1恩人と再会
ー/ー 5歳になった誕生日。
僕──翔は山に1人置いて行かれてとっても泣き喚いた記憶が残っている。
今思うと僕は迷子になったのではなく、わざと山に捨てられたのだと15歳になって気づいた。
僕は神様への生贄だったのだろう。しかしどういうわけか、僕は無事に村まで戻って、大人たちに随分驚いた顔をされた。
思い出に残っているのは、幼いながらに途方に暮れ大泣きする僕の手を綺麗な男の人が握って、一緒に山を下ったこと。
*
僕の住む田舎はまだ村で、年に一回、暑い夏の日に神様を信仰する儀式が行われている。
そんなものを信じていない僕は「馬鹿馬鹿しい」とサボろうと思ったが、両親含む近所の爺さん婆さんにも説教され、泣く泣く儀式に参列する。
今まで思い出すこともなかったのに、あの時手を握って村まで送り届けてくれた人物が頭の中に浮かんでくる。参列しながら、神主がそばを通り過ぎる時に頭を下げ、時が過ぎるのを待つ。
「翔、神主と一緒についていけ」
村長に言われる。なんで僕が、と不満が顔に出ていたのか、コホンと咳払いをして説明する。
「来年からは翔がやるんじゃ」
「聞いてませんけど。面倒なのは嫌です」
「神様を崇めぬと厄災が来るぞ。しっかり努めよ」
やる気などないのに。仕方なくついていく。
山の奥。さらに奥。人が住めなさそうな場所にひっそりと小さな祠が佇んでいた。神主は「今日から毎日祠の周りにある塩を替えるように」と説明する。
「僕がやるんですか? 神主様は?」
「すまんが、そろそろ足腰痛くてのお。若い頃に世代交代じゃ。神様が邪気に触れぬよう、お守りするのだぞ」
「あー……」
体の不調を訴えられたら仕方ない。
翌日、1人で祠に向かい塩の入れ替えをしていれば「お前も俺を閉じ込めるのか」と棘のある声がした。
振り返れば、白い着物を着た……綺麗な男の人がこちらを睨みつけている。体は細くて、神主の方がなんならまだ強そう。足腰悪いなんて本当だったのかな。
「閉じ込める? お守りするのではなく?」
「村人の言葉なんて丸呑みにしてんなって」
ため息をついて、祠のそばにある岩に腰掛ける。じっと見つめていると、視線に気付いたのか僕を見上げて「帰れば?」と突き放すように言う。
……というか、この人は誰?
「あなたは誰ですか? 村の人ではないですよね?」
「はぁ? お前が手に持っている塩はなんだよ」
「……神様をお守りするためのものですけど……って。それってつまり──」
男の人を見ると「そのとおり」と頷いて僕を見る。
「久しいな。泣き喚くしかなかった子供が、大きくなってまさか俺を閉じ込めに来るとは」
ニヒルな神様らしくない笑みに。
5歳の頃、山に置いて行かれた僕を村まで届けてくれたのは人間ではなく、この祠に閉じ込められている神様なのだと気づく。
ジリジリと蒸し暑い夏の日のことだった。
僕──翔は山に1人置いて行かれてとっても泣き喚いた記憶が残っている。
今思うと僕は迷子になったのではなく、わざと山に捨てられたのだと15歳になって気づいた。
僕は神様への生贄だったのだろう。しかしどういうわけか、僕は無事に村まで戻って、大人たちに随分驚いた顔をされた。
思い出に残っているのは、幼いながらに途方に暮れ大泣きする僕の手を綺麗な男の人が握って、一緒に山を下ったこと。
*
僕の住む田舎はまだ村で、年に一回、暑い夏の日に神様を信仰する儀式が行われている。
そんなものを信じていない僕は「馬鹿馬鹿しい」とサボろうと思ったが、両親含む近所の爺さん婆さんにも説教され、泣く泣く儀式に参列する。
今まで思い出すこともなかったのに、あの時手を握って村まで送り届けてくれた人物が頭の中に浮かんでくる。参列しながら、神主がそばを通り過ぎる時に頭を下げ、時が過ぎるのを待つ。
「翔、神主と一緒についていけ」
村長に言われる。なんで僕が、と不満が顔に出ていたのか、コホンと咳払いをして説明する。
「来年からは翔がやるんじゃ」
「聞いてませんけど。面倒なのは嫌です」
「神様を崇めぬと厄災が来るぞ。しっかり努めよ」
やる気などないのに。仕方なくついていく。
山の奥。さらに奥。人が住めなさそうな場所にひっそりと小さな祠が佇んでいた。神主は「今日から毎日祠の周りにある塩を替えるように」と説明する。
「僕がやるんですか? 神主様は?」
「すまんが、そろそろ足腰痛くてのお。若い頃に世代交代じゃ。神様が邪気に触れぬよう、お守りするのだぞ」
「あー……」
体の不調を訴えられたら仕方ない。
翌日、1人で祠に向かい塩の入れ替えをしていれば「お前も俺を閉じ込めるのか」と棘のある声がした。
振り返れば、白い着物を着た……綺麗な男の人がこちらを睨みつけている。体は細くて、神主の方がなんならまだ強そう。足腰悪いなんて本当だったのかな。
「閉じ込める? お守りするのではなく?」
「村人の言葉なんて丸呑みにしてんなって」
ため息をついて、祠のそばにある岩に腰掛ける。じっと見つめていると、視線に気付いたのか僕を見上げて「帰れば?」と突き放すように言う。
……というか、この人は誰?
「あなたは誰ですか? 村の人ではないですよね?」
「はぁ? お前が手に持っている塩はなんだよ」
「……神様をお守りするためのものですけど……って。それってつまり──」
男の人を見ると「そのとおり」と頷いて僕を見る。
「久しいな。泣き喚くしかなかった子供が、大きくなってまさか俺を閉じ込めに来るとは」
ニヒルな神様らしくない笑みに。
5歳の頃、山に置いて行かれた僕を村まで届けてくれたのは人間ではなく、この祠に閉じ込められている神様なのだと気づく。
ジリジリと蒸し暑い夏の日のことだった。
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