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第2章〜⑱〜

ー/ー



==========Time Out==========

 寸前まで鳴り響いていたセミの鳴き声は鳴りやみ、自分たちの周りは静寂に包まれた。
 小嶋夏海は、コカリナに触れているのとは反対の左手に持ったストップウォッチが、停止時間の計測を始めていることを無言でこちらに示す。

「成功だな」

 短くつぶやくと、彼女も大きくうなずいて、感想を漏らした。

「長時間停止も、あまり変わらない感じなんだ……」

「あぁ、そうだな……」

 彼女のつぶやきを肯定する。
 直射日光が遮られていて気温が低くなっていたためか、停止した時間の中でも、この場所は、比較的すごしやすく感じられた。
 さらに、木々に茂る葉の濃い緑の色や、その間から射し込む木漏れ日の光の色は変わらないものの、それまで聞こえていたセミの大合唱が耳に届かなくなったことで、まるで、この世界に、自分と小嶋夏海だけが存在しているのではないか、という奇妙な感覚を覚える。
 音もなく、自分たち以外のすべてが静止した世界で、ストップウォッチだけが、41秒……42秒……43秒……と、正確に経過時間を計測していることが、わずかに、この現象が、まぎれもない現実だということを証明する手掛かりの様だ。

それでも――――――。

 最初に時間停止の機能を使った時のように、世界から、自分一人だけが取り残された、と感じるような孤独感や焦燥感を感じることは無くなっている。

 その理由が何なのかは、まだ、わからないが――――――。

 オレは、彼女と過ごす、この時間が気に入り始めていた。

=========Time Out End=========

 ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜、ジリジリ、ジリジリ。
 再び耳に届くようになったセミの声が、時間停止が終わったことを告げている。
 同時に、ストップウォッチのボタンを押し込んだ小嶋夏海が、計測された時間をこちらにかざす。

 01分00秒03

と記されたデジタル表示が、『時のコカリナ』の切り替えスイッチをONにした場合の高音レの音階が、およそ一分間の時間停止機能を持つことを示している。

「坂井が計測した通りみたいね。停止時間の長さにバラつきが無いみたいで良かった……」

 実験の発案者は、安堵したように、つぶやく。

「オレも、自分の観察結果が間違ってなかったみたいで安心した」

と、同意すると、彼女は、

「ホント!実験のパートナーが、最低限の観察記録を取れる人間みたいで良かった」

そう言って、ニコリと表情をほころばせた。

「そんなに信用なかったのかよ!?」

 抗議の声をあげると、実験の相棒は、クスクスと可笑しそうに笑う。
 たしかに、今回の実験については、彼女のプランに任せているところが大きいが……。頼りにされていないのは、何だか、少し悔しい気持ちもある。
 そんな、こちらの想いを知ってか知らずか、小嶋夏海は、

「まぁ、坂井の協力がないと成り立たない実験だから、()()()()()、頼りにしてる」

と、フォローになっているのか、いないのか、良くわからない言葉を発して、また、クスリと笑った。

(なんだ、結局、『時のコカリナ』が目的なんじゃないか……)

と、面白くない気持ちになりかけるが、モノに嫉妬をするのもバカバカしいので、

「じゃあ、次の実験に移ろうぜ! 今度は、どの音階にする?」

話題を変えることにした。

「そうね! 今度は、停止時間が一番長いと予想してる、ドの音にしない?」

「わかった! ただ、今までと違って、時間が停止している間は、かなり長く感じるぞ?」

 そう断りを入れると、彼女は、

「いいんじゃない? 今日は、話し相手も居るし、一人で時間を持て余すってこともなさそうだし?」

 楽しそうに微笑んで、「それより、運指表は見なくても大丈夫?」と、付け加えた。
 その問いには、「あぁ、大丈夫だ!」と答えて、コカリナの表面と裏面のすべての指穴を押さえて、彼女にかざす。
 ウンウン、とうなずいた小嶋夏海は、

