しませてもらいましたから……」

 その最後の言葉に、ほころんでいた僕の顔は、一瞬で赤くなった。

(今日は、控えめに()()してたつもりなんやけど……)

「す、すいません……熱くなってしまって……」

 色々なことに熱が入りすぎてしまったことを申し訳なさを感じて謝罪すると、

「いえいえ、本当に楽しかったですよ。また、球場に来るのが楽しみになりました」

彼女は、いつもの穏やかな表情で答えてくれた。
 そんな会話を続けるうちに、阪神甲子園駅の改札口に到着する。奈緒美さんは、ここから、阪神電車と阪急電車を乗り継いで帰宅するそうだ。

「すいません……北口まで一緒に戻れたら良かったですけど、今日は自転車で来てしまったので……」

 すると、彼女は、笑みを浮かべながら首を振り、

「今日は、母の日ですからね……お母さん孝行をしてあげてください。でも、今度は、試合のあとに、二人で二次会に行きませんか?」

と言って、盃を傾けるような仕草を見せる。その奈緒美さんの一言に、僕は嬉しくなり、反射的に

「はい! ぜひ!」

と、即答していた。
 タテ縞のレプリカユニフォームや黄色の法被(はっぴ)姿の大勢の人々にまぎれて、奈緒美さんは、改札口に消えていく。

 彼女の姿を見送った後、駅の北側の駐輪場に向かいながら、今日の試合の勝利、サトテルの満塁弾、勝ちゲームを奈緒美さんと見ることが出来たこと、そして、何より再度の観戦の約束を取り付けることができただけでなく、()()()のお誘いまでしてもらえたことに興奮し、僕は、線路下の通路で、本日のヒーローのように、両手を下からすくい上げるようなポーズで

「おっしゃ〜〜〜!!!!!!」

と、雄叫びをあげる。
 その高架下の通路に反響する声に驚いたようすを見せながら、近くを歩いていた80年代当時のタイガースキャップを被ったおっちゃんが、

「兄ちゃん、エラい元気やな! 阪神、勝って嬉しいのはわかるけど、次に来るときまで、その元気は置いときや」

と、声を掛けてきた。

「あっ、すんません……」

とっさに、謝ると、おっちゃんは、手をサッとあげただけで、無言で去っていく。
 そして、冷静になった僕は、「あっ!」と声をあげて重要なことに気づく。

(次の試合のチケット、どうしよう……)

 そう、シーズン開始前ならなんとかなっただろうが、いまや、甲子園球場のチケットは、争奪戦になっていて、とくに、週末の試合ともなれば、シーズン開始後のいまとなっては、入手困難になっているのだ。 
 
