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一番てっぺんに! 1

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 ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。  月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。  拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。 「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」 「なんだ」  ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。 「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」 「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」  女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。  どうしてこんな状況になってしまったのか、それは少し時間をさかのぼって説明をする事になる。  ムツヤ・バックカントリーはクソ田舎に住んでいる。  生まれも育ちもクソ田舎だ。  田舎と聞いて何を思い浮かべるだろうか。  雄大な自然、のどかな暮らし、どこまでも続く草原。  それを思い浮かべたら間違いなく田舎を勘違いしている。  実際の田舎は気持ちの悪い虫が当たり前のように部屋に現れ、のどかと言えば聞こえは良いが、娯楽も何もない暮らし。  草原は基本的に肥やしを撒いているので臭い。  草原の爽やかな風なんてものは幻想だ。基本的には肥やしの匂いが風と共にやってくる。  遊び場やゲーム等の気の利いた娯楽が無い場所で、子供たちはどの様に遊ぶだろうか。外を駆け巡り冒険をするしか無い。  田舎の子供たちが元気に外を走り回るのも、それしか選択肢が無いからだ。  ムツヤもその田舎少年の例に漏れず、物心が付く前から家の周りを探検していた。  ここまでは田舎のよくある話だろう、そしてここから先が田舎ではよくある話でなくなる。  ムツヤの住む家のすぐ後ろは、世界中の冒険者が求める幻の裏ダンジョンだ。その事はここに住むムツヤですら知らない。  裏ダンジョンの家の前に住む人間の朝は早い、ムツヤの祖父であるタカクは今年で73歳になる。  動きやすさを重視し、ゆったりとしたローブを着て、曲がった腰に手を当てながら玄関のドアを開け一歩一歩ゆっくりと外へ出ていく。  するとそこに全長2メートルはあるコウモリのような化物が上空から3匹タカクへ襲いかかってきた。  タカクは不気味なコウモリを見上げると面倒臭そうに右手を天に上げる。  その瞬間老人のシワシワの手から轟音と閃光が鳴り響き、地上から天へと雷が打ち上げられた。  コウモリ達は即死したらしく地上に落ちると煙と共に消えた。 「じいちゃーん、今日こそ最上階行ってくるからよー!」  そんな光景を見たら一般人どころか、冒険者でさえ何事か、どこかの高名な大魔法使いかと注目するだろう。  しかし、孫のムツヤは一切動じずあっけらかんと玄関から顔を出し、こげ茶色の目で祖父を見ていた。  コバエを叩き潰したぐらいで自慢をする人間も、倒した相手を英雄のように称える人間も少ないだろう。彼らにとって今の行為はそれぐらいの感覚に近い。 「わかったわかった、気を付けて行って来い」  タカクの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ムツヤは倍速の魔法を使う。  肩まで伸びた黒髪が全て後ろに逆立つ速さで塔へ走り出した。軽く見積もっても馬の数倍は早い。  ムツヤにとって裏ダンジョンは最高の遊び場だ。塔の中のはずなのに大きな池もあれば、林も、砂漠も、谷もある。  それらが毎回入る度に地形も変わり、誰かが丁寧に置いたかの様に使いみちの分からない道具や武器、それに防具や薬も宝箱も新しいものが落ちていた。  その為、同じモンスターを倒すこと以外は毎日が新鮮だったので、祖父からたまに聞く外の世界にそこまで興味は無かった。  そう、無かったのだが、とある本がムツヤを変えてしまった。  それは冒険者がよりどりみどりの美女達と冒険をしてハーレムを作る小説だ。  ムツヤが生まれてからこの場所には誰も人が来たことがない。  しかし、何故かある日その本が家の前に落ちていたのだ。  文字の読み書きが出来ないムツヤだったが、何故か指に付けていると文字が読めるようになる指輪が腐るほどあったのでそれを付けて本を読んだ。  そして衝撃を受けた。



