グルップル騒乱
ー/ー「頼む……妹を、解放してくれ」
レイライムは手にしていた長剣を自分から離れた場所に放り投げると、苦しい声でそう答えた。
「ご賢明な判断です。私は狂犬とは違って、争いごとは好まないのですよ。平和に物事を収めたい。ですので卿の判断には感謝しております」
言いながら近くの男に目配せして、レイライムの投げ捨てた剣を回収させる。
「ただですね、非常に残念なことがございましてねぇ。こちらの男がどうも妹御に懸想されておられまして、協力する代わりに彼女を寄越せと言っているのですよ。いかがでしょう、平和を愛する高潔な性格の男です、妹御の伴侶として申し分ないかと思いますし、このまま嫁がせても宜しいですかな」
人の悪意とはこのような形をしているのか、そう感じさせるほどの邪悪な笑みを浮かべグローザーは絶望的な提案を行う。
もとより一筋縄ではいかないとは思っていたが、これほどの悪辣な手段を用いるとは、やはりそこは育ちの良いレイライムでは想像も出来なかったことであろう。
「ふざけるな!仲間を、町を裏切るような男に妹を任せられると思うのか」
「そうですか、それは残念なお答え。どのみちあなたたち兄弟は帝国への反逆罪で死を賜ることになりましょう。せめて妹御だけでも助けようと思う私の親切心が伝わらないとは」
グローザーは芝居がかった動作で、大げさに天を仰いで頭を振る。
妹が死ぬことになるのはお前の頑なな決断のせいだ、そう言いたげな目でレイライムを見る。
「この外道が……、貴様だけでも倒してやる」
レイライムの手が、腰のベルトを探る。
そこに吊るしてあった短剣を素早く引き抜く。
「思ったより愚かな人ですね。貴方がそこから近づき、私の命を奪うのと、私の背後の皆さんが貴方の妹御の命を奪うのと、どちらが早いのか、試してみますかな」
グローザーが言い、レイルーナの肩を押さえ込んでいた男が、彼女の喉に短剣を押しつける。
(万策尽きた…… )
諦めの気持ちがレイライムの心を染め上げていく。
妹の不安そうな目と、自分の目が見つめ合うのを感じて、レイライムは自分が何をすべきなのか考える。
「さぁ、その手にした短剣で、自分の喉をかき切って頂きましょうか。交渉の場においてもなお反抗的な態度を崩さない貴方は、我々にとって害にはなっても得にはなりませんからな」
グローザーの最終通告にもにた言葉を受けて、レイライムは大人しく短剣を逆手に持ち替えた。
ひと思いに喉に突き立ててやるかと思った。
だがお前だけはなんとしても生き延びてほしい、アスティーナよ間に合ってくれ。
心の中で必死に祈る。
今彼の心の中には、妹の無事だけしか無かった。
「相も変わらず、胸くその悪い行動をするな、貴公は」
不意に別の声が上がり、動き始めていたレイライムの手が止まる。
敵なのか、味方なのかと探るような視線で周囲を見回す。
「無粋な……何者ですかな。こそこそしていないで姿を現しなさい」
不意に上がった声の主の正体がわからず、狼狽えたグローザーがわずかばかり高くなった声で叫ぶ。
「俺はお前とは違う、こそこそと暗躍する気は無い」
言った直後に銀閃が2筋はしった。
レイルーナを取り押さえていた男達が、声もなく倒れる。
そして男達が立っていた場所には、別の男の姿があった。
先ほどの男達より、かなり高い上背。
短く切りそろえられて、後頭部にまで綺麗に流されている金髪。
手には刀身が自ら発光しているのではないかと思うほどに銀色に輝く幅広剣
「貴さ……いや貴方は……」
男の姿を目にした途端、グローザーは不自然なほどおびえ始めた。
衝撃を受けているのはレイライムも同じだった。
直接あったことはない。
だがその容姿と実力は嫌というほど耳にしたことがある。
「オルガ・バルザードル……カザードの反逆者の息子がなぜここに居る!我々は皇帝に認められたカザード領主の軍だぞ。それには向かうならば反逆罪に問われるぞ。よいのか、皇太子付き武芸師範殿が反乱の片棒を担いでも」
無様なほどわめきちらすグローザー。
先ほどまでの余裕ぶって、人を食ったようにしていた様子は微塵もなくし、動揺を隠せず取り乱している様を晒している。
グローザーの詰問とも揶揄ともとれる言葉には一切耳を貸さず、オルガはレイルーナの側に立つと、器用に手首の麻縄を切り払い、露わになりかけていた貫衣の上に自分の外套をかけた。
