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悲劇の勇者 2

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 今更自分の能力は「ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力」だとは言えなくなってしまったアシノは、その泥で作られた助け舟に乗ることにする。 「あ、あぁ、何ていうか、魔人も倒せるけど世界も滅ぼしかねないっていうかーその、うん」  その噂は広まりに広まって『悲劇の勇者アシノ』は生まれる。ちなみに魔人はアシノが能力を授かった三日後に後輩の勇者に倒されてしまった。  アシノは荒れに荒れた。毎日の様に酒を飲み、イライラとしていた。はじめは同情していた仲間たちも愛想を尽かしてどこかへ消えていく。 ―― ―――― ――――――――  その元仲間の蹴りでアシノは今吹き飛ばされていた。木に思い切り叩きつけられて呼吸が出来ない。 「おい、裏の住人。この国での殺人は10人中3人が家族や親類によるものなんだ」  突然ウートゴは語り始める。 「家族ですら分かりあえず殺し合うってのに他種族と分かり合えるなんて出来ると思うか?」  そして、ニヤニヤと笑って言う。地面を這いつくばるアシノは息も絶え絶えにそれを否定する。 「お前の考えは独りよがり…… だ……」 「あぁ、独りよがりで結構。俺は他種族を滅ぼしたい、だからキエーウに入った」  今になってユモトとモモとヨーリィの3人が追い付く。ムツヤから預かっていた病気の治るポーションを飲んだので全員酔いはすっかり醒めていた。 「女みたいな男と、下劣なオーク。そして死体がお仲間とは、相当変な趣味を持っているようだなお前は」  モモは激しい怒りの顔を作りウートゴを睨みつける。  自分を侮辱されたからではない、オークという種を侮辱されたこと。そして男が自分の村を襲った組織の一員だからだ。 「皆のごどを悪く言うな!」  魔剣ムゲンジゴクを構えたムツヤはウートゴに斬りかかる。だがその一撃はかわされてしまった。 「無駄だよ、確かに実力で言えばお前のほうが遥かに上だが」  木の枝に飛び乗ってウートゴは続けて言う。 「お前、人を斬ったことないだろ? 今のは殺す剣じゃない、恐いか? 人を斬るのは」  うっとムツヤは言葉に詰まってしまった。確かにウートゴは憎いが本当に殺す気はムツヤになかったのだ。 「おしゃべりはこれぐらいにしておくか、じゃあな。裏の住人と悲劇の勇者よ」  悲劇の勇者と言われ、アシノは落ちていた石をウートゴに投げつけるが、それは明後日の方向へ飛んでいった。 「あいつは……、ムツヤ殿の事を裏の住人と言っていましたが、まさか……」  そこまで言ってモモはしまったと息を飲む。この場に居るのはムツヤの事情を知るものだけではない。 「なぁ、お前一体何者なんだ。裏の住人だとか死体が仲間ってどういう事なんだ?」  アシノとヨーリィ以外の全員が下を向いて言葉を出せずにいた。そんな場の空気を壊すようにムツヤのペンダントが紫色の光を出す。 「はーい、こんにちは! 勇者アシノ」 「なっ」  急に目の前に現れた肌の露出が多い邪神に、アシノは驚き固まってしまう。 「私は裏ダンジョンの主、サズァンよ。よろしくー」  自己紹介を済ますとサズァンは右手の親指をグッと立てる。モモが「言っちゃっていいのですか!?」と叫んでいた。 「いいのいいの、どうせムツヤの事知っちゃったんだし、それに緊急事態だから贅沢は言ってらんないわ」 「緊急事態とは何ですか?」  ユモトがおずおずと手を上げて聞く。するとサズァンは急に真剣な表情になり言葉を出す。 「あんまり長く話せないから手短に言うわね、ムツヤのカバンから裏ダンジョンの武器や道具がいくつか…… いや、大量に盗まれてるわ」  それを聞いてモモは青ざめた。あの強力な道具たちがよりにもよって危険思想を持つキエーウに渡ってしまった。それがどういう事かは想像に難くない。 「ごめんなさいサズァン様!! 俺が油断していたからこんな事に……」 「ムツヤは悪くないのよー? 悪いのはあのウートゴとかいう男なんだから」  子供をあやすようにサズァンが言うと、完全に蚊帳の外にいるアシノが声を出す。 「これは一体どうなっているんだ、何の話をしているんだ?」 「ごめーん、魔力が無くなっちゃいそうだから皆で説明よろしくね、それじゃあねー!」  ムツヤ達はこの状況を丸投げされてしまった。どうしたものかと考えるモモとうーんと唸るムツヤ。ヨーリィは何を考えているのかわからないが、ユモトも何かを考えている。 「わかった、黙っているだけじゃ何も始まらない。落ち着いて話せる場所があるから案内しよう」



