表示設定
表示設定
目次 目次




第3章〜⑧〜

ー/ー



二度目の挑戦でも、決定的瞬間を上手く写真に収めることが出来たオレたちは、新たな撮影スポットに向けて、さらに移動する。
 次に選んだ場所は、開園直後で、まだ人出の多くない時間帯ということもあり、時間が経つと混雑しそうなウォーター・スライダー系の施設だ。

 遊具なしで一人で水流を下るボディスライダーと、専用の大型チューブに乗って二人で激流を滑り下りるリバーライドは、どちらの施設も同じ場所がゴール地点になっている。その浅瀬のプールで、スマホを持って待ち構えた小嶋夏海とコカリナを手にしたオレは、ここでも撮影係の責務を全うした。
 無事に、撮影が終了した後は、見慣れないアクセサリーを身に着けていることを不自然に思われないため、コカリナを小嶋夏海のバッグに預けておく。

 余談ながら、ここでは、水しぶきを上げながら滑り降りてきた人物をとらえる瞬間と『時のコカリナ』の能力を発動させるタイミングを合わせるのに苦労した。
 康之たち四人が、まだ入場者が少なく、待ち時間が短いのを良いことに、はしゃぎながら、何度もスライダーに挑戦していたことで、()()()()を重ねることができたので、最後に、何とか良い感じのベストなタイミングを掴むことができた時は、不思議な達成感があった。

 なお、この間、康之と哲夫は、それぞれ一度ずつ、中嶋と大嶋とペアになり、大型チューブに乗って、リバーライドを滑り降りてきた。
 言うまでもないことだが、この時ほど、撮影係の助手に甘んじてしまった己の役割を恨んだことはない。

(きっと、今夜は涙で枕を…………いや、血の涙で枕を濡らすことになるだろう)

などと、一人で悲嘆にくれていると、何度目かのチャレンジを終えて来た中嶋由香が、こちらに寄って来て、

「撮影ありがとう! 私たちだけで楽しんで、ゴメンね。ナツミと坂井も、スライダーで滑って来なよ」

と、気を利かせ、撮影係を変わる、と申し出てくれた。
 しかし、空気を読めないのか、それとも、オレとの激流下りを拒否したかったのか、小嶋夏海は、助手の承諾も得ずに、

「ありがとう、ユカ! でも、私は、ちょっと、スライダー系は遠慮したいかな……」

と、苦笑いを浮かべながら、水流下りを辞退し、こんなことを言った。

「ただ、坂井と一緒に行ってみたいところがあるから、荷物を見ておいてくれない?」

 そうして、ハンドタオルとスマホ、そして、『時のコカリナ』を取り出して、友人に編み込みのカゴバッグを預ける。
 中嶋は、一瞬、不思議そうな表情をしたあと、

「いいよ! ナツミのバッグは預かっておくから、二人で行ってきなよ」

と、快くオレたちを送り出してくれた。
 しかし、楽しみにしていたウォーター・スライダーへの挑戦を了承なしに反故にされたオレは、スタスタと歩いていく小嶋夏海を追い掛けながら、

「おい、どこに行くんだ!? ウォーター・スライダーには行かないのか?」

と、問い掛ける。
 無言で微かな笑みを浮かべながら、彼女が向かった先は、『癒しの庭』と名付けられた、プール遊びの途中のクールダウンを目的とした設備が並ぶエリアだった。
 その中に、『ミストの森』と呼ばれる、ミスト・シャワーが設置されている場所がある。
 人感センサーで動作しているのか、四本ある鉄柱に人が近づくと、霧状の粒子のシャワーが自動的に噴霧され、炎天下でも涼しげな雰囲気を醸し出している。
 その設備の前で立ち止まった彼女は、

「ねぇ、坂井にお願いがあるんだけど……これから、『この子』の長時間停止の機能を使っても構わない?」

 唐突に、そんなことをたずねてきた。
 切り替えスイッチで時間停止をさせる三十秒限定の短時間停止と違って、コカリナの吹き口から息を吹き込んで時間停止を発生させる長時間停止には、回数制限があるのではないか――――――というのが、二人の一致した見解だった。

 仮に自分たちの考えた推察が正しいのであれば、この機能を、やみくもに使うことは、避けた方が良い。
 夏休み初日の実験以来、長時間停止の機能は発動させていないので、小窓のカウンターの数字は、『41』のままだ。

