いわゆる男の娘 2
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「はい、モスモスは色が赤い個体ほど強くて凶暴になります、これは緑色なんで弱い方ですね」 塔の中にいるのは真っ赤な血を浴びたような奴ばかりだった。と、言おうとしたが、塔のことは秘密だということを思い出して言葉を飲み込む。 「い、いやー、初めて見ました」 ムツヤは視線を左上にそらしてそう言った。ムツヤの嘘はわかりやすい。 「ムツヤさんの国ではモスモスはいないんですね、そう言えばムツヤさんってどこの国のご出身なんですか?」 ムツヤはユモトからの質問を受けて困ってしまった。自分の住んでいた地名すらわからないのでどう答えるべきかと考える。 「えっ、えーっと田舎の……」 「ユモト、日が暮れる前には森を出たい、ムツヤ殿とのお話は森を抜けてからゆっくりしよう」 モモが助け舟を出してなんとかこの場はしのいだが、いずれユモトだけにも本当のことを伝えるべきかどうかモモは考えていた。 「あっ、そうですよね、すみません。では行きましょう!」 ユモトは元気よく前を向き直すと、ずんずんと森の中を進んでいく。 道中モモはムツヤ殿の出身地を考えておかなくてはと考え事をしていた。 1時間は歩いただろうか、その時になってようやくユモトは何か異変に気付く。 「おかしいです、もうとっくに目的地に着いても良い頃なのですが……」 ユモトはそう言って不安げな顔をする。そしてまた1時間が経過した。 「すみません、すみません! 道は合っているはずなんですが!」 またユモトが謝り始めた。今度は半分泣きそうな顔になっている。 「大丈夫だ、道を間違えるぐらい誰でもある」 モモはユモトを慰めつつも違和感を覚えていた。森を同じ方角へ真っ直ぐに進んでいるはずなので道を間違えていたとしても森を抜けても良い頃だ。 それともう1つの違和感は。 「先程から動物を見ない、虫の1匹や鳥の1羽すら居ないというのはおかしい」 気付いていなかった2人も言われてみればと思い返してみた、やはりこの森はどこかがおかしい。 「もしかして……」 ユモトは嫌な予感がした、道に迷って動物も居ない。それが指し示す答えは。 「幻覚か僕たちの周りに結界が張られている……?」 「まさか……迷い木の怪物か?」 「いえ、この辺りでは絶滅したはずです」 ムツヤは1人で会話に置いていかれていた。迷い木の怪物とは何なのだろうか、それを察したモモが説明をする。 「迷い木の怪物というのは人を森の中で迷わせ、弱った所を襲う魔物です」 「それってどうすれば良いんですか?」 すっかり元気が無くなってしまったユモトが震えた声で答えた。 「結界を破るか、迷い木の怪物を倒すかしか道はありません」 とんでもない事になってしまったとユモトは青ざめていた。 迷い木の怪物の結界は自分の実力では破る自信も無いし、A級クラスの魔物 である迷い木の怪物と戦うのなんて自分達では無謀だと思っていた。 打つ手なしだ。 「まだ迷い木の怪物と決まったわけではない、ここで休憩を取ってもう一度歩いてみよう」 モモはそう提案をして3人は昼食を取ることにした。少しでもお礼がしたいとユモトが持ってきてくれた弁当を3人で食べる。 本当であれば楽しい昼食になるはずだったのだが、ユモトは青ざめた顔でうつむいており、モモも難しい顔をしたままだ。それとは対照的にムツヤはあっけらかんとしていた。 「このお弁当美味しいでずね、これって何ですか?」 「あっ、えと、ハンバーグです」 「すげー美味いじゃないですか、本当作ってきてくれてありがどうございます」 「あっえっ、ありがとうございます」 ムツヤは無理に場を盛り上げようとしているのではなく、純粋に弁当を味わって感想を言っている。 それを見てモモはふふっと笑う。ムツヤ殿が入ればまぁ何とかなるだろうと思い食材へ感謝の言葉を言い弁当を食べ始めた。 料理の腕前でユモトに負けたことがちょっとショックだったがやけに美味い弁当だ。 ―― ―――― ―――――― 弁当を食べ終えた3人は色々な方角に歩いた。 途中に目印を付けて歩いてもまたその場所へ戻されてしまう。何らかの攻撃を受けていることは間違いない。 森の中を歩いていたユモトはすっかり疲れてフラフラとしていた。 「すみません、僕のせいでこんな……」 「大丈夫だ、迷い木の怪物はこちらが死ぬ寸前になるまで襲ってこないのだろう? 今日は野宿にしよう」 「はい……」 ユモトは申し訳無さと不甲斐なさでまた泣きそうになる。任せてくださいと言ったのに結界に気付かなかっただなんてと。
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