第3章〜ピンチ・DE・デート〜⑭
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『ドグラ・マグラ』は、構想・執筆に十年以上の歳月をかけて書かれた探偵小説家・夢野久作の代表作とされる小説で、日本探偵小説の「三大奇書」に数えられている。
一度の読了では、作品の真相、内容を理解することは困難とされる一方、その複雑、狂気的、難解な内容、構成のために、途中で挫折する読者が多いといわれている。また「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と謳われることも多く、実際に探偵小説の大家である横溝正史は、対談企画のために対談のために、本書を読み返して気分がヘンになり夜中に暴れた、と述べたことがあるそうだ。
その怪しげな売り文句に惹かれるのか、読書を趣味とする中高生が、一度は手を出し、挫折すると言われているその奇書を針太朗も中学生のときに読破していたのだが――――――。
そんな怪しげな書物の冒頭文を色紙にして飾っている、という点で、この古美術店と店主その人が、ただならぬ存在であるということが感じられる。
それでも――――――。
針太朗は、いつまでも、その怪しげで、常人を寄せ付けない異界のような雰囲気に怯んでいる訳にはいかなかった。
放送メディア研究部に所属する友人が伝えてくれた怪しげな外国人女性の正体。
親しく話すようになった真中仁美が隠そうとしている真相。
そして、針太朗自身が、何故リリムの少女たちを惹きつけてしまうのか?
これらの疑問が解けないうちは、危機的状況に陥っているかも知れない相手を救いに行くこともできない。
彼は、そう考えて、駅で列車を待つ間に、電話で妖子の店に訪問することを告げたあと、列車での移動する間に、番号を教えてもらった彼女のスマートフォン宛に、ショート・メッセージ・サービスで、
==================
お店で聞きたいことをまとめて送ります
==================
と、あらかじめ、三つの質問を送信しておいた。
「それで、最初に聞きたいのは、あなたや学院の生徒の周りをうろついている女性の正体について、だったかしら?」
女性店主の質問に、「はい」と短く答えた針太朗は、希衣子に送信してもらった外国人女性の画像をスマホのディスプレイに表示させる。
その姿を確認した妖子は、「ふ〜ん」とつぶやいたあと、針太朗の質問に、端的に答える。
「あなた達の周りのコたちの直感は、正しかったみたいね。この写真の彼女は、ご想像のとおり、人外の存在よ。彼女の種族の名前は、オノスケリスもしくは、オノケリスとも呼ばれているわ。古代の言葉で『ロバの足を持つ者』を意味するとおり、その真の姿は四つ足の魔族よ」
「魔族? じゃあ、リリムたちの仲間なんですか? そんなヒトが、どうして彼女たちを……?」
一週間前、針太朗たちの前にあらわれ、今週は学院周辺を徘徊し、希衣子を質問責めにしたと思われる不審な女性について、その正体を知るごとに、疑問が大きくなってくる。
つぶやくように発した彼の言葉に、妖子は、悲しげに応じた。
「一口に魔族と言っても色々な事情があるからねぇ……あなたの周りの女の子たちのように、ヒトとの共存を図る魔族もいれば、やむにやまれず、同族の悪魔狩りに使われる魔族もいるから……」
「じゃあ……妖魔を狩る者の正体は、魔族なんですか?」
声を上げる針太朗に、店主は、コクリとうなずき、短く答える。
「すべて、ではないけれど……そういう存在も多いわね」