「長時間停止か……使う回数を少なくしてくれるなら、別に構わないが――――――何か、時間を長く止めておきたい理由でもあるのか?」

 疑問に感じたことを問い掛けると、

「二人で使う時間が、三十秒だけじゃ、もったいないじゃない!」

弾けるような笑顔とともに、答えが返ってきた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第3章〜⑨〜


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



二度目の挑戦でも、決定的瞬間を上手く写真に収めることが出来たオレたちは、新たな撮影スポットに向けて、さらに移動する。
 次に選んだ場所は、開園直後で、まだ人出の多くない時間帯ということもあり、時間が経つと混雑しそうなウォーター・スライダー系の施設だ。
 遊具なしで一人で水流を下るボディスライダーと、専用の大型チューブに乗って二人で激流を滑り下りるリバーライドは、どちらの施設も同じ場所がゴール地点になっている。その浅瀬のプールで、スマホを持って待ち構えた小嶋夏海とコカリナを手にしたオレは、ここでも撮影係の責務を全うした。
 無事に、撮影が終了した後は、見慣れないアクセサリーを身に着けていることを不自然に思われないため、コカリナを小嶋夏海のバッグに預けておく。
 余談ながら、ここでは、水しぶきを上げながら滑り降りてきた人物をとらえる瞬間と『時のコカリナ』の能力を発動させるタイミングを合わせるのに苦労した。
 康之たち四人が、まだ入場者が少なく、待ち時間が短いのを良いことに、はしゃぎながら、何度もスライダーに挑戦していたことで、|リ《・》|テ《・》|イ《・》|ク《・》を重ねることができたので、最後に、何とか良い感じのベストなタイミングを掴むことができた時は、不思議な達成感があった。
 なお、この間、康之と哲夫は、それぞれ一度ずつ、中嶋と大嶋とペアになり、大型チューブに乗って、リバーライドを滑り降りてきた。
 言うまでもないことだが、この時ほど、撮影係の助手に甘んじてしまった己の役割を恨んだことはない。
(きっと、今夜は涙で枕を…………いや、血の涙で枕を濡らすことになるだろう)
などと、一人で悲嘆にくれていると、何度目かのチャレンジを終えて来た中嶋由香が、こちらに寄って来て、
「撮影ありがとう! 私たちだけで楽しんで、ゴメンね。ナツミと坂井も、スライダーで滑って来なよ」
と、気を利かせ、撮影係を変わる、と申し出てくれた。
 しかし、空気を読めないのか、それとも、オレとの激流下りを拒否したかったのか、小嶋夏海は、助手の承諾も得ずに、
「ありがとう、ユカ! でも、私は、ちょっと、スライダー系は遠慮したいかな……」
と、苦笑いを浮かべながら、水流下りを辞退し、こんなことを言った。
「ただ、坂井と一緒に行ってみたいところがあるから、荷物を見ておいてくれない?」
 そうして、ハンドタオルとスマホ、そして、『時のコカリナ』を取り出して、友人に編み込みのカゴバッグを預ける。
 中嶋は、一瞬、不思議そうな表情をしたあと、
「いいよ! ナツミのバッグは預かっておくから、二人で行ってきなよ」
と、快くオレたちを送り出してくれた。
 しかし、楽しみにしていたウォーター・スライダーへの挑戦を了承なしに反故にされたオレは、スタスタと歩いていく小嶋夏海を追い掛けながら、
「おい、どこに行くんだ!? ウォーター・スライダーには行かないのか?」
と、問い掛ける。
 無言で微かな笑みを浮かべながら、彼女が向かった先は、『癒しの庭』と名付けられた、プール遊びの途中のクールダウンを目的とした設備が並ぶエリアだった。
 その中に、『ミストの森』と呼ばれる、ミスト・シャワーが設置されている場所がある。
 人感センサーで動作しているのか、四本ある鉄柱に人が近づくと、霧状の粒子のシャワーが自動的に噴霧され、炎天下でも涼しげな雰囲気を醸し出している。
 その設備の前で立ち止まった彼女は、
「ねぇ、坂井にお願いがあるんだけど……これから、『この子』の長時間停止の機能を使っても構わない?」
 唐突に、そんなことをたずねてきた。
 切り替えスイッチで時間停止をさせる三十秒限定の短時間停止と違って、コカリナの吹き口から息を吹き込んで時間停止を発生させる長時間停止には、回数制限があるのではないか――――――というのが、二人の一致した見解だった。
 仮に自分たちの考えた推察が正しいのであれば、この機能を、やみくもに使うことは、避けた方が良い。
 夏休み初日の実験以来、長時間停止の機能は発動させていないので、小窓のカウンターの数字は、『41』のままだ。
「長時間停止か……使う回数を少なくしてくれるなら、別に構わないが――――――何か、時間を長く止めておきたい理由でもあるのか?」
 疑問に感じたことを問い掛けると、
「二人で使う時間が、三十秒だけじゃ、もったいないじゃない!」
弾けるような笑顔とともに、答えが返ってきた。