58. 碧き魔王城

ー/ー



 やがて、徐々に落ち着いていく輝き……。

 そっと目を開けて見れば、世界の終わりを告げるかの如き天を穿(うが)つ巨大なキノコ雲がそびえている。灼熱の輝きを放ちながら、ゆったりと昇るキノコ雲はこの世のものとは思えない禍々しさで、まるで神話に出てくる神の怒りのようだった。

 爆心地から白い繭のように衝撃波の球体が音速で広がっていく――――。

 広大な燃え上がる炎の森に襲いかかった衝撃波は火砕流のように全てを吹き飛ばし、炎と共に木々は舞い、沸き上がる湖は霧消していった。その、全てを飲みこむ圧倒的暴力はもはや美しさすら(たた)えている。

 タケルは無言でその未曽有の殲滅(せんめつ)劇を眺めていた。きっとクレアを殺した魔人もこれで死んだに違いない。もし、魔人と共存共栄できる道があるならばそれを模索するのもありかもしれないなどと、昔は甘いことを考えていたが、今となってはその甘さに激しい怒りを覚えてしまう。

 クレアを殺すような連中と組むことなど絶対にありえない。全力で叩き潰す以外の選択肢などないのだ。

 終末の風景を眺めるタケルの頬には静かに涙が流れている。

「気が済んだか……?」

 ネヴィアは渋い顔をしながら重いため息をついた。

「そうですね。これで魔王も倒せたでしょうし、クレアも浮かばれると思います」

「いや、魔王様は……」

 ネヴィアは何かを言いかけて首を振り、口をつぐむ。

「え……? ネヴィアは魔王のことを知ってるの?」

「まぁ、行けばわかるじゃろ」

 ネヴィアはため息をつきながらシールドを操作し、魔王城の方へと飛ばしていった。


         ◇


 爆心地付近は活火山の火口のように一面のマグマの海で、黒く冷えて固まった表面も裂け目ができると赤黒い溶岩が顔をのぞかせる。

「あれが魔王城じゃな」

 ネヴィアの指さす先には、まるでマグマの海の上に浮かぶようにガラスの立方体が建っていた。十階建てのビルくらいのサイズだろうか? あの激しい熱線にダメージを受けた様子もなくクリアな透明感で青く輝き、異質さを際立たせていた。

「む、無傷!? あの攻撃で?」

 タケルは思わず言葉を失った。タケルのできる、人類最大とも言える攻撃をクリーンヒットさせたというのに傷一つついていない。それは明らかに理外の存在だった。

 ネヴィアはゆっくりと下降すると、魔王城そばの溶け残った岩の上に着陸した。きっと魔王軍参謀本部の建物だったものだろう。魔王城の陰となって熱線の直撃を免れたようだった。

 シールドを解くと、まるで火山の火口の中にいるような激しい熱線が全身に照り付けてくる。

 タケルは顔を熱線から守りながら、涼しい顔して屹立(きつりつ)している魔王城を見上げた。その、青くクリアな構造は陽の光を青く染め上げ、まるで海の中にいるような錯覚すら感じさせる。

「くぅぅぅ……、なんだこいつは……」

 タケルはコンコンと手の甲で叩いてみるが、ひんやりとして固く、ガラスのような感触だった。 

「魔王城以外はふっ飛ばした……のかな?」

 タケルは腕で顔を覆いながら辺りを見回してみる。

 すると、向こうの方で岩がゆらゆらと揺れ、ゴロリと転がった。

 見れば黒焦げの男がよろよろと這い出してくるではないか。そのボロボロの服で銀の鎖がキラリと輝きを放つのをタケルは見逃さなかった。

「あっ! お前は!」

 タケルは岩の上を器用に駆けながら男の元へと走った。

「貴様! クレアを殺した魔人だな!」

 タケルは護身用の銃を取り出すと男に向け、叫んだ。

「お、お前がこれをやった……のか……? くっ……。あの時殺しておけば……」

「クレアを殺した罪の重さはこれでも足りないくらいだ」

 タケルは怒りに震える手で銃の安全装置をカチャリと外す。

「はっ、あの小娘の命がこれに匹敵すると……。馬鹿な。だが、それでも魔王様には届くまい。クッ、クックック……」

 魔人は全身焼けただれて死を間近にする中、強がった。

「魔王とは誰なんだ? お前らは魔王の何なんだ?」

「知らん。誰も会ったことなど……ないからな……」

「は……? 会いもせずに言いなりになってるのか?」

「本能が求めるのだ。我らを滅しても魔王様は必ず次を用意する。次に死ぬのは……お前だ! はっ、はっはっは……」

 ズン! ズン! ズン!

