第五十八話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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「うーむ。個人的には大歓迎なのだが」
「確かに、レインバーグの名がある。コラレダに因縁をつけられる、かもしれない」
「ほぼ確実だろうね。アタシも無茶言ってるのは重々承知だよ」
と、フィランダリア国王と四大魔法師のアルタリアとフィリア。当王国の応接室で行われている密談である。
「エスコを魔法の国に連れてくワケにもいかないし、かといってライティアの施設を借りっぱなしってのも、体裁上まずくてね」
「あちらは湯治というより観光がメインでしたな」
「ああ。貴族が独占しようとしてるんじゃあ、って噂が流れ始めちまってねえ。かといって頻繁に動かせる体でもない」
「確かに、近い方がアルタリアの負担も減りますの。あまり休んでいないだろう」
「それは、大丈夫。肉体的な疲れは、感じない。ありがとう」
「アタシらは精神体だからね。ひっそりとしてる、良い場所ないかい」
体を椅子の背に預けるゼノス王。アンブロー王国内でも温泉はあるが、規模が小さいので、長期滞在には向かないのである。
「おお、そうじゃ。別館がある。そこを使われると良いのでは」
「別館? 王族御用達の、あそこかい」
「うむ。ただ、エスコ殿の症状に効能があるかは調べてみぬ事には」
「まあ、そこは湯を運ぶことも考えてる。場所確保が最優先でね」
「成程。しかし、実際彼の容態はどうなのです」
少し黙ってしまうフィリア。両手を組み、背を伸ばす。
「本来なら二度と戦えない体なんだけどね」
風の魔女は、十日前に起きたアンブロー領域での戦いを話した。ラガンダが倒れ、忌々しい魔道具が破壊された、あの戦いの事である。
とある武器の影響で精神体となって戦ったエスコは、その後も、弓に触れると魂が体と分離し、動ける状態になったそうだ。本来は魔法師の中でも、ある一族にしか適応しない力なのだが。
彼は、短時間の助っ人としてでも戦に出られるのなら、と、フィリアに話を押し通して来たという。
しかし、魔法の鍛錬を積んでいない人間が、ましてや魔力を持たない者がそう簡単に用いても良い技術でもない。武器の正体はもとより、どんな危険があるのかさえ未知数なのだ。
「武器の正体は何となく分かるから、今確認してるけどね。どうしてもって聞かなくてさ」
「うーむ、気持ちは理解出来るが。賛同しかねる部分もあるますな」
と、ゼノス王。
実のところ、エスコの本心は本当の話だが、フィリアとアルタリアは彼がこの戦争を終わらせるキーマンの一人であることを隠している。理由は神託から得た情報だからである。
神託の内容は、魔法師の間にだけ話され、魔法をきちんと会得している者しか、中身を受け止められない。各国の王族は魔法を使うこと自体は可能だが、あくまで技術面だけであって、真の意味では魔法師ではないのだ。
「まどろっこしくて悪いね。歯切れが良くないのは感じ取ってるんだろ」
「ええ。ですが、貴方方が嘘を言わぬことも承知していますよ。単刀直入に伺いましょう」
この戦争を終わらせられるのか、と問う。
「その為の秘策が、この話さ」
「ならば乗らぬ理由はありますまい。喜んでご提供しましょう」
「ありがたい。助かるよ」
「結界は、十二分に張っておく」
「ああ。特製の、カッチカチなヤツをね」
「ほっほっほ。情報が漏れなければ問題ないでしょうな」
パンパン、と手を叩くゼノス王。重臣に指示を出すと、魔法師たちに向き直る。
「色々と情報が錯綜しておりますからな。ここいらで憩いを兼ねたお話しでも」
「そりゃいい。ちょうど良いモノもあるし」
シュン、と、何かを出現させたフィリア。ランチボックスの中からは、香ばしい匂いが漂って来る。
「ちょっと長くなりそうだから、アタシも用意してね。久しぶりだし、あんたの近情も知りたいし」
「それはそれは。ほっほっほ、嬉しいお心遣いですな」
