Prologue
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青年はある夜、夢を見た。 遠くの浜辺から誰かの声が聞こえてくる。それは幼くも優しい響きがする、少女の声だった。青年は振り向いて彼女の方を見る。 彼女は青年よりも頭ひとつ分ほど小さく、純白のワンピースを着ていて、絹糸のような亜麻色の長い髪を持ち、サファイアにも似たその澄んだ瞳は遠くから見ても見惚れるほど美しかった。青年はそんな彼女の元へ駆け寄ろうとするが、上手く走れない。少女はじっと動かず、手を後ろで組み佇んで、ただ青年に優しく微笑みかける。 青年は走った。走り続けた。ただ彼女に会いたいというその一心で。だんだんと彼女の姿が大きく見える。 そして、彼女は言った。 「やっと会えるね」 …… 「……ん……」 青年は目が覚めた。 「……また……あの夢だ」 彼は子供の頃から何度もこの夢を見ていた。ただ、今回の夢だけは、今までと一つ違うところがあった。 「……『やっと会えるね』……?」 夢の中の少女がそんなことを言ったのは初めてだった。青年は少女の発した言葉が忘れられなかった。そして、何故だか奇妙な胸騒ぎがするのだった。 窓から射す陽が朝を告げる。雲一つない快晴の中、小鳥達の鳴き声が、今日という日の平和を感じさせる。 「今日は空が綺麗だな。そうだ、月を描こう。今夜は確か……満月だったな」
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