47. 夢の最前線

ー/ー



 はぁっ!?

 翌朝、画面を埋め尽くしていたゴーレムからのワーニングメッセージに、タケルはつい大声を出してしまった。なんとゴーレムが半数に減っていたのだ。

 慌てて壊れたゴーレムのカメラの録画映像をチェックすると、そこにはたくさんの魔物との死闘が映っていた。剣を持った小鬼(ゴブリン)に槍を振り回すリザードマン、そして巨大な赤鬼が丸太のような棍棒をゴーレムに振り下ろしている。

 ゴーレムは火炎放射器で対抗し、次々と魔物を焼き殺していたが、数で押され、半数を失う結果となった。

 ゴーレムは魔石を使うだけでいつでも呼び出せる召喚獣だ。魔石鉱山を持つタケルからしたら損失と言えるほどのものではない。しかし、自らの生命さえも顧みない魔物たちの猛攻は、まさに理性を失った暴動。それはタケルに肌を這うような恐怖を引き起こし、心の奥に深い震えを与えた。

 タケルは熱々のコーヒーを口に運び、その苦味で不安を払おうとする。しかし、心の奥底に潜む、理屈ではない恐れ――これからの対魔王戦に潜む予測不能なリスクは、彼の脳裏からいつまでも離れなかった。


         ◇


 タケルは基地の周りに城壁を築くことを優先しようと決め、近くに魔物がいないことを確認した上で大量の石のプレートを現地に持ち込んだ。

「タケルさん、こんな石の板でどうするんですか?」

 クレアが不思議そうに尋ねる。

「ふふっ、見ててごらん」

 タケルは小川の流れなどを考慮し、なるべく稜線を通るように城壁建設位置を決め、石のプレートを並べていった。穏やかな起伏の続く焼け野原に白い石のラインが描かれていく。

「なんだか綺麗ですね……」

 甲斐甲斐しくタケルを手伝っていたクレアは顔を上げ、額の汗を拭きながら言った。

「とりあえずこの辺りで一度テストしよう」

 タケルは青いウィンドウを開くと石のプレートに一気にコードを書き込んでいった。

 ヴゥンという音が響き、プレートに次々と黄色い魔法陣が浮かび上がっていく。タケルは全てのプレートに魔法陣が起動しているのを確認すると一斉にコードを走らせた。

 ゴゴゴゴゴ……。

 地響きを放ちながらプレートから白い岩がモリモリと育ち始める。それはまるで地面から隠れていた壁がせり上がってくるように、あっという間に立派な城壁が出来上がっていく。

「うわぁ! すごーーい!」

 その土魔法を使った鮮やかな建設方法にクレアは感激し、碧い眼をキラキラと輝かせた。

「割と上手くいったな」

 タケルは高さ十五メートルはあろうかという純白の城壁をペシペシと叩くと、その重厚な質感に満足し、嬉しそうに笑った。

「こんなに簡単に出来るんですねっ!」

「簡単だけど、このプレートには魔石が練り込んであるから、普通はこんな贅沢なこと出来ないんだよ」

「えっ!? 魔石入りなんですか!?」

 クレアは碧眼をキラキラと煌めかせながらタケルを見上げる。

「そうなんだよ。鉱山持ってるうちでしかできないぞ」

「ふふっ、鉱山見つけられて良かったですね」

 まぶしい笑顔を見せるクレア。

「これもクレアのおかげだよ」

「そろそろご褒美くれても良いんですよ?」

 クレアはいたずらっ子の笑みを浮かべた。

「あ、ご、ごめん。落ち着いたらゆっくり考えるよ」

「いいですよ? 急いでないから」

 クレアはちょっとつまらなそうに口をとがらせ、プイっと向こうを向いた。

 この後はゴーレムにプレートの並べ方を教えこみ、彼らに一枚ずつ並べていってもらうようにした。

 こうして全長五キロに及ぶ壮大な城壁が、かつてない速さで地平線にその輪郭を描き出す。

 やがて、焼けるような夕焼けが大地を赤く照らし出す中、二人は遥か彼方にぼんやりと見える城壁を眺めていた。

 クレアはそっとタケルの手を取る。

「いよいよ始まるのね……」

「そうだね、ここが僕らの、人類の夢の最前線だよ」

「うまく……、行くかしら?」

 クレアは不安そうな顔でタケルを見上げながら、キュッとタケルの手を握った。

「上手くいくに決まってるさ!」

 赤く輝く城壁を眺めながらタケルはグッとこぶしを握る。アントニオを倒した以上、魔王軍のターゲットはもう自分なのだ。やらなければやられる。もはや(さい)は振られたのだ。