「サトテルの満塁弾(グランドスラム)」と同じくらい難易度の高そうな「レギュラーシーズンのチケット入手」というシナリオに頭を抱える。
 
 次のミッションの達成方法に大いに悩みながら、僕は母親との待ち合わせのため、自転車で西宮北口の駅に向かった。




みんなのリアクション

彼女の疑問に、僕はまたしても、苦笑しながら答える。
「ライトスタンドでは、これから|二《・》|次《・》|会《・》が始まりますからね……1番|打者《バッター》から9番|打者《バッター》までのヒッティングマーチを歌って、もう一回『六甲おろし』を歌って、応援団長のシュプレヒコールが終わってから解散になるのが通常のパターンです。今日は、単独首位に立ちましたし、試合内容も熱い場面が多かったんで、盛り上がるんじゃないですかね?」
 二次会、というフレーズが気になったのか、奈緒美さんは、目を丸くして感想を述べた。
「そうですか……ライブの会場でも、ライブが|ハ《・》|ネ《・》たあとに、会場周辺で|有《・》|志《・》の人たちが盛り上がっていることはありますけど、あんなに大規模な人数が残っているのは見たことがないです。会場にも迷惑が掛かっちゃいますし……野外だと、夜になると、騒音に対する苦情もスゴいんですよ」
 彼女の言葉には、「ですよね……」と同意するしかないのだが……。
 そんな会話をしながら駅に向かう途中、国道と高速道路が重なる高架下に差し掛かった。
 高架下から見上げる天井部分は、七色のレインボカラーに彩られたネオンが輝いている。
「そういえば……感染症がまん延してからは禁止されてしまったんですけど、以前は、この高架下でも内野席やアルプス席で試合を観た人たちが集まって二次会をしてたんですよ」
 僕が、この場所に連れてきてもらった最初の頃は、夜になると真っ暗になっていた記憶のある場所を見上げながら言うと、あきれるような表情と、感心したような表情が入り混じったような雰囲気で、奈緒美さんは、
「タイガースのファンは、本当に熱狂的な人が多いんですね……ちょっと、その様子は観てみたかった気がします」
と、答える。その言葉に、僕はすぐさま反応した。
「スマホを買ったばかりのときに、高架下の二次会を撮影してYouTubeにアップしたことがあるんですけど……よければ、観てみますか?」
 思わず口にしてしまった提案に、奈緒美さんは、一瞬、面食らったような表情を見せたあと、クスクスと笑いだし、
「そうですね、今度、是非……」
そう、返事をしたあと、
「今日は、色々な発見があって楽しい一日でした」
と、感想を口にする。
 彼女の楽しげな表情に、僕の顔もほころび、
「そ、それは、良かったです!」
と、返答すると、奈緒美さんは澄ました表情で答える。
「えぇ……野球観戦の楽しさ、タイガースファンの熱さ……それに、中野くんのガチ|勢《ぜい》っぷりも楽しませてもらいましたから……」
 その最後の言葉に、ほころんでいた僕の顔は、一瞬で赤くなった。
(今日は、控えめに|観《・》|戦《・》してたつもりなんやけど……)
「す、すいません……熱くなってしまって……」
 色々なことに熱が入りすぎてしまったことを申し訳なさを感じて謝罪すると、
「いえいえ、本当に楽しかったですよ。また、球場に来るのが楽しみになりました」
彼女は、いつもの穏やかな表情で答えてくれた。
 そんな会話を続けるうちに、阪神甲子園駅の改札口に到着する。奈緒美さんは、ここから、阪神電車と阪急電車を乗り継いで帰宅するそうだ。
「すいません……北口まで一緒に戻れたら良かったですけど、今日は自転車で来てしまったので……」
 すると、彼女は、笑みを浮かべながら首を振り、
「今日は、母の日ですからね……お母さん孝行をしてあげてください。でも、今度は、試合のあとに、二人で二次会に行きませんか?」
と言って、盃を傾けるような仕草を見せる。その奈緒美さんの一言に、僕は嬉しくなり、反射的に
「はい! ぜひ!」
と、即答していた。
 タテ縞のレプリカユニフォームや黄色の|法被《はっぴ》姿の大勢の人々にまぎれて、奈緒美さんは、改札口に消えていく。
 彼女の姿を見送った後、駅の北側の駐輪場に向かいながら、今日の試合の勝利、サトテルの満塁弾、勝ちゲームを奈緒美さんと見ることが出来たこと、そして、何より再度の観戦の約束を取り付けることができただけでなく、|二《・》|次《・》|会《・》のお誘いまでしてもらえたことに興奮し、僕は、線路下の通路で、本日のヒーローのように、両手を下からすくい上げるようなポーズで
「おっしゃ〜〜〜!!!!!!」
と、雄叫びをあげる。
 その高架下の通路に反響する声に驚いたようすを見せながら、近くを歩いていた80年代当時のタイガースキャップを被ったおっちゃんが、
「兄ちゃん、エラい元気やな! 阪神、勝って嬉しいのはわかるけど、次に来るときまで、その元気は置いときや」
と、声を掛けてきた。
「あっ、すんません……」
とっさに、謝ると、おっちゃんは、手をサッとあげただけで、無言で去っていく。
 そして、冷静になった僕は、「あっ!」と声をあげて重要なことに気づく。
(次の試合のチケット、どうしよう……)
 そう、シーズン開始前ならなんとかなっただろうが、いまや、甲子園球場のチケットは、争奪戦になっていて、とくに、週末の試合ともなれば、シーズン開始後のいまとなっては、入手困難になっているのだ。 
「サトテルの|満塁弾《グランドスラム》」と同じくらい難易度の高そうな「レギュラーシーズンのチケット入手」というシナリオに頭を抱える。
 次のミッションの達成方法に大いに悩みながら、僕は母親との待ち合わせのため、自転車で西宮北口の駅に向かった。