ティーセットが運ばれて来ると、緊張した雰囲気が一転、和やかになる。
要人から個人の付き合いに切り替わった三人は、しばらくの間、現実世界から離れたのだった。
心躍る時間というのは、大人になっても早く過ぎる。数時間後、重臣が国王を呼びに来てしまった。
「うむ。では、名残惜しいですが」
「ああ。時間を取ってくれてありがとね」
「とんでもない。私もお会い出来る時にお会いしたいのでね」
「そうだね。今度はライドンやグランもいるといいね」
「ははは。そう願うばかりです。では、失礼致します」
立ち上がり一礼をしたゼノス王。座ったまま会釈をしたフィリアは、アルタリアと共に二人の背中を見送った。
パタン、と静かに扉が閉まると、
「また、アタシらだけになっちまったね」
「そうだね」
「あー、頭痛い。次は何に手をつけりゃいいんだか」
「以前は何もかも、終わってたから、のんびり出来たけど」
「だね。少なくとも軍は動かさなくて大丈夫みたいなんだが」
「戦力が、気になる?」
「ああ。コラレダはどこにも戦いを仕掛けてない。簡単に攻められないのもあるけど」
「最終決戦に向けて、動いてるのは間違いないと思う。ちょっと気になることも、ある」
「気になること?」
身が乗り出すフィリア。
「表沙汰に、なっていないけど。子供達の周りに、不審者が増えてて」
「子供達に? 暗殺者かい」
「そこまではいってない、けど。多分、似たような感じ、だと思う」
「兼任してる事もあるらしいよ。内部崩壊が狙いかねえ」
「分からない。政治には、関与していないけど」
「タトゥにはバレてないんだろ」
「本人には。周りかも」
「あんたの魔力を突破出来るヤツなんざ、一人だけなんだけどねえ。強いて言うなら情報屋か」
「あの子は、さすがにしないよ」
「勿論分かってるよ。あの子が知ってる事を引き出せるとしたら、っていう仮定」
眉間にしわを寄せる水の魔法師。思い当たる人物が二人いるが、一人は味方だ。
「魔道具を起こした、魔法師なら」
「そういう事さ。どこに何が潜んでるかわかんないからね。お互い警戒しといたほうが良い」
「うん。ところで、ランバルコーヤは、どう」
「内政はまだごたついてるみたいだけど、親子間のわだかまりは解消してる。ああそうだ」
フィリアはある出来事を伝える。まぶたをパチパチさせたアルタリアは、再び眉をハの字にさせる。
「大丈夫なの」
「お灸は据えたし、証言も得てるからね。それに、確かに雰囲気が変わってた」
「そう。まあ、グランの性格を考えると、良いかもしれない」
「ああ。ラヴェラの対処も納得した民が多いようでね。荒事にはなってないし」
「なら、そちらはひと安心だね。アンブローは」
「砦を常に張ってるってさ。本来なら魔法師も置きたいトコなんだけど」
「魔法で来られたら、壊滅するかもしれない?」
「そんなとこさ。だから結界を仕込んどいたよ。自然光を利用する魔道具だから、影響は少ないだろうからね」
「成程。それなら、人体に影響ない、かな」
「威力は弱いけどね。んま、エセ魔法師じゃ突破出来ないだろうさ」
と口にすると、風の魔女は少し腰を曲げ、前傾姿勢になる。
「建物の、視察に行く?」
「あ~、そうしよう。痛くも無いはずの腰が痛くてね」
「数時間座ってれば、痛くなる」
ふふ、と笑いながら片づけるアルタリア。フィリアは活動的なので、じっとしているのが苦手なのである。おそらく、その精神性が影響しているのだろうと、水の魔法師は思った。
風の魔女は彼にお礼を言い、二人は別館を管理する人物の元へ向かう。途中、フィリアはアルタリアに許可を得て、曲がり角を中心に魔法を掛けていった。
同時刻、コラレダ城王座にて。
「忌々しいアンブロー国め。邪魔ばかりしおってからに」
「まあまあ、陛下。そんなにカリカリしないで下さいよ」
「貴様らが無能だから腹が立っておるのだっ。いつになったら世界を余の手に握らせる」
「もう少しですよ。何せ四大魔法師の中でも一番厄介な人がいなくなったんですから」