「少しの間、我慢してほしいがいいか」
オルガが問いかけ、レイルーナは小さく首肯する。
それを見たオルガはレイルーナを軽々と片腕で抱きかかえ、無人ののをゆくかのように悠然とレイライムの元まで歩いて行った。
そしてレイライムの隣にレイルーナを下ろすと、漸くグローザーの方へと向き直った。
「反逆か……我が父は既に帝国において反逆の罪に問われその命を奪われた。なのに何故今更、俺が反逆に問われることを心配せねばならん。貴様の言っていることは全くわからんな」
「愚かな!愚かなことを!なればこそ貴公はここで我々と協力し、恥を雪がねばならぬではないか」
「生憎と、俺は父のしたことを恥と思っていない。父は高潔すぎたが故に俗物どもの罠にかかり、有りもしない汚名を着せられのだからな。寧ろここで俗物の仲間である貴公を斬り捨てた方が、よほどの親孝行よ」
そういうとゆっくとした動作で、剣に切っ先をグローザーに向ける。
グローザーは蛇ににらまれた蛙のように、身動き1つ取ることができずにその場に固まっていた。
「だが俺も鬼ではない。このまま兵を連れて立ち去るというなら、俺はこれ以上何もせん。どうする、俺と一戦交えてみるか」
散歩にでも行こうかと誘いかけるような自然さで言うオルガ。
対するグローザーは言葉を発する余裕もないようだった。
しばらくのにらみ合い。
やがてグローザーは観念したように頭を振り、懐から取り出した笛を鳴らした。
それは撤収の合図の笛だった。
笛の音が夜空に溶けていき、断続的に続いていた戦闘の音が徐々に小さくなり、やがて消えた。
「オルガ・バルザードル。この場は引く……だが必ず後悔させてやる皇帝陛下はこの地をあきらる事は無い。遅かれ早かれ必ずこの地は併合されよう。今日の勝ちは譲るが、いずれ勝利するのは我々だ。」
吐き捨てるようにそう言うと、グローザーは素早く闇の中にその姿を隠した。
予想外の連続では有ったが、こうして辛うじてグルップルは守られたのである。
これは大きな一歩ではあったが、新たな火種になると言うことを、誰もが感じていた。
レイライムは手にしていた長剣を自分から離れた場所に放り投げると、苦しい声でそう答えた。
「ご賢明な判断です。私は狂犬とは違って、争いごとは好まないのですよ。平和に物事を収めたい。ですので卿の判断には感謝しております」
言いながら近くの男に目配せして、レイライムの投げ捨てた剣を回収させる。
「ただですね、非常に残念なことがございましてねぇ。こちらの男がどうも妹御に懸想されておられまして、協力する代わりに彼女を寄越せと言っているのですよ。いかがでしょう、平和を愛する高潔な性格の男です、妹御の伴侶として申し分ないかと思いますし、このまま嫁がせても宜しいですかな」
人の悪意とはこのような形をしているのか、そう感じさせるほどの邪悪な笑みを浮かべグローザーは絶望的な提案を行う。
もとより一筋縄ではいかないとは思っていたが、これほどの悪辣な手段を用いるとは、やはりそこは育ちの良いレイライムでは想像も出来なかったことであろう。
「ふざけるな!仲間を、町を裏切るような男に妹を任せられると思うのか」
「そうですか、それは残念なお答え。どのみちあなたたち兄弟は帝国への反逆罪で死を賜ることになりましょう。せめて妹御だけでも助けようと思う私の親切心が伝わらないとは」
グローザーは芝居がかった動作で、大げさに天を仰いで頭を振る。
妹が死ぬことになるのはお前の頑なな決断のせいだ、そう言いたげな目でレイライムを見る。
「この外道が……、貴様だけでも倒してやる」
レイライムの手が、腰のベルトを探る。
そこに吊るしてあった短剣を素早く引き抜く。
「思ったより愚かな人ですね。貴方がそこから近づき、私の命を奪うのと、私の背後の皆さんが貴方の妹御の命を奪うのと、どちらが早いのか、試してみますかな」
グローザーが言い、レイルーナの肩を押さえ込んでいた男が、彼女の喉に短剣を押しつける。
(万策尽きた…… )
諦めの気持ちがレイライムの心を染め上げていく。
妹の不安そうな目と、自分の目が見つめ合うのを感じて、レイライムは自分が何をすべきなのか考える。
「さぁ、その手にした短剣で、自分の喉をかき切って頂きましょうか。交渉の場においてもなお反抗的な態度を崩さない貴方は、我々にとって害にはなっても得にはなりませんからな」
