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第2章〜⑨〜

ー/ー



==========Time Out==========

 オフ状態にしていたスイッチを三度素早く切り替えると、目の前のクラスメートの手から離れたテニスボールは空中で停止していた。
 そして、お互いに向き合ったまま目を合わせる。
 マスクをしているので、口もとの表情はわからないが、彼女の目もとが微かに動いた気がした。
 次の瞬間、

「成功ね! やっぱり、『この子』に触っていると、時間停止の対象外になるんだ!」

小嶋夏海は、声を弾ませて、嬉しそうに言う。

「あぁ、そうみたいだな」

 こちらも同意して、周囲を見渡す。
 学食内には人影はなく、彼女の背後、数十メートル先の調理場にいるオバちゃん達は、マネキンのように動きを止めていた。
 空気の流れ、すなわち音すらも完全に止まっている静寂に包まれた世界には、何度経験しても慣れることが出来ず、息苦しさというか、気まずさのようなものを感じる自分とは対照的に、目の前の好奇心旺盛なクラスメートは、

「ここで、ボールに触ったら、どうなるんだろ?」

と、つぶやきながら、左手の人差し指で、十秒ほど前に手を離したテニスボールをつつく。

=========Time Out End=========

 小嶋夏海が、ボールに触れるのとほとんど同時に、ボールは落下の軌道を少し変え、

 ポン
 ポン

と、音を立てて、学食の床に弾んだ。
 時間停止が想定していたとおりの時間で終了したこと、そして、予測したとおり、『時のコカリナ』を使用した自分以外の人間が時間停止の影響を受けなかったことに、オレは、ホッと胸をなで下ろす。
 先週末、放課後の教室でコカリナを使用した時、小嶋夏海が自由に動いていることには、確かに驚いたが……。
 それ以上に、時間停止中の孤独感というか、「実際の現象とは逆に、自分だけが世界に置き去りにされている」感覚に、いまだに慣れない自分にとっては、心強い味方ができた、という気持ちが強かった。
 そんなこちらの想いとは裏腹に、目の前のクラスメートは、すこぶる楽しそうに、

「ねぇ、もう一つ確認させてもらいたいことがあるんだ! 別の人間が、コカリナ本体じゃなくて、コカリナを使うヒトと触れていた時は、どうなるのか? って、ものすごく気になるんだけど、試してみてもイイ?」

などと、提案してくる。
 彼女の謎の前向きさに、少し面食らったこともあり、

「それは、別に構わんが……オレは、もうイイから、今度は小嶋が使ってみるか?」

こちらからも、逆提案をしてみた。
 その言葉に、

「えっ!? 使わせてもらってイイの!?」

と、彼女は、さらに声を弾ませる。

「あぁ(短時間停止)なら、問題ないと思うし、小嶋も自分で確かめてみたいんじゃないのか?」

 そう返答すると、

「それじゃ、遠慮なく……」

と、言って、オレの手のひらにあるコカリナをつまみあげた。
意気上がる様子を隠しきれない彼女に、

「言っておくけど、もし、オレが時間停止状態になっても、ヘンなことはするなよ?」

冗談めかして、クギを刺す。
 …………が、こちらの皮肉など、一向に気にしないと言った感じの余裕の表情で、軽くいなされた。

「さぁ、どうしようかな? 時間が止まったままの坂井の呆けた顔をジックリ観察させてもうらうのも良いかも?」

 相変わらず、口が減らない女子である。

(まぁ、好きにすれば、イイさ)

 オレが肩をすくめると、彼女は、

「じゃあ、手を出して!」

と、握った左手の拳をこちらに差し出す。意図を理解し、グータッチの要領で小嶋夏海に拳を当てると

「行くよ!」

 彼女が、右手に握ったコカリナの切り替えスイッチを触るのが見えた。


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==========Time Out==========
 オフ状態にしていたスイッチを三度素早く切り替えると、目の前のクラスメートの手から離れたテニスボールは空中で停止していた。
 そして、お互いに向き合ったまま目を合わせる。
 マスクをしているので、口もとの表情はわからないが、彼女の目もとが微かに動いた気がした。
 次の瞬間、
「成功ね! やっぱり、『この子』に触っていると、時間停止の対象外になるんだ!」
小嶋夏海は、声を弾ませて、嬉しそうに言う。
「あぁ、そうみたいだな」
 こちらも同意して、周囲を見渡す。
 学食内には人影はなく、彼女の背後、数十メートル先の調理場にいるオバちゃん達は、マネキンのように動きを止めていた。
 空気の流れ、すなわち音すらも完全に止まっている静寂に包まれた世界には、何度経験しても慣れることが出来ず、息苦しさというか、気まずさのようなものを感じる自分とは対照的に、目の前の好奇心旺盛なクラスメートは、
「ここで、ボールに触ったら、どうなるんだろ?」
と、つぶやきながら、左手の人差し指で、十秒ほど前に手を離したテニスボールをつつく。
=========Time Out End=========
 小嶋夏海が、ボールに触れるのとほとんど同時に、ボールは落下の軌道を少し変え、
 ポン
 ポン
と、音を立てて、学食の床に弾んだ。
 時間停止が想定していたとおりの時間で終了したこと、そして、予測したとおり、『時のコカリナ』を使用した自分以外の人間が時間停止の影響を受けなかったことに、オレは、ホッと胸をなで下ろす。
 先週末、放課後の教室でコカリナを使用した時、小嶋夏海が自由に動いていることには、確かに驚いたが……。
 それ以上に、時間停止中の孤独感というか、「実際の現象とは逆に、自分だけが世界に置き去りにされている」感覚に、いまだに慣れない自分にとっては、心強い味方ができた、という気持ちが強かった。
 そんなこちらの想いとは裏腹に、目の前のクラスメートは、すこぶる楽しそうに、
「ねぇ、もう一つ確認させてもらいたいことがあるんだ! 別の人間が、コカリナ本体じゃなくて、コカリナを使うヒトと触れていた時は、どうなるのか? って、ものすごく気になるんだけど、試してみてもイイ?」
などと、提案してくる。
 彼女の謎の前向きさに、少し面食らったこともあり、
「それは、別に構わんが……オレは、もうイイから、今度は小嶋が使ってみるか?」
こちらからも、逆提案をしてみた。
 その言葉に、
「えっ!? 使わせてもらってイイの!?」
と、彼女は、さらに声を弾ませる。
「あぁ、《短時間停止》なら、問題ないと思うし、小嶋も自分で確かめてみたいんじゃないのか?」
 そう返答すると、
「それじゃ、遠慮なく……」
と、言って、オレの手のひらにあるコカリナをつまみあげた。
意気上がる様子を隠しきれない彼女に、
「言っておくけど、もし、オレが時間停止状態になっても、ヘンなことはするなよ?」
冗談めかして、クギを刺す。
 …………が、こちらの皮肉など、一向に気にしないと言った感じの余裕の表情で、軽くいなされた。
「さぁ、どうしようかな? 時間が止まったままの坂井の呆けた顔をジックリ観察させてもうらうのも良いかも?」
 相変わらず、口が減らない女子である。
(まぁ、好きにすれば、イイさ)
 オレが肩をすくめると、彼女は、
「じゃあ、手を出して!」
と、握った左手の拳をこちらに差し出す。意図を理解し、グータッチの要領で小嶋夏海に拳を当てると
「行くよ!」
 彼女が、右手に握ったコカリナの切り替えスイッチを触るのが見えた。