妖子の返答に、彼は「そうですか……」と反応を示し、保健医の幽子が、リリム対策に、妖魔を狩る者の手を借りることに対して積極的でなかった理由を理解した。
そんな男子高校生の様子に構うこともなく、店主は、スマホを確認しながら次の話題に移る。
「次の質問は……あぁ、仁美ちゃんのことね。針本くん、だったかしら? もしかすると、あなたにとって、これが一番重要な問題なんじゃないかしら?」
クツクツ……と、薄い笑みを浮かべながら話題を変えた妖子の問いかけに対して、虚をつかれたように、シドロモドロになりながらも、針太朗は、自身のスマホで撮影していた送り主不明の写真を表示させる。
画像には、背中に羽を生やした真中仁美の姿が映っていた。
「この画像といっしょに、『まなか ひとみは リリムと人間のハーフだ』っていうメッセージが、ボク宛の封書に入ってたんです」
切羽詰まったような表情で訴える針太朗に対して、妖子は、薄い笑みを浮かべたまま、
「仁美ちゃんが、自分で言っていなかったのなら、私から伝えるのはマナー違反なのだけど……あなたの表情を見ると、悠長なことを言っている場合でもないみたいね……」
と、一応のことわりをいれたあと、キッパリと断言するように言いきった。
「そうよ……あのコは、人間の父親とリリムの母親の血を受け継いでいるの」
あらかじめ覚悟はしていたが、どこかで、あのメモ書きの内容を否定してほしい、という想いが、針太朗の中にあったのは事実だ。
(やっぱり、真中さんは、純粋な気持ちでボクに接触してきたわけじゃないんだ……)
そう考えると、彼の口の苦いモノがこみ上げてくる。
ただ、自分と関わりを持とうとする他の四人の女子生徒たちも含めて、なぜ、真中仁美が自分に接近してこようとするのか、という疑問が残る。
その最後に残った質問に答えてもらうため、仁美に対する靄々とした気分は脇において、針太朗は、味夢古美術堂の女性店主に、最後の質問を投げかけた。
「教えてください。どうして、ボクの周りには、リリムの女子たちが寄ってくるんですか?」
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『ドグラ・マグラ』は、構想・執筆に十年以上の歳月をかけて書かれた探偵小説家・夢野久作の代表作とされる小説で、日本探偵小説の「三大奇書」に数えられている。
一度の読了では、作品の真相、内容を理解することは困難とされる一方、その複雑、狂気的、難解な内容、構成のために、途中で挫折する読者が多いといわれている。また「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と謳われることも多く、実際に探偵小説の大家である横溝正史は、対談企画のために対談のために、本書を読み返して気分がヘンになり夜中に暴れた、と述べたことがあるそうだ。
その怪しげな売り文句に惹かれるのか、読書を趣味とする中高生が、一度は手を出し、挫折すると言われているその奇書を|針太朗《しんたろう》も中学生のときに読破していたのだが――――――。
そんな怪しげな書物の冒頭文を色紙にして飾っている、という点で、この古美術店と店主その人が、ただならぬ存在であるということが感じられる。
それでも――――――。
|針太朗《しんたろう》は、いつまでも、その怪しげで、常人を寄せ付けない異界のような雰囲気に|怯《ひる》んでいる訳にはいかなかった。
放送メディア研究部に所属する友人が伝えてくれた怪しげな外国人女性の正体。
親しく話すようになった|真中仁美《まなかひとみ》が隠そうとしている真相。
そして、|針太朗《しんたろう》自身が、何故リリムの少女たちを惹きつけてしまうのか?