グローザーの最終通告にもにた言葉を受けて、レイライムは大人しく短剣を逆手に持ち替えた。
ひと思いに喉に突き立ててやるかと思った。
だがお前だけはなんとしても生き延びてほしい、アスティーナよ間に合ってくれ。
心の中で必死に祈る。
今彼の心の中には、妹の無事だけしか無かった。
「相も変わらず、胸くその悪い行動をするな、貴公は」
不意に別の声が上がり、動き始めていたレイライムの手が止まる。
敵なのか、味方なのかと探るような視線で周囲を見回す。
「無粋な……何者ですかな。こそこそしていないで姿を現しなさい」
不意に上がった声の主の正体がわからず、狼狽えたグローザーがわずかばかり高くなった声で叫ぶ。
「俺はお前とは違う、こそこそと暗躍する気は無い」
言った直後に銀閃が2筋はしった。
レイルーナを取り押さえていた男達が、声もなく倒れる。
そして男達が立っていた場所には、別の男の姿があった。
先ほどの男達より、かなり高い上背。
短く切りそろえられて、後頭部にまで綺麗に流されている金髪。
手には刀身が自ら発光しているのではないかと思うほどに銀色に輝く幅広剣
「貴さ……いや貴方は……」
男の姿を目にした途端、グローザーは不自然なほどおびえ始めた。
衝撃を受けているのはレイライムも同じだった。
直接あったことはない。
だがその容姿と実力は嫌というほど耳にしたことがある。
「オルガ・バルザードル……カザードの反逆者の息子がなぜここに居る!我々は皇帝に認められたカザード領主の軍だぞ。それには向かうならば反逆罪に問われるぞ。よいのか、皇太子付き武芸師範殿が反乱の片棒を担いでも」
無様なほどわめきちらすグローザー。
先ほどまでの余裕ぶって、人を食ったようにしていた様子は微塵もなくし、動揺を隠せず取り乱している様を晒している。
グローザーの詰問とも揶揄ともとれる言葉には一切耳を貸さず、オルガはレイルーナの側に立つと、器用に手首の麻縄を切り払い、露わになりかけていた貫衣の上に自分の外套をかけた。
「少しの間、我慢してほしいがいいか」
オルガが問いかけ、レイルーナは小さく首肯する。
それを見たオルガはレイルーナを軽々と片腕で抱きかかえ、無人ののをゆくかのように悠然とレイライムの元まで歩いて行った。
そしてレイライムの隣にレイルーナを下ろすと、漸くグローザーの方へと向き直った。
「反逆か……我が父は既に帝国において反逆の罪に問われその命を奪われた。なのに何故今更、俺が反逆に問われることを心配せねばならん。貴様の言っていることは全くわからんな」
「愚かな!愚かなことを!なればこそ貴公はここで我々と協力し、恥を雪がねばならぬではないか」
「生憎と、俺は父のしたことを恥と思っていない。父は高潔すぎたが故に俗物どもの罠にかかり、有りもしない汚名を着せられのだからな。寧ろここで俗物の仲間である貴公を斬り捨てた方が、よほどの親孝行よ」
そういうとゆっくとした動作で、剣に切っ先をグローザーに向ける。
グローザーは蛇ににらまれた蛙のように、身動き1つ取ることができずにその場に固まっていた。
「だが俺も鬼ではない。このまま兵を連れて立ち去るというなら、俺はこれ以上何もせん。どうする、俺と一戦交えてみるか」
散歩にでも行こうかと誘いかけるような自然さで言うオルガ。
対するグローザーは言葉を発する余裕もないようだった。
しばらくのにらみ合い。
やがてグローザーは観念したように頭を振り、懐から取り出した笛を鳴らした。
それは撤収の合図の笛だった。
笛の音が夜空に溶けていき、断続的に続いていた戦闘の音が徐々に小さくなり、やがて消えた。
「オルガ・バルザードル。この場は引く……だが必ず後悔させてやる皇帝陛下はこの地をあきらる事は無い。遅かれ早かれ必ずこの地は併合されよう。今日の勝ちは譲るが、いずれ勝利するのは我々だ。」
吐き捨てるようにそう言うと、グローザーは素早く闇の中にその姿を隠した。
予想外の連続では有ったが、こうして辛うじてグルップルは守られたのである。
これは大きな一歩ではあったが、新たな火種になると言うことを、誰もが感じていた。
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