 二人は徐々に色合いを群青色へと移りゆく景色を眺めながら、決意を新たにしていった。


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 はぁっ!?
 翌朝、画面を埋め尽くしていたゴーレムからのワーニングメッセージに、タケルはつい大声を出してしまった。なんとゴーレムが半数に減っていたのだ。
 慌てて壊れたゴーレムのカメラの録画映像をチェックすると、そこにはたくさんの魔物との死闘が映っていた。剣を持った|小鬼《ゴブリン》に槍を振り回すリザードマン、そして巨大な赤鬼が丸太のような棍棒をゴーレムに振り下ろしている。
 ゴーレムは火炎放射器で対抗し、次々と魔物を焼き殺していたが、数で押され、半数を失う結果となった。
 ゴーレムは魔石を使うだけでいつでも呼び出せる召喚獣だ。魔石鉱山を持つタケルからしたら損失と言えるほどのものではない。しかし、自らの生命さえも顧みない魔物たちの猛攻は、まさに理性を失った暴動。それはタケルに肌を這うような恐怖を引き起こし、心の奥に深い震えを与えた。
 タケルは熱々のコーヒーを口に運び、その苦味で不安を払おうとする。しかし、心の奥底に潜む、理屈ではない恐れ――これからの対魔王戦に潜む予測不能なリスクは、彼の脳裏からいつまでも離れなかった。
         ◇
 タケルは基地の周りに城壁を築くことを優先しようと決め、近くに魔物がいないことを確認した上で大量の石のプレートを現地に持ち込んだ。
「タケルさん、こんな石の板でどうするんですか?」
 クレアが不思議そうに尋ねる。
「ふふっ、見ててごらん」
 タケルは小川の流れなどを考慮し、なるべく稜線を通るように城壁建設位置を決め、石のプレートを並べていった。穏やかな起伏の続く焼け野原に白い石のラインが描かれていく。
「なんだか綺麗ですね……」
 甲斐甲斐しくタケルを手伝っていたクレアは顔を上げ、額の汗を拭きながら言った。
「とりあえずこの辺りで一度テストしよう」
 タケルは青いウィンドウを開くと石のプレートに一気にコードを書き込んでいった。
 ヴゥンという音が響き、プレートに次々と黄色い魔法陣が浮かび上がっていく。タケルは全てのプレートに魔法陣が起動しているのを確認すると一斉にコードを走らせた。
 ゴゴゴゴゴ……。
 地響きを放ちながらプレートから白い岩がモリモリと育ち始める。それはまるで地面から隠れていた壁がせり上がってくるように、あっという間に立派な城壁が出来上がっていく。
「うわぁ! すごーーい!」
 その土魔法を使った鮮やかな建設方法にクレアは感激し、碧い眼をキラキラと輝かせた。
「割と上手くいったな」
 タケルは高さ十五メートルはあろうかという純白の城壁をペシペシと叩くと、その重厚な質感に満足し、嬉しそうに笑った。
「こんなに簡単に出来るんですねっ!」
「簡単だけど、このプレートには魔石が練り込んであるから、普通はこんな贅沢なこと出来ないんだよ」
「えっ!? 魔石入りなんですか!?」
 クレアは碧眼をキラキラと煌めかせながらタケルを見上げる。
「そうなんだよ。鉱山持ってるうちでしかできないぞ」
「ふふっ、鉱山見つけられて良かったですね」
 まぶしい笑顔を見せるクレア。
「これもクレアのおかげだよ」
「そろそろご褒美くれても良いんですよ?」
 クレアはいたずらっ子の笑みを浮かべた。
「あ、ご、ごめん。落ち着いたらゆっくり考えるよ」
「いいですよ? 急いでないから」
 クレアはちょっとつまらなそうに口をとがらせ、プイっと向こうを向いた。
 この後はゴーレムにプレートの並べ方を教えこみ、彼らに一枚ずつ並べていってもらうようにした。
 こうして全長五キロに及ぶ壮大な城壁が、かつてない速さで地平線にその輪郭を描き出す。
 やがて、焼けるような夕焼けが大地を赤く照らし出す中、二人は遥か彼方にぼんやりと見える城壁を眺めていた。
 クレアはそっとタケルの手を取る。
「いよいよ始まるのね……」
「そうだね、ここが僕らの、人類の夢の最前線だよ」
「うまく……、行くかしら?」
 クレアは不安そうな顔でタケルを見上げながら、キュッとタケルの手を握った。
「上手くいくに決まってるさ!」
 赤く輝く城壁を眺めながらタケルはグッとこぶしを握る。アントニオを倒した以上、魔王軍のターゲットはもう自分なのだ。やらなければやられる。もはや|賽《さい》は振られたのだ。
 二人は徐々に色合いを群青色へと移りゆく景色を眺めながら、決意を新たにしていった。