これらの疑問が解けないうちは、危機的状況に陥っているかも知れない相手を救いに行くこともできない。
彼は、そう考えて、駅で列車を待つ間に、電話で|妖子《ようこ》の店に訪問することを告げたあと、列車での移動する間に、番号を教えてもらった彼女のスマートフォン宛に、ショート・メッセージ・サービスで、
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お店で聞きたいことをまとめて送ります
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と、あらかじめ、三つの質問を送信しておいた。
「それで、最初に聞きたいのは、あなたや学院の生徒の周りをうろついている女性の正体について、だったかしら?」
女性店主の質問に、「はい」と短く答えた|針太朗《しんたろう》は、|希衣子《けいこ》に送信してもらった外国人女性の画像をスマホのディスプレイに表示させる。
その姿を確認した|妖子《ようこ》は、「ふ〜ん」とつぶやいたあと、|針太朗《しんたろう》の質問に、端的に答える。
「あなた達の周りのコたちの直感は、正しかったみたいね。この写真の彼女は、ご想像のとおり、人外の存在よ。彼女の種族の名前は、オノスケリスもしくは、オノケリスとも呼ばれているわ。古代の言葉で『ロバの足を持つ者』を意味するとおり、その真の姿は四つ足の魔族よ」
「魔族? じゃあ、リリムたちの仲間なんですか? そんなヒトが、どうして彼女たちを……?」
一週間前、|針太朗《しんたろう》たちの前にあらわれ、今週は学院周辺を徘徊し、|希衣子《けいこ》を質問責めにしたと思われる不審な女性について、その正体を知るごとに、疑問が大きくなってくる。
つぶやくように発した彼の言葉に、|妖子《ようこ》は、悲しげに応じた。
「一口に魔族と言っても色々な事情があるからねぇ……あなたの周りの女の子たちのように、ヒトとの共存を図る魔族もいれば、やむにやまれず、同族の悪魔狩りに使われる魔族もいるから……」
「じゃあ……|妖魔を狩る者《ディアボロス・ハンター》の正体は、魔族なんですか?」
声を上げる|針太朗《しんたろう》に、店主は、コクリとうなずき、短く答える。
「すべて、ではないけれど……そういう存在も多いわね」
|妖子《ようこ》の返答に、彼は「そうですか……」と反応を示し、保健医の|幽子《ゆうこ》が、リリム対策に、|妖魔を狩る者《ディアボロス・ハンター》の手を借りることに対して積極的でなかった理由を理解した。
そんな男子高校生の様子に構うこともなく、店主は、スマホを確認しながら次の話題に移る。
「次の質問は……あぁ、|仁美《ひとみ》ちゃんのことね。針本くん、だったかしら? もしかすると、あなたにとって、これが一番重要な問題なんじゃないかしら?」
クツクツ……と、薄い笑みを浮かべながら話題を変えた|妖子《ようこ》の問いかけに対して、虚をつかれたように、シドロモドロになりながらも、|針太朗《しんたろう》は、自身のスマホで撮影していた送り主不明の写真を表示させる。
画像には、背中に羽を生やした|真中仁美《まなかひとみ》の姿が映っていた。
「この画像といっしょに、『まなか ひとみは リリムと人間のハーフだ』っていうメッセージが、ボク宛の封書に入ってたんです」
切羽詰まったような表情で訴える|針太朗《しんたろう》に対して、|妖子《ようこ》は、薄い笑みを浮かべたまま、
「|仁美《ひとみ》ちゃんが、自分で言っていなかったのなら、私から伝えるのはマナー違反なのだけど……あなたの表情を見ると、悠長なことを言っている場合でもないみたいね……」
と、一応のことわりをいれたあと、キッパリと断言するように言いきった。
「そうよ……あのコは、人間の父親とリリムの母親の血を受け継いでいるの」
あらかじめ覚悟はしていたが、どこかで、あのメモ書きの内容を否定してほしい、という想いが、|針太朗《しんたろう》の中にあったのは事実だ。
(やっぱり、真中さんは、純粋な気持ちでボクに接触してきたわけじゃないんだ……)
そう考えると、彼の口の苦いモノがこみ上げてくる。
ただ、自分と関わりを持とうとする他の四人の女子生徒たちも含めて、なぜ、|真中仁美《まなかひとみ》が自分に接近してこようとするのか、という疑問が残る。
その最後に残った質問に答えてもらうため、|仁美《ひとみ》に対する|靄々《もやもや》とした気分は脇において、|針太朗《しんたろう》は、|味夢《あじむ》古美術堂の女性店主に、最後の質問を投げかけた。
「教えてください。どうして、ボクの周りには、リリムの女子たちが寄ってくるんですか?」