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 ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。  月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。  拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。 「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」 「なんだ」  ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。 「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」 「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」  女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。  どうしてこんな状況になってしまったのか、それは少し時間をさかのぼって説明をする事になる。  ムツヤ・バックカントリーはクソ田舎に住んでいる。  生まれも育ちもクソ田舎だ。  田舎と聞いて何を思い浮かべるだろうか。  雄大な自然、のどかな暮らし、どこまでも続く草原。  それを思い浮かべたら間違いなく田舎を勘違いしている。  実際の田舎は気持ちの悪い虫が当たり前のように部屋に現れ、のどかと言えば聞こえは良いが、娯楽も何もない暮らし。  草原は基本的に肥やしを撒いているので臭い。  草原の爽やかな風なんてものは幻想だ。基本的には肥やしの匂いが風と共にやってくる。  遊び場やゲーム等の気の利いた娯楽が無い場所で、子供たちはどの様に遊ぶだろうか。外を駆け巡り冒険をするしか無い。  田舎の子供たちが元気に外を走り回るのも、それしか選択肢が無いからだ。  ムツヤもその田舎少年の例に漏れず、物心が付く前から家の周りを探検していた。  ここまでは田舎のよくある話だろう、そしてここから先が田舎ではよくある話でなくなる。  ムツヤの住む家のすぐ後ろは、世界中の冒険者が求める幻の裏ダンジョンだ。その事はここに住むムツヤですら知らない。  裏ダンジョンの家の前に住む人間の朝は早い、ムツヤの祖父であるタカクは今年で73歳になる。  動きやすさを重視し、ゆったりとしたローブを着て、曲がった腰に手を当てながら玄関のドアを開け一歩一歩ゆっくりと外へ出ていく。  するとそこに全長2メートルはあるコウモリのような化物が上空から3匹タカクへ襲いかかってきた。  タカクは不気味なコウモリを見上げると面倒臭そうに右手を天に上げる。  その瞬間老人のシワシワの手から轟音と閃光が鳴り響き、地上から天へと雷が打ち上げられた。  コウモリ達は即死したらしく地上に落ちると煙と共に消えた。 「じいちゃーん、今日こそ最上階行ってくるからよー!」  そんな光景を見たら一般人どころか、冒険者でさえ何事か、どこかの高名な大魔法使いかと注目するだろう。  しかし、孫のムツヤは一切動じずあっけらかんと玄関から顔を出し、こげ茶色の目で祖父を見ていた。  コバエを叩き潰したぐらいで自慢をする人間も、倒した相手を英雄のように称える人間も少ないだろう。彼らにとって今の行為はそれぐらいの感覚に近い。 「わかったわかった、気を付けて行って来い」  タカクの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ムツヤは倍速の魔法を使う。  肩まで伸びた黒髪が全て後ろに逆立つ速さで塔へ走り出した。軽く見積もっても馬の数倍は早い。  ムツヤにとって裏ダンジョンは最高の遊び場だ。塔の中のはずなのに大きな池もあれば、林も、砂漠も、谷もある。  それらが毎回入る度に地形も変わり、誰かが丁寧に置いたかの様に使いみちの分からない道具や武器、それに防具や薬も宝箱も新しいものが落ちていた。  その為、同じモンスターを倒すこと以外は毎日が新鮮だったので、祖父からたまに聞く外の世界にそこまで興味は無かった。  そう、無かったのだが、とある本がムツヤを変えてしまった。  それは冒険者がよりどりみどりの美女達と冒険をしてハーレムを作る小説だ。  ムツヤが生まれてからこの場所には誰も人が来たことがない。  しかし、何故かある日その本が家の前に落ちていたのだ。  文字の読み書きが出来ないムツヤだったが、何故か指に付けていると文字が読めるようになる指輪が腐るほどあったのでそれを付けて本を読んだ。  そして衝撃を受けた。



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