 タケルは無表情で銃の引き金を引き、ファイヤーボールを連射する。魔人の体は粉々に粉砕され、破片は宙を舞い、風に乗って散っていった。

 ふぅ……。

 タケルは目をつぶり、胸に手を当ててしばらく動かなくなる。

 クレアの仇は取った……が、気持ちは少しも晴れず、タケルは大きく息をついて首を振った。

 見上げれば魔王城は太陽の光を受け、どんな宝石よりも美しい青色に輝いている。この幻想的な美しさの中に倒すべき魔王が潜んでいるのだ。

 魔人でさえ遭遇したことがないという、神秘に包まれた魔王。その存在はただの強さではなく、この世の理解を逸脱した何か異質なオーラを放っている。タケルはその不可思議な感覚に顔を歪め、首を傾げた。



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 やがて、徐々に落ち着いていく輝き……。
 そっと目を開けて見れば、世界の終わりを告げるかの如き天を|穿《うが》つ巨大なキノコ雲がそびえている。灼熱の輝きを放ちながら、ゆったりと昇るキノコ雲はこの世のものとは思えない禍々しさで、まるで神話に出てくる神の怒りのようだった。
 爆心地から白い繭のように衝撃波の球体が音速で広がっていく――――。
 広大な燃え上がる炎の森に襲いかかった衝撃波は火砕流のように全てを吹き飛ばし、炎と共に木々は舞い、沸き上がる湖は霧消していった。その、全てを飲みこむ圧倒的暴力はもはや美しさすら|湛《たた》えている。
 タケルは無言でその未曽有の|殲滅《せんめつ》劇を眺めていた。きっとクレアを殺した魔人もこれで死んだに違いない。もし、魔人と共存共栄できる道があるならばそれを模索するのもありかもしれないなどと、昔は甘いことを考えていたが、今となってはその甘さに激しい怒りを覚えてしまう。
 クレアを殺すような連中と組むことなど絶対にありえない。全力で叩き潰す以外の選択肢などないのだ。
 終末の風景を眺めるタケルの頬には静かに涙が流れている。
「気が済んだか……?」
 ネヴィアは渋い顔をしながら重いため息をついた。
「そうですね。これで魔王も倒せたでしょうし、クレアも浮かばれると思います」
「いや、魔王様は……」
 ネヴィアは何かを言いかけて首を振り、口をつぐむ。
「え……? ネヴィアは魔王のことを知ってるの?」
「まぁ、行けばわかるじゃろ」
 ネヴィアはため息をつきながらシールドを操作し、魔王城の方へと飛ばしていった。
         ◇
 爆心地付近は活火山の火口のように一面のマグマの海で、黒く冷えて固まった表面も裂け目ができると赤黒い溶岩が顔をのぞかせる。
「あれが魔王城じゃな」
 ネヴィアの指さす先には、まるでマグマの海の上に浮かぶようにガラスの立方体が建っていた。十階建てのビルくらいのサイズだろうか? あの激しい熱線にダメージを受けた様子もなくクリアな透明感で青く輝き、異質さを際立たせていた。
「む、無傷!? あの攻撃で?」
 タケルは思わず言葉を失った。タケルのできる、人類最大とも言える攻撃をクリーンヒットさせたというのに傷一つついていない。それは明らかに理外の存在だった。
 ネヴィアはゆっくりと下降すると、魔王城そばの溶け残った岩の上に着陸した。きっと魔王軍参謀本部の建物だったものだろう。魔王城の陰となって熱線の直撃を免れたようだった。
 シールドを解くと、まるで火山の火口の中にいるような激しい熱線が全身に照り付けてくる。
 タケルは顔を熱線から守りながら、涼しい顔して|屹立《きつりつ》している魔王城を見上げた。その、青くクリアな構造は陽の光を青く染め上げ、まるで海の中にいるような錯覚すら感じさせる。
「くぅぅぅ……、なんだこいつは……」
 タケルはコンコンと手の甲で叩いてみるが、ひんやりとして固く、ガラスのような感触だった。 
「魔王城以外はふっ飛ばした……のかな?」
 タケルは腕で顔を覆いながら辺りを見回してみる。
 すると、向こうの方で岩がゆらゆらと揺れ、ゴロリと転がった。
 見れば黒焦げの男がよろよろと這い出してくるではないか。そのボロボロの服で銀の鎖がキラリと輝きを放つのをタケルは見逃さなかった。
「あっ! お前は!」
 タケルは岩の上を器用に駆けながら男の元へと走った。
「貴様! クレアを殺した魔人だな!」
 タケルは護身用の銃を取り出すと男に向け、叫んだ。
「お、お前がこれをやった……のか……? くっ……。あの時殺しておけば……」
「クレアを殺した罪の重さはこれでも足りないくらいだ」
 タケルは怒りに震える手で銃の安全装置をカチャリと外す。
「はっ、あの小娘の命がこれに匹敵すると……。馬鹿な。だが、それでも魔王様には届くまい。クッ、クックック……」
 魔人は全身焼けただれて死を間近にする中、強がった。
「魔王とは誰なんだ? お前らは魔王の何なんだ?」
「知らん。誰も会ったことなど……ないからな……」
「は……? 会いもせずに言いなりになってるのか?」
「本能が求めるのだ。我らを滅しても魔王様は必ず次を用意する。次に死ぬのは……お前だ! はっ、はっはっは……」
 ズン! ズン! ズン!
 タケルは無表情で銃の引き金を引き、ファイヤーボールを連射する。魔人の体は粉々に粉砕され、破片は宙を舞い、風に乗って散っていった。
 ふぅ……。
 タケルは目をつぶり、胸に手を当ててしばらく動かなくなる。
 クレアの仇は取った……が、気持ちは少しも晴れず、タケルは大きく息をついて首を振った。
 見上げれば魔王城は太陽の光を受け、どんな宝石よりも美しい青色に輝いている。この幻想的な美しさの中に倒すべき魔王が潜んでいるのだ。
 魔人でさえ遭遇したことがないという、神秘に包まれた魔王。その存在はただの強さではなく、この世の理解を逸脱した何か異質なオーラを放っている。タケルはその不可思議な感覚に顔を歪め、首を傾げた。