「そ、そうか。ふふ、ならばランバルコーヤの代わりにフィランダリアを使うとしよう」
「陛下。フィランダリアは王妃様の祖国にございますが。何をなさるおつもりで」
「ランバルコーヤが使えなくなったからな。あの国は資源もある故、使ってやろうというのだ。王妃の祖国なら余の国でもある」
王座の隣に立っている闇色のローブをした魔法師は、大笑いする。
一方、発言した白髪の男性は、跪きながらも服で隠れている右手には、かなりの力が込められていた。
「おや、香が切れてしまいましたね。追加しますよ」
「おお、気が利くな。ところで、カイヴァント卿、出兵の準備は滞りないであろうな」
「はっ。ご命令通り準備を進めておりますが」
「が、何だ」
「お考え直し下さい。ライティア家といえば、アンブロー王国でも有名な公爵家であり、魔法師とも関係が深い家柄なのです。理由もなく攻めては陛下の恩名に傷が付いてしまいます」
「戯け者がっ。そこは狂言をして滅ぼすのが貴様の役目であろう。全く、余の駒にもなれんとはな。余の邪魔をしている将軍の一人がライティア家出身なのだ、動機は十分であろうに。何故貴様の様な無能者が騎士団長を務めておるのかが分からぬ」
と、ひげをいじりながら見下すコラレダ帝国国王。その視線の先には、顔を上げずに肩を震わす男性がいた。
同じ様な格好で頭を垂れている二人も、横目で見ている。
「陛下は香がきれてしまったからイラついてるだけですよ、カイヴァント卿。どうか気になさらずに」
と、くっくっくっ、と含み笑いをしながら話す魔法師。
「ですが、卿だけに負担を掛けさせるのも心苦しい。ここはひとつ、策を出しましょう」
「ほお。何か良い考えでもあるのか」
「ちょっと小耳に挟んだ事がありましてね。四大魔法師以外にもちょこまかと動いてる連中がいるんですよ」
「どういう事だ」
「ふふ、陛下のお耳に入れる必要の無い、些細な事にございます。全てはわたくしにお任せを」
「良かろう。世界が我が物になるのならば何しても良いぞ」
「仰せのままに。ウェシューム伯爵、軍を率いてレンダスタ周辺に布陣して下さい」
「畏まりました」
「バルデン伯爵は、引き続きの任務をお願します」
「畏まりました」
と、機械の様に返事をする両伯爵。
「もしかしたら、傭兵軍は無駄になってしまうかもしれませんがね。ネズミ一匹逃さないようにして下さい」
「はっ」
「ふふ、では解散で。陛下、極上のワインがございますので、こちらにどうぞ」
「ちょうど喉が渇いていたのだ。今日は何人いる」
「すぐに用意出来たのは三人ですね。物足りないでしょうから、すぐに追加を連れて来ましょう」
「そうかそうか。なら良い」
「陛下にはいつまでもお元気でいて頂かないといけませんから」
「はっはっはっ。あの役に立たん石女(うまずめ)は飽きたからな。子を身篭ったのならばそやつを第一王妃にしてやるか」
と、笑いながら席を立ったタトゥ王。声がしなくなると、臣下は立ち上がって早々に王座を後にする。
しばらく歩くと、
「ああ、ようやく頭痛が治まってきた。何なのだろう」
「そうだよな。玉座に行くと酷く痛む。カイヴァント卿はいかがです」
卿は眉間にしわを寄せたまま、無言。
「カイヴァント卿? いかがされましたか」
「え、ああ。すまない。私は問題ない。卿(けい)らの頭痛は、やはり王座に行くとなりやすい様だな」
「ええ。ここ二十年位前から急にですよ。なあ」
「全くです。それまでは我々も健康体そのものだったのですがね」
「そうだったな。私の医者もお手上げだと言っていたし、こちらもどうにもならん」
はあ、と深いため息を出すカイヴァント卿。長い髪を払うと、
「お互い気をつけよう。色々とな」
「そう、ですね」
と、バルデン伯爵。二人は目を合わせると、少しうつむく。察した公爵は、
「では、先に失礼する。諸君らの健闘を祈る」
と、足早に王城を後にした。
馬車に乗る直前、城を睨みつけるカイヴァント卿。
この国を、世界を地獄にした大罪人共めが。
「閣下、いかがなさいましたか」