「やるじゃない! じゃ、早速お願い!」

 そう言って、コカリナの先端部分に触れる。
 準備が整ったと判断したオレは、

「OK! それじゃ、行くぜ!」

と、言って大きく息を吸い込んだあと、コカリナの唄口に息を吹き込んだ。


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==========Time Out==========
 寸前まで鳴り響いていたセミの鳴き声は鳴りやみ、自分たちの周りは静寂に包まれた。
 小嶋夏海は、コカリナに触れているのとは反対の左手に持ったストップウォッチが、停止時間の計測を始めていることを無言でこちらに示す。
「成功だな」
 短くつぶやくと、彼女も大きくうなずいて、感想を漏らした。
「長時間停止も、あまり変わらない感じなんだ……」
「あぁ、そうだな……」
 彼女のつぶやきを肯定する。
 直射日光が遮られていて気温が低くなっていたためか、停止した時間の中でも、この場所は、比較的すごしやすく感じられた。
 さらに、木々に茂る葉の濃い緑の色や、その間から射し込む木漏れ日の光の色は変わらないものの、それまで聞こえていたセミの大合唱が耳に届かなくなったことで、まるで、この世界に、自分と小嶋夏海だけが存在しているのではないか、という奇妙な感覚を覚える。
 音もなく、自分たち以外のすべてが静止した世界で、ストップウォッチだけが、41秒……42秒……43秒……と、正確に経過時間を計測していることが、わずかに、この現象が、まぎれもない現実だということを証明する手掛かりの様だ。
それでも――――――。
 最初に時間停止の機能を使った時のように、世界から、自分一人だけが取り残された、と感じるような孤独感や焦燥感を感じることは無くなっている。
 その理由が何なのかは、まだ、わからないが――――――。
 オレは、彼女と過ごす、この時間が気に入り始めていた。
=========Time Out End=========
 ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜ジ〜、ジリジリ、ジリジリ。
 再び耳に届くようになったセミの声が、時間停止が終わったことを告げている。
 同時に、ストップウォッチのボタンを押し込んだ小嶋夏海が、計測された時間をこちらにかざす。
 01分00秒03
と記されたデジタル表示が、『時のコカリナ』の切り替えスイッチをONにした場合の高音レの音階が、およそ一分間の時間停止機能を持つことを示している。
「坂井が計測した通りみたいね。停止時間の長さにバラつきが無いみたいで良かった……」
 実験の発案者は、安堵したように、つぶやく。
「オレも、自分の観察結果が間違ってなかったみたいで安心した」
と、同意すると、彼女は、
「ホント!実験のパートナーが、最低限の観察記録を取れる人間みたいで良かった」
そう言って、ニコリと表情をほころばせた。
「そんなに信用なかったのかよ!?」
 抗議の声をあげると、実験の相棒は、クスクスと可笑しそうに笑う。
 たしかに、今回の実験については、彼女のプランに任せているところが大きいが……。頼りにされていないのは、何だか、少し悔しい気持ちもある。
 そんな、こちらの想いを知ってか知らずか、小嶋夏海は、
「まぁ、坂井の協力がないと成り立たない実験だから、|そ《・》|の《・》|点《・》|で《・》|は《・》、頼りにしてる」
と、フォローになっているのか、いないのか、良くわからない言葉を発して、また、クスリと笑った。
(なんだ、結局、『時のコカリナ』が目的なんじゃないか……)
と、面白くない気持ちになりかけるが、モノに嫉妬をするのもバカバカしいので、
「じゃあ、次の実験に移ろうぜ! 今度は、どの音階にする?」
話題を変えることにした。
「そうね! 今度は、停止時間が一番長いと予想してる、ドの音にしない?」
「わかった! ただ、今までと違って、時間が停止している間は、かなり長く感じるぞ?」
 そう断りを入れると、彼女は、
「いいんじゃない? 今日は、話し相手も居るし、一人で時間を持て余すってこともなさそうだし?」
 楽しそうに微笑んで、「それより、運指表は見なくても大丈夫?」と、付け加えた。
 その問いには、「あぁ、大丈夫だ!」と答えて、コカリナの表面と裏面のすべての指穴を押さえて、彼女にかざす。
 ウンウン、とうなずいた小嶋夏海は、
「やるじゃない! じゃ、早速お願い!」
 そう言って、コカリナの先端部分に触れる。
 準備が整ったと判断したオレは、
「OK! それじゃ、行くぜ!」
と、言って大きく息を吸い込んだあと、コカリナの唄口に息を吹き込んだ。