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 今更自分の能力は「ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力」だとは言えなくなってしまったアシノは、その泥で作られた助け舟に乗ることにする。 「あ、あぁ、何ていうか、魔人も倒せるけど世界も滅ぼしかねないっていうかーその、うん」  その噂は広まりに広まって『悲劇の勇者アシノ』は生まれる。ちなみに魔人はアシノが能力を授かった三日後に後輩の勇者に倒されてしまった。  アシノは荒れに荒れた。毎日の様に酒を飲み、イライラとしていた。はじめは同情していた仲間たちも愛想を尽かしてどこかへ消えていく。 ―― ―――― ――――――――  その元仲間の蹴りでアシノは今吹き飛ばされていた。木に思い切り叩きつけられて呼吸が出来ない。 「おい、裏の住人。この国での殺人は10人中3人が家族や親類によるものなんだ」  突然ウートゴは語り始める。 「家族ですら分かりあえず殺し合うってのに他種族と分かり合えるなんて出来ると思うか?」  そして、ニヤニヤと笑って言う。地面を這いつくばるアシノは息も絶え絶えにそれを否定する。 「お前の考えは独りよがり…… だ……」 「あぁ、独りよがりで結構。俺は他種族を滅ぼしたい、だからキエーウに入った」  今になってユモトとモモとヨーリィの3人が追い付く。ムツヤから預かっていた病気の治るポーションを飲んだので全員酔いはすっかり醒めていた。 「女みたいな男と、下劣なオーク。そして死体がお仲間とは、相当変な趣味を持っているようだなお前は」  モモは激しい怒りの顔を作りウートゴを睨みつける。  自分を侮辱されたからではない、オークという種を侮辱されたこと。そして男が自分の村を襲った組織の一員だからだ。 「皆のごどを悪く言うな!」  魔剣ムゲンジゴクを構えたムツヤはウートゴに斬りかかる。だがその一撃はかわされてしまった。 「無駄だよ、確かに実力で言えばお前のほうが遥かに上だが」  木の枝に飛び乗ってウートゴは続けて言う。 「お前、人を斬ったことないだろ? 今のは殺す剣じゃない、恐いか? 人を斬るのは」  うっとムツヤは言葉に詰まってしまった。確かにウートゴは憎いが本当に殺す気はムツヤになかったのだ。 「おしゃべりはこれぐらいにしておくか、じゃあな。裏の住人と悲劇の勇者よ」  悲劇の勇者と言われ、アシノは落ちていた石をウートゴに投げつけるが、それは明後日の方向へ飛んでいった。 「あいつは……、ムツヤ殿の事を裏の住人と言っていましたが、まさか……」  そこまで言ってモモはしまったと息を飲む。この場に居るのはムツヤの事情を知るものだけではない。 「なぁ、お前一体何者なんだ。裏の住人だとか死体が仲間ってどういう事なんだ?」  アシノとヨーリィ以外の全員が下を向いて言葉を出せずにいた。そんな場の空気を壊すようにムツヤのペンダントが紫色の光を出す。 「はーい、こんにちは! 勇者アシノ」 「なっ」  急に目の前に現れた肌の露出が多い邪神に、アシノは驚き固まってしまう。 「私は裏ダンジョンの主、サズァンよ。よろしくー」  自己紹介を済ますとサズァンは右手の親指をグッと立てる。モモが「言っちゃっていいのですか!?」と叫んでいた。 「いいのいいの、どうせムツヤの事知っちゃったんだし、それに緊急事態だから贅沢は言ってらんないわ」 「緊急事態とは何ですか?」  ユモトがおずおずと手を上げて聞く。するとサズァンは急に真剣な表情になり言葉を出す。 「あんまり長く話せないから手短に言うわね、ムツヤのカバンから裏ダンジョンの武器や道具がいくつか…… いや、大量に盗まれてるわ」  それを聞いてモモは青ざめた。あの強力な道具たちがよりにもよって危険思想を持つキエーウに渡ってしまった。それがどういう事かは想像に難くない。 「ごめんなさいサズァン様!! 俺が油断していたからこんな事に……」 「ムツヤは悪くないのよー? 悪いのはあのウートゴとかいう男なんだから」  子供をあやすようにサズァンが言うと、完全に蚊帳の外にいるアシノが声を出す。 「これは一体どうなっているんだ、何の話をしているんだ?」 「ごめーん、魔力が無くなっちゃいそうだから皆で説明よろしくね、それじゃあねー!」  ムツヤ達はこの状況を丸投げされてしまった。どうしたものかと考えるモモとうーんと唸るムツヤ。ヨーリィは何を考えているのかわからないが、ユモトも何かを考えている。 「わかった、黙っているだけじゃ何も始まらない。落ち着いて話せる場所があるから案内しよう」



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