「何でもない」
乗り込んだ公爵は、出せ、と命令した。
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「うーむ。個人的には大歓迎なのだが」
「確かに、レインバーグの名がある。コラレダに因縁をつけられる、かもしれない」
「ほぼ確実だろうね。アタシも無茶言ってるのは重々承知だよ」
と、フィランダリア国王と四大魔法師のアルタリアとフィリア。当王国の応接室で行われている密談である。
「エスコを魔法の国に連れてくワケにもいかないし、かといってライティアの施設を借りっぱなしってのも、体裁上まずくてね」
「あちらは湯治というより観光がメインでしたな」
「ああ。貴族が独占しようとしてるんじゃあ、って噂が流れ始めちまってねえ。かといって頻繁に動かせる体でもない」
「確かに、近い方がアルタリアの負担も減りますの。あまり休んでいないだろう」
「それは、大丈夫。肉体的な疲れは、感じない。ありがとう」
「アタシらは精神体だからね。ひっそりとしてる、良い場所ないかい」
体を椅子の背に預けるゼノス王。アンブロー王国内でも温泉はあるが、規模が小さいので、長期滞在には向かないのである。
「おお、そうじゃ。別館がある。そこを使われると良いのでは」
「別館? 王族御用達の、あそこかい」
「うむ。ただ、エスコ殿の症状に効能があるかは調べてみぬ事には」
「まあ、そこは湯を運ぶことも考えてる。場所確保が最優先でね」
「成程。しかし、実際彼の容態はどうなのです」
少し黙ってしまうフィリア。両手を組み、背を伸ばす。
「本来なら二度と戦えない体なんだけどね」
風の魔女は、十日前に起きたアンブロー領域での戦いを話した。ラガンダが倒れ、忌々しい魔道具が破壊された、あの戦いの事である。
とある武器の影響で精神体となって戦ったエスコは、その後も、弓に触れると魂が体と分離し、動ける状態になったそうだ。本来は魔法師の中でも、ある一族にしか適応しない力なのだが。
彼は、短時間の助っ人としてでも戦に出られるのなら、と、フィリアに話を押し通して来たという。
しかし、魔法の鍛錬を積んでいない人間が、ましてや魔力を持たない者がそう簡単に用いても良い技術でもない。武器の正体はもとより、どんな危険があるのかさえ未知数なのだ。
「武器の正体は何となく分かるから、今確認してるけどね。どうしてもって聞かなくてさ」
「うーむ、気持ちは理解出来るが。賛同しかねる部分もあるますな」
と、ゼノス王。
実のところ、エスコの本心は本当の話だが、フィリアとアルタリアは彼がこの戦争を終わらせるキーマンの一人であることを隠している。理由は神託から得た情報だからである。
神託の内容は、魔法師の間にだけ話され、魔法をきちんと会得している者しか、中身を受け止められない。各国の王族は魔法を使うこと自体は可能だが、あくまで技術面だけであって、真の意味では魔法師ではないのだ。
「まどろっこしくて悪いね。歯切れが良くないのは感じ取ってるんだろ」
「ええ。ですが、貴方方が嘘を言わぬことも承知していますよ。単刀直入に伺いましょう」
この戦争を終わらせられるのか、と問う。
「その為の秘策が、この話さ」
「ならば乗らぬ理由はありますまい。喜んでご提供しましょう」
「ありがたい。助かるよ」
「結界は、十二分に張っておく」
「ああ。特製の、カッチカチなヤツをね」
「ほっほっほ。情報が漏れなければ問題ないでしょうな」
パンパン、と手を叩くゼノス王。重臣に指示を出すと、魔法師たちに向き直る。
「色々と情報が錯綜しておりますからな。ここいらで憩いを兼ねたお話しでも」
「そりゃいい。ちょうど良いモノもあるし」
シュン、と、何かを出現させたフィリア。ランチボックスの中からは、香ばしい匂いが漂って来る。
「ちょっと長くなりそうだから、アタシも用意してね。久しぶりだし、あんたの近情も知りたいし」
「それはそれは。ほっほっほ、嬉しいお心遣いですな」
ティーセットが運ばれて来ると、緊張した雰囲気が一転、和やかになる。
