そして、それから (Epilogue)
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「あ……おっそいよぉ、ずっと待ってたんだからね」 「アハハ、ごめんごめん。今日の昼飯は俺が奢るからさ機嫌直してよ」 楽しげな、カップルの会話が聞こえる。 今が幸せだと、心の底から思ってるんだろうなとわかる位に楽しげな会話。 「幸せ……か。」 僕は苦笑交じりにそう呟くと、楽しげなカップルの姿に目をやる。 大学生くらいかなぁとぼんやり考える。 手を繋いでいる、まだ初々しさの残るカップルの姿に笑みが溢れる。 僕にもあんな時代があったなぁなんて、懐かしく思ってしまいまた苦笑を漏らす。 「あの頃は良かったな……なんて思うほど年を取ったつもりはないんだけどなぁでもあの初々しさは眩しいな」 誰に聞かせるでもない独り言。 「ふぅん、今は初々しくないんだぁ。」 多数のからかいと、少しだけ混じりこんだすねた声音。 「うーん、初々しくはないんじゃないかな?でもその分重ね合わせてきた時間がもっと大切な気持ちを作り上げていると思うけど」 僕は声の主の方に顔を向ける。 初めて出会ったあの日から変わらない優しい笑顔。歳を重ねて更にすごみを増した美しさ。 今は肩の辺りまで短くなっているつややかな黒髪が風に揺れている。 僕が愛し、そして僕を愛してくれる最愛の人。 トウカ。 いまはミドウトウカ。 あの日、決断を迫られた僕は、だけど一切の迷いもなく、トウカを受け入れた。 僕のつまらない意地に僕は既に気がついていたから。 僕は彼女を女神として崇拝するのではなく人として愛し、求めていると解ったから。 そして僕というインクがトウカを汚すのではなくて僕とトウカという、それぞれ違ったインクが混ざりあい、新しい色を作り上げていくことが愛し合うということだと、分かってしまっていたから。 「トウカ、今は……幸せ?」 聞く必要のない疑問だとわかっているけど、いつもトウカはそれを態度で示していてくれるけどそれでも言葉で聞きたいときもある。 だから僕はあえて聞いてみた。 「今はじゃない。出会ったときから、今、そしてこれからもずっと幸せだよ……だってタツキの隣にいるんだから」 この先どれだけの時間が二人に与えられているかわからない。 だけど、色々あっても、たとえ喧嘩しても泣いても、笑っても、一つだけ確かなことが有るって僕たちは知っているから。 そう、きっと僕たちはふたりとも、今際の時に笑ってこう言えるはずだ。 「幸せな人生だった」 「貴方と生きてくることが出来て、幸せだった」 隣で微笑む、愛おしい人の髪を優しく撫でる。 トウカは嬉しそうに、目を細める。 僕たちがここにいたるまでに、たくさんの涙が流れた。 沢山の笑顔に溢れた。悩んだ、迷った、何度も別れかけた。 でも、それでも、こうして繋いだ手だけは、一度も解けなかった。 「愛してるよ、トウカ」 「愛しているわ。タツキ」
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