要人から個人の付き合いに切り替わった三人は、しばらくの間、現実世界から離れたのだった。
心躍る時間というのは、大人になっても早く過ぎる。数時間後、重臣が国王を呼びに来てしまった。
「うむ。では、名残惜しいですが」
「ああ。時間を取ってくれてありがとね」
「とんでもない。私もお会い出来る時にお会いしたいのでね」
「そうだね。今度はライドンやグランもいるといいね」
「ははは。そう願うばかりです。では、失礼致します」
立ち上がり一礼をしたゼノス王。座ったまま会釈をしたフィリアは、アルタリアと共に二人の背中を見送った。
パタン、と静かに扉が閉まると、
「また、アタシらだけになっちまったね」
「そうだね」
「あー、頭痛い。次は何に手をつけりゃいいんだか」
「以前は何もかも、終わってたから、のんびり出来たけど」
「だね。少なくとも軍は動かさなくて大丈夫みたいなんだが」
「戦力が、気になる?」
「ああ。コラレダはどこにも戦いを仕掛けてない。簡単に攻められないのもあるけど」
「最終決戦に向けて、動いてるのは間違いないと思う。ちょっと気になることも、ある」
「気になること?」
身が乗り出すフィリア。
「表沙汰に、なっていないけど。子供達の周りに、不審者が増えてて」
「子供達に? 暗殺者かい」
「そこまではいってない、けど。多分、似たような感じ、だと思う」
「兼任してる事もあるらしいよ。内部崩壊が狙いかねえ」
「分からない。政治には、関与していないけど」
「タトゥにはバレてないんだろ」
「本人には。周りかも」
「あんたの魔力を突破出来るヤツなんざ、一人だけなんだけどねえ。強いて言うなら情報屋か」
「あの子は、さすがにしないよ」
「勿論分かってるよ。あの子が知ってる事を引き出せるとしたら、っていう仮定」
眉間にしわを寄せる水の魔法師。思い当たる人物が二人いるが、一人は味方だ。
「魔道具を起こした、魔法師なら」
「そういう事さ。どこに何が潜んでるかわかんないからね。お互い警戒しといたほうが良い」
「うん。ところで、ランバルコーヤは、どう」
「内政はまだごたついてるみたいだけど、親子間のわだかまりは解消してる。ああそうだ」
フィリアはある出来事を伝える。まぶたをパチパチさせたアルタリアは、再び眉をハの字にさせる。
「大丈夫なの」
「お灸は据えたし、証言も得てるからね。それに、確かに雰囲気が変わってた」
「そう。まあ、グランの性格を考えると、良いかもしれない」
「ああ。ラヴェラの対処も納得した民が多いようでね。荒事にはなってないし」
「なら、そちらはひと安心だね。アンブローは」
「砦を常に張ってるってさ。本来なら魔法師も置きたいトコなんだけど」
「魔法で来られたら、壊滅するかもしれない?」
「そんなとこさ。だから結界を仕込んどいたよ。自然光を利用する魔道具だから、影響は少ないだろうからね」
「成程。それなら、人体に影響ない、かな」
「威力は弱いけどね。んま、エセ魔法師じゃ突破出来ないだろうさ」
と口にすると、風の魔女は少し腰を曲げ、前傾姿勢になる。
「建物の、視察に行く?」
「あ~、そうしよう。痛くも無いはずの腰が痛くてね」
「数時間座ってれば、痛くなる」
ふふ、と笑いながら片づけるアルタリア。フィリアは活動的なので、じっとしているのが苦手なのである。おそらく、その精神性が影響しているのだろうと、水の魔法師は思った。
風の魔女は彼にお礼を言い、二人は別館を管理する人物の元へ向かう。途中、フィリアはアルタリアに許可を得て、曲がり角を中心に魔法を掛けていった。
同時刻、コラレダ城王座にて。
「忌々しいアンブロー国め。邪魔ばかりしおってからに」
「まあまあ、陛下。そんなにカリカリしないで下さいよ」
「貴様らが無能だから腹が立っておるのだっ。いつになったら世界を余の手に握らせる」
「もう少しですよ。何せ四大魔法師の中でも一番厄介な人がいなくなったんですから」
「そ、そうか。ふふ、ならばランバルコーヤの代わりにフィランダリアを使うとしよう」
「陛下。フィランダリアは王妃様の祖国にございますが。何をなさるおつもりで」
「ランバルコーヤが使えなくなったからな。あの国は資源もある故、使ってやろうというのだ。王妃の祖国なら余の国でもある」
王座の隣に立っている闇色のローブをした魔法師は、大笑いする。
一方、発言した白髪の男性は、跪きながらも服で隠れている右手には、かなりの力が込められていた。
「おや、香が切れてしまいましたね。追加しますよ」
「おお、気が利くな。ところで、カイヴァント卿、出兵の準備は滞りないであろうな」
「はっ。ご命令通り準備を進めておりますが」
「が、何だ」
「お考え直し下さい。ライティア家といえば、アンブロー王国でも有名な公爵家であり、魔法師とも関係が深い家柄なのです。理由もなく攻めては陛下の恩名に傷が付いてしまいます」
「戯け者がっ。そこは狂言をして滅ぼすのが貴様の役目であろう。全く、余の駒にもなれんとはな。余の邪魔をしている将軍の一人がライティア家出身なのだ、動機は十分であろうに。何故貴様の様な無能者が騎士団長を務めておるのかが分からぬ」
と、ひげをいじりながら見下すコラレダ帝国国王。その視線の先には、顔を上げずに肩を震わす男性がいた。
同じ様な格好で頭を垂れている二人も、横目で見ている。
「陛下は香がきれてしまったからイラついてるだけですよ、カイヴァント卿。どうか気になさらずに」
と、くっくっくっ、と含み笑いをしながら話す魔法師。
「ですが、卿だけに負担を掛けさせるのも心苦しい。ここはひとつ、策を出しましょう」
「ほお。何か良い考えでもあるのか」
「ちょっと小耳に挟んだ事がありましてね。四大魔法師以外にもちょこまかと動いてる連中がいるんですよ」
「どういう事だ」
「ふふ、陛下のお耳に入れる必要の無い、些細な事にございます。全てはわたくしにお任せを」
「良かろう。世界が我が物になるのならば何しても良いぞ」
「仰せのままに。ウェシューム伯爵、軍を率いてレンダスタ周辺に布陣して下さい」
「畏まりました」
「バルデン伯爵は、引き続きの任務をお願します」
「畏まりました」
と、機械の様に返事をする両伯爵。
「もしかしたら、傭兵軍は無駄になってしまうかもしれませんがね。ネズミ一匹逃さないようにして下さい」
「はっ」
「ふふ、では解散で。陛下、極上のワインがございますので、こちらにどうぞ」
「ちょうど喉が渇いていたのだ。今日は何人いる」
「すぐに用意出来たのは三人ですね。物足りないでしょうから、すぐに追加を連れて来ましょう」
「そうかそうか。なら良い」
「陛下にはいつまでもお元気でいて頂かないといけませんから」
「はっはっはっ。あの役に立たん石女(うまずめ)は飽きたからな。子を身篭ったのならばそやつを第一王妃にしてやるか」
と、笑いながら席を立ったタトゥ王。声がしなくなると、臣下は立ち上がって早々に王座を後にする。
しばらく歩くと、
「ああ、ようやく頭痛が治まってきた。何なのだろう」
「そうだよな。玉座に行くと酷く痛む。カイヴァント卿はいかがです」
卿は眉間にしわを寄せたまま、無言。
「カイヴァント卿? いかがされましたか」
「え、ああ。すまない。私は問題ない。卿(けい)らの頭痛は、やはり王座に行くとなりやすい様だな」
「ええ。ここ二十年位前から急にですよ。なあ」
「全くです。それまでは我々も健康体そのものだったのですがね」
「そうだったな。私の医者もお手上げだと言っていたし、こちらもどうにもならん」
はあ、と深いため息を出すカイヴァント卿。長い髪を払うと、
「お互い気をつけよう。色々とな」
「そう、ですね」
と、バルデン伯爵。二人は目を合わせると、少しうつむく。察した公爵は、
「では、先に失礼する。諸君らの健闘を祈る」
と、足早に王城を後にした。
馬車に乗る直前、城を睨みつけるカイヴァント卿。
この国を、世界を地獄にした大罪人共めが。
「閣下、いかがなさいましたか」
「何でもない」
乗り込んだ公爵は